代理人の(制限)行為能力

 今回は代理人の行為能力についてご説明して参ります。
 実は、代理人になるには行為能力者である必要はありません。

(代理人の行為能力)
民法102条
代理人は、行為能力者であることを要しない。

 ということはつまり、未成年者などの制限行為能力者でも代理人になれるということです。
 え?マジで?
 はい。マジです。ではなぜ、制限行為能力者でも代理人なれるのでしょうか?

事例1
未成年者のBはお金持ちのAの代理人として、軽井沢にあるC所有の甲別荘の売買契約を締結した。


 さて、この事例1で、未成年者である代理人Bは、制限行為能力者であることを理由に甲別荘の売買契約を取り消せるでしょうか?
 結論。未成年者Bは制限行為能力者であることを理由に甲別荘の売買契約を取り消すことはできません。なぜなら、先述の民法102条の規定は「制限行為能力者でも代理人になれますわよ。そのかわり代理人になったら制限行為能力者として扱わないですわ!」という意味なのです。
 え?でもそれじゃ制限行為能力者がキケンじゃね?
 そんなことはありません。なぜなら、代理行為の法律効果が帰属するのは(代理行為で結んだ契約の、契約上の責任が生じるのは)本人です。代理人ではありません。ですので問題ないのです。それに、事例1で、本人Aはわざわざ未成年者Bに代理を依頼したということですよね?それはつまり、それだけ未成年者Bがその辺の大人よりしっかりしてるとか、代理を頼むに相応しい理由があるはずです。それで本人Aが納得して「Bに頼むわ!」としているのであれば、それならそれでいいんじゃね?ということになるわけです。

未成年者の委任契約の取消し

事例2
未成年者のBはお金持ちのAの代理人として、軽井沢にあるC所有の甲別荘の売買契約を締結した。しかしその後、未成年者BがAと結んでいた委任契約は親権者の同意を得ないでしたものなのが発覚した。


 さて、この事例2で、未成年者BはAとの委任契約を取り消すことができるでしょうか?
 結論。未成年者BはAとの委任契約を取り消すことができます。
 ここでひとつ問題があります。というのは、取消しの効果は遡及します。したがって、AとBの委任契約を取り消すとその効果は遡って発するので、BはハナっからAの代理人では無かったことになります。すると、Bの行ったCとの甲別荘の売買契約は無権代理行為ということになってしまうのです。これが問題なんです。だってこれでは、相手方Cが困ってしまいまよね。せっかくお金持ちのAに売れたと思ったのに、甲別荘の売買契約が有効になるには、表見代理が成立するか本人Aが追認するかしなければなりません。もし表見代理が成立せず本人Aが追認しなかった場合は最悪です。Bは未成年者、すなわち制限行為能力者ということなので、民法117条2項ただし書きの規定により、Bに無権代理行為の責任を追及することもできません。これでは相手方Cがあまりにも気の毒です。ですので、このようなケースにおいては、委任契約を取り消した際の遡及効(さかのぼって発する効力)を制限し、その取消しの効果将来に向かってだけ有効とし、代理人の契約当時の代理権は消滅しないという結論を取ります。つまり、事例2で、未成年者BとAの委任契約が取り消されたとしても、取り消す前にCと交わした甲別荘の売買契約時のBの代理権は消滅しないということです。よって、甲別荘の売買契約も有効に成立します。

 なんだかややこしい結論に感じたかもしれませんが、このようにすることによって、相手方Cの権利と制限行為能力者Bの保護のバランスを取っているのです。(こういったところが民法を難しく感じさせる部分であり、民法の特徴でもあります)
 法律は決して万能ではありません。だからこそ、このような様々なケースに対応しながら、そこに絡む人の権利の保護とバランスをなんとかはかっているのです。このあたりの理屈は、最初は中々掴みづらいかもしれません。しかし、民法の学習を繰り返していって次第に慣れてくると、自然とすぅっと頭に入って来るようにもなります。なので民法くんには、根気よく接してやって下さい(笑)。
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代理人の権限濫用

事例1
BはAの代理人としてしっかりと顕名をした上で、不動産王のCとA所有の甲土地の売買契約を締結した。ところが、なんとBは甲土地の売買代金を受け取ってトンズラぶっこくつもりでいたのだった。


 いやはや、とんでもないヤツが現れましたね。ワルの代理人Bです。この事例1は、このろくでもないBのヤローのせいでAとCが困ってしまう話です。
 さて、それではこのケースで、本人Aは甲土地を引き渡さなければならないのでしょうか?
 まず事例1は、無権代理の問題ではありません。なぜなら、Bには確かな代理権があるからです。つまり、事例1は、代理人Bがその代理権を濫用したケースです。ここで注意して頂きたいのは、代理人Bのやったことは「代理権の濫用」です。代理の「権限を超えた」のではありません。代理の権限を超えたのあれば、それは代理権にないことをやったということで無権代理の問題になりますが、「代理権の濫用」の場合は「代理権があることをいいことに」代理人がやらかすケースです。従いまして、事例1は、代理人Bが代理権があることをいいことに甲別荘の売買代金を受け取ってバックレようとしているという、あくまで有権代理の話で、Cとの甲別荘の売買契約という代理行為自体には問題はありません。

代理は成立している

 そもそも、事例1で「代理」は成立しているのでしょうか?
 まず、先程ご説明しましたとおり、Bには正式な代理権があり、代理行為自体にも問題ありません。なおかつBはしっかりと顕名も行っています。ということは、代理が成立するための3要素「顕名」「代理権」「代理人と相手方の法律行為」の全てが見事に揃っています。よって、事例1において、代理はしっかりと成立しています。ということは、普通に考えますと、甲別荘の売買契約は問題なく成立し、本人Aは甲別荘を不動産王Cに引き渡さなければなりません。
 しかしどうでしょう?この結論の導き方だと、仮に不動産王Cが悪意であっても、本人Aが泣かなければなりません。ましてや不動産王Cとワルの代理人Bが裏で繋がっていたらどうです?そんかケースでも本人Aが泣かなければならないのはオカシイですよね?しかし!実は民法には、事例1のようなケースを想定した条文がないのです。

類推適用という荒技

 実は「うわ~このケース、条文ないわ~」ということは、現実には結構あります。そのとき裁判所はどうするのか?はい。そのときに裁判所が使う技が類推適用です。類推適用というのは「本来は違うケースに適用する規定だけど、パターンとしてはこのケースに適用させてもイイんじゃね?」というものです。では、事例1のようなケースで裁判所が類推適用する規定は?というと、民法93条です。

(心裡留保)
民法93条
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

 この心裡留保についての条文のただし書きの部分を類推適用します。心裡留保とは、表示した意思と内心が一致しないケースです。例えば、ウソを口に出しても内心とは違いますよね?(心裡留保について詳しくはこちらの記事をご覧下さい)
 話を戻します。ではどのようにあてはめるのか?事例1だと、このようになります。

代理人Bのした表示→本人Aのために甲別荘を売ります
代理人Bの内心→売買代金を受け取ってバックレる

 つまり、代理人Bのウソ→「本人Aのために」甲別荘を売ります」、内心→「売買代金を受け取ってバックレる」が一致しない心裡留保として考えて、結論を出すのです。するとこのようなロジックになります。
「代理行為の相手方である不動産王Cが、代理人Bの真意(売買代金を受け取ってバックレる)を知っていた場合、または知ることができた場合には、甲別荘の売買契約は無効となり、本人Aは甲別荘を引き渡さなくてもよい
 これなら不動産王Cが悪意の場合や、裏でワルの代理人Bと繋がっていた場合まで、本人Aが泣くことはなくなります。
 でもそれだと不動産王Cが善意無過失なら結局本人Aが泣くことにならね?
 なります。しかし、その場合の理屈はこうです。
「一番悪いのはBだ。しかし、Bみたいなろくでもないヤツを代理人に選んだAも悪い!
 つまり、本人に帰責事由アリということです。したがって、相手方Cが善意・無過失なら本人Aは責任を取らなければならないのです。

 このように、事例1のようなケースでは心裡留保の規定を類推適用して、相手方が善意・無過失なら「本人にも帰責事由アリ」として本人が泣くことになり、相手方が悪意・有過失なら「自業自得だろ」と相手方が泣くことになります。つまり、このような方法で本人と相手方の利益衡量を行なっているというわけです。

任意代理と法定代理 法定代理に表見代理はあり得るか

 代理は大きく分けて二種類あります。それは任意代理と法定代理です。

 任意代理とは、委任による代理です。つまり、本人が「あなたに代理を頼みます」といってお願いする代理です。おそらく一般的にイメージする代理は、こちらの任意代理になるかと思います。「委任による代理=任意代理」←まずはここを押さえておいて下さい。
 そして法定代理とは、法律によって定められた代理です。本人が「あなたに代理を頼みます」といってお願いする訳ではありません。本人がお願いするまでもなく、法律によって定まる代理です。最もわかりやすい法定代理は未成年者の親権者です。通常、子供の親は子供の法定代理人になります。でもこれって、子供が親に「代理頼みます」とお願いして成立するものではありませんよね?「法律がそう決めた」からそうなるのです。(法定代理に関しましては制限行為能力の解説でも出てきましたのでそちらもご参照下さい)
委任による代理=任意代理
法律によって定められた代理=法定代理
 この基本はまず、確実に押さえておいて頂ければと存じます。

法定代理の補足・法定代理に表見代理は成立するのか

 さて、ここでこんな疑問が湧きませんか?それは、法定代理にも表見代理が成立するのか?です。
 まず表見代理が成立するには、前提として無権代理行為の存在がなければなりません。となると、そもそも法定代理人の無権代理行為があり得るのか?となりますよね。というのは、法定代理人は本人にお願いされてなるものではありません。法律の定めによってなるものです。つまり、普通に考えて「法定代理人に代理権がない状態」はありえないことになります。すると、法定代理人の無権代理行為があり得るケースとして考えられるものがあるとすれば「代理権限を超えた」場合です。
 代理権限を超えた場合とは、例えば、「軽井沢の別荘の購入」という代理権を付与された代理人(任意代理人)が、那須の別荘を購入してしまうようなケースです。このときの「軽井沢の別荘の購入」は基本代理権になります。その基本代理権を超えた代理行為「那須の別荘の購入」が、代理権限を超えた無権代理行為となります。つまり、「代理権限を超えた無権代理行為」とは、前提となる基本代理権があって初めて成り立つものです。
 このように考えていくと、法定代理に表見代理があり得るのか?、という問題は、法定代理人に基本代理権というものが存在するのか?という問いへの結論次第ということになります。

法定代理人に基本代理権は存在するのか?

 これは、実はハッキリと明確に結論づけられている訳ではありません。
 なんじゃそれ?じゃあ結局どーなんよ!?
 スミマセン(笑)。ただ一応、法定代理にも下記の規定、表見代理の3類系のうちの2つの適用はあるとされています。

民法110条(権限外の行為の表見代理)
民法112条(代理権消滅後の表見代理)

 先ほどまでご説明して参りました内容は、法定代理における「権限外の行為の表見代理」です。しかし、どうやら民法112条「代理権消滅後の表見代理」の方についても、法定代理での適用はあるようです。
 また、判例では「法定代理においても、表見代理の成立はなくはない」というように結論づけています。
 結局どっちやねん!
 ツッコミたくなりますよね(笑)。しかし、このような曖昧な結論というのは、民法の学習をしているとよく出てきます。ですので強引に慣れていって下さい(笑)。まあ、なぜこのような曖昧な結論になってしまうかの理由を考えると、それは「法定代理には本人の帰責性がありえない」ということが言えます。法定代理人は本人が選んでお願いしている訳ではないので「そんなヤツを代理人に選んでしまった本人も悪い」という理屈が成り立たないのです。表見代理は、そのような本人の帰責事由を成立要件として、相手方を保護し、取引の安全性を確保する制度です。ですので、本来の理屈としては、法定代理には表見代理は成立しないとなるところですが、まったく表見代理はありえないとなると、相手方としては法定代理人と取引する場合はちょっとリスクが増しますよね。そして、現実にはあらかじめ想定できないような様々なケースがありえます。このような事情から、やむをえず「なくはない」というような曖昧な結論になってしまうと考えられます。
 ということなので「こればっかりはしゃーないわ」として、とりあえず試験対策としては「「法定代理において表見代理の成立はない」という選択肢が出てきたら、それは誤りとして選択してください。
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表現代理 無権代理人が配偶者の場合

事例
A男とB子は夫婦である。B子はA男に無断で、Aの代理人と称してA所有の甲不動産をCに売却した。

 さて、この事例のポイントは、無権代理人Bと本人Aが夫婦だという点です。まずはそこを押さえておいて頂きたいのですが、これがAとBが夫婦ではなかった場合、表見代理の成立はありません。それは完全に無権代理の問題です。なぜなら、無権代理人Bは本人Aに「無断で」無権代理行為を行っているからです。表見代理の可能性があるケースは、以下の3類系※にあてはまる場合です。
・代理権授与の表示による表見代理
・権限外の行為の表見代理
・代理権の消滅事由
※詳しくはこちらの記事をご参照下さい。
 事例では「無断で」とあるので、上記の3類系にあてはまらず、表見代理の問題にはならないのです。つまり、本人Aに責任が及ぶことはなく、責任が及ぶのは無権代理人B自身です。

夫婦の場合には別の条文がある

 最初に事例のポイントと申し上げましたが、今回の事例のAとBは夫婦です。実はこれが少々やっかいなんです。先ほど述べたとおり、AとBが夫婦でなければ「無断で」とある限り表見代理の問題にならず、単純に「Bの無権代理の問題ですね!チャンチャン♪」と終われるところなのですが、夫婦の場合には、以下のような条文が存在します。

(日常の家事に関する債務の連帯責任)
民法761条
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。

 つまり、夫婦の一方が行った法律行為は、夫婦として連帯責任を持つということです。ただ、条文にあるとおり、その対象となる法律行為とは「日常の家事に関して」です。果たして事例のような不動産の売却行為が日常の家事に関する法律行為にあたるでしょうか?あたるか!セレブか!と思わずツッコミたくなるところですが(笑)、ツッコむまでもなく、普通に考えて、不動産の売却が日常の家事に関する法律行為にあたるわけないですよね。
 従いまして、今回の事例では表見代理の成立はなく、民法761条(日常の家事に関する債務の連帯責任)の適用もありませんので、相手方Cは甲不動産を取得することはできません。

補足
 実は判例では、今回の事例のようなケースにおいて、表見代理が成立され得る可能性を開いています。
 え?なんで?
 判例の理屈としてはざっくりこうです。
「先述の民法761条は「夫婦間の相互の代理権」を規定していて、それは法定代理権の一種である。法定代理権を基本代理権とした「権限外の行為の表見代理」は成立し得る。そして民法761条の「夫婦間の相互の代理権」を基本代理権として民法110条(権限外の行為の表見代理)の規定を類推適用し、相手方が無権代理人に代理権ありと信じるにつき正当な理由があれば表見代理は成立し得る」
 自分で書いておいてなんですが、おそらくこれを読んでもよくわからないですよね(笑)。そしてさらに身もふたもない事を申しますと、この理屈を理解する必要もないと思います。大事なのは、今回の事例のようなケースでも「表見代理が成立し得る可能性はある」ということです。ですので、ここで覚えておいて頂いたいのは、今回のような事例でも、取引の内容やその他の具体的な事情によっては表見代理の成立もあり得ると判例は言っていることです。理屈の理解は置いてといて、この結論の部分だけ頭に入れておいて下さい。
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Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
根本総合行政書士です。
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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