
▼この記事でわかること
・イベント出演等の危険負担
・不特定物は危険負担にあらず
・不特定物が特定物に変わる時
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

不動産以外の危険負担
イベント出演等の危険負担
危険負担と言えば引渡し前の建物の倒壊等、不動産のケースが真っ先に思い浮かびますが、不動産以外で危険負担の問題となる場合は、一体どうなっているのでしょうか?
(危険負担とは?など危険負担の基本についての解説は「【危険負担】基本はババ抜き~代金支払い債務の行方は?債務者主義と債権者主義とは?わかりやすく解説!」をご覧ください)
まずは事例をご覧ください。
事例1
スーパーギタリストAはB音楽事務所が主催するロックイベントに出演することを約束した。しかしイベント当日、地震による交通機関の麻痺により、Aはイベント会場に行くことができなかった。
さて、この事例1において、スーパーギタリストAは出演料(ギャラ)はもらえるでしょうか?
事例1では、AにもBにも過失(ミス・落ち度)がありません。
よって、これは危険負担の問題になります。
この事例で言えば「地震によってイベント出演ができなくなった」という危険を誰が負担するのか?という問題です。
このような危険負担の問題は、契約の「目的物」を中心に考えます。
では、この事例1においての、契約の目的物とはなんでしょう。
それはAが出演することです。
すると「Aが出演すること」に対しての債務者はA、債権者はBということになります。
(これについての詳しい解説は「代金の支払いを買主は拒めるか~売主は債務者・買主は債権者」をご覧ください)。
もっとわかりやすく言えば「出演する義務」がスーパーギタリストAにあり、「出演しろ!」と言う権利が音楽事務所Bにある、ということです。

で、出演料(ギャラ)はどうなるの?
結論。
AはBから出演料はもらえません。
非常にわかりづらいと思いますが、根拠となる民法の条文こちらになります。
(債務者の危険負担等)
民法536条
1項 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
上記、民法536条1項の「債権者は反対給付の履行を拒むことができる」という部分を事例に当てはめると「音楽事務所Bは出演料の支払いを拒むことができる」となります。
したがって、スーパーギタリストAは出演料をもらえません。
繰り返しますが「Aが出演すること」は契約の目的物で、その契約の目的物の債権者はBです。
今回のポイントと出演契約で気を付けること
繰り返しになりますが、重要なポイントだけ押さえていきます。
条文の「当事者双方の責めに帰することができない」というのは、事例に当てはめると「AとB双方に過失(ミス・落ち度)がない」ということです。
そして「債権者は反対給付の履行を拒むことができる」という部分は「Bは出演料の支払いを拒むことができる」となります。
ちなみに反対給付というのは「Aが出演すること」に対するBからの給付、つまり「Aのギャラの支払い」のことです。
なので「Aはギャラをもらえない」という結論になるのです。
まあでも、この結論は、民法云々以前に、我々の一般的な常識から考えても当たり前の結論ですよね。
いくらAがス-パーギタリストといえど当然の結果でしょう。
もし、Aがこの結果に不服があるなら、出演前の交渉の段階でしっかりと細かい条件等の事項を詰めておかなければならなかった、というハナシです。
不特定物は危険負担にあらず

続いて、次のようなケースではどうなるでしょうか?
事例2
酒屋のAは、イベント会社のBから「ビール1ダースを午後3時までにパーティー会場に」との配達注文を受けた。しかし、Aは指定されたパーティー会場への配達の途中に地震に見舞われ転倒し、ビール瓶はすべて割れてしまった。
さて、この事例の場合「ビール瓶が割れてしまった」という危険は、AとBのどちらが負担するのでしょうか?
結論。
これは危険負担の話ではありません。
なぜなら、ビールは特定物ではなく不特定物だからです。
不特定物ということは、世の中に替わりになる同じ物が存在するということを意味します。
したがって、酒屋Aはたとえ午後3時に間に合わなかったとしても、新たなビール1ダースを積み直して届けなければなりません。でないと、Aは債務不履行に陥ってしまいます。
地震というのは天災なので、Aに過失(ミス・落ち度)はありませんから、地震が原因で指定時間に遅れても債務不履行という扱いにはならないでしょう。
現実には、AとBがお互い話し合ってどうするのかを決めることになると思いますが、何の話し合いも合意もないのであれば、民法の原則として従来の約束を守らなければならないので、Aは指定時間に遅れてでも同じビール1ダースを積み直して、パーティー会場に届けなければなりません。
それがAB間での債務の履行(約束を果たすこと)だからです。
「危険負担とは双務契約の当事者双方の責めに帰すことができない後発的不能の問題である」
なんだか小難しい言い回しですが、簡単にわかりやすく言うと、危険負担とは「契約成立後、契約当事者のどちらにも過失(ミス・落ち度)がなく契約の履行(事例2で言えばビールを届けること)が不能になってしまった(後発的不能)」場合の話です。
つまり、事例2の場合、替わりのビールを届けること(債務の履行)はできるから「後発的不能」にはならず、危険負担の話にはならないのです。

補足:不特定物が特定物に変わる時
ところで、不特定物が特定物に変わるのはいつなのか?という問題があります。
え?不特定物が特定物に変わるの?
はい。
実はその規定は民法の条文にあります。
(種類債権)※
民法401条2項
前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。
※種類債権とは、一定の種類に属する物の一定量を引き渡すことを目的とする債権。ビール1ダースはまさにそれ。不特定物の債権を種類債権と呼ぶ。
この民法401条2項を読むだけではよくわからないと思いますが、条文では、不特定物が特定物に変わるタイミングとして2つの場合を定めています。
1・債務者が物を給付するのに必要な行為を完了した場合
この場合、判例が以下の3パターンを認めている。
〈パターンA〉
債務者が債権者の元へ物を届ける場合(これを持参債務という)、債権者の現在の住所において物を給付するのに必要な行為を完了した時に不特定物が特定され特定物に変わる。
例→酒屋が注文者の自宅に注文を受けたビール1ダースを「どうぞ」と差し出した時。
〈パターンB〉
債権者が債務者のところに物を取りに行く場合(これを取立債務という)、履行を準備し給付物を分離してそれを債権者に通知した時に不特定物が特定され特定物に変わる。
例→酒屋が「あの注文者のビール1ダースはこれ」と決めて、それを取り分けて「いつでもどうぞ」とその注文者に連絡した時。
〈パターンC〉
債権者の住所地以外の場所に送付する債務の場合(これを送付債務と言う)、送付することが債務者の義務であれば現実の提供時に、債務者の好意で送付する場合は発送時に、不特定物が特定され特定物に変わる。
例→これはまさに事例3のケースで、酒屋のAがイベント会社B指定のパーティー会場にビール1ダースを実際に届けた時に、ビール1ダースは特定され特定物となる。
2・債権者の同意を得てその給付をすべき物を指定した場合
例えば、酒屋が注文者の同意の上で「あの注文者の分はこの1ダース」と指定した時
以上が、不特定物が特定され、特定物に変わる時になります。
そして、不特定物が特定物に変わると、危険負担の話になります。
したがって、理屈としては不特定物が特定され特定物に変わった瞬間に、物の「所有権と危険」が買主(債権者)に移転します。
そう、それは地雷系の人が恋人になった瞬間メンヘラになる...とは違いますね(笑)。
失礼しました。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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・イベント出演等の危険負担
・不特定物は危険負担にあらず
・不特定物が特定物に変わる時
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今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

不動産以外の危険負担
イベント出演等の危険負担
危険負担と言えば引渡し前の建物の倒壊等、不動産のケースが真っ先に思い浮かびますが、不動産以外で危険負担の問題となる場合は、一体どうなっているのでしょうか?
(危険負担とは?など危険負担の基本についての解説は「【危険負担】基本はババ抜き~代金支払い債務の行方は?債務者主義と債権者主義とは?わかりやすく解説!」をご覧ください)
まずは事例をご覧ください。
事例1
スーパーギタリストAはB音楽事務所が主催するロックイベントに出演することを約束した。しかしイベント当日、地震による交通機関の麻痺により、Aはイベント会場に行くことができなかった。
さて、この事例1において、スーパーギタリストAは出演料(ギャラ)はもらえるでしょうか?
事例1では、AにもBにも過失(ミス・落ち度)がありません。
よって、これは危険負担の問題になります。
この事例で言えば「地震によってイベント出演ができなくなった」という危険を誰が負担するのか?という問題です。
このような危険負担の問題は、契約の「目的物」を中心に考えます。
では、この事例1においての、契約の目的物とはなんでしょう。
それはAが出演することです。
すると「Aが出演すること」に対しての債務者はA、債権者はBということになります。
(これについての詳しい解説は「代金の支払いを買主は拒めるか~売主は債務者・買主は債権者」をご覧ください)。
もっとわかりやすく言えば「出演する義務」がスーパーギタリストAにあり、「出演しろ!」と言う権利が音楽事務所Bにある、ということです。

で、出演料(ギャラ)はどうなるの?
結論。
AはBから出演料はもらえません。
非常にわかりづらいと思いますが、根拠となる民法の条文こちらになります。
(債務者の危険負担等)
民法536条
1項 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
上記、民法536条1項の「債権者は反対給付の履行を拒むことができる」という部分を事例に当てはめると「音楽事務所Bは出演料の支払いを拒むことができる」となります。
したがって、スーパーギタリストAは出演料をもらえません。
繰り返しますが「Aが出演すること」は契約の目的物で、その契約の目的物の債権者はBです。
今回のポイントと出演契約で気を付けること
繰り返しになりますが、重要なポイントだけ押さえていきます。
条文の「当事者双方の責めに帰することができない」というのは、事例に当てはめると「AとB双方に過失(ミス・落ち度)がない」ということです。
そして「債権者は反対給付の履行を拒むことができる」という部分は「Bは出演料の支払いを拒むことができる」となります。
ちなみに反対給付というのは「Aが出演すること」に対するBからの給付、つまり「Aのギャラの支払い」のことです。
なので「Aはギャラをもらえない」という結論になるのです。
まあでも、この結論は、民法云々以前に、我々の一般的な常識から考えても当たり前の結論ですよね。
いくらAがス-パーギタリストといえど当然の結果でしょう。
もし、Aがこの結果に不服があるなら、出演前の交渉の段階でしっかりと細かい条件等の事項を詰めておかなければならなかった、というハナシです。
不特定物は危険負担にあらず

続いて、次のようなケースではどうなるでしょうか?
事例2
酒屋のAは、イベント会社のBから「ビール1ダースを午後3時までにパーティー会場に」との配達注文を受けた。しかし、Aは指定されたパーティー会場への配達の途中に地震に見舞われ転倒し、ビール瓶はすべて割れてしまった。
さて、この事例の場合「ビール瓶が割れてしまった」という危険は、AとBのどちらが負担するのでしょうか?
結論。
これは危険負担の話ではありません。
なぜなら、ビールは特定物ではなく不特定物だからです。
不特定物ということは、世の中に替わりになる同じ物が存在するということを意味します。
したがって、酒屋Aはたとえ午後3時に間に合わなかったとしても、新たなビール1ダースを積み直して届けなければなりません。でないと、Aは債務不履行に陥ってしまいます。
地震というのは天災なので、Aに過失(ミス・落ち度)はありませんから、地震が原因で指定時間に遅れても債務不履行という扱いにはならないでしょう。
現実には、AとBがお互い話し合ってどうするのかを決めることになると思いますが、何の話し合いも合意もないのであれば、民法の原則として従来の約束を守らなければならないので、Aは指定時間に遅れてでも同じビール1ダースを積み直して、パーティー会場に届けなければなりません。
それがAB間での債務の履行(約束を果たすこと)だからです。
「危険負担とは双務契約の当事者双方の責めに帰すことができない後発的不能の問題である」
なんだか小難しい言い回しですが、簡単にわかりやすく言うと、危険負担とは「契約成立後、契約当事者のどちらにも過失(ミス・落ち度)がなく契約の履行(事例2で言えばビールを届けること)が不能になってしまった(後発的不能)」場合の話です。
つまり、事例2の場合、替わりのビールを届けること(債務の履行)はできるから「後発的不能」にはならず、危険負担の話にはならないのです。

補足:不特定物が特定物に変わる時
ところで、不特定物が特定物に変わるのはいつなのか?という問題があります。
え?不特定物が特定物に変わるの?
はい。
実はその規定は民法の条文にあります。
(種類債権)※
民法401条2項
前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。
※種類債権とは、一定の種類に属する物の一定量を引き渡すことを目的とする債権。ビール1ダースはまさにそれ。不特定物の債権を種類債権と呼ぶ。
この民法401条2項を読むだけではよくわからないと思いますが、条文では、不特定物が特定物に変わるタイミングとして2つの場合を定めています。
1・債務者が物を給付するのに必要な行為を完了した場合
この場合、判例が以下の3パターンを認めている。
〈パターンA〉
債務者が債権者の元へ物を届ける場合(これを持参債務という)、債権者の現在の住所において物を給付するのに必要な行為を完了した時に不特定物が特定され特定物に変わる。
例→酒屋が注文者の自宅に注文を受けたビール1ダースを「どうぞ」と差し出した時。
〈パターンB〉
債権者が債務者のところに物を取りに行く場合(これを取立債務という)、履行を準備し給付物を分離してそれを債権者に通知した時に不特定物が特定され特定物に変わる。
例→酒屋が「あの注文者のビール1ダースはこれ」と決めて、それを取り分けて「いつでもどうぞ」とその注文者に連絡した時。
〈パターンC〉
債権者の住所地以外の場所に送付する債務の場合(これを送付債務と言う)、送付することが債務者の義務であれば現実の提供時に、債務者の好意で送付する場合は発送時に、不特定物が特定され特定物に変わる。
例→これはまさに事例3のケースで、酒屋のAがイベント会社B指定のパーティー会場にビール1ダースを実際に届けた時に、ビール1ダースは特定され特定物となる。
2・債権者の同意を得てその給付をすべき物を指定した場合
例えば、酒屋が注文者の同意の上で「あの注文者の分はこの1ダース」と指定した時
以上が、不特定物が特定され、特定物に変わる時になります。
そして、不特定物が特定物に変わると、危険負担の話になります。
したがって、理屈としては不特定物が特定され特定物に変わった瞬間に、物の「所有権と危険」が買主(債権者)に移転します。
そう、それは地雷系の人が恋人になった瞬間メンヘラになる...とは違いますね(笑)。
失礼しました。
というわけで、今回は以上になります。
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最後までお読みいただきありがとうございます。
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