不動産の危険負担~買主は売買契約後引き渡し前に倒壊した建物の代金の支払いを拒める?

 売買契約等で、債務が履行される前(売主が相手に物を引き渡す前)に、お互いのどちらの責任にもならない事由(理由・原因)で債務の履行ができなくなったとき(売主・買主どちらの責任でもなく物が消滅した場合等)、その債務(物の売買代金)をどうするか?という問題を危険負担といいます(危険負担の超基本の解説はこちら)。

事例
売主Aと買主BはA所有の甲建物の売買契約を締結した。しかし、その引渡し前に甲建物は地震によって倒壊した。


 危険負担が問題となるケースとは、AB間の売買契約成立後売主A買主B双方に過失(ミス・落ち度)がなく甲建物が全壊または一部が壊れた場合です。事例はそのケースを想定しています。では本題に入って参りましょう。
 このときに、売主Aは売買代金をもらえるのでしょうか?

売主は債務者、買主は債権者

 まず、危険負担について考えるときの基本事項なのですが、危険負担の話においては、売主債務者買主債権者となります。これは、契約の対象となっている「目的物」を基準に考えるからです。事例に当てはめると、甲建物を基準に考えて、売主のA債務者買主のB債権者となります。この危険負担の基本は、最初は感覚的に馴染まないと思います。ですが、まずはこれを押さえて下さい。
 繰り返します。危険負担に関しては「金」ではなく「目的物」を中心に考える、したがって、目的物の引渡し義務のある売主が債務者、目的物をよこせと請求する権利がある買主が債権者、となります。

売主、買主ともに過失がない

 これが一番の問題点であり、危険負担の本質です。事例で考えると、売主Aも買主Bも過失(ミス・落ち度)がなく、ましてや地震は天災です。では甲建物の倒壊の負担は誰が負うのか?いわばババ抜き状態です。甲建物の倒壊というババをどちらが抜く(負担する)のか、売主vs買主のババ抜き対決です。
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 まずは売主Aと買主B、互いの言い分を聞いてみましょう。
売主Aの言い分
「甲建物が倒壊したのはアタイのせいじゃない!だからBは約束の金を払いな!」
買主Bの言い分
「甲建物が倒壊したのはオイラのせいじゃねぇ!金だけ取られてたまるかってんだ!」
 このようになります。若干のキャラ設定は気にしないで下さいね(笑)。どちらの言い分も間違ってはいません。どちらも悪くありません。しかし!誰も悪くないけど誰かが負担しなければならない、それが危険負担なんです。つまり、売主Aか買主B、そのどちらかが甲建物の倒壊という危険負担しなければならない、だから危険負担なんです。

債務者主義と債権者主義

 危険負担の問題に関しましては、債務者主義という考え方と、債権者主義という考え方があります。
債務者主義とは
 売主はお金をもらえない、つまり売主が危険を負担すべきという考え
債権者主義とは
 買主はお金を払うべき、つまり買主が危険を負担すべきという考え

 では、民法の条文はどうなっているのでしょうか?

※民法改正後(2020年4月1日施行)
(債務者の危険負担等)
536条
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。


※民法改正前
(債権者の危険負担)
民法534条
特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。

 条文の「当事者双方の責めに帰することができない」というのは「売主にも買主にも過失(ミス・落ち度)がない」という意味です。そして「債権者は反対給付の履行を拒むことができる」というのは「買主は売買代金の支払いを拒める」という意味です、以上の事から、民法の規定は債務者主義という立場なのがわかります(改正前の民法は債権者主義だった)。
 さあ、答えはもう出ましたね。
 結論。売主Aは甲建物の売買代金はもらえせん。買主Bは甲建物の売買代金を払わなくても良いのです。よってババ抜き対決の勝者は買主Bです。
 また上記条文2項にあるように、甲建物の倒壊の原因が買主Bによるものであれば、買主Bは売買代金の支払いを拒めません。このときは、売主Aは売買代金をもらえます。
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Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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