【危険負担】基本はババ抜き~代金支払い債務の行方は?/債務者主義と債権者主義とは

▼この記事でわかること
危険負担とはババ抜き?
売買代金の支払い債務はどうなるか
代金の支払いを買主は拒めるか~売主は債務者・買主は債権者
債務者主義と債権者主義
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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危険負担
危険負担とはババ抜きみたいなもの?

 売買契約のような互いに債務を負う契約(これを双務契約と言う)

売主の債務→物を相手に引き渡す
買主の債務→金を相手に払う

 上記のような契約で、債務が履行される前(売主が相手に物を引き渡す前)に、お互いのどちらの責任にもならない事由(理由・原因)で債務の履行ができなくなったとき(売主・買主どちらの責任でもなく物が消滅した場合等)、その債務をどうするのか?という問題を危険負担と言います。
 まずはわかりやすく事例を見てみましょう。

事例
売主Aと買主BはA所有の甲建物の売買契約を締結した。しかし、その引渡し前に甲建物は地震によって倒壊した。


 これがまさに危険負担の問題となる典型的なケースです。

売買契約
A ― B
  甲建物
  (A所有)
  
Bへ引渡し前に倒壊

 つまり、売買契約はしたが引き渡し前に地震で甲建物がぶっ壊れた、じゃあその「甲建物がぶっ壊れた」という危険を売主Aと買主Bのどちらが負担するのか?すなわち危険負担ということです。
 要するに、危険負担とは危険というババをどちらが抜くか(負担するか)、つまり、売主vs買主のババ抜きみたいなものとも言えます。
素材114トランプ 
売買代金の支払いという債務はどうなるか

 事例で、売主Aは買主Bから売買代金をもらえるでしょうか?
 いやいやそれはムリっしょ?という声が聞こえてきそうですが、まさにこの問題について考えることこそ、民法上の危険負担というものについて本格的に考えていくこととなるのです。
 なお、不動産は全て特定物です。つまり、全く同じ物は世の中に他に存在しません。(たとえ全く同じ建物が近くにあっても、何なら同マンション内でも、建物内から見える景色は僅かでも変わりますよね...etc)
 この点はまず前提として覚えておいてください。

 それでは、危険負担について、いくつかのケースに分けて見ていきましょう。

1・AB間の売買契約の前日に甲建物が倒壊していた場合

 これは、原始的不能のケースです。
 原始的不能とは、契約成立時点ですでに債務が履行不能であることです。
 履行不能の場合、債権者はその債務の履行を請求することはできません。(民法412条の2)
 ここでの「債権者」とは、事例の買主Bのことです。
 したがって、買主Bは甲建物の引渡請求はできません。
 しかし、買主Bは、履行不能による無催告解除ができます。(民法542条1項1号)
 解除となれば、売買代金の支払いは発生しないと考えられます。
 ただし、履行不能で損害が発生していた場合は、損害の賠償を請求することができます。(民法412条の2・2項)

2・AB間の売買契約当初から甲建物に欠陥があった場合

 これは、売主Aの契約不適合責任(瑕疵担保責任)の話になります。
 契約不適合責任は無過失責任です。売主Aは過失がなくとも負わなければならない責任です。
 この場合、契約は一旦有効に成立しているので、売主Aは売買代金をもらえますが、買主Bは売主Aに対し契約不適合責任による修補の請求・修理代金の請求や損害の賠償の請求、場合によっては契約の解除も可能になります。
(契約不適合責任についての詳しい解説は「契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)~」をご覧ください)※
※今回の事例の場合、そもそも甲建物が倒壊しているので解除か損害賠償の請求が妥当かと思われる。

3・売主Aに過失(ミス)があって甲建物が全壊(滅失)あるいは損傷(一部が破損)した場合

 この場合は、売主Aの債務不履行の問題です。
 ですので、この場合も契約は一旦有効に成立しているので、Aは売買代金をもらえますが、買主Bは売主Aに対し債務不履行による損害賠償の請求、場合によっては契約の解除が可能になります。※
※債務不履行についての詳しい解説は「債権債務の世界がよくわかる!債務不履行&損害賠償&過失責任の原則など超基本から徹底解説!」をご覧ください。
 
 なお、上記2と3のケースで契約が解除された場合、結局、売主Aは受け取った売買代金を買主Bに返還しなければなりません(原状回復義務)

 さて、ここまで3つのケースを見てきました。
 しかし、これらはどれも危険負担の話ではありません。
 それでは、危険負担の話になる場合とはどんなときでしょうか?
 危険負担の話となるのは、次のようなケースです。

契約成立後、売主に過失なく建物が滅失または損傷した
 
 事例に当てはめるとこうです。

AB間の売買契約成立後、売主Aに過失がなく甲建物が全壊または一部が壊れた

 このようなケースが危険負担の話となります。
 そう、つまり冒頭の事例がまさににこのケースなのです。
 説明が回りくどくね?
 はい。スイマセン(笑)。しかし、わざわざ遠回りして別のケースをご説明してきたのには理由があります。

 私の経験上、危険負担については、かなりじっくりやらないと頭が混乱してしまうこと必至と考えます。
 ですので、回りくどいかもしれませんが、危険負担の話に入る前の前提として、確認しておくべきことを確認した次第なのです。
 前提の部分が曖昧なままだと、分かりやすい分りづらい以前のハナシになってしまいますから。
 引っ張るような形になってしまいましたが、まずは危険負担を理解するための前提として、ここまでの内容をしっかり覚えておいてください。

売買契約後引渡し前に倒壊した建物
代金の支払いを買主は拒めるのか


 ここで再度、事例の確認です。

事例
売主Aと買主BはA所有の甲建物の売買契約を締結した。しかし、その引渡し前に甲建物は地震によって倒壊した。


 危険負担が問題となるケースとは、AB間の売買契約成立後売主A買主B双方に過失(ミス・落ち度)がなく甲建物が全壊または一部が壊れた場合です。事例はそのケースを想定しています。
 では本題に入りましょう。
 このときに、売主Aは売買代金をもらえるのでしょうか?

売主は債務者、買主は債権者

 まず、危険負担について考えるときの基本事項です。
 危険負担の話においては、売主債務者買主債権者となります。
 これは、契約の対象となっている「目的物」を基準に考えるからです。
 事例に当てはめると、甲建物を基準に考えて、売主のA債務者買主のB債権者となります。
 この危険負担の基本は、最初は感覚的に馴染まないと思います。ですが、まずはここをしっかり覚えてください。
 繰り返します。
 危険負担に関しては「金」ではなく「目的物」を中心に考えるので

目的物の引渡し義務のある売主が債務者
目的物をよこせと請求する権利がある買主が債権者


となります。

売主、買主ともに過失がない

 これが一番の問題点であり、危険負担の本質です。
 事例で考えると、売主Aも買主Bも過失(ミス・落ち度)がなく、ましてや地震は天災です。
 つまり、売主A買主Bどちらも悪くないんです。
 では甲建物の倒壊の負担は誰が負うのか?
 これはいわばババ抜き状態です。
「甲建物の倒壊」というババをどちらが抜く(負担する)のか、売主vs買主のババ抜き対決です。
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 まずは売主Aと買主B、互いの言い分を聞いてみましょう。

・売主Aの言い分
「甲建物が倒壊したのはアタイのせいじゃない!だからBは約束の金を払いな!」

・買主Bの言い分

「甲建物が倒壊したのはオイラのせいじゃねぇ!金だけ取られてたまるかってんだ!」

 このようになります。若干のキャラ設定は気にしないでくださいね(笑)。
 どちらの言い分も間違ってはいません。どちらも悪くありません。
 しかし!誰も悪くないけど誰かが負担しなければならない、それが危険負担なんです。
 つまり、売主Aか買主B、そのどちらかが「甲建物の倒壊」という危険負担しなければならない、だから危険負担なんです。

債務者主義と債権者主義

 危険負担の問題に関しましては、債務者主義という考え方と、債権者主義という考え方があります。

【債務者主義】

 売主(債務者)はお金をもらえない、つまり、売主(債務者)が危険を負担すべきという考え

【債権者主義】

 買主(債権者)はお金を払うべき、つまり、買主(債権者)が危険を負担すべきという考え

 では、民法の条文はどうなっているのでしょうか?

(債務者の危険負担等)
民法536条
当事者双方責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。


 上記、民法536条冒頭の「当事者双方の責めに帰することができない」というのは「売主にも買主にも過失(ミス・落ち度)がない」という意味です。
 そして「債権者は反対給付の履行を拒むことができる」というのは「買主は売買代金の支払いを拒める」という意味です。
 以上の事から、民法の規定は債務者主義という立場なのがわかります。(改正前の民法は債権者主義だった)
 という事で、売主Aは売買代金をもらえるのか?その答えはもう出ましたね。
 結論。売主Aは甲建物の売買代金はもらえません。
 
買主Bは甲建物の売買代金を払わなくても良いのです。
 よって、ババ抜き対決の勝者は買主Bです。
 また、買主Bは、履行不能による無催告解除ができます。(民法542条1項1号)

 なお、ひとつ注意点としまして、民法536条は反対給付債務(買主Bの代金支払い債務)の履行拒絶権(代金支払いを拒める権利)を定めているのであって、反対給付債務自体(買主Bの代金支払い債務自体)が消滅する訳ではありませんので、ご注意ください。
 また上記条文2項にあるように、甲建物の倒壊の原因買主Bによるものであれば、買主Bは売買代金の支払いを拒めませんので、このときは、売主Aは売買代金をもらえます。
 ちなみに、買主Bが甲建物の引渡しを受けた後に、その原因が売主A買主B双方によるものでなく滅失・損傷したときは、買主Bは代金の支払(反対給付の履行)を拒むことはできません。
 また、この場合は、買主Bは売主Aの契約不適合責任を追及することもできません。(民法567条)

(目的物の滅失等についての危険の移転)
民法567条
売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、
買主は、代金の支払を拒むことができない。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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根本総合行政書士

Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
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保有資格:
行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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