2017/11/14
瑕疵担保責任 信頼利益と履行利益
事例AはBから中古の自動車を購入した。しかし、購入後すぐに自動車のエンジンが故障した。整備工場で調べるとエンジンにはAB間の売買以前からの欠陥があり、その欠陥が原因となってエンジンが故障したことが判明した。さらにAはこの自動車を事業用に購入していて、この故障が原因で事業上の損害も発生した
AはBの瑕疵担保責任により、自動車の修理代金の請求ができます(詳しくは前回の記事へ)。では、自動車の故障によって生じた事業上の損害の賠償請求はできるでしょうか?
結論。Aは事業上の損害の賠償請求はできません。その理屈を今からご説明いたします。
Bには過失がありません。しかし、瑕疵担保責任は無過失責任です。瑕疵担保責任は、過失がなくても負わなければなりません。これは法律で定められた責任、法定責任です。ですので、たとえ過失のないBでも問答無用で負わされる責任です。したがって、AはBの瑕疵担保責任により損害、つまり自動車の修理代金の請求ができるのです。ここまでが前回ご説明申し上げた内容ですが、ではなぜ、AはBに事業上の損害の賠償請求はできないのでしょうか?
信頼利益と履行利益
一般に、損害賠償の範囲の考え方については、次のようなことが言われています。
・信頼利益
有効でない契約が有効に成立したと誤信したため生じた損害、これを信頼利益という。(例)契約のために目的地に行くためにかかった交通費
・履行利益
契約が完全に履行された場合に債権者が受ける利益、これを履行利益という。(例)商品の転売の利益
この説明だけでは、今ひとつピンと来ないかもしれません。事例に当てはめると、中古の自動車の修理代金が信頼利益、事業上の損害は履行利益になります。信頼利益と履行利益については、これから民法の解説を進めていく中で様々な事例とともに登場しますので、その中で掴んでいって頂ければと存じます。
話を戻しますと、瑕疵担保責任における損害賠償の範囲は信頼利益に限ります。この考えを法定責任説といいます。別の見解の学説もありますが、法定責任説は裁判所の見解とも一致しますので、この考え方を頭に入れておいて頂ければと思います。
まあでも普通に考えて、無過失責任である瑕疵担保責任において、損害賠償の範囲を履行利益まで認めてしまうと、それこそ売主は、中古品の売買なんて怖くてできなくなっちゃいますよね。かといって、過失さえなければ売主は何の責任も負わないとなると、今度は買主が不利になる。そこで、バランスを取って「瑕疵担保責任における損害賠償の範囲は信頼利益に限る」という結論は、妥当かなと思います。
Aは契約の解除はできる?
買主Aは善意で、かつ隠れた瑕疵(整備工場でやっとみつかった中古自動車の欠陥)のために契約の目的を達することができないとき、契約の解除ができます。この解除権の行使期間は、修理代金の請求と同様、買主Aが欠陥の事実を知った時から1年以内です。
補足
今回の事例とは直接関係ありませんが、債務不履行による損害賠償の請求の範囲は履行利益まで含みます。債務不履行の場合は、そもそも債務者に過失がありますから、無過失責任である瑕疵担保責任よりも、その責任は当然重くなります。
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