【契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)】履行の追完請求と代金減額請求/事業上の損害の賠償請求は可能?解除は?権利の行使期間は?

▼この記事でわかること
契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)の超基本
契約不適合責任に基づいた履行の追完請求と代金減額請求
契約不適合責任による損害賠償請求と解除
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)

 契約不適合責任は、民法改正以前は瑕疵担保責任と言われていたものです。(読み方は「かしたんぽせきにん」。瑕疵とはキズとか欠陥という意味)
 これは契約というものにおいて非常に重要な規定ですので、是非覚えておくことを推奨します。
 まずは事例をご覧ください。

事例
AはBから中古の自動車を購入した。しかし、購入後すぐに自動車のエンジンが故障した。整備工場で調べるとエンジンにはAB間の売買以前からの欠陥があり、その欠陥が原因となってエンジンが故障したことが判明した。さらにAはこの自動車を事業用に購入していて、この故障が原因で事業上の損害も発生した。


 この事例で、Aは何ができるのか?という問題に入る前に、この事例1にはいくつかのポイントがありますので、まずはそこを解説します。

・ポイント1
 Aが購入した自動車は中古の自動車
 これは特定物なので、全く同じ物が他に存在しない(新車は不特定物)。要するに替えがきかない物ということ。

・ポイント2
 エンジンにはAB間の売買以前から欠陥(瑕疵)がある。
 つまり、AB間の売買契約前の欠陥ということ。(欠陥発生が契約前か後かで法律構成が変わってくる)

・ポイント3

 欠陥は相当がっちり調べてみないとわからないような欠陥なので、売主Bには過失(ミス・落ち度)がないと思われる。

 上記3つのポイントを押さえた上で、次の民法の条文をご覧ください。

(特定物の現状による引渡し)
民法483条
債権の目的が特定物の引渡しである場合において、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。

 
 上記、民法483条条文中の「弁済をする者」とは事例の場合、売主Bのことです。
 そして、まず結論的な事を言いますと、事例は売主Bの契約不適合責任となります。
 Bに過失(ミス・落ち度)はないのにBの責任問題になるの?
 そう思いますよね。そもそも中古の自動車は特定物で、民法483条の規定により、引渡し時の現状で引き渡せばいいはずです。
 引渡し時に欠陥があるなら、それをそのまま引き渡しても売主は債務を履行した(約束を果たした)ことになるはずでしょう。
 よって売主Bは、引渡し時にすでに欠陥のある中古自動車(特定物)をそのまま買主Aに引き渡しても債務の履行を果たしたことになり、Bの債務不履行にはならないから、Bには責任は生じないのでは。。。
 しかし、契約不適合責任は、契約が不適合であることの責任です。そして、契約不適合責任の中には売主に帰責事由がなくても負う責任があるのです。
 帰責事由がなくても負う責任とは、過失(ミス・落ち度)がなく責任を負うべき理由がなかったとしても負わなければならない責任です。
 したがって、帰責事由のない売主Bも、契約不適合責任を負うことになるのです。
 なお、民法改正以前の瑕疵担保責任においては、目的物が特定物でないと制度が適用されませんでしたが、民法改正後の契約不適合責任では、目的物が特定物でなくとも適用されます。

契約不適合責任に基づいた履行の追完請求と代金減額請求
素材112債権
 さて、では買主Aは売主Bに対して、その契約不適合責任に基づいて、一体どんな請求ができるのでしょうか?

買主Aは売主Bに自動車の修理を請求できる?
 買主Aは売主Bに修理の請求ができます。この請求は、少し難しい言い方になりますが「目的物の修補」の請求となります。

買主Aは売主Bに自動車の修理代金の請求はできる?
 買主Aは売主Bに修理の代金の請求ができます。

 上記2つの請求権は、民法562条の規定に基づく買主の追完請求権になります。

(買主の追完請求権)
民法562条
引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2項 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。


 なお、上記民法562条2項の条文から、契約の不適合が買主の責任によるものである場合は、追完請求はできません。
 つまり、もし今回の事例で、車の欠陥が買主Aの過失(ミス・落ち度)によるものであれば、Aは売主Bに対して修理の請求も修理代金の請求もできない、ということです。
 まあ、当たり前ですよね。
 
 また、買主が修補請求(履行の追完請求)をしても売主が修補しないとき、あるいは修補が不能であるときは、買主は売主に対し代金減額請求ができます。
 つまり、買主は売主に「修補(履行の追完)できねーなら安くしろ!」と言える、ということです。

(買主の代金減額請求権)
民法563条
前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて
代金の減額を請求することができる。

いつまで請求できる?権利の行使期間

 追完請求も代金減額請求も、買主が不適合の事実を知ってから1年以内にその旨を売主に通知しないと請求できなくなってしまいます。
 したがって、事例の場合、買主Aは売主Bに対して車の欠陥を知ってから1年以内にその旨を通知しないと追完請求も代金減額請求もできなくなってしまうという訳です。
 ここで注意点があります。
 それは事実を知ってから1年以内の通知という部分です。
 これは、あくまで通知であって、実際の「修補しろ!」「金払え!」「安くしろ」という請求通知した後で構わないという事です。
 細かい部分ですが「1年以内の請求」ではない、ということは覚えておいてください。
 こういう部分は試験で問われやすいです。

契約不適合責任(瑕疵担保責任)による損害賠償請求

 ここでもう一度、事例をご覧ください。
 
事例
AはBから中古の自動車を購入した。しかし、購入後すぐに自動車のエンジンが故障した。整備工場で調べるとエンジンにはAB間の売買以前からの欠陥があり、その欠陥が原因となってエンジンが故障したことが判明した。さらにAはこの自動車を事業用に購入していて、この故障が原因で事業上の損害も発生した。


 さて、今回の事例で、買主Aは売主Bに対し自動車の故障によって生じた、事業上の損害の賠償請求はできるでしょうか?
 結論。買主Aは売主Bに対し事業上の損害の賠償請求はできません。
 なぜなら、売主Bには過失など帰責事由がないからです。売主が負う契約不適合責任の「帰責事由がなくても負う責任」の中には、損害賠償責任は含まれません。これは「事業上の」損害であるかにかかわらず、です。
 売主に帰責事由がなければ、損害の賠償請求はできません。

【補足】事業上の損害とは
信頼利益と履行利益

 一般に、損害賠償の範囲の考え方については、次のようなことが言われています。

・信頼利益
 有効でない契約が有効に成立したと誤信したため生じた損害(契約できると間違って信じたことによって生じた損害)、これを信頼利益という。
例→契約のため目的地に行くためにかかった交通費

・履行利益
 契約が完全に履行された場合に債権者が受ける利益、これを履行利益という。
例→商品の転売の利益(買主がその商品を買えていればそれを売って儲けられたであろう利益)

 この説明だけでは今ひとつピンと来ないですよね。
 事例に当てはめるとこうなります。

・中古の自動車の修理代金信頼利益
事業上の損害履行利益


ここがポイント女性
売主に過失など帰責事由があった場合


 売主に過失など帰責事由があった場合は、契約不適合責任により、買主は売主に対し損害の賠償請求をすることができます。
 そして、このときの損害賠償の範囲についてですが、民法改正以前の瑕疵担保責任における損害賠償の範囲信頼利益に限りました。この考えを法定責任説と言い、(別の見解の学説もありましたが)法定責任説は裁判所の見解とも一致するものでした。
 しかし、民法改正によって瑕疵担保責任が契約不適合責任となり、要件を満たした場合は、買主から売主へ履行利益を含めた損害賠償の請求も認められます。
 
買主Aは契約の解除はできる?

 民法改正以前の瑕疵担保責任においては、買主が善意でかつ隠れた瑕疵(事例で言えば整備工場でやっとみつかった中古自動車の欠陥)のために契約の目的を達することができないとき、契約の解除可能でした。
 しかし、民法改正により、解除については債務不履行の一般規律に従うことになります。
 したがいまして、債務不履行の一般規律に従い要件を満たせば、買主Aは契約の解除も可能です。

【参考】
契約不適合責任に基づいた買主から売主に対する請求についての法務省資料
契約不適合責任
※出典:法務省民事局『民法(債権関係)の改正に関する説明資料』

 なお、解除に関する民法の規定は以下のようなものがあります。

(催告による解除)
民法541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。


 上記、民法541条の規定を事例に当てはめて考えると「自動車の欠陥が軽微なものでなければ契約の解除はできる」ということになります。
 ではどの程度が軽微なのか?ですが、これについては明確な客観的な定義がある訳ではなく、事案ごとに個別具体的に見ていくことになります。
 ですので、2020年4月施行の民法改正以降の判例(裁判結果)の集積により定まっていくことになるでしょう。

 なお、債務不履行による解約の解除について詳しくは「(動産の)契約解除の3要件~債務不履行・帰責事由・相当の期間を定めた催告とは」にて解説しておりますので、そちらも併せてお読みいただくとより理解が深まるかと存じます。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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