
▼この記事でわかること
・登記と解除前の第三者
・登記と解除後の第三者
・背信的悪意者と信義則
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

不動産売買契約の解除
登記と解除前の第三者
登記のルールがある不動産での契約の解除の効果は、一体どのようになっているのでしょうか?
まずは事例をご覧ください。
(不動産売買契約と解除の基本についての詳しい解説は「【不動産売買契約と解除】手付放棄と手付倍返しとは/契約解除のタイミングと方法とは?初学者にもわかりやすく解説!」をご覧ください)
事例1
Aは不動産業者のBに甲土地を売却し、Bは登記をした。その後、AはBの売買代金の不履行(Bの債務不履行)によりAB間の甲土地の売買契約を解除した。しかし、すでに不動産業者のBはCに甲土地を転売し、Cは登記をしていた。
この事例1で、Aは甲土地の所有権の主張ができるでしょうか?
ポイントは、第三者のCが解除前に現れているという点です。
売却 転売
売主A → 業者B → C(甲土地)
登記 登記
解除 甲土地
売主A → 業者B C
解除前に登記
甲土地の所有権はどうなる?
まずは民法の条文を確認してみましょう。
(解除の効果)
民法545条
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
先ほど申し上げたポイントと上記、民法545条条文のただし書で、察しの良い方はもうおわかりかと思います。
結論。
事例1において、Aは甲建物の所有権の主張はできません。
なぜなら、民法545条ただし書の規定により、第三者であるCの権利を害することはできないからです。
したがいまして、事例1の甲土地をめぐる所有権争奪バトルはCの勝ちです。
それでは続きまして、こちらの事例ではどうなるでしょう。
事例2
Aは不動産業者のBに甲土地を売却し、Bは登記をした。その後、AはBの売買代金の不履行(Bの債務不履行)によりAB間の甲土地の売買契約を解除した。しかし、すでに不動産業者のBはCに甲土地を転売していた。なお、Cは登記を備えていない。
事例1との違いは、第三者のCが登記を備えていない(未登記)という点です。
Cが未登記ということは、甲土地の登記はBのままということです。
売却 転売
売主A → 業者B → C(甲土地)
登記 未登記
解除 甲土地
売主A → 業者B C
登記 未登記
甲土地の所有権はどうなる?
では事例2の場合、Aは甲土地の所有権を主張できるのでしょうか?
結論。
事例2の場合、Aは所有権の主張ができます。
え?登記の有無については条文になくね?
ないです。
しかし、判例では「第三者が勝つためには登記が必要だ」としているのです。
つまり、第三者の登記の必要性は、いわば裁判所が勝手にくっつけたものです。

これは、不動産の登記制度を考慮して取引の安全性を鑑みた結果、裁判所の判断で登記を第三者の保護要件としたのでしょう。
したがいまして、事例2は、第三者のCが保護要件である登記を備えていない以上、甲土地をめぐる所有権争奪バトルはAの勝ち!になります。
なお、Bは登記を備えていますが、それは関係ありません。
Bは第三者ではないし、そもそも債務不履行をやらかした張本人です。
この期に及んで保護されようなぞ、ムシが良すぎるってもんです。
簡潔にまとめると、今回の事例のような場合、Aは、甲土地の登記がAかBにあれば、所有権を主張できます。
登記と解除後の第三者
続いて、第三者が解除後に現れた場合は、一体どうなるのでしょうか?
事例3
Aは不動産業者のBに甲土地を売却し、Bは登記をした。その後、AはBの売買代金の不履行(Bの債務不履行)によりAB間の甲土地の売買契約を解除した。その後、不動産業者のBはCに甲土地を転売し、Cは登記をした。
この事例3で、Aは甲土地の所有権を主張できるでしょうか?
売却 転売
売主A → 業者B → C(甲土地)
登記 登記
解除 甲土地
売主A → 業者B C
解除後に登記
結論。
Aは甲土地の所有権を主張できません。
よって、事例3の甲土地の所有権争いの勝者はCになります。
その根拠となる民法の条文はこちらです。
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
民法177条
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
あれ?解除に関する民法の条文じゃない?
はい。そうなんです。
実は事例3は、解除の問題ではないのです。
これは詐欺の取消後の第三者と同じハナシです。
つまり、単純に「早く登記したモン勝ち!」なのです。
なので登記したCの勝ちなのです。
ですので、甲土地の売買契約を解除してからボサッとしていたAが悪い、ということです。
なお、もしCがまだ登記をしていなければ、まだBに登記がある状態であれば、甲土地はBの債務不履行による解除の原状回復義務の対象ですから、Aは甲土地の所有権を主張できます。
補足:背信的悪意者と信義則

「不動産登記の基本と公示の原則」でも若干触れていますが、もし今回の事例3で、Cが背信的悪意者(合法的なとんでもないワル)の場合は、いくらCが登記を備えていても、Cは甲土地の所有権を取得できません。
Cが背信的悪意者の場合は、次の民法の条文が適用されます。
(基本原則)
民法1条2項
権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
この民法1条2項は、信義誠実の原則と呼ばれるものです。(略して信義則と呼ばれます)
民法には、利益衡量や取引の安全性を重視して、時に残酷で冷たく感じる面があると思います。
そして、世の中にはそんな民法の性質を利用する合法的なワルが存在します。
しかし、そいつらはあくまで合法的なので、民法先生も困ってしまいます。
そこで!
民法先生は最終手段の伝家の宝刀「信義則」を抜きます。
そしてこう言い放ちます。
「オマエは背信的悪意者だ!背信的悪意者は信義則に反し許すべからず!」
よって、背信的悪意者は保護されることはありません。
このように民法は、信義則という「超えちゃならないライン」を引いて法律を補充し、法的秩序を保つのです。(実際には裁判官が過去の判例を参考にしながら個別具体的に判断していくことになります)
昔、『男たちの挽歌』という映画で、マフィアのボスが主人公の刑事に追い詰められ病院に逃げ込み、そこで患者を人質に取ろうとするシーンがありました。
そこで、そのマフィアのボスに雇われた用心棒が初めてボスに逆らうのです。
その時の用心棒のセリフがこうです。
「いくら極道でも、超えちゃならねぇ線があんだろ!」
私これ、大好きなシーンなんです。
スイマセン。
余談もいいとこですね(笑)。
ところで、民法177条において、第三者の善意悪意は問われていませんが、背信的悪意者はアウト!というのはここまで解説してきたとおりです。
ちなみに、この民法177条で、登記を備えて所有権を主張できる第三者とは「登記の欠缺(けんけつ)を主張するにつき正当の利益を有する者」と、判例で定義づけられています。
これはわかりやすく簡単に言うと「オマエ登記してねーだろ」と堂々と言える者ってことです。
つまり、背信的悪意者には、信義則違反によりその(主張する)資格がないということです。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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・登記と解除前の第三者
・登記と解除後の第三者
・背信的悪意者と信義則
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今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

不動産売買契約の解除
登記と解除前の第三者
登記のルールがある不動産での契約の解除の効果は、一体どのようになっているのでしょうか?
まずは事例をご覧ください。
(不動産売買契約と解除の基本についての詳しい解説は「【不動産売買契約と解除】手付放棄と手付倍返しとは/契約解除のタイミングと方法とは?初学者にもわかりやすく解説!」をご覧ください)
事例1
Aは不動産業者のBに甲土地を売却し、Bは登記をした。その後、AはBの売買代金の不履行(Bの債務不履行)によりAB間の甲土地の売買契約を解除した。しかし、すでに不動産業者のBはCに甲土地を転売し、Cは登記をしていた。
この事例1で、Aは甲土地の所有権の主張ができるでしょうか?
ポイントは、第三者のCが解除前に現れているという点です。
売却 転売
売主A → 業者B → C(甲土地)
登記 登記
解除 甲土地
売主A → 業者B C
解除前に登記
甲土地の所有権はどうなる?
まずは民法の条文を確認してみましょう。
(解除の効果)
民法545条
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
先ほど申し上げたポイントと上記、民法545条条文のただし書で、察しの良い方はもうおわかりかと思います。
結論。
事例1において、Aは甲建物の所有権の主張はできません。
なぜなら、民法545条ただし書の規定により、第三者であるCの権利を害することはできないからです。
したがいまして、事例1の甲土地をめぐる所有権争奪バトルはCの勝ちです。
それでは続きまして、こちらの事例ではどうなるでしょう。
事例2
Aは不動産業者のBに甲土地を売却し、Bは登記をした。その後、AはBの売買代金の不履行(Bの債務不履行)によりAB間の甲土地の売買契約を解除した。しかし、すでに不動産業者のBはCに甲土地を転売していた。なお、Cは登記を備えていない。
事例1との違いは、第三者のCが登記を備えていない(未登記)という点です。
Cが未登記ということは、甲土地の登記はBのままということです。
売却 転売
売主A → 業者B → C(甲土地)
登記 未登記
解除 甲土地
売主A → 業者B C
登記 未登記
甲土地の所有権はどうなる?
では事例2の場合、Aは甲土地の所有権を主張できるのでしょうか?
結論。
事例2の場合、Aは所有権の主張ができます。
え?登記の有無については条文になくね?
ないです。
しかし、判例では「第三者が勝つためには登記が必要だ」としているのです。
つまり、第三者の登記の必要性は、いわば裁判所が勝手にくっつけたものです。

これは、不動産の登記制度を考慮して取引の安全性を鑑みた結果、裁判所の判断で登記を第三者の保護要件としたのでしょう。
したがいまして、事例2は、第三者のCが保護要件である登記を備えていない以上、甲土地をめぐる所有権争奪バトルはAの勝ち!になります。
なお、Bは登記を備えていますが、それは関係ありません。
Bは第三者ではないし、そもそも債務不履行をやらかした張本人です。
この期に及んで保護されようなぞ、ムシが良すぎるってもんです。
簡潔にまとめると、今回の事例のような場合、Aは、甲土地の登記がAかBにあれば、所有権を主張できます。
登記と解除後の第三者
続いて、第三者が解除後に現れた場合は、一体どうなるのでしょうか?
事例3
Aは不動産業者のBに甲土地を売却し、Bは登記をした。その後、AはBの売買代金の不履行(Bの債務不履行)によりAB間の甲土地の売買契約を解除した。その後、不動産業者のBはCに甲土地を転売し、Cは登記をした。
この事例3で、Aは甲土地の所有権を主張できるでしょうか?
売却 転売
売主A → 業者B → C(甲土地)
登記 登記
解除 甲土地
売主A → 業者B C
解除後に登記
結論。
Aは甲土地の所有権を主張できません。
よって、事例3の甲土地の所有権争いの勝者はCになります。
その根拠となる民法の条文はこちらです。
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
民法177条
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
あれ?解除に関する民法の条文じゃない?
はい。そうなんです。
実は事例3は、解除の問題ではないのです。
これは詐欺の取消後の第三者と同じハナシです。
つまり、単純に「早く登記したモン勝ち!」なのです。
なので登記したCの勝ちなのです。
ですので、甲土地の売買契約を解除してからボサッとしていたAが悪い、ということです。
なお、もしCがまだ登記をしていなければ、まだBに登記がある状態であれば、甲土地はBの債務不履行による解除の原状回復義務の対象ですから、Aは甲土地の所有権を主張できます。
補足:背信的悪意者と信義則

「不動産登記の基本と公示の原則」でも若干触れていますが、もし今回の事例3で、Cが背信的悪意者(合法的なとんでもないワル)の場合は、いくらCが登記を備えていても、Cは甲土地の所有権を取得できません。
Cが背信的悪意者の場合は、次の民法の条文が適用されます。
(基本原則)
民法1条2項
権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
この民法1条2項は、信義誠実の原則と呼ばれるものです。(略して信義則と呼ばれます)
民法には、利益衡量や取引の安全性を重視して、時に残酷で冷たく感じる面があると思います。
そして、世の中にはそんな民法の性質を利用する合法的なワルが存在します。
しかし、そいつらはあくまで合法的なので、民法先生も困ってしまいます。
そこで!
民法先生は最終手段の伝家の宝刀「信義則」を抜きます。
そしてこう言い放ちます。
「オマエは背信的悪意者だ!背信的悪意者は信義則に反し許すべからず!」
よって、背信的悪意者は保護されることはありません。
このように民法は、信義則という「超えちゃならないライン」を引いて法律を補充し、法的秩序を保つのです。(実際には裁判官が過去の判例を参考にしながら個別具体的に判断していくことになります)
昔、『男たちの挽歌』という映画で、マフィアのボスが主人公の刑事に追い詰められ病院に逃げ込み、そこで患者を人質に取ろうとするシーンがありました。
そこで、そのマフィアのボスに雇われた用心棒が初めてボスに逆らうのです。
その時の用心棒のセリフがこうです。
「いくら極道でも、超えちゃならねぇ線があんだろ!」
私これ、大好きなシーンなんです。
スイマセン。
余談もいいとこですね(笑)。
ところで、民法177条において、第三者の善意悪意は問われていませんが、背信的悪意者はアウト!というのはここまで解説してきたとおりです。
ちなみに、この民法177条で、登記を備えて所有権を主張できる第三者とは「登記の欠缺(けんけつ)を主張するにつき正当の利益を有する者」と、判例で定義づけられています。
これはわかりやすく簡単に言うと「オマエ登記してねーだろ」と堂々と言える者ってことです。
つまり、背信的悪意者には、信義則違反によりその(主張する)資格がないということです。
というわけで、今回は以上になります。
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