
▼この記事でわかること
・原状回復義務
・解除の遡及効果の制限
・同時履行の抗弁権
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

契約解除の後
原状回復義務
一定の要件を満たしたときに、契約の解除ができます。
では、契約を解除した後は、一体どうなるのでしょうか?
事例1
楽器店のBはメーカーのAからギターを納入した。しかし、期限が到来したにもかかわらずBが一向に代金を支払わないので、AはBに対し相当の期間を定めて催告をした上で、売買契約を解除した。
ギター納入
メーカー → 楽器店
(売主)A ← (買主)B
代金未払い
催告
(売主)A → (買主)B
売買契約解除
さて、この事例1で、Aは契約を解除しましたが、その後は何ができるのでしょうか?
ギターの返還請求?
損害賠償の請求?
まずは民法の条文をご覧ください。
(解除の効果)
民法545条
1項 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2項 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3項 第一項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
4項 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
上記、民法545条条文中の太字になっている部分が、Aができることです。
相手方を原状に復させる義務とは、原状回復義務のことで「元の状態に戻さなければならない」という意味です。
つまり、AはBに「ギターを返せ」と請求できます(返還請求)。
一方、BはAにギターを返す義務(返還義務)を負います。
損害賠償の請求を妨げないとは、損害賠償の請求もできるという意味です。
したがいまして、事例1で、メーカーの(売主)Aは楽器店の(買主)Bに対し、ギターの返還請求と損害賠償の請求ができる、ということになります。
解除の遡及効果の制限
【直接効果説】
解除の効果は遡及(そきゅう)します。
すなわち、さかのぼってナシになります。
したがって、事例1では、(買主)Bにはギターの返還義務(目的物を元の状態に戻す義務=原状回復義務)が生じ、同時に(売主)Aはギターの返還請求権(目的物を元に戻せ!と請求する権利)を得ます。
そして、この論理を直接効果説といいます。
他にも間接効果説、折衷説という考えも存在しますが、裁判所は直接効果説の立場を取ります。
ですので、ここでは「直接効果説」という考え方を、覚えておいてください。
【解除の遡及効果の制限】
契約を解除すると、その効果は遡及するので(直接効果説)、原状回復義務が生じます。
しかし!
条文には、このようなただし書きがありました。
「ただし、第三者の権利を害することはできない」
これはどういう意味なのでしょうか?
まずはこちらの事例をご覧ください。
事例2
楽器店のBはメーカーのAからギターを納入した。しかし、期限が到来したにもかかわらずBは一向に代金を支払わない。その後、BはCにそのギターを転売した。その後、AはBに対し相当の期間を定めて催告をした上で、売買契約を解除した。
ギター納入 転売
メーカー → 楽器店 → 第三者
(売主)A ← (買主)B C
代金未払い
↓転売後↓
催告
(売主)A ← (買主)B
売買契約解除
この事例2では、Aはギターの返還請求ができない可能性があります。
なぜなら、Bの解除権の効果は第三者であるCの権利を害することができないからです。
したがって、結論は、Cがギター(目的物)の引渡しを受けていたらBはギター(目的物)の返還請求ができません。
逆に、Cへの(目的物の)引渡しがまだされていなければ、Bは(目的物の)返還請求ができます。
このように、解除の遡及効果は、第三者との関係で一定の制限が加えられています。
これは、利益衡量と取引の安全性から来るものです。

この「解除の遡及効果の制限」は大事なポイントなので、是非覚えておいてください。
同時履行の抗弁権
契約を解除すると、その契約はさかのぼってナシになり、原状回復義務が生じます。
受け取ったものがあれば返さなくてはなりません。
例えば、AがBにギターを売り渡し、Aが代金の支払いを受けてからその売買契約が解除となった場合で考えてみましょう。
ギター
A → B
売主 ← 買主
代金支払い
(売主)A × (買主)B
売買契約解除
この場合、売主Aは買主Bに受領した(受け取った)代金を返還しなければなりません。
一方、買主Bは売主Aに引渡しを受けたギターを返還しなければなりません。
なぜなら、契約を解除したことによって、AとBには原状回復義務が生じるからです。
そして、AとBの原状回復義務は、同時履行の関係になります。
つまり、売主Aは買主Bからギターを受け取ると同時に代金を返さなくてはなりません。
一方、買主Bは売主Aから代金を返してもらうのと同時にギターを返さなくてはなりません。
そしてこのとき、売主Aは買主Bがギターを持って来ないのに「金返せ」と言ってきたら「だったらギター持ってこいコラ」と突っぱねることができます。
一方、買主Bは売主Aがお金を持って来ないのに「ギター返せ」と言ってきたら「だったら金もってこいコラ」と突っぱねることができます。
これを同時履行の抗弁権といいます。
なお、これは契約の取消後においても全く一緒ですので、そこも合わせて覚えておいてください。
補足・不動産賃貸借の場合は少し違う
原状回復義務という言葉は、一般的には、おそらく不動産賃貸借においての退去の際に聞く言葉だと思います。
多くの方は、引っ越すときの部屋の退去の際に聞く言葉ですよね。
ちなみに、不動産賃貸借においての原状回復、すなわち敷金返還と部屋の明渡しは、同時履行の関係にはなりません。
ご存知のように、敷金の返還は部屋の明渡しを済ませてから行われます。
念のため申し上げておきます。
(不動産賃貸借における原状回復義務についての詳しい解説は「今更聞けない【敷金 礼金 保証金 敷引き 償却】【原状回復義務と経年劣化&通常損耗と特約】を初学者にもわかりやすく解説!」をご覧ください)
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
⇒⇒LECで宅建試験・行政書士試験・公務員試験の合格講座&テキストを探す!
・原状回復義務
・解除の遡及効果の制限
・同時履行の抗弁権
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

契約解除の後
原状回復義務
一定の要件を満たしたときに、契約の解除ができます。
では、契約を解除した後は、一体どうなるのでしょうか?
事例1
楽器店のBはメーカーのAからギターを納入した。しかし、期限が到来したにもかかわらずBが一向に代金を支払わないので、AはBに対し相当の期間を定めて催告をした上で、売買契約を解除した。
ギター納入
メーカー → 楽器店
(売主)A ← (買主)B
代金未払い
催告
(売主)A → (買主)B
売買契約解除
さて、この事例1で、Aは契約を解除しましたが、その後は何ができるのでしょうか?
ギターの返還請求?
損害賠償の請求?
まずは民法の条文をご覧ください。
(解除の効果)
民法545条
1項 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2項 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3項 第一項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
4項 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
上記、民法545条条文中の太字になっている部分が、Aができることです。
相手方を原状に復させる義務とは、原状回復義務のことで「元の状態に戻さなければならない」という意味です。
つまり、AはBに「ギターを返せ」と請求できます(返還請求)。
一方、BはAにギターを返す義務(返還義務)を負います。
損害賠償の請求を妨げないとは、損害賠償の請求もできるという意味です。
したがいまして、事例1で、メーカーの(売主)Aは楽器店の(買主)Bに対し、ギターの返還請求と損害賠償の請求ができる、ということになります。
解除の遡及効果の制限
【直接効果説】
解除の効果は遡及(そきゅう)します。
すなわち、さかのぼってナシになります。
したがって、事例1では、(買主)Bにはギターの返還義務(目的物を元の状態に戻す義務=原状回復義務)が生じ、同時に(売主)Aはギターの返還請求権(目的物を元に戻せ!と請求する権利)を得ます。
そして、この論理を直接効果説といいます。
他にも間接効果説、折衷説という考えも存在しますが、裁判所は直接効果説の立場を取ります。
ですので、ここでは「直接効果説」という考え方を、覚えておいてください。
【解除の遡及効果の制限】
契約を解除すると、その効果は遡及するので(直接効果説)、原状回復義務が生じます。
しかし!
条文には、このようなただし書きがありました。
「ただし、第三者の権利を害することはできない」
これはどういう意味なのでしょうか?
まずはこちらの事例をご覧ください。
事例2
楽器店のBはメーカーのAからギターを納入した。しかし、期限が到来したにもかかわらずBは一向に代金を支払わない。その後、BはCにそのギターを転売した。その後、AはBに対し相当の期間を定めて催告をした上で、売買契約を解除した。
ギター納入 転売
メーカー → 楽器店 → 第三者
(売主)A ← (買主)B C
代金未払い
↓転売後↓
催告
(売主)A ← (買主)B
売買契約解除
この事例2では、Aはギターの返還請求ができない可能性があります。
なぜなら、Bの解除権の効果は第三者であるCの権利を害することができないからです。
したがって、結論は、Cがギター(目的物)の引渡しを受けていたらBはギター(目的物)の返還請求ができません。
逆に、Cへの(目的物の)引渡しがまだされていなければ、Bは(目的物の)返還請求ができます。
このように、解除の遡及効果は、第三者との関係で一定の制限が加えられています。
これは、利益衡量と取引の安全性から来るものです。

この「解除の遡及効果の制限」は大事なポイントなので、是非覚えておいてください。
同時履行の抗弁権
契約を解除すると、その契約はさかのぼってナシになり、原状回復義務が生じます。
受け取ったものがあれば返さなくてはなりません。
例えば、AがBにギターを売り渡し、Aが代金の支払いを受けてからその売買契約が解除となった場合で考えてみましょう。
ギター
A → B
売主 ← 買主
代金支払い
(売主)A × (買主)B
売買契約解除
この場合、売主Aは買主Bに受領した(受け取った)代金を返還しなければなりません。
一方、買主Bは売主Aに引渡しを受けたギターを返還しなければなりません。
なぜなら、契約を解除したことによって、AとBには原状回復義務が生じるからです。
そして、AとBの原状回復義務は、同時履行の関係になります。
つまり、売主Aは買主Bからギターを受け取ると同時に代金を返さなくてはなりません。
一方、買主Bは売主Aから代金を返してもらうのと同時にギターを返さなくてはなりません。
そしてこのとき、売主Aは買主Bがギターを持って来ないのに「金返せ」と言ってきたら「だったらギター持ってこいコラ」と突っぱねることができます。
一方、買主Bは売主Aがお金を持って来ないのに「ギター返せ」と言ってきたら「だったら金もってこいコラ」と突っぱねることができます。
これを同時履行の抗弁権といいます。
なお、これは契約の取消後においても全く一緒ですので、そこも合わせて覚えておいてください。
補足・不動産賃貸借の場合は少し違う
原状回復義務という言葉は、一般的には、おそらく不動産賃貸借においての退去の際に聞く言葉だと思います。
多くの方は、引っ越すときの部屋の退去の際に聞く言葉ですよね。
ちなみに、不動産賃貸借においての原状回復、すなわち敷金返還と部屋の明渡しは、同時履行の関係にはなりません。
ご存知のように、敷金の返還は部屋の明渡しを済ませてから行われます。
念のため申し上げておきます。
(不動産賃貸借における原状回復義務についての詳しい解説は「今更聞けない【敷金 礼金 保証金 敷引き 償却】【原状回復義務と経年劣化&通常損耗と特約】を初学者にもわかりやすく解説!」をご覧ください)
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
- 関連記事
-
-
【(動産の)契約解除の要件】債務不履行と相当の期間を定めた催告とは?初学者にもわかりやすく解説!
-
【契約解除後】原状回復義務と解除の遡及効果の制限とは/同時履行の抗弁権についてわかりやすく解説!
-
【不動産売買契約と解除】手付放棄と手付倍返しとは/契約解除のタイミングと方法とは?初学者にもわかりやすく解説!
-
【不動産売買契約】登記と解除前&解除後の第三者/背信的悪意者と信義則についてわかりやすく解説!
-