【債務不履行&損害賠償&過失責任の原則】債権債務の世界を超基本からわかりやすく徹底解説!

▼この記事でわかること
債権債務の超基本
売買契約は視点を変えると債権・債務が入れ替わる
コラム1~物権と比較して考える債権の超基本
コラム2~お金の貸し借りは何契約?
債務不履行の超基本
損害賠償請求の超基本~過失責任の原則
債務不履行の3つの態様
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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債権債務の超基本

 この世の中は契約社会です。
 コンビニで物を買うのは売買契約だし、部屋を借りて住むのは賃貸借契約です。
 そして、契約が成立すると、権利義務が生じます。

事例1
AはBの持っているギターが欲しくなり、Bに「そのギターを3万円で売ってくれないか?」と言った。するとBは承諾し、次の土曜日にAはお金を支払いBはギターを引き渡すことになった。


 この事例で、AとBは売買契約を結んでいます。
 売買契約は「買います」「売ります」で成立する諾成契約なので、買主Aの申し込み(ギター売ってくれ!)に売主Bが承諾した時、契約が成立しています。
 すると、AとBは、互いに権利義務が生じます。

[買主Aの権利義務]

 AはBに対し代金支払い義務が生じます。同時に、Bへギターの引渡しを請求する権利も生じます。
[売主Aの権利義務]
 BはAに対しギターの引渡し義務が生じます。同時に、代金を請求する権利も生じます。

 このように、互いに法的な権利義務が生じます。
 そして、買主Aが売主Bにギターの引渡しを請求する権利、売主Bが買主Aに代金を請求する権利、これを債権と言います。
 一方、買主Aが売主Bに代金を支払う義務、売主Bが買主Aにギターを引き渡さなければならない義務、これを債務と言います。
 つまり、買主Aと売主Bは売買契約が成立したことによって、債権債務関係になるのです。
 また、債務を負った者を債務者、債権を有した者を債権者と呼びます。
 したがいまして、売買代金(お金)に関してはAが債務者でBが債権者、ギター(物)に関してはAが債権者でBが債務者となります。

売買契約は視点を変えると債権・債務が入れ替わる

 売買契約は、売主と買主の両者が互いに債権を持ち、互いに債務を負います。
「お金」の視点で見れば、売主が債権者となり、買主が債務者となります。
「売買した物」の視点から見ると、売主が債務者となり、買主が債権者となります。なぜなら、売主は買主に対して「売った物を買主に引き渡す義務」という債務を負います。そして、買主は売主に対して「買った物をよこせ」という債権を持ちます。
 皆さんもお金を払って物を買ったのに、売主が物を引き渡さなかったら「物よこせ!」となりますよね?(金返せ!というのもありますが、それについてはここでは割愛します)。
 したがいまして、事例1のAとBの債権債務関係は、次のようになります。

「お金」の視点で見た場合
債務者   債権者
買主A ← 売主B
    ↑
     債権

ギター(売買物)の視点で見た場合
債権者   債務者
買主A → 売主B
    ↑
     債権

 以上のように、売買契約においては「お金」の視点で見るのか「物」の視点で見るのかにより、債権の矢印の方向が変わります(この視点の切り替えは特に危険負担の問題を考えるときに重要になります)。
 そして、この売買契約のように、互いに債権を持ち互いに債務を負う契約を、双務契約とい言います.。
 なお、物権は物に対する権利ですが、債権は人に対する権利です。事例1に即して言うと、AはBという人に対して、BはAという人に対して、債権という権利を持っている、ということになります。
コラムを飛ばす

コラムその1
債権ってどんな権利?

物権と比較して考える債権の超基本

 債権とは、特定の者が特定の者に対して一定の行為を請求することを内容とする権利です。
 わかりやすく簡単に言うと、AさんがBさんに「金払え」「物よこせ」と請求する権利です。
 さて、それではこの「特定の者」とは、一体どのようなことを意味するのでしょうか?
 そもそも、なぜ「特定の者」なのでしょうか?
 実はこの意味について考えていくと、債権というものの、その性質・特徴が分かります。
 したがいまして、ここからその「特定の者」について考えながら、債権という権利の性質・特徴を解説して参ります。

債権は人に対する権利
素材112債権
 ところで「所有権」は債権なのでしょうか?
 違います。所有権は物権です。物権とは、物に対する権利です。所有権は「この物は私の所有物だ!」という物権になります。(物権について詳しい解説は「動産の所有権(物権)~即時取得の要件」をご覧ください)
 一方、債権は「特定の者が特定の者に対して」一定の行為を請求することを内容とする権利です。「特定の者に対して」ということはつまり、債権は人に対する権利なのです。

物権と比較すると債権がよくわかる

 物に対する権利である物権は、1つの物に対して1人の物権が原則です。(例外→共有)
 これを一物一権主義と言います。
 例えば、あなたの時計はあなたの物、すなわち「あなたの所有物」です。全世界の他の誰の物でもありません。あなたはあなたの所有物について、他人を排して支配する権利を持ちます(排他的支配権)。
 もしあなたの時計を他の誰かが勝手に使っていたのなら、あなたは法律上堂々と「その時計は私の物だ!返せ!」と主張できます。なぜなら、あなたの時計はあなたの所有物で、あなたにはその時計の所有権(物権)があり、それは法律上当然に認められた権利だからです。
 あなたの所有物はあなただけの所有物なのです。あなたはあなたの所有権を不特定多数の者に主張できます。これが物権です。

 一方、人に対する権利である債権は、1人の者に対して1人の債権、という原則はありません。
 つまり、1人に対して複数の債権が存在することもあるのです。
 ということは必然的に、1人に対して複数の債務が存在することもあります。

 これは現実を考えれば簡単にわかります。
 例えば、八百屋のオヤジが複数の問屋から野菜を仕入れれば、八百屋のオヤジは複数の債務を負うことになります。また、問屋が複数の八百屋に野菜を販売すれば、問屋は複数の債権を持ちます。
 そして、債権は「特定の者が特定の者に対して」有する権利です。AがBに対して持つ債権は、AがBに対する債権でしかありません。つまり、問屋Aが、八百屋Bにみかん10ケース、八百屋Cにみかん20ケースを販売した場合、問屋Aは2つの債権を同時に持ちますが、八百屋Bに対してみかん20ケース分の代金を請求することはできません。なぜなら、それは八百屋Cに対する債権だからです。当たり前の話ですよね。
 また、債権は「特定の者が特定の者に対して」有する権利なので、問屋Aの八百屋Bに対する債権は、他の者とは何の関係もなく、八百屋Cに対する債権とも何の関係もありません。問屋Aの八百屋Bに対する債権の問題は、AB間だけの問題です。問屋Aの八百屋Bに対する債権は、八百屋Bに対してしか主張できません。

コラムその2
お金の貸し借りは何契約?
札束
 物の貸し借りは、消費貸借契約になります。そして、お金の貸し借りは金銭消費貸借契約と呼ばれます。(消費貸借契約の基本についての詳しい解説は「【消費貸借(金銭消費貸借)と賃貸借】お金と物の貸し借りはどう違う?」ご覧ください)
 お金の貸し借り、つまり金銭消費貸借契約は、売買契約のように「物」はなく「お金そのもの」、もっと言えば「金〇〇円という価値そのもの」が、契約の目的物になっています。ですので、売買契約とは違い、お金の視点から見た債権債務関係しかありません。
 したがいまして、お金の貸し借りの場合は、貸し手は借り手に対して「金返せ!」という債権を持つ債権者、借り手は貸し手に対して「借りた金を返す義務」という債務を負う債権者、という図式のみになります。

貸し手   借り手
債権者 → 債務者
    ↑
     債権

 この金銭消費貸借契約のように、一方の者だけが債務を負う契約を、片務契約と言います。

【補足】
 ちなみに、債権の場合は、AはBに対して債権を「持つ」、あるいは、債権を「有している」という言い方をします。
 一方で債務の場合は、BはAに対して債務を持つ、というような言い方はしません。債務の場合は、BはAに対して債務を「負う・負っている」という言い方をします。

債務不履行の超基本

 ここで再び話を事例1に戻します。
 事例1でのAとBは、互いにギターの売買契約によって生じる義務(約束)を果たさなければなりません。もっとわかりやすく言うと、AとBは売買契約という約束を守らなければなりません。
 そして、この「約束を守る」「義務を果たす」ことを、債務を履行すると言います。
 つまり、事例1で、AとBは互いに相手に対する債務を履行する義務を負っていて、買主Aは売主Bに対し代金を支払えば債務の履行を果たし、売主Bは買主Aに対しギターの引渡しをすれば債務の履行を果たした、ということになります。

債務を履行しなかったら?
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 例えば、AB間で「代金は月内に支払う」という約束をして、売主Bが買主Aにギターを売り渡したのに、月末が過ぎても買主Aが一向に代金を支払わないような場合、一体どうなるでしょう?
「月内に代金を支払う」という約束をしたのにもかかわらず、月末が過ぎても一向にその代金を支払わない。というのはつまり「買主Aは期限が過ぎても債務を履行しない」ということです。これを債務不履行と言います。そして、債務不履行の状態になることを「債務不履行に陥る」と言います。つまり、買主Aは債務不履行に陥っているのです。
 さて、買主Aが債務不履行に陥っているのはわかりましたが、早くAから代金をもらいたい売主Aは、一体どうすればいいのでしょうか?
 民法には、次の規定があります。

(債務不履行による損害賠償)
民法415条
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。


 上記、民法415条冒頭の「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき」とは、簡単に言えば「債務者が約束どおりに約束を果たさないとき」ということです。そして、そのような場合、債権者は債務者に対して「生じた損害の賠償を請求できる」ことを民法415条は規定しています。
 したがいまして、買主Aがもし代金を支払えなくなったら(債務を履行できなくなったら)、買主Aは債務不履行となり、売主Bは買主Aに対して、買主Aの債務不履行により生じた損害の賠償を請求することができます(損害賠償請求)。
 なお、この場合「生じた損害」は売買代金です。しかし、それ以外の損害も認められれば、そのときは、売買代金分とそれ以外の損害分とを合わせて、AはBに対して損害賠償を請求することができます。
 
 以上、まとめるとこうなります。

※(お金視点)
債務者   債権者
買主A ← 売主B
    ↑
     債権

そしてBが債務不履行に陥ると...

債務者   債権者
買主A ← 売主B
    
   損害賠償請求権

 つまり、債務者が債務不履行に陥ると、債権者の債務者に対する債権の矢印が、損害賠償請求権の矢印へと変貌します。恐怖の変貌です(笑)。それはまるで、アシュラマンが怒りの面に変わるかの如く、緋村剣心が人斬り抜刀斎に変わるかの如く、といった感じでしょうか(笑)。
 そしてもし、このような事態に陥れば、AとBの関係は最悪になりますよね(笑)。
 ですので皆さん、良好な人間契約の維持のためにも、約束はしっかり守りましょう。

損害賠償請求の超基本
過失責任の原則

 契約の相手方が債務の履行の義務を果たさず債務不履行に陥ったとき(契約の相手方が契約で決めた約束を守らなかったとき)、損害賠償の請求ができます。
 しかし!たとえ契約の相手方が債務不履行に陥ったからといって、必ず損害賠償請求ができるという訳ではありません。
 再び民法415条を見てみましょう。

(債務不履行による損害賠償)
民法415条
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。


 上記、民法415条後半太字部分の「債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」とは、契約の約束を果たせないことの理由が債務者にないときは損害賠償請求できないよ、という意味です。
 したがいまして、債務不履行による損害賠償の請求は、債務者の帰すべき事由、すなわち、債務者に過失(落ち度)があるときにできる、ということになります。
 以上の事を踏まえて、こちらの事例をご覧ください。
)
事例2
AはBの持っているギターが欲しくなり、Bに「そのギターを3万円で売ってくれないか?」と言った。するとBは承諾し、次の土曜日にAはお金を支払いBはギターを引き渡すことになった。しかし、約束の前日の金曜日、Bは空き巣被害に遭いギターを盗まれてしまった。なお、Bの戸締りに不備はなかった。


 この事例2の場合、AはBに対し、Bの債務不履行による損害賠償の請求ができるでしょうか?
 結論は、AはBに損害賠償請求できません。なぜなら、Bが債務不履行に陥ったことについて、Bの過失(落ち度)がないからです。Bは空き巣被害にあっただけの、ただの被害者です。
 したがいまして、Bの無過失(落ち度なし)によりAの損害賠償請求権は成立しません。
 これが、過失責任の原則です。
 債務不履行による損害賠償請求権が成立する流れをまとめると、以下のようになります。

契約の成立

契約義務の発生

債務者の過失

債務者の契約義務不履行(債務不履行)

損害の発生

損害賠償請求権の発生


債務不履行の3つの態様
三本指
 一般的に、債務不履行には3つの態様があるとされています。

【履行遅滞】
 これは、履行できるはずなのに約束の期日に後れること。
 例→Bのミスで土曜日にギターを用意できなくなってしまった場合
【履行不能】
 これは、契約成立後に契約義務の履行が不可能になること
 例→Bのミスでギターを折ってしまった場合
【不完全履行】
契約義務(債務の履行)は果たしたが、目的物に欠陥があった
 例→Bが引き渡したギターの形が歪んでいた場合

補足
 事例2で、Bに空き巣被害がなかった場合は、約束通り、AとBは次の土曜日に互いに債務を履行をしなければなりません。
 しかし、約束の土曜日になって、Aがお金を払おうとしないのに「ギターをよこせ」と言ってきたら、Bはどうすればいいでしょう?
 この場合、Bは「お前が金出すまではギターは渡さん!」と言えます。
 これを同時履行の抗弁権と言います。
 これは、互いに債務を負う双務契約において、非常に重要な権利ですので、是非覚えておいてください。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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