2021/04/13
【善意&悪意の転得者】絶対的構成と相対的構成とは?転得者の所有権取得問題をわかりやすく解説
▼この記事でわかること・転得者とは
・第三者が悪意だった場合どうなる?
・転得者が悪意だった場合どうなる?
▽転得者の問題をより理解するために
・絶対的構成とは
・相対的構成とは
・一番に保護されるべきは善意の第三者
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

転得者
転得者とは、大まかに言うと「第四の登場人物」みたいな立場の者です。(正確には違いますがまずはイメージとして)
これは事例を見るのが一番手っ取り早いので、まずはこちらをご覧ください。
事例1
AとBは通謀して、Aの資産隠しのために、A所有の甲土地をB名義に移した。その後、Bは善意のCに甲土地を売却し、Cは登記を備えた。その後、Cは善意のDに甲土地を売却し、Dは登記を備えた。その後、AはAB間の取引は虚偽表示により無効なので、甲土地の所有権を主張した。
この事例1では、第三者のCに加え、Dという人物が現れました。
このDに位置する者を、転得者と呼びます。ざっくり「第三者の後に現れる者を転得者」とイメージしてしまってOKです。
そしてDは、AB間の通謀という事情を知らないので、善意の転得者となります。(善意とは「事情を知らない」の意味)
さて、以上を踏まえた上で、この事例1が、一体どんな話かを噛み砕いて言うと、こうです。
AとBがコンビで悪だくみ(通謀)して、Aの資産隠しのために、A所有の甲土地の名義をBに移した(AからBへニセの所有権移転登記)。
その後、ABコンビの悪だくみ(通謀)を知らないC(善意の第三者)が、Bから甲土地を買ってその登記もした(BからCへ所有権移転登記)。
そこからさらに、同じくABコンビの悪だくみ(通謀)を知らないD(善意の転得者)が、Cから甲土地を買ってその登記もした(CからDへ所有権移転登記)。
その後、Aが「AB間の取引はニセモノなので無効だ!だから甲土地の所有権は私のモノだ」と主張した。
登記 登記 登記
A → B → C → D
甲土地
A ⇔ B → C → D
通謀 売却 売却
↑
A「無効だから甲土地は私の物だ!」
少々ややこしいかもしれませんが、おわかりになりましたでしょうか?
さて、ではこの事例1で、甲土地の所有権を取得するのは誰でしょうか?
正解はDです。
AB間の取引は通謀虚偽表示です。そして、通謀虚偽表示による無効は、民法94条2項の規定により善意の第三者には対抗できません。(これについての詳しい解説は「通謀虚偽表示~」をご覧ください)
したがいまして、善意の第三者であるCから甲土地を取得した善意の転得者であるDは、当然に甲土地の所有権を取得します。
まあそもそも、自らニセの取引をやったA自身が「あれはニセの取引だから無効だ!」と主張すること自体が、オカシイと言えばオカシイですよね。ワガママか!て感じです(笑)。
第三者が悪意だった場合

さて、ここからが、転得者についての本格的な問題です。
次のような場合、どうなるでしょうか?
事例2
AとBは通謀して、Aの資産隠しのために、A所有の甲土地をB名義に移した。その後、Bは悪意のCに甲土地を売却し、Cは登記を備えた。その後、Cは善意のDに甲土地を売却し、Dは登記を備えた。その後、AはAB間の取引は虚偽表示により無効なので、甲土地の所有権を主張した。
事例1との違いは、Cが悪意の第三者である、ということです。
しかし、Dは善意の転得者です。
登記 登記 登記
A → B → C(悪意) → D(善意)
甲土地
A ⇔ B → C(悪意) → D(善意)
通謀 売却 売却
Cは悪意の第三者...
誰が甲土地の所有権を取得できる?
Aが甲土地を取得できないのは先述のとおりです。
では、この事例2で、一体誰が甲土地の所有権を取得できるのか?
結論。甲土地の所有権を取得するのはDです。
え?悪意のCから買ったのに?
はい。その理論構成は、利益衡量の観点から見るとわかりやすいので、それを今から解説いたします。
Aはワルの片割れ
まず事例2で、BとCに対する関係では、Aが甲土地の所有権を主張できます。
なぜなら、Cは善意の第三者でなく悪意の第三者だからです。
マトモに考えると、自らニセの取引をやったA自身が「あれはニセの取引だから無効だ!」と主張することはオカシな話なんですが、事例2のCは、そのニセの取引の事情を知っている悪意の第三者です。たまたま事情を知っちゃっただけだったとしても、民法的には悪意は悪意。不本意でも、客観的に見ればCも同じ穴のムジナみたいなもの。なのでここでは、Aは所有権の主張ができるのです。
そうなると、この事例2における、甲土地の所有権をめぐる争いの構図はこうなりますよね。
A vs D
では改めて、AとDについて利益衡量の観点から考えてみます。(両者を測りにかけて比べてみて考えるという事)
まずAは、Bと通謀虚偽表示をした共犯者です。
つまり、ワルの片割れです。
一方、Dは善意の転得者です。何も悪くありません。
民法はこの場合、ワルの片割れのAには「帰責性あり」と考えます。
帰責性とは「責任を負うかどうか」です。
つまり、帰責性ありとは、責任を負わなければならない、という事です。
以上を踏まえると、このようになります。
ワルの片割れの責任を負うA vs
何も悪くない善意の転得者D
この闘いに、民法はジャッジを下すことになるのです。
すると、おのずと結果は見えてきますよね。
何にも悪くない善意の転得者Dに対して、帰責性ありのワルの片割れAを勝たせてしまったら、実にバランスの悪い結果になってしまいます。
よって、勝者はDになるのです。
なお、事例2では、善意の転得者Dを、民法94条2項の善意の第三者として扱います。
転得者が悪意だった場合

ここからさらに、転得者の問題について深掘りして参ります。
まずはこちらの事例をご覧ください。
事例3
AとBは通謀して、Aの資産隠しのために、A所有の甲土地をB名義に移した。その後、Bは悪意のCに甲土地を売却し、Cは登記を備えた。その後、Cは悪意のDに甲土地を売却し、Dは登記を備えた。その後、AはAB間の取引は虚偽表示により無効なので、甲土地の所有権を主張した。
今度は、CとD共に悪意です。
つまり、第三者も転得者も悪意です。
登記 登記 登記
A → B → C(悪意) → D(悪意)
甲土地
A ⇔ B → C(悪意) → D(悪意)
通謀 売却 売却
まるで悪意だらけでアウトレイジのような世界ですね(笑)。といってもその悪意とは意味が違うのでホントは全然アウトレイジじゃないですが...(民法で言う悪意とは「事情を知っている」の意味)。
失礼しました。
さて、この事例3で、甲土地の所有権を取得できるのは誰でしょうか?
正解はAです。
これは簡単ですよね。「悪意の第三者→悪意の転得者」という流れですから、当然、CとDは保護されません。
では続いて、次の場合はどうでしょうか。
事例4
AとBは通謀して、Aの資産隠しのために、A所有の甲土地をB名義に移した。その後、Bは善意のCに甲土地を売却し、Cは登記を備えた。その後、Cは悪意のDに甲土地を売却しDは登記を備えた。その後、AはAB間の取引は虚偽表示により無効なので甲土地の所有権を主張した。
この事例4では、転得者Dは悪意です。しかし、第三者Cは善意です。
つまり「善意の第三者→悪意の転得者」という流れです。
登記 登記 登記
A → B → C(善意) → D(悪意)
甲土地
A ⇔ B → C(善意) → D(悪意)
通謀 売却 売却
では、この事例2で、甲土地の所有権を取得できるのは誰でしょうか?
結論。甲土地の所有権を取得するのはDです。
悪意なのに?マジで?
マジです。
ではここから、この結論へ至るための論理を解説します。
実はこの事例2には、2つの考え方があります。
絶対的構成と相対的構成
絶対的構成とは
まず一旦、転得者Dの存在を抜きにして考えてみましょう。
転得者を抜きに考えると話は簡単です。そのときは、フツーに善意の第三者であるCが、甲土地の所有権を取得します。当たり前ですよね。
ではここに、転得者Dを加えてみましょう。
善意の第三者であるCは、当然に甲土地の所有権を取得します。そして、そこに悪意の転得者Dが現れます。しかし、転得者Dが悪意といっても、Cに対しては善意も悪意もありませんよね?
よって、悪意の転得者Dは、甲土地の所有権を取得します。
こう考えるとわかりやすいですよね。
このように、悪意の転得者Dでも甲土地の所有権を取得するという考え方を、絶対的構成と言います。
絶対的構成の「絶対」とは、人によって変わらない、という意味です。
つまり、絶対的構成とは「第三者が善意なら転得者が善意だろうが悪意だろうが結果は変わらない」という考え方です。一旦、善意の第三者をかましてしまえば後はOK!ということです。
相対的構成とは
一方、相対的構成という考え方もあります。
相対的構成の「相対」とは、人によって変わる、という意味です。
ということは、事例2を相対的構成で考えると、悪意の転得者Dは甲土地の所有権を取得できません。
この考え方では、善意の第三者のことを「ワラ人形」と言います。
つまり、相対的構成では「ワラ人形(善意の第三者)をかまして悪意の転得者をのさばらせるなんぞ言語道断許すまじき!」となるのです。
で、結論は?
通説的な結論は、絶対的構成に従います。
よって事例4では、悪意の転得者Dが甲土地の所有権を取得します。
それって悪意の転得者をのさばらせることになるんじゃね...?
はい。そのとおりです。
しかし、通説が絶対的構成を選ぶのは、それなりの理由があるのです。
善意の第三者の存在
実は、悪意の転得者Dが甲土地を取得できないとなると、非常に困ってしまう者がD以外に存在します。
それは、善意の第三者Cです。
どういう事かと言いますと、Dが甲土地を取得できないとなると、CD間の売買契約は解除になり、DはCに甲土地を返還しなければなりません。すると、CもDに甲土地の売買代金を返還しなくてはなりません。(たとえDが悪意でも、善意のCは契約の解除により、Dに売買代金を返還しなければなりません)
登記 登記 登記
A → B → C(善意) → D(悪意)
甲土地
A ⇔ B → C(善意) → D(悪意)
通謀 売却 売却
↑
解除
甲土地を返還 C←D
代金を返還 C→D
何も悪くない善意の第三者Cが、せっかく甲土地を売ってお金を手に入れたのに、です。それって、Cにしてみれば不本意ですよね。善意のCには、何の帰責性(負うべき責任)もないのにです。むしろ帰責性で言えば、C以外の全員には大なり小なりありますよね。
これは利益衡量の観点から、悪意の転得者Dをのさばらせるよりも問題だと、民法は考えます。
ちなみに、CはBに対して代金の返還請求をすることもできますが、もしBが無資力(お金がない)ならアウトです。Bからはお金は返ってきません。
「無い袖は振れない」というヤツです。
代金返せ!
B ← C
↑
Bが無資力なら意味なし..
どうでしょうか。
通説が、悪意の転得者Dを勝たせる「絶対的構成」の立場をとる理由が、おわかりになっていただけたのではないでしょうか。
結局のところ、通説が絶対的構成をとる理由は、善意の第三者の保護なのです。
補足
実は、悪意の転得者Dを勝たせることによって善意の第三者Cを保護するのには、こんな事情もあります。
もし悪意の転得者Dが善意の第三者Cから土地を取得できないとなると、善意の第三者Cが甲土地を売りづらくなってしまうのです。
例えば、ネットなんかで、AB間の通謀虚偽表示の事実が広まってしまったらどうなるでしょう?
ネットでそれを見た人は、みんな悪意になってしまいます。すると、必然的に善意の第三者Cは、甲土地の売却が非常に難しくなってしまいます。
これはどう考えても、善意の第三者にとって、あまりにも不公平ですよね。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。