
▼この記事でわかること
・通謀虚偽表示とは
・時に原則を破る民法?無効な契約の実体化
・利益衡量とは
・民法を理解しやすくするための3つのポイント
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

通謀虚偽表示とは
通謀とは、わかりやすく言えば、一緒に悪だくみすることです。
虚偽表示とは、ウソの意思表示のことです。
これは事例を見てしまうのが一番手っ取り早いので、まずはこちらををご覧ください。
事例
AとBは通謀して、Aの資産隠しのためにA所有の土地の名義をBに移した。その後、Bはその土地を善意のCに売却した。
通謀
A ⇔ B
土地 ↓売却
善意のC
(事情を知らないC)
さて、早速「通謀」という言葉が出てきました。
「AとBは通謀して」とは、AとBはコンビで悪だくみしている、ということです。
つまり、AとBは共犯者です。
したがって、この事例の前半は「AとBが共犯してAの資産隠しのためにA所有の土地をウソの取引でB名義に移した」という意味で、AとBの悪だくみの内容になります。
AとBのこのような(悪だくみ)行為を、通謀虚偽表示といいます。

通謀虚偽表示についての、民法の規定はこちらです。
(虚偽表示)
民法94条
相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
上記、民法94条の「相手方と通じてした虚偽の意思表示」とは、通謀虚偽表示のことです。
したがいまして、事例のAB間の取引は、通謀虚偽表示にあたり無効になります。
さて、では冒頭の事例で何が問題になるのかというと、善意の(事情を知らない)Cがどうなるのか?です。
AB間の取引は、通謀虚偽表示により無効です。
そして、無効のものはハナっから成立していません。
無効のものはどこまでいってもゼロのままです。
(無効についての詳しい解説は「【時・とき】【無効・取消し】その違いとは?わかりやすく解説!」をご覧ください)
そうなると、AB間の取引の存在が前提のBからCへの土地の売却も、ゼロのままのはずです。
無から有は生じません。
しかし!
民法94条には続きがあります。
(通謀虚偽表示)
民法94条2項
前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
事例のCは、上記民法94条2項の善意の第三者に当てはまります。
結論。
AB間の通謀(悪だくみ)という事情を知らない善意の第三者のCは土地を取得できます。
Cは登記を備える必要もありません。
登記がなくても取得できます。
AB間の通謀虚偽表示による取引は無効です。
しかし、その無効は、善意の第三者であるC相手には通じない(対抗できない)のです。
時に原則を破る民法
無効のものはハナっから成立しません。
これは大原則です。
しかし!
通謀虚偽表示の無効は、善意の第三者が現れたときには、その大原則を破り、善意の第三者のために取引が実体化します。
これは、現実の要請によるところだと思います。
もし無効の原則に従って、今回の事例の、善意の第三者であるCのような人が土地を取得できないとなると、共犯で悪いことをしたAとBを保護してしまう事になってしまいます。
その上、民法が重視する取引の安全性も阻害してしまいます。
(取引の安全性についての詳しい解説は「【詐欺の超基本】善意&悪意の第三者って何?/詐欺取消後に現る悪意の第三者問題をわかりやすく解説!」もご覧ください)
また、利益衡量の観点からも、かなりバランスの悪い結果になってしまうのです。

利益衡量
利益衡量とは、利益をはかりにかける、という意味です。
民法は、各当事者それぞれの利益を公平にはかりにかけて、それを考慮した上で結論を出します。
つまり、今回の事例のような事が起こってしまった場合、民法は94条2項により、本来の無効の原則を破ってでも、取引の安全性や利益衡量を重視して、善意の第三者を保護することにしたのです。
ちなみに、今回の事例のCのような、通謀虚偽表示における善意の第三者に、無過失は要求されません。
過失があっても(落ち度があっても)保護されます。
つまり、今回の事例の善意の第三者Cは、自分に多少の落ち度があっても保護されます。
それだけ、通謀虚偽表示を行った連中に対して、民法は厳しいということです。※
※念のため補足しておきますが、善意というのはあくまで事情を知らないということで、過失(落ち度・ミス)の有無とは関係ありません。ですので、善意有過失(事情は知らないけど落ち度はある)という状態も存在します。
民法を理解しやすくするための3つのポイント
今回の結果に?マークが付いてしまった方、いらっしゃるかもしれません。
真面目な方ほど?マークが付いてしまうかもしれません。
民法を考えるときは、まず「原則」からです。
しかし、時に民法はその原則を破ります。
それは「例外とはまた違う形で」です。
ですので、今回出てきた民法94条2項も、半ば強引にでも理解してください。
学習を進めていけば、不思議と、やがて腑に落ちるようになりますので。
「詐欺の超基本~」の解説では、民法は「取引の安全性を重視する」「トロイ奴に冷たい」という特徴があると記しました。
今回はこれに「利益衡量」を加えます。
これらを意識すると、ときに納得しづらい民法の理屈が頭に入り易くなるでしょう。
民法の特徴を、以下に簡単にまとめます。
取引の安全性を重視する
トロイ奴に冷たい
利益衡量
上記の事が感覚的に掴めた時、すでにある程度のリーガルマインドが身についていると言えます。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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・通謀虚偽表示とは
・時に原則を破る民法?無効な契約の実体化
・利益衡量とは
・民法を理解しやすくするための3つのポイント
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

通謀虚偽表示とは
通謀とは、わかりやすく言えば、一緒に悪だくみすることです。
虚偽表示とは、ウソの意思表示のことです。
これは事例を見てしまうのが一番手っ取り早いので、まずはこちらををご覧ください。
事例
AとBは通謀して、Aの資産隠しのためにA所有の土地の名義をBに移した。その後、Bはその土地を善意のCに売却した。
通謀
A ⇔ B
土地 ↓売却
善意のC
(事情を知らないC)
さて、早速「通謀」という言葉が出てきました。
「AとBは通謀して」とは、AとBはコンビで悪だくみしている、ということです。
つまり、AとBは共犯者です。
したがって、この事例の前半は「AとBが共犯してAの資産隠しのためにA所有の土地をウソの取引でB名義に移した」という意味で、AとBの悪だくみの内容になります。
AとBのこのような(悪だくみ)行為を、通謀虚偽表示といいます。

通謀虚偽表示についての、民法の規定はこちらです。
(虚偽表示)
民法94条
相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
上記、民法94条の「相手方と通じてした虚偽の意思表示」とは、通謀虚偽表示のことです。
したがいまして、事例のAB間の取引は、通謀虚偽表示にあたり無効になります。
さて、では冒頭の事例で何が問題になるのかというと、善意の(事情を知らない)Cがどうなるのか?です。
AB間の取引は、通謀虚偽表示により無効です。
そして、無効のものはハナっから成立していません。
無効のものはどこまでいってもゼロのままです。
(無効についての詳しい解説は「【時・とき】【無効・取消し】その違いとは?わかりやすく解説!」をご覧ください)
そうなると、AB間の取引の存在が前提のBからCへの土地の売却も、ゼロのままのはずです。
無から有は生じません。
しかし!
民法94条には続きがあります。
(通謀虚偽表示)
民法94条2項
前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
事例のCは、上記民法94条2項の善意の第三者に当てはまります。
結論。
AB間の通謀(悪だくみ)という事情を知らない善意の第三者のCは土地を取得できます。
Cは登記を備える必要もありません。
登記がなくても取得できます。
AB間の通謀虚偽表示による取引は無効です。
しかし、その無効は、善意の第三者であるC相手には通じない(対抗できない)のです。
時に原則を破る民法
無効のものはハナっから成立しません。
これは大原則です。
しかし!
通謀虚偽表示の無効は、善意の第三者が現れたときには、その大原則を破り、善意の第三者のために取引が実体化します。
これは、現実の要請によるところだと思います。
もし無効の原則に従って、今回の事例の、善意の第三者であるCのような人が土地を取得できないとなると、共犯で悪いことをしたAとBを保護してしまう事になってしまいます。
その上、民法が重視する取引の安全性も阻害してしまいます。
(取引の安全性についての詳しい解説は「【詐欺の超基本】善意&悪意の第三者って何?/詐欺取消後に現る悪意の第三者問題をわかりやすく解説!」もご覧ください)
また、利益衡量の観点からも、かなりバランスの悪い結果になってしまうのです。

利益衡量
利益衡量とは、利益をはかりにかける、という意味です。
民法は、各当事者それぞれの利益を公平にはかりにかけて、それを考慮した上で結論を出します。
つまり、今回の事例のような事が起こってしまった場合、民法は94条2項により、本来の無効の原則を破ってでも、取引の安全性や利益衡量を重視して、善意の第三者を保護することにしたのです。
ちなみに、今回の事例のCのような、通謀虚偽表示における善意の第三者に、無過失は要求されません。
過失があっても(落ち度があっても)保護されます。
つまり、今回の事例の善意の第三者Cは、自分に多少の落ち度があっても保護されます。
それだけ、通謀虚偽表示を行った連中に対して、民法は厳しいということです。※
※念のため補足しておきますが、善意というのはあくまで事情を知らないということで、過失(落ち度・ミス)の有無とは関係ありません。ですので、善意有過失(事情は知らないけど落ち度はある)という状態も存在します。
民法を理解しやすくするための3つのポイント
今回の結果に?マークが付いてしまった方、いらっしゃるかもしれません。
真面目な方ほど?マークが付いてしまうかもしれません。
民法を考えるときは、まず「原則」からです。
しかし、時に民法はその原則を破ります。
それは「例外とはまた違う形で」です。
ですので、今回出てきた民法94条2項も、半ば強引にでも理解してください。
学習を進めていけば、不思議と、やがて腑に落ちるようになりますので。
「詐欺の超基本~」の解説では、民法は「取引の安全性を重視する」「トロイ奴に冷たい」という特徴があると記しました。
今回はこれに「利益衡量」を加えます。
これらを意識すると、ときに納得しづらい民法の理屈が頭に入り易くなるでしょう。
民法の特徴を、以下に簡単にまとめます。
取引の安全性を重視する
トロイ奴に冷たい
利益衡量
上記の事が感覚的に掴めた時、すでにある程度のリーガルマインドが身についていると言えます。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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