【不動産登記の基本】二重譲渡~登記は早い者勝ち/3つの登記請求権と登記引取請求権とは

▼この記事でわかること
不動産登記の超基本
不動産の二重譲渡
登記請求権
登記引取請求権
3つの登記請求権
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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不動産登記

 土地や建物といった不動産は、登記をすることによって所有権を取得します。
 この「所有権」とは、物権です。物権とは、物を排他的に支配する権利です。
 排他的に支配する権利とは、噛み砕いて簡単に言うと「他人を蹴散らして堂々とワタシのモノだ」言って所有・使用する権利です(ちなみに民法の世界では、を「モノ」ではなく「ブツ」と読みます。なんだか怪しい読み方ですが(笑)。民法ではそのようになっております)。
 不動産は、登記をしなければ所有権という物権を取得し、排他的に支配することができません。いや、厳密に言えば、登記をしなくても所有権を取得する事はできるので、もう少し正確に申し上げると、不動産は登記をする事によって所有権という物権法律で保護されるのです。
 その根拠となる民法の条文はこちらです。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
民法177条
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律に定めるところに従いその
登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

 上記、民法177条条文で「登記をしなければ、第三者に対抗することができない」とあります。物権(所有権)を取得できないとは書いていません。「第三者に対抗できない」と書いています。
 第三者に対抗できないって?
 要するに、法律上登記をしなければ他人(第三者)に所有権(物権)を主張(対抗)できない、ということです。
 法律上主張できないという事の意味は、法律で守ってもらえないという意味です。
 法律で守ってもらえないという事は、実質、所有権(物権)を取得できないのと変わりませんよね。この土地はワタシのモノだ!と堂々と言えないって事ですから。結婚していない彼女を「オレの奥さんだ!」と言えないのと一緒です(笑)。結婚していない彼女のお父さんに「おとうさん」と言っても「オマエのおとうさんになった覚えはない!」と言われてしまうのと一緒です(笑)。しかし、結婚すれば法律上認められた家族になります。彼女のお父さんとも法律上の姻族関係になります。堂々と「お義父さん」と言えるのです(この辺りの家族関係に関しては別途、家族法分野で詳しく解説いたします)。
 なお、不動産登記をして、所有権(という名の物権)が法律で保護されている状態を、対抗要件を備えると言います。
 対抗要件とは、第三者に正当な権利を主張(対抗)するための要件です。
 つまり、対抗要件を備えると、第三者に対し「これはワタシのモノだ」と、法律上堂々と言えるということです。

公示の原則

 不動産の登記のルールは、公示の原則に従って定められたものです。
 公示の原則とは「排他的な権利変動は客観的に認識できる形で権利関係を公に示すべき」という原則です。
 もう少し噛み砕いて分かりやすく言うと「物の権利関係他人から見てわかりやすい形にしよう」という事です。
 そして、不動産の場合はそれを登記という画一的なルールにより行っているのです。
 
 以上、不動産の物権(所有権)における登記というものの基本について解説しました。
 こんなこと資格試験なんかにはあんま関係ないんじゃね?と思われる方もいらっしゃると思います。確かに直接的に試験問題に関わる論点ではないかもしれません。ですが、この辺のことをしっかり覚えておくと、後々民法の学習を進めていくにあたり、学習内容の頭の入り方が全然違ってきます。よりすんなり頭に入りやすくなるのです。急がば回れのひとつの典型とも言えます。加えて、社会のルールの基本として、頭の片隅に入れておいて損のない事でもあります。

不動産の二重譲渡

 不動産の物権(所有権)は、登記をすることによって法律で保護されます。
 したがって、不動産は登記をしないと実質、所有権を取得したとは言えません。(対抗要件を備えていないので)
 以上の基本を踏まえた上で、こちらの事例をご覧ください。

事例
Aは自己所有の甲土地をBに売却した。しかし、Bは登記をせず甲土地の名義はA名義のままだった。その後、Aは甲土地を悪意のCに売却し、Cは登記を備えた。

※登記を備えた、というのは登記をしたということ

 これは、売主Aが甲土地を買主Bと悪意の第三者Cの2人に売却した、という不動産の二重譲渡の事例です。

 売主   買主
 A → B
  ↘
    C
 悪意の第三者
 
 さて、ではこの事例で、甲土地の所有権を取得するのは誰でしょうか?
 正解はCです。
 え?Cは悪意なのに?
 はい。悪意なのに、です。
 Bがかわいそう!
 確かにBは可哀想です。しかし、ここではボサッとしていたBが悪い、と考えます。
 そうです。とかく民法は、取引の安全性を重視してトロイ奴に冷たい傾向があります。
 したがって、この事例の場合は、悪意であろうとCが勝ってしまいます。

 では、ここで再度、民法の条文を確認しましょう。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
民法177条
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律に定めるところに従いその登記をしなければ、
第三者に対抗することができない。

 民法177条条文には「第三者に対抗することができない」とありますが、善意悪意については何も書いていませんよね?
 つまり、第三者の善意悪意は問わないということなのです。
 したがいまして、不動産の登記については、わかりやすく簡単に言ってしまうと「早く登記したモン勝ち!」なのです。
手旗 勝ち~
 要するに、不動産登記について民法は、取引の安全性を重視して早い者勝ちにしていると言えるでしょう。
 その結果、事例では、先に登記をした悪意のCが甲土地の所有権を取得し、Bについては「ボサっとしていたお前が悪い」となってしまうのです。

悪意の第三者の補足

 先述の事例で、Cは悪意であるにも関わらず土地の所有権を取得しました。なぜなら、不動産登記の世界は、民法177条の規定により登記したモン勝ちだからです。
 民法の言い分も分かるけど...ボサッとしていたとはいえやっぱりBがかわいそう
 はい。気持ちはよくわかります。しかし、こう考えてみてください。
 民法において悪意というのは「事情を知っている」という意味でしたよね。ならばCが「売主のAが色んな事情をなんとかウマいことやって売ってくれるんだな」と思って、取引に入って来ていたとしたらどうでしょう。
 確かにCは「事情を知っている」という点で悪意ですが、悪人という訳ではありませんよね。
 このように考えていくと、悪意のCの取引に対する信用を保護する必要性がありますよね。
 まあでも、結局、事例で一番のワルは売主Aなんですよね(笑)。ですので、気の毒な買主Bが現実としてできることは、諸悪の根源のAに対し損害賠償を請求する、ということになります。ただ、それがどんな結果になろうと、登記を備えたCの土地の所有権は揺るぎません。
 なお、Cが背信的悪意者の場合は、たとえ登記を備えようが、Cは土地の所有権を取得できません。
 背信的悪意者とは、合法的なとんでもないワルと思ってください。つまり、第三者があまりにも悪質であれば、それはさすがにトロイ奴には冷たい民法でも認めませんよ、ということです。

3つの登記請求権と登記引取請求権

登記請求権

 登記権利者が登記義務者に対して、登記申請に協力するよう請求することができる権利を、登記請求権と言います。
 登記権利者とは、所有権等を取得したことにより登記をする権利を持つ者のことで、不動産売買の場合の買主がこれにあたります。
 登記義務者とは、所有権等を取得したことにより登記をする権利を持つ者に対して、その登記に協力する義務を持つ者のことで、不動産売買の場合の売主がこれにあたります。
「登記権利者は登記義務者に対して登記申請に協力するよう請求することができる」ということの意味は、登記義務者(例:売主)が登記申請に協力しない場合、登記権利者(例:買主)は、裁判を起こして判決を取って登記を実現してしまうことができる、という意味です。

登記引取請求権

 登記権利者に登記請求権がある一方、不動産売買において、売主の方から買主に対して「はよ登記を持っていけや!」という権利もあります。これを登記引取請求権と言います。
 売主の方から買主に対して「はよ登記を持っていけや!」というのは、一見妙な感じがしますが、これは決して妙なことではありません。
 というのは、不動産には固定資産税がかかりますが、それは登記簿上の所有者に課税されます。ですので、売主としては、すでに売却した不動産の登記名義がぐずぐず残ったままなのは、困ったハナシなのです。

3つの登記請求権
三本指
「登記させろ」と請求できる登記請求権の発生原因には、以下の3パターンがあるとされています。

・物権的登記請求権
・債権的登記請求権
・物権変動的登記請求権

 それではひとつひとつ、解説して参ります。

【物権的登記請求権】

 これは、現在の権利関係との不一致を是正する登記請求権です。
 不動産売買が行われた場合の、買主から売主に対して「私が所有者になったのだから登記よこせコラ!」という権利が、この物権的登記請求権にあたります。
 なお、所有権についての物権的登記請求権であれば、それは所有者にしか認められません。
 例えば、不動産が「A→B→C」と転売された場合に、その不動産の所有者はCになりますが、中間地点にいるBからAに対しても登記を請求できます。このときの、中間地点にいるBからAに対する登記請求権は、物権的登記請求権ではありません。なぜなら、所有者はCだからです。Bには、その不動産についての「物権」がないので、それは登記請求権ではあっても「物権的」登記請求権ではないのです。

【債権的登記請求権】

 これは、当事者間の債権関係から発生する登記請求権です。
 例えば「A→B→C」と不動産が転売された場合に、中間地点にいるBからAに対する登記請求権こそ、この債権的登記請求権にあたります。
 所有者はCなので、Bには「物権」はありませんが、AB間には売買契約上の債権関係があり、BにはAに対して登記の協力を請求する「債権」があります。なので「債権的」登記請求権になるのです。
 なお、債権的登記請求権は、債権関係を原因とするものなので、例えば、BがAの土地を時効により取得したようなケースでは、AB間には債権関係がないので、この場合の登記請求権は、債権的登記請求権にはあたりません。

【物権変動的登記請求権】

 これは、物権変動の過程、態様と登記が一致しない場合の登記請求権です。
 例えば「A→B→C」と不動産が転売され、C名義の登記がされた後、AB間の契約が取り消された場合、BのCに対する所有権の抹消登記請求権が、物権変動的登記請求権にあたります。
 Bは所有者ではないので「物権的」ではありません。そして、AB間の売買契約が取消しになったことにより、その効果は遡求し(さかのぼり)、AB間の売買契約の存在を前提とするBC間の売買契約も「なかったこと」となり、BC間の債権関係も消えてなくなるので「債権的」でもありません。したがって、物権「変動的」登記請求権なのです。
 なお、無効の売買契約でAからBへ登記が移転し、さらにAからCへとその不動産が二重譲渡されたケースで、CはBに対して登記の移転を請求できますが、BからCへの「物権変動」は存在しませんので、この場合のBからCに対する登記の移転の請求は「物権変動的」登記請求権にはあたりません。

登記請求権の補足
女性講師
 ところで「A→B→C」と不動産が転売された場合に、登記名義がAのままだったとき、Cが(Bをすっ飛ばして)直接Aに対して「私の登記に協力しろ!」と請求できるのでしょうか?
 結論。CはAに対して「私の登記に協力しろ!」と請求できません。なぜなら、CとAは何の契約関係、権利義務関係もないからです。

・Cはどうすればいいのか

 Cが「私の登記に協力しろ!」と請求できる相手はBです。
 CB間は売買契約関係にあり、Cは買主で登記権利者、Bは登記義務者です。
 したがって、CはBに対して登記請求権を持つのです。しかし、CはAに対しては登記請求権を持ちません。Aに対して登記請求権を持つのはBになります。
 したがいまして、Cは、BがAに対して「私(B)の登記に協力しろ!」と請求してくれさえすればいいのです。

・Bが登記請求権を行使しなかったら

 では、BがAに対して登記請求権を行使してくれなかったらどうでしょう?
 Cとしては、自分自身の登記を実現するためには、BがAに対して「私の登記に協力しろ!」と、登記請求権を行使してくれないことにはどうにもなりません。
 そこで、そのような場合、Aには「債権者代位権」という手段があります(債権者代位権については別途改めて詳しく解説いたします)。
 ではAが「債権者代位権」を使って何ができるのかを簡単に言いますと、AはBに代わって(代位して)、Cに対して「Bの登記に協力しろ!」と請求できます。これが「債権者代位権」を使った、Cの登記を実現する方法です。月に代わっておしおきよ!ならぬ、Bに代わって登記しろ!です(笑)。
 なお「A→B→C→D」と不動産が転売された場合に、登記名義がAのままのとき、Dは自分自身の登記を実現するために、CがBに代わって(代位して)、Aに対して「Bに登記しろ」という権利(債権者代位権)を、Cに代わって行使できます。つまり、代位の代位です。月に代わっておしおきするセーラームーンに代わっておしおきよ!という感じです(笑)。


 以上、不動産登記について解説になります。
 どうしても登記関係の話は、より専門的で、つまらなくなってしまいがちですが、まずは前半部分の基本を、しっかり押さえていただければと存じます。
  
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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東京都行政書士会所属
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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