【錯誤】表示&動機の錯誤による取消し/表意者の重大な過失/表意者以外が取消しを主張できるとき

▼この記事でわかること
錯誤とは勘違い~錯誤の超基本
表示の錯誤動機の錯誤とは
錯誤による取消し
表意者の重大な過失って?
[コラム]現実では「重大な過失」の判断は難しい
動機の錯誤による取消し
本人以外が錯誤による取消しを主張できるとき
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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錯誤の超基本

 錯誤とは、わかりやすく言えば、勘違いのことです。
 そして、売買契約などでの契約の過程に起こった勘違いについて扱うのが、民法における錯誤の問題、ということになります。
 それでは、錯誤についての具体的な解説に入ります。
 まずは以下の「欲しいと思ってから買おうと思い購入に至るまでの意思表示の流れ」をご覧ください。

美味しそうだな〜(動機)

よし、これ買おう!(効果意思)

買います!と言うぞ(表示意思)

これ買います!(表示行為)


 これは意思表示の形成過程というもので、要するに、買おうと思ってから実際に買うまでの流れを、民法的に表したものです。
 さて、ではこの意思表示の形成過程に不備があった場合、つまり、買おうと思ってから実際に買うまでの流れの中で勘違い等のミスがあった場合は、一体どうなるのでしょう?
買い物
 皆さんも普段の買い物の中で、間違えて、本来買おうしていた物とは違う物を買ってしまった事、ありますよね。 それは民法的に言うと「効果意思と表示行為に食い違いがある」ということになります。
 効果意思というのは「よし、これ買おう」という心の中の決断で、表示行為というのは「これ買います」という購入の申し込みです。
 つまり、本来買おうとしていた物とは違う物を買ってしまった、というのは、心の中の決断行為一致していないのです。Aさんに告白しようと思ってBさんに「付き合ってください」と言うようなもんです(笑)。
 民法では、このような効果意思と表示行為の不一致、ざっくり言えば勘違い錯誤と言います。

錯誤は2種類存在する

 錯誤には、表示の錯誤動機の錯誤の2種類が存在します。
 つまり、民法的には勘違いにも2種類あるのです。

表示の錯誤とは

 これは「ギターを買おうと思ってベースを買ってしまった」というような場合です。
 思った事とやった事、つまり、意思行為食い違いがある錯誤です。

動機の錯誤とは

 これは文字通り、意思表示の形成過程における動機の部分の話で、買おうと思った理由による錯誤です。
 これではよくわからないですよね。
 以下に具体例を挙げてご説明します。

〈動機の錯誤の例〉
 不動産を購入しようと考えている人がいました。その人はある土地に目を付けました。というのは、どうやら「その土地の近くに新しく駅ができる」という噂を嗅ぎつけたからです。そして、その人はその噂を信じ土地を購入しました。将来の土地の価値の増大を期待できるからです。しかし、その後、その噂はガセだったようで駅はできませんでした。当然その土地の価値もたいして変わりません。この人の土地を購入した動機(理由)は、近くに駅ができるから土地の値段が上がる!というものです。でも実際には駅などはできず、土地の値段も上がりませんでした...。


 これが動機の錯誤です。
 つまり、買おうと思った理由が間違っていた場合です。
 表示の錯誤は、思った事(意思)とやった事(行為)が食い違っているのに対し、動機の錯誤は、思った事とやった事は噛み合っていても「思った事」つまり「その行為の理由」が間違っていた場合です。
 両者の違い、おわかりになりましたか?
 その違いが一体なんになるんだ!
 はい。実はこの違いがとても重要なのです。
 というのは後々に、錯誤(勘違い)を理由に契約の取消しができるか否か、という問題に直結するからです。
 買った側からすると、間違って買ってしまったのにもうどうにもできない、なんていう事態は困りますよね。
 一方、売った側からすれば、なんでもかんでも後になって「この買い物は取消せ!」と主張されても困ります。

錯誤による取消し

 錯誤(勘違い)を理由に、表意者(錯誤をした本人)は契約の取消しを主張することができます。
 例えば、ギターだと思ってベースを買ってしまった場合、その契約(ベースを買ったこと)の取消しを主張できます。
 つまり、ベースを買ったことをナシにできるのです。
 そして、買ったベースは店に返し、払ったお金は返してもらいます。
 これが錯誤による取消しです。
 しかし、当然ながら何でもかんでも取り消せる訳ではありません。
 民法の条文はこちらです。

(錯誤)
民法95条
意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる

一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤


 上記、民法95条の条文に「~重要なものであるときは、取り消すことができる」とあります。
 つまり、重要な錯誤であれば取り消せる、という事です。
 一の「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」とは、表示の錯誤になります。
 二の「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」とは、動機の錯誤になります。
 したがって、条文から導き出される結論は、重要な「表示の錯誤と動機の錯誤は取り消すことができる」という事になります。

表意者の重大な過失とは

 ここで注意点がございます。
 民法95条の条文には続きがあり、そこには「表意者に重大な過失があったときは〜取消しをすることができない」とあります。
 先ほども出てきましたが、表意者とは、錯誤をした本人です。重大な過失とは、大きなミスのことです。
 つまり、これはどういうことかと言いますと、錯誤取り消すことができる。しかし、錯誤をした本人重大な過失(大きなミス)があった場合は取り消すことができない、という意味です。
 では何が重大な過失なのか?という話ですが、わかりやすく言えば「ちょっと確認すればわかるようなことを見落としてしまった」ようなことです。
 例えば、リンゴを買おうと思ってバナナを買ってしまったような場合です。
 普通に見ていれば、リンゴとバナナを間違えませんよね?なので、リンゴを買おうと思ってバナナを買ってしまった場合、それは表意者に重大な過失アリとなり、その契約を取り消すことはできないのです。
買い物 困り
 しかし、民法95条にはさらに続きがあります。
 表意者に重大な過失があるときでも、相手方が悪意・重過失であるときは(双方重過失)、相手方が同一の錯誤に陥っているとき(共通錯誤)は、その契約を取り消すことができるとあります。
 つまり、リンゴを買おうと思ってバナナを買ってしまった場合、相手方(この場合売主)にも重大な過失(大きなミス)があり、相手方が表意者(この場合買主)に錯誤があることを知っていたときは、表意者は錯誤による取消しを主張し契約を取り消すことができます。また、相手方もリンゴを売ろうと思ってバナナを売ってしまった場合(共通錯誤)も、表意者は錯誤による取消しを主張し契約を取り消すことができます。

ちょこっとコラム
現実には「重大な過失」の判断は難しい?


 例えば、ギターだと思ってベースを買ってしまった場合、楽器初心者だったなら取消しを主張しやすくなるでしょう。なぜなら、初心者ならどっちがギターかベースか、すぐに区別のつかない人もいるはずです。つまり、本人(表意者)の重大な過失と認められづらくなるからです。
 ところが、これがギター歴40年のオヤジだったらどうですか。普通、それだけギターやってるオヤジなら、ギターとベースの区別ぐらいすぐにつくに決まっているでしょう。たとえ悪徳楽器店だったとしても、騙されないでしょう。
 つまり、もしギター歴40年のオヤジがギターとベースを間違えて購入してしまった場合は、表意者(ギター歴40年のオヤジ)に重大な過失があると判断されやすくなり、錯誤による取消しが難しくなります。
 じゃあギター歴5年の兄ちゃんはどうなの?
 これも多分ダメですね(笑)。ただ、法律で明確に規定している訳ではないので、あくまで常識的な、客観的な判断になります。
 裁判になれば「社会通念上どーたらこーたら」とか言われるのでしょうか。
 ただもし、例えば、ギターと本当に見分けのつかないようなベースがあって、店員の説明が不十分であれば、その場合は、重大な過失について、また違った判断になるかもしれません。(まあ、そもそも試奏したのかとか、他にも考慮しなければならない要素は色々とありますが...)

動機の錯誤について

 動機の錯誤とは、言ってみればテメーの判断ミスです。
 テメーの判断ミスによる契約(法律行為)を動機の錯誤として取り消すには、要件があります。
 動機の錯誤の取消しを主張するには、「動機が表示され、それを相手が認識していること」が必要です。
 これではわかりづらいですよね。
 もう少しわかりやすく噛み砕くとこうです。
 売買契約の場合、「買う理由となる動機が言葉なり相手にわかるように表現されていて相手がその動機をわかっていたとき」に、動機の錯誤による取消しが主張できます。

動機の錯誤による取消しが主張できるときの具体例
 
 ある土地を購入したAさんがいます。Aさんがなぜその土地を購入したかというと、その土地のすぐ近くに、数年後に駅が建つという話を耳にしたからです。しかしその後、駅ができるという話はデマで、Aさんは目算を誤った、つまり、動機の錯誤に陥った...。

 これだけでは、動機の錯誤による取消しは主張できません。
 なぜなら、これだけではただのAさんの判断ミスに過ぎないからです。
 しかし、次のような場合は、動機の錯誤を主張できます。

 Aさんの「この土地のすぐ近くには数年後に駅が建つ」という動機が言葉なり表に出されていて、そのAさんの動機を相手が認識していてかつ相手はその土地のすぐ近くに駅が建つという話がデマだと知っていたのにもかかわらずそれをAさんに教えなかったとき

 上記のような場合であれば、Aさんは動機の錯誤による取消しの主張ができます。
 なお、Aさんの動機が相手にわかるといっても、たとえAさんが動機を口に出していなくても、Aさんの動機が明らかに見てとれていたならば(法律的に言うと黙示に表示されていたならば)、そのときもAさんは、動機の錯誤による取消しの主張ができます。

 以上、端的にまとめるとこうなります。

「表意者(勘違いをした本人)の動機が間違っていて、その動機が間違っていることを相手が知っていて、その動機が間違っていることを相手が教えてあげなかったとき、表意者(勘違いをした本人)は動機の錯誤の取消しを主張できる」

 要するに、表意者(勘違いをした本人)の動機が間違っているのに気づいていたなら相手は表意者に教えてやれよ!ってハナシです。

【確認】表示の錯誤と動機の錯誤の違い

 動機の錯誤の取消しの主張について、おわかりになりましたでしょうか。
 ここで再度、表示の錯誤についても、簡単に解説しておきます。
 表示の錯誤は、リンゴだと思ってバナナを買ってしまったような場合です。この場合、そもそも、リンゴを買おうという意思と、バナナを買ったという行為が、一致していません。
 では、動機の錯誤はというと、動機と行為は一致しています。リンゴを買おうという意思のもとにりんごを買っているので。ただ「美味しそうだな」という動機(買う理由)が間違っていただけです。

本人以外が錯誤による取消しを主張できるとき

 錯誤による取消しを主張できるのは、表意者(錯誤をした本人)、その代理人、承継人に限ります。(民法120条2項)
 錯誤による取消しの規定は、表意者(錯誤をした本人)を保護するためのものだからです。なので、誰でもできる訳ではありません。
 では、表意者(錯誤をした本人)を保護するための錯誤による取消しの主張を、表意者(錯誤をした本人)以外が主張できる場合とは、一体どんなときなのでしょうか?
 それは、表意者(錯誤をした本人)が錯誤の取消しを主張してくれないと困ってしまう人がいて、なおかつ表意者(錯誤をした本人)が錯誤を認めているときです。
 この説明だけだとよくわからないと思いますので、もう少し具体的に解説いたします。

本人以外が錯誤による取消しを主張できるときの具体例
壺 贋作
 例えば、偽の骨董品がAからBに売られ、その後、BからCに転売された場合に、Cが錯誤による取消しを主張してBC間の売買契約をナシにする、というような場合、通常の錯誤による取消しのケースになると考えられます。
 このとき、CはBからお金を返してもらう事になりますが、もしBに返すお金がなかったとき、Cはどうすればいいのでしょうか?

 偽物の骨董品
A → B → C 
 売る  転売

BC間の売買契約取消し

C → B
 金返せ!
しかしBには金が無い...   

 そうです。このときに、CがAB間の売買契約の、Bの錯誤による取消しをCが自分で主張して、AB間の売買契約を無かったことにして、BのAに対する代金返還請求権を、CはBに代わって行使できるのです。

 偽物の骨董品
A → B → C
 売る  転売
 
「Bの錯誤により取消しだ!」とCが主張
AB間の売買契約取消し

B → A
 金返せ!
  
これをBに代わってCがAに請求できる

 つまり、Cは自分のお金をしっかり返してもらうために、Bの代わりに、BがAからお金を返してもらう権利を、Bの代わりに行使できる、という事です。
 CはAに「Bは錯誤だ!だからAB間の売買契約は取消しだ!だからAはBに金を返せ!」と言えるのです。
 そして、そのお金でCはBからお金を返してもらう、という流れになります(今回の「金返せ!」のような金銭債権の場合は、CはAに対して「自分(C)に直接払え」と請求することもできます)。
 ここでひとつ注意点があります。
 先述のように、CがBの錯誤による取消しを主張するためには、Bが自分の錯誤(勘違い)を認めていることが必要です。Bが自分の錯誤(勘違い)を認めていなかった場合は、このような権利の行使はできません。
 なお、このような「BのAに対する権利をCがBに代わって行使する権利」を、債権者代位権と言います。(債権者代位権についての詳しい解説は「【債権者代位権】基本と要件と範囲/債権者代位権の転用とは」をご覧ください)

補足
【錯誤の主張の期間の制限】
 錯誤による取消しの主張ができる期間は、追認できる時から5年、または行為のときから20年です。(民法126条)


 以上、錯誤についての解説になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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Author:根本総合行政書士
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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