
【登場人物】
A:動産の売買契約をしたが、引渡しを受けていない買主
B:動産の売主で、引渡しをせずに他人に再度売却した者
C:Bから動産を買って引渡しを受けた第三者
D:Aの友人で、法律に詳しい者
【物語のあらまし】
AはBから自転車を買うことにしたが、支払いと引渡しは後日となった。
しかし、Bはその後、Cにも自転車を売って引渡しをした。
Aは自転車を受け取ることができるのか?
Dが民法の規定を説明しながら、Aにアドバイスする。
A
「やあ、D。久しぶりだね。元気だった?」
D
「おお、A。元気だよ。君はどうだい?」
A
「実はね、ちょっと困ったことがあってさ」
D
「困ったこと?何か手伝えることがあるなら言ってくれ」
A
「じゃあ、聞いてくれるかな。君は法律に詳しいからさ」
D
「まあ、そう言ってもらえると嬉しいけど、どんな話なんだ?」
A
「実はね、先日自転車を買ったんだ。Bという人からさ」
D
「へえ、自転車か。いいね。どんな自転車なの?」
A
「すごく高級なやつなんだよ。電動アシスト付きで、カラーもデザインも最高なんだ」
D
「そうなんだ。じゃあ、もう乗ってるの?」
A
「いや、実はまだ乗ってないんだ」
D
「え?どうして?」
A
「だってさ、Bが引渡しをしてくれないんだよ」
D
「引渡し?何で?」
A
「契約の時にさ、支払いと引渡しは後日にすることにしたんだよ。その方が都合が良かったからさ」
D
「そうなんだ。で?」
A
「で、後日に支払いに行ったらさ、Bが「すまないけど、自転車はもう売っちゃった」と言うんだよ」
D
「えっ?それってあり得ないじゃないか」
A
「でしょ?俺もビックリしたよ。どういうことだって聞いたらさ、「実はCという人にも同じ自転車を売ってしまったんだ。Cは現金で払ってくれたから、そのまま引渡しをしたんだ」と言うんだよ」
D
「それは酷いね。Bは君と契約したことを忘れてたのか?」
A
「そういうわけでもなさそうだよ。「君と契約した時点ではCとの話はなかったんだけど、後からCが現れて高値で買ってくれると言ったから、つい誘惑に負けちゃったんだ」と言ってたよ」
D
「それじゃあ、Bは君との契約を反故にしたってことだね」
A
「そうだよね。だから俺はさ、Bに「おいおい、そんなの許されるわけないだろ。俺と契約した自転車を返せよ」と言ったんだよ」
D
「そりゃあ、当然だよ。で、Bはどう言った?」
A
「Bはさ、「ごめんね、でももう手遅れなんだ。Cに引渡しをした以上、自転車はCのものになっちゃったんだ。だから俺は君に返せないんだよ」と言うんだよ」
D
「はあ?それってどういうことなの?」
A
「俺もわからなかったよ。だからBに「何を言ってるんだ。俺と契約した時点で自転車は俺のものになったんだぞ。Cに引渡しをしたって関係ないだろ。Cは第三者だぞ」と言ったんだよ」
D
「そうだよね。君とBとの間では、自転車の所有権が移転したことになるからね」
A
「そうそう。でもBはさ、「違うんだよ。動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができないんだよ。これは民法178条に書いてあることなんだ」と言うんだよ」
D
「民法178条?ああ、確かにそういう規定があったね」
A
「え?本当にそういう規定があるの?」
D
「うん、あるよ。動産に関する物権変動の対抗要件というやつだね」
A
「対抗要件?物権変動?何それ?」
D
「簡単に言えばさ、物権というのは物に対する権利のことで、所有権もその一種なんだよね。で、物権変動というのは物権が移転することで、例えば売買契約で所有権が移転する場合なんかがそれに当たるわけ」
A
「うん、わかった」
D
「で、対抗要件というのはさ、物権変動が第三者に対して効力を発生させるために必要な条件のことなんだよね。例えば不動産の場合は登記が対抗要件になってるわけ」
A
「うん、わかった」
D
「で、動産の場合はさ、引渡しが対抗要件になってるんだよね。つまり、動産の所有権を移転する契約をしたとしても、その動産を引き渡さない限り、第三者に対して所有権移転を主張できないってことなんだ」
A
「え?それってどういうこと?」
D
「例えばさ、君がBから自転車を買ったとしても、Bが君に自転車を引き渡さなかったら、君は第三者に対して自分が自転車の所有者であると言えないってことなんだ」
A
「ええ?じゃあ、BがCに自転車を売って引き渡したらどうなるの?」
D
「そうするとさ、Cは第三者じゃなくなるんだよね。Cは自転車の引渡しを受けたから、自転車の所有者になったことになるんだ」
A
「えっ?そんなの不公平じゃないか。俺が先に契約したんだぞ」
D
「そうだね。でも、民法はそういうルールになってるんだよね。動産の場合は、引渡しがあって初めて所有権が移転したことになるんだ」
A
「じゃあ、俺はどうすればいいの?」
D
「君はさ、Bに対して損害賠償を請求できるよ。Bは君との契約を違反したからね」
A
「損害賠償?それで自転車はもらえるの?」
D
「もらえないよ。自転車はもうCのものだからね。君はBから自転車の代金と利息と慰謝料をもらえるくらいだよ」
A
「それじゃあ、全然満足できないよ。俺はあの自転車が欲しかったんだよ」
D
「そうだね。でも、それが法律上できることの限界なんだよね。君が自転車を引き渡させることはできないんだ」
A
「そうか。じゃあ、仕方ないか。でも、Bは本当に許せないやつだな」
D
「そうだね。Bは君に対して不誠実な行為をしたからね。君はBに対して厳しく損害賠償を求める権利があるよ」
A
「そうするよ。ありがとう、D。君の説明で少し納得できたよ」
D
「どういたしまして。でも、これからは気をつけてね。動産の売買契約をする時は、できるだけ早く引渡しを受けるようにすることだよ」
A
「わかったよ。ありがとう、D」
D
「いえいえ。それじゃあ、また会おうね」
A
「うん、また会おう」
以上、初学者向けにやさしく民法の動産の物権変動と同意と追認についての簡単な物語をお送りいたしました。
物語へのツッコミどころはさておき、まずは民法の動産の物権変動についてのイメージを掴んでいただければ幸いです。
また、専門用語で難しく感じた方もいらっしゃるかもしれませんが、ご安心ください。
動産の物権変動についてもっと詳しくわかりやすい解説は、
⇒【動産の所有権(物権)】【即時取得】【簡易の引渡し&占有移転&占有改定】を初学者にもわかりやすく解説!
にございますので、よろしければご覧ください。
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最後までお読みいただきありがとうございます。
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A:動産の売買契約をしたが、引渡しを受けていない買主
B:動産の売主で、引渡しをせずに他人に再度売却した者
C:Bから動産を買って引渡しを受けた第三者
D:Aの友人で、法律に詳しい者
【物語のあらまし】
AはBから自転車を買うことにしたが、支払いと引渡しは後日となった。
しかし、Bはその後、Cにも自転車を売って引渡しをした。
Aは自転車を受け取ることができるのか?
Dが民法の規定を説明しながら、Aにアドバイスする。
A
「やあ、D。久しぶりだね。元気だった?」
D
「おお、A。元気だよ。君はどうだい?」
A
「実はね、ちょっと困ったことがあってさ」
D
「困ったこと?何か手伝えることがあるなら言ってくれ」
A
「じゃあ、聞いてくれるかな。君は法律に詳しいからさ」
D
「まあ、そう言ってもらえると嬉しいけど、どんな話なんだ?」
A
「実はね、先日自転車を買ったんだ。Bという人からさ」
D
「へえ、自転車か。いいね。どんな自転車なの?」
A
「すごく高級なやつなんだよ。電動アシスト付きで、カラーもデザインも最高なんだ」
D
「そうなんだ。じゃあ、もう乗ってるの?」
A
「いや、実はまだ乗ってないんだ」
D
「え?どうして?」
A
「だってさ、Bが引渡しをしてくれないんだよ」
D
「引渡し?何で?」
A
「契約の時にさ、支払いと引渡しは後日にすることにしたんだよ。その方が都合が良かったからさ」
D
「そうなんだ。で?」
A
「で、後日に支払いに行ったらさ、Bが「すまないけど、自転車はもう売っちゃった」と言うんだよ」
D
「えっ?それってあり得ないじゃないか」
A
「でしょ?俺もビックリしたよ。どういうことだって聞いたらさ、「実はCという人にも同じ自転車を売ってしまったんだ。Cは現金で払ってくれたから、そのまま引渡しをしたんだ」と言うんだよ」
D
「それは酷いね。Bは君と契約したことを忘れてたのか?」
A
「そういうわけでもなさそうだよ。「君と契約した時点ではCとの話はなかったんだけど、後からCが現れて高値で買ってくれると言ったから、つい誘惑に負けちゃったんだ」と言ってたよ」
D
「それじゃあ、Bは君との契約を反故にしたってことだね」
A
「そうだよね。だから俺はさ、Bに「おいおい、そんなの許されるわけないだろ。俺と契約した自転車を返せよ」と言ったんだよ」
D
「そりゃあ、当然だよ。で、Bはどう言った?」
A
「Bはさ、「ごめんね、でももう手遅れなんだ。Cに引渡しをした以上、自転車はCのものになっちゃったんだ。だから俺は君に返せないんだよ」と言うんだよ」
D
「はあ?それってどういうことなの?」
A
「俺もわからなかったよ。だからBに「何を言ってるんだ。俺と契約した時点で自転車は俺のものになったんだぞ。Cに引渡しをしたって関係ないだろ。Cは第三者だぞ」と言ったんだよ」
D
「そうだよね。君とBとの間では、自転車の所有権が移転したことになるからね」
A
「そうそう。でもBはさ、「違うんだよ。動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができないんだよ。これは民法178条に書いてあることなんだ」と言うんだよ」
D
「民法178条?ああ、確かにそういう規定があったね」
A
「え?本当にそういう規定があるの?」
D
「うん、あるよ。動産に関する物権変動の対抗要件というやつだね」
A
「対抗要件?物権変動?何それ?」
D
「簡単に言えばさ、物権というのは物に対する権利のことで、所有権もその一種なんだよね。で、物権変動というのは物権が移転することで、例えば売買契約で所有権が移転する場合なんかがそれに当たるわけ」
A
「うん、わかった」
D
「で、対抗要件というのはさ、物権変動が第三者に対して効力を発生させるために必要な条件のことなんだよね。例えば不動産の場合は登記が対抗要件になってるわけ」
A
「うん、わかった」
D
「で、動産の場合はさ、引渡しが対抗要件になってるんだよね。つまり、動産の所有権を移転する契約をしたとしても、その動産を引き渡さない限り、第三者に対して所有権移転を主張できないってことなんだ」
A
「え?それってどういうこと?」
D
「例えばさ、君がBから自転車を買ったとしても、Bが君に自転車を引き渡さなかったら、君は第三者に対して自分が自転車の所有者であると言えないってことなんだ」
A
「ええ?じゃあ、BがCに自転車を売って引き渡したらどうなるの?」
D
「そうするとさ、Cは第三者じゃなくなるんだよね。Cは自転車の引渡しを受けたから、自転車の所有者になったことになるんだ」
A
「えっ?そんなの不公平じゃないか。俺が先に契約したんだぞ」
D
「そうだね。でも、民法はそういうルールになってるんだよね。動産の場合は、引渡しがあって初めて所有権が移転したことになるんだ」
A
「じゃあ、俺はどうすればいいの?」
D
「君はさ、Bに対して損害賠償を請求できるよ。Bは君との契約を違反したからね」
A
「損害賠償?それで自転車はもらえるの?」
D
「もらえないよ。自転車はもうCのものだからね。君はBから自転車の代金と利息と慰謝料をもらえるくらいだよ」
A
「それじゃあ、全然満足できないよ。俺はあの自転車が欲しかったんだよ」
D
「そうだね。でも、それが法律上できることの限界なんだよね。君が自転車を引き渡させることはできないんだ」
A
「そうか。じゃあ、仕方ないか。でも、Bは本当に許せないやつだな」
D
「そうだね。Bは君に対して不誠実な行為をしたからね。君はBに対して厳しく損害賠償を求める権利があるよ」
A
「そうするよ。ありがとう、D。君の説明で少し納得できたよ」
D
「どういたしまして。でも、これからは気をつけてね。動産の売買契約をする時は、できるだけ早く引渡しを受けるようにすることだよ」
A
「わかったよ。ありがとう、D」
D
「いえいえ。それじゃあ、また会おうね」
A
「うん、また会おう」
以上、初学者向けにやさしく民法の動産の物権変動と同意と追認についての簡単な物語をお送りいたしました。
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また、専門用語で難しく感じた方もいらっしゃるかもしれませんが、ご安心ください。
動産の物権変動についてもっと詳しくわかりやすい解説は、
⇒【動産の所有権(物権)】【即時取得】【簡易の引渡し&占有移転&占有改定】を初学者にもわかりやすく解説!
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