
【登場人物】
・絵を買う人(買主)
・絵を売る人(売主)
「あの、すみません。この絵は本当にモネの作品ですか?」
「もちろんですよ。こちらの証明書をご覧ください。モネ財団から正式に認定されたものです」
「それは確かにそうなんですが、なんだか色彩が違うような気がするんです。モネの絵はもっと淡い色合いで、水面の揺らぎや光の反射が美しいと思うんですけど」
「それはあなたの主観ですよ。この絵はモネが晩年に描いたもので、色彩感覚が変化したと言われています。それに、この絵は非常に貴重なもので、世界中で数点しか残っていません。この機会を逃すと、二度と手に入らないかもしれませんよ」
「そうですか......でも、やっぱり私はこの絵に惹かれません。すみませんが、やめておきます」
「えっ、やめるんですか?でも、あなたはもうこの絵を買うという意思表示をしたじゃないですか。契約書にもサインしてもらいましたよ」
「ええ、それはそのときはそうだったんですけど、今は違うんです。私はこの絵が本物だと信じて契約したんですけど、今見ると偽物だと思うんです。だから、契約を取り消したいんです」
「取り消すなんてできませんよ。あなたは表示の錯誤に陥っているんです。表示の錯誤というのは、意思表示に対応する意思を欠く錯誤で、間違って真意と異なる意思を表明することです。民法95条1項1号によれば、その錯誤が法律行為の目的や社会通念に照らして重要なものであれば、意思表示を取り消すことができますが、あなたの場合はそうではありません」
「どうしてですか?」
「だって、あなたはこの絵が本物だという事実に基づいて契約したわけではありませんよね。あなたはこの絵が本物だと信じただけで、それが契約の基礎になっていたわけではありません。
つまり、あなたは動機の錯誤に陥っているんです。
動機の錯誤というのは、法律行為の基礎とした事情について真実に反する錯誤で、意思表示を行う場合の意思の形成過程に錯誤があることです。
民法95条1項2号によれば、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていた場合に限り、意思表示を取り消すことができますが、あなたの場合はそうではありません」
「どうしてですか?」
「だって、あなたはこの絵が本物だということを私に表示したことがありませんよね。あなたはただ、この絵が好きだとか、モネのファンだとか、そういうことを言っていただけで、この絵が本物であることが契約の前提になっているということを私に伝えたことはありません。
つまり、あなたは動機の錯誤を表示していないんです。表示しなければ、動機の錯誤は意思表示の内容にならないので、表示の錯誤にはなりません。表示の錯誤にならなければ、意思表示を取り消すことはできません」
「でも、それは不公平じゃないですか。私はこの絵が本物だと信じて高額な代金を支払うつもりだったんですよ。それが偽物だったら、私は被害を受けるじゃないですか」
「それはあなたの自己責任ですよ。あなたはこの絵が本物であることを確認する努力を怠ったんです。もしもあなたがこの絵についてもっと調べていれば、偽物だと気づいたでしょう。
それに、私もこの絵が本物だと信じて販売していたんですよ。私も同じ錯誤に陥っていたんです。これを共通錯誤と言います。
共通錯誤の場合は、表意者に重過失があっても、錯誤による取消しは制限されません(民法95条3項2号)。
つまり、私もあなたも同じ立場なんです。私には私自身を保護すべき正当な利益があります」
「でも、それでも納得できません。私はこの絵に騙されたんです。私はこの契約を取消しにしたいんです」
「無理ですよ。あなたはこの契約を有効にした意思表示をしたんですから、その効力を否定することはできません。
民法95条4項によれば、錯誤による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができません。
私は善意でかつ過失がない第三者ですから、あなたの取消し主張は私に対抗できません。だから、あなたはこの契約を履行しなければなりません。代金を支払ってください」
「そうですか......では、仕方ありません。代金を支払います」
「ありがとうございます。では、こちらの絵をお渡しします」
以上、初学者向けにやさしく民法の錯誤についての簡単な物語をお送りいたしました。
まずは民法の錯誤についてのイメージを掴んでいただければ幸いです。
また、専門用語で難しく感じた方もいらっしゃるかもしれませんが、ご安心ください。
錯誤についてもっと詳しくわかりやすい解説は、
⇒【錯誤】表示&動機の錯誤による取消し/表意者の重大な過失/表意者以外が取消しを主張できるときを初学者にもわかりやすく解説!
にございますので、よろしければご覧ください。
以上になります。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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・絵を買う人(買主)
・絵を売る人(売主)
「あの、すみません。この絵は本当にモネの作品ですか?」
「もちろんですよ。こちらの証明書をご覧ください。モネ財団から正式に認定されたものです」
「それは確かにそうなんですが、なんだか色彩が違うような気がするんです。モネの絵はもっと淡い色合いで、水面の揺らぎや光の反射が美しいと思うんですけど」
「それはあなたの主観ですよ。この絵はモネが晩年に描いたもので、色彩感覚が変化したと言われています。それに、この絵は非常に貴重なもので、世界中で数点しか残っていません。この機会を逃すと、二度と手に入らないかもしれませんよ」
「そうですか......でも、やっぱり私はこの絵に惹かれません。すみませんが、やめておきます」
「えっ、やめるんですか?でも、あなたはもうこの絵を買うという意思表示をしたじゃないですか。契約書にもサインしてもらいましたよ」
「ええ、それはそのときはそうだったんですけど、今は違うんです。私はこの絵が本物だと信じて契約したんですけど、今見ると偽物だと思うんです。だから、契約を取り消したいんです」
「取り消すなんてできませんよ。あなたは表示の錯誤に陥っているんです。表示の錯誤というのは、意思表示に対応する意思を欠く錯誤で、間違って真意と異なる意思を表明することです。民法95条1項1号によれば、その錯誤が法律行為の目的や社会通念に照らして重要なものであれば、意思表示を取り消すことができますが、あなたの場合はそうではありません」
「どうしてですか?」
「だって、あなたはこの絵が本物だという事実に基づいて契約したわけではありませんよね。あなたはこの絵が本物だと信じただけで、それが契約の基礎になっていたわけではありません。
つまり、あなたは動機の錯誤に陥っているんです。
動機の錯誤というのは、法律行為の基礎とした事情について真実に反する錯誤で、意思表示を行う場合の意思の形成過程に錯誤があることです。
民法95条1項2号によれば、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていた場合に限り、意思表示を取り消すことができますが、あなたの場合はそうではありません」
「どうしてですか?」
「だって、あなたはこの絵が本物だということを私に表示したことがありませんよね。あなたはただ、この絵が好きだとか、モネのファンだとか、そういうことを言っていただけで、この絵が本物であることが契約の前提になっているということを私に伝えたことはありません。
つまり、あなたは動機の錯誤を表示していないんです。表示しなければ、動機の錯誤は意思表示の内容にならないので、表示の錯誤にはなりません。表示の錯誤にならなければ、意思表示を取り消すことはできません」
「でも、それは不公平じゃないですか。私はこの絵が本物だと信じて高額な代金を支払うつもりだったんですよ。それが偽物だったら、私は被害を受けるじゃないですか」
「それはあなたの自己責任ですよ。あなたはこの絵が本物であることを確認する努力を怠ったんです。もしもあなたがこの絵についてもっと調べていれば、偽物だと気づいたでしょう。
それに、私もこの絵が本物だと信じて販売していたんですよ。私も同じ錯誤に陥っていたんです。これを共通錯誤と言います。
共通錯誤の場合は、表意者に重過失があっても、錯誤による取消しは制限されません(民法95条3項2号)。
つまり、私もあなたも同じ立場なんです。私には私自身を保護すべき正当な利益があります」
「でも、それでも納得できません。私はこの絵に騙されたんです。私はこの契約を取消しにしたいんです」
「無理ですよ。あなたはこの契約を有効にした意思表示をしたんですから、その効力を否定することはできません。
民法95条4項によれば、錯誤による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができません。
私は善意でかつ過失がない第三者ですから、あなたの取消し主張は私に対抗できません。だから、あなたはこの契約を履行しなければなりません。代金を支払ってください」
「そうですか......では、仕方ありません。代金を支払います」
「ありがとうございます。では、こちらの絵をお渡しします」
以上、初学者向けにやさしく民法の錯誤についての簡単な物語をお送りいたしました。
まずは民法の錯誤についてのイメージを掴んでいただければ幸いです。
また、専門用語で難しく感じた方もいらっしゃるかもしれませんが、ご安心ください。
錯誤についてもっと詳しくわかりやすい解説は、
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