
▼この記事でわかること
・不在者の財産管理とは
・失踪宣告とは
・失踪者が生きていた場合
・民法32条1項と2項の関係
・同時死亡の推定
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

不在者の財産管理
あなたに資産家のお父さんがいたとします。
そのお父さんがある日、突然、「俺は海賊王になる」と言って、大航海の旅に出てしまったとします。
さて、このとき、残された家族は、お父さんの財産をどのように管理したら良いでしょうか。
「預金だろうがなんだろうが、家族が勝手に引き出して使えばいいんじゃね?」
と考えるかもしれませんが、残念ながらこれは泥棒の発想です。
財産は、あくまでも、お父さんの所有物ですから、たとえ家族であっても、その財産を管理する法的な権限はありません。
じゃあどうすればいいの?
法的に考えると、お父さんの財産を管理するには、代理人による方法しかありません。
しかし、お父さんが代理人を置かないで旅に出て行ってしまっていたらもうお手上げです。
そこで、このような場合のために、民法では、不在者の財産の管理という制度を設けています。
(不在者の財産の管理)
民法25条
従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
上記、民法25条により、残された家族など(利害関係人)は、家庭裁判所に不在者の「財産管理人の選任」を請求することができます。(検察官による請求も可能)
選任された「不在者財産管理人」は、お父さんの法定代理人となります。
これによって、合法的にお父さんの財産を管理することができるようになるのです。
ただし、不在者の財産管理人の権限は民法103条の「代理権の定めのない代理人」の権限と同一です。
したがって、保存、利用、改良行為はできても「処分」ができません。
なので、財産を売り、担保に供する、といった「処分行為」を不在者の財産管理人が行うためには、家庭裁判所の許可がいるのです。
つまり、不在者財産管理人を置いたとしても、お父さんの不動産を売ったり抵当に入れたりする事は、家庭裁判所の許可がないとできないということです。
【補足1】
不在者に法定代理人(親権者、後見人)がいる場合
この場合、不在者の財産管理人が選任される事はありません。
したがって、民法総則の条文の適用はなく、親族編の民法の規定により不在者の財産管理をすることになります。
【補足2】
財産管理人の選任
不在者の財産管理人に選任されるのは、家庭裁判所が適格と判断した人です。
特別な資格は必要ありませんが、職務を適切に行えることが求められます。
通常は、不在者との関係や利害関係の有無などを考慮して、選任されます。
場合によっては、弁護士や司法書士などの専門職が選ばれることもあります。
失踪宣告
大航海の旅に出たお父さんも、時々手紙を書いて来てくれるのであれば、生きている事はわかっています。
この場合に家族の取り得る手段は、先述の不在者の財産管理の方式だけです。
ちなみに不在者の財産管理の制度は、不在者が生死不明の場合にも利用できます。
つまり、お父さんが生死不明の情況でも、お父さんを「不在者」として、財産管理人を置くことができるのです。
しかし、不在期間が長期に渡ると、残された家族に以下2つのような不都合が生じます。
(1)財産管理人を置いたとしても、財産の所有者は不在者のままであり、家族が自由にできるわけではない。
(2)不在者の配偶者が再婚できない。(重婚は禁止されている)
そこで、不在者が生死不明の場合に限って、残された家族などの利害関係人は、民法30条の規定により、失踪宣告の申立てをすることができます。
(失踪の宣告)
民法30条
1項 不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
2項 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。
失踪宣告は、「失踪者を死んだことにする」制度です。
これによって、失踪者の従前の所在地(失踪前の所在地)における法律関係を一気に解決してしまうのです。
つまり、上記の(1)については、相続の発生により失踪者の財産は相続人の固有財産に変身します。
死んだ事となった失踪者の財産が家族に相続されれば、後は売っぱらおうが何しようが残された家族の自由です。
また(2)についても、失踪者の配偶者が再婚できることになります。
このように、失踪宣告の制度は、生きているかもしれない人を死んだことにするというやや乱暴な制度ですので、以下の2つの場合に限られます。(民法30条、民法31条)
・不在者の生死が7年間不明のとき。(普通失踪)
→7年の期間満了の時に死亡とみなす。
・特別の危機にあった者の生死が危難の去った後、1年間不明のとき。(特別失踪)
→危難の去った時に死亡したものとみなす。
特別の危難というのは、戦争や船の沈没などです。
これらの場合には死亡の蓋然性が高いのです。
上記の各場合に「いつ」死亡したとみなされるのかについても、ちゃんと確認しておきましょう。
いつ死んだかによって相続権の内容は全く違うことになりますので、正確に知ることが大事なのです。
また、失踪宣告の場合、この請求を家庭裁判所にすることができるのは、利害関係人に限られます。
つまり、家族等に限られるということです。
よって、検察官の出る幕はありません。
死んだことにするというのは少々手荒な方法ですので、検察官が家族等を差し置いて請求をするわけにはいかないのです。
失踪者が生きていた場合

さて、では失踪宣告が出たにもかかわらず、失踪者が生きていたらどうなるでしょうか?
また、失踪者の死亡時が、失踪宣告で死亡とみなされた日と違っていたらどうなるでしょう?
この場合には失踪宣告を取り消すことができます。
具体的な例として、失踪者が生きて戻ってきた例を考えてみましょう。
先ほど、挙げた例で言うとこうです。
海賊王になると言って大航海の旅に出たお父さんが生死不明のまま7年が過ぎ、家族の請求によって失踪の宣告がなされ、お父さんは死んだこととみなされた。ところが、ある日ひょっこりお父さんは生きて戻ってきた。
まず、失踪宣告は、失踪者の権利能力を奪う制度ではありません。
ですから、失踪者が失踪先でなした法律行為の効果は、すべて失踪者に帰属します。
問題は失踪者の旧住所地での法律関係です。
つまり、帰ってきた場所→元の住所地についての法律関係です。
何しろ、失踪宣告で死んだ者とみなされたことにより相続が発生していますから、お父さん(失踪者)の財産は既に処分されているかもしれません。
また、失踪者の配偶者、すなわち、お母さんは再婚しているかもしれません。
そこに、どのツラ下げてお父さん(失踪者)が帰ってきたわけです。
どう落とし前をつければいいのでしょうか?
民法32条に、次のような規定があります。
(失踪の宣告の取消し)
民法32条
1項 失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
2項 失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。
上記、民法32条の規定により、判例では、このような場合、財産の話についても、再婚の話についても、法律行為の当事者の双方が善意であれば、失踪宣告中に行われた法律行為は有効としています。
したがって、お父さんが失踪宣告により死んだものとみなされた後に、家族によって売却されたお父さんの不動産は、売った家族と買った相手方が双方とも善意であれば、その売買契約は有効となります。
また、お母さんの再婚も、お母さんとその再婚相手が善意であれば有効となります。
なお、念のため申しておきますが、このケースでの善意とは「失踪宣告をして失踪者となったお父さんが本当は生きていた」という事実を知らなかった、という意味です。
ちなみに、本当はお父さんが生きていたことを知っていながらお母さんが再婚していた場合(つまり悪意の場合)は、その再婚は認められません。
このときは前婚が復活して、重婚状態が生じます。
つまり、お父さんとお母さんの婚姻が復活して、再婚相手との婚姻は重婚となり認められません。
【補足】
双方が善意であれば、財産の処分は有効だし、婚姻も有効で失踪者との前婚は復活しません。
ただし、善意者であっても、残された家族のもとに失踪者の財産を処分したことによる利益が残っていれば、それを失踪者に返還しなければなりません。(民法32条2項、現存利益の返還)
民法32条1項と2項の関係
失踪宣告取消しの効果は遡及します。
さかのぼってその効果を発するということです。
しかし、それでは取引の安全を害するので、民法32条1項後段でその遡及効を制限しています。
民法32条1項後段は、残された家族が悪意のときも適用の余地があります。
どういうことかというと、次のように、家族の取引の相手方と、そこからの転得者が双方善意であれば、取引は有効に成立します。
失踪者
Z
(相続) ↓ (売却) (売却)
相続人 → 相手方 → 転得者
A B C
(悪意) (善意) (善意)
↑
BC間の取引は有効
次に取引が有効だったとしても、民法32条2項は適用されます。
たとえ残された家族と取引の相手方が双方善意であり、失踪者の財産を処分する契約が有効だったとしても、残された家族は現存利益(売却代金等)を失踪者に返還すべきです。
このことは家族の善意悪意とは無関係です。
失踪者
Z
(相続) ↓ (売却)
相続人 → 相手方
A B
(善意) (善意)
↑ ↑
代金はZに AB間の取引は有効
返還すべき 売却物はBのもの
(民法32条2) (民法32条1)
同時死亡の推定

例えば、父と子が事故により相前後して死亡したとします。
この場合、どちらが先に死亡したかによって相続関係は大きく変わります。
特に父が資産家である場合に、その影響は甚大です。
その家族の家系図が次のようなケースで解説します。
/\
叔父Y 父Z(資産家)
|
子Aー配偶者B
(子の嫁)
登場人物はこれだけとします。
父Zが先に死亡した場合には、まず子Aが相続します。(第一の相続)
子Aいるので、父Zの兄弟である叔父Yは相続人ではありません。
叔父Yの取り分はゼロです。
さらに、この死亡により父Yと子Aの全財産を配偶者B(子の嫁)が相続します。(第二の相続)
したがって、父Zの遺産はすべて子Aの嫁、すなわち配偶者Bのもとに行きます。
次に子Aが先に死亡したとします。
この場合は、この財産の3分の2が配偶者Bに、3分の1が父Zに行きます。(第一の相続)
そして、父Zの財産はすべて叔父Yのものになります。(第二の相続)
詳しくは相続編「【相続人と相続分】誰がどれだけ相続するのか?」で解説していますので、そちらをご覧になっていただければと思いますが、民法は血族間の相続しか認めていません。
したがって、子Aが先に死亡した場合、父Zの姻族一親等である子Aの配偶者Bに相続権はありません。
ちなみに姻族とは、血族の配偶者または配偶者の血族のことです。
このように、死亡の前後によって、関係当事者の相続関係に天地の差が出ることがよくあります。
そこで民法は、相続の関係者2人の死亡はハッキリしているが、死亡日時の前後が不明の場合には、同時に死亡したものと推定します。(民法32条の2)
その結果、お互いがお互いを相続しないことになるのです。
したがいまして、先ほど挙げた事例では、父Zの全財産が叔父Yのもの、子Aの全財産が配偶者Bのものになります。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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・不在者の財産管理とは
・失踪宣告とは
・失踪者が生きていた場合
・民法32条1項と2項の関係
・同時死亡の推定
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

不在者の財産管理
あなたに資産家のお父さんがいたとします。
そのお父さんがある日、突然、「俺は海賊王になる」と言って、大航海の旅に出てしまったとします。
さて、このとき、残された家族は、お父さんの財産をどのように管理したら良いでしょうか。
「預金だろうがなんだろうが、家族が勝手に引き出して使えばいいんじゃね?」
と考えるかもしれませんが、残念ながらこれは泥棒の発想です。
財産は、あくまでも、お父さんの所有物ですから、たとえ家族であっても、その財産を管理する法的な権限はありません。
じゃあどうすればいいの?
法的に考えると、お父さんの財産を管理するには、代理人による方法しかありません。
しかし、お父さんが代理人を置かないで旅に出て行ってしまっていたらもうお手上げです。
そこで、このような場合のために、民法では、不在者の財産の管理という制度を設けています。
(不在者の財産の管理)
民法25条
従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
上記、民法25条により、残された家族など(利害関係人)は、家庭裁判所に不在者の「財産管理人の選任」を請求することができます。(検察官による請求も可能)
選任された「不在者財産管理人」は、お父さんの法定代理人となります。
これによって、合法的にお父さんの財産を管理することができるようになるのです。
ただし、不在者の財産管理人の権限は民法103条の「代理権の定めのない代理人」の権限と同一です。
したがって、保存、利用、改良行為はできても「処分」ができません。
なので、財産を売り、担保に供する、といった「処分行為」を不在者の財産管理人が行うためには、家庭裁判所の許可がいるのです。
つまり、不在者財産管理人を置いたとしても、お父さんの不動産を売ったり抵当に入れたりする事は、家庭裁判所の許可がないとできないということです。
【補足1】
不在者に法定代理人(親権者、後見人)がいる場合
この場合、不在者の財産管理人が選任される事はありません。
したがって、民法総則の条文の適用はなく、親族編の民法の規定により不在者の財産管理をすることになります。
【補足2】
財産管理人の選任
不在者の財産管理人に選任されるのは、家庭裁判所が適格と判断した人です。
特別な資格は必要ありませんが、職務を適切に行えることが求められます。
通常は、不在者との関係や利害関係の有無などを考慮して、選任されます。
場合によっては、弁護士や司法書士などの専門職が選ばれることもあります。
失踪宣告
大航海の旅に出たお父さんも、時々手紙を書いて来てくれるのであれば、生きている事はわかっています。
この場合に家族の取り得る手段は、先述の不在者の財産管理の方式だけです。
ちなみに不在者の財産管理の制度は、不在者が生死不明の場合にも利用できます。
つまり、お父さんが生死不明の情況でも、お父さんを「不在者」として、財産管理人を置くことができるのです。
しかし、不在期間が長期に渡ると、残された家族に以下2つのような不都合が生じます。
(1)財産管理人を置いたとしても、財産の所有者は不在者のままであり、家族が自由にできるわけではない。
(2)不在者の配偶者が再婚できない。(重婚は禁止されている)
そこで、不在者が生死不明の場合に限って、残された家族などの利害関係人は、民法30条の規定により、失踪宣告の申立てをすることができます。
(失踪の宣告)
民法30条
1項 不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
2項 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。
失踪宣告は、「失踪者を死んだことにする」制度です。
これによって、失踪者の従前の所在地(失踪前の所在地)における法律関係を一気に解決してしまうのです。
つまり、上記の(1)については、相続の発生により失踪者の財産は相続人の固有財産に変身します。
死んだ事となった失踪者の財産が家族に相続されれば、後は売っぱらおうが何しようが残された家族の自由です。
また(2)についても、失踪者の配偶者が再婚できることになります。
このように、失踪宣告の制度は、生きているかもしれない人を死んだことにするというやや乱暴な制度ですので、以下の2つの場合に限られます。(民法30条、民法31条)
・不在者の生死が7年間不明のとき。(普通失踪)
→7年の期間満了の時に死亡とみなす。
・特別の危機にあった者の生死が危難の去った後、1年間不明のとき。(特別失踪)
→危難の去った時に死亡したものとみなす。
特別の危難というのは、戦争や船の沈没などです。
これらの場合には死亡の蓋然性が高いのです。
上記の各場合に「いつ」死亡したとみなされるのかについても、ちゃんと確認しておきましょう。
いつ死んだかによって相続権の内容は全く違うことになりますので、正確に知ることが大事なのです。
また、失踪宣告の場合、この請求を家庭裁判所にすることができるのは、利害関係人に限られます。
つまり、家族等に限られるということです。
よって、検察官の出る幕はありません。
死んだことにするというのは少々手荒な方法ですので、検察官が家族等を差し置いて請求をするわけにはいかないのです。
失踪者が生きていた場合

さて、では失踪宣告が出たにもかかわらず、失踪者が生きていたらどうなるでしょうか?
また、失踪者の死亡時が、失踪宣告で死亡とみなされた日と違っていたらどうなるでしょう?
この場合には失踪宣告を取り消すことができます。
具体的な例として、失踪者が生きて戻ってきた例を考えてみましょう。
先ほど、挙げた例で言うとこうです。
海賊王になると言って大航海の旅に出たお父さんが生死不明のまま7年が過ぎ、家族の請求によって失踪の宣告がなされ、お父さんは死んだこととみなされた。ところが、ある日ひょっこりお父さんは生きて戻ってきた。
まず、失踪宣告は、失踪者の権利能力を奪う制度ではありません。
ですから、失踪者が失踪先でなした法律行為の効果は、すべて失踪者に帰属します。
問題は失踪者の旧住所地での法律関係です。
つまり、帰ってきた場所→元の住所地についての法律関係です。
何しろ、失踪宣告で死んだ者とみなされたことにより相続が発生していますから、お父さん(失踪者)の財産は既に処分されているかもしれません。
また、失踪者の配偶者、すなわち、お母さんは再婚しているかもしれません。
そこに、どのツラ下げてお父さん(失踪者)が帰ってきたわけです。
どう落とし前をつければいいのでしょうか?
民法32条に、次のような規定があります。
(失踪の宣告の取消し)
民法32条
1項 失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
2項 失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。
上記、民法32条の規定により、判例では、このような場合、財産の話についても、再婚の話についても、法律行為の当事者の双方が善意であれば、失踪宣告中に行われた法律行為は有効としています。
したがって、お父さんが失踪宣告により死んだものとみなされた後に、家族によって売却されたお父さんの不動産は、売った家族と買った相手方が双方とも善意であれば、その売買契約は有効となります。
また、お母さんの再婚も、お母さんとその再婚相手が善意であれば有効となります。
なお、念のため申しておきますが、このケースでの善意とは「失踪宣告をして失踪者となったお父さんが本当は生きていた」という事実を知らなかった、という意味です。
ちなみに、本当はお父さんが生きていたことを知っていながらお母さんが再婚していた場合(つまり悪意の場合)は、その再婚は認められません。
このときは前婚が復活して、重婚状態が生じます。
つまり、お父さんとお母さんの婚姻が復活して、再婚相手との婚姻は重婚となり認められません。
【補足】
双方が善意であれば、財産の処分は有効だし、婚姻も有効で失踪者との前婚は復活しません。
ただし、善意者であっても、残された家族のもとに失踪者の財産を処分したことによる利益が残っていれば、それを失踪者に返還しなければなりません。(民法32条2項、現存利益の返還)
民法32条1項と2項の関係
失踪宣告取消しの効果は遡及します。
さかのぼってその効果を発するということです。
しかし、それでは取引の安全を害するので、民法32条1項後段でその遡及効を制限しています。
民法32条1項後段は、残された家族が悪意のときも適用の余地があります。
どういうことかというと、次のように、家族の取引の相手方と、そこからの転得者が双方善意であれば、取引は有効に成立します。
失踪者
Z
(相続) ↓ (売却) (売却)
相続人 → 相手方 → 転得者
A B C
(悪意) (善意) (善意)
↑
BC間の取引は有効
次に取引が有効だったとしても、民法32条2項は適用されます。
たとえ残された家族と取引の相手方が双方善意であり、失踪者の財産を処分する契約が有効だったとしても、残された家族は現存利益(売却代金等)を失踪者に返還すべきです。
このことは家族の善意悪意とは無関係です。
失踪者
Z
(相続) ↓ (売却)
相続人 → 相手方
A B
(善意) (善意)
↑ ↑
代金はZに AB間の取引は有効
返還すべき 売却物はBのもの
(民法32条2) (民法32条1)
同時死亡の推定

例えば、父と子が事故により相前後して死亡したとします。
この場合、どちらが先に死亡したかによって相続関係は大きく変わります。
特に父が資産家である場合に、その影響は甚大です。
その家族の家系図が次のようなケースで解説します。
/\
叔父Y 父Z(資産家)
|
子Aー配偶者B
(子の嫁)
登場人物はこれだけとします。
父Zが先に死亡した場合には、まず子Aが相続します。(第一の相続)
子Aいるので、父Zの兄弟である叔父Yは相続人ではありません。
叔父Yの取り分はゼロです。
さらに、この死亡により父Yと子Aの全財産を配偶者B(子の嫁)が相続します。(第二の相続)
したがって、父Zの遺産はすべて子Aの嫁、すなわち配偶者Bのもとに行きます。
次に子Aが先に死亡したとします。
この場合は、この財産の3分の2が配偶者Bに、3分の1が父Zに行きます。(第一の相続)
そして、父Zの財産はすべて叔父Yのものになります。(第二の相続)
詳しくは相続編「【相続人と相続分】誰がどれだけ相続するのか?」で解説していますので、そちらをご覧になっていただければと思いますが、民法は血族間の相続しか認めていません。
したがって、子Aが先に死亡した場合、父Zの姻族一親等である子Aの配偶者Bに相続権はありません。
ちなみに姻族とは、血族の配偶者または配偶者の血族のことです。
このように、死亡の前後によって、関係当事者の相続関係に天地の差が出ることがよくあります。
そこで民法は、相続の関係者2人の死亡はハッキリしているが、死亡日時の前後が不明の場合には、同時に死亡したものと推定します。(民法32条の2)
その結果、お互いがお互いを相続しないことになるのです。
したがいまして、先ほど挙げた事例では、父Zの全財産が叔父Yのもの、子Aの全財産が配偶者Bのものになります。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。