【相続】の判例

【相続】の判例

[最高裁判所が平成9年1月28日に下した判決]
この判決では,遺言書の破棄隠匿行為が相続に関する不当な利益を目的としない場合にも,相続人の資格を失わせるかどうかという問題を扱った。

 この判決の事実は,次のようなものでした。

・被相続人は,自筆証書遺言で,自分の財産を妻と子供たちに分けることを遺言した。
・被相続人が死亡した後,妻は遺言書を発見したが,子供たちには知らせずに捨てた。
・妻は,遺言書がないことを前提に,子供たちと遺産分割協議を行った。
・その後,子供たちの一人が遺言書の存在を知り,妻に対して相続回復請求権を行使した。

 このような場合,妻は相続人の資格を失うのでしょうか?
 最高裁判所は,次のように判断しました。

 相続人の資格を失わせる民法891条5号の規定は,遺言に関する著しく不当な干渉行為をした相続人に対して民事上の制裁を課すものである。
 遺言書の破棄隠匿行為が相続に関する不当な利益を目的とするものでなかった場合は,これを遺言に関する著しく不当な干渉行為ということはできず,このような行為をした者に相続人となる資格を失わせるという厳しい制裁を課すことは,同条5号の趣旨に沿わない。
 本件では,妻が遺言書を捨てた目的は,被相続人が生前に示した意思や家族間の和解・円満を尊重するものであり,相続に関する不当な利益を目的とするものではなかった。
 したがって,妻は民法891条5号に該当せず,相続人の資格を失っていない。

 以上のように,最高裁判所は妻の相続人資格を認める判断をしました。
 この判決は,遺言書の破棄隠匿行為が必ずしも相続欠格事由とならないことや,遺言者や家族間の感情や事情も考慮されることを示すものであるといえます。



 相続についての有名な判例は他にもあります。
 以下にご紹介します。

遺産である建物が相続開始後にも使われていたので裁判(最判平8.12.17)
 共同相続人の一人が,他の共同相続人に対して,遺産である建物の賃料相当額を不当利得として返還請求した事案です。
 最高裁判所は,相続開始前から被相続人と同居していた共同相続人に対しては,遺産分割までの間は無償で使用させる旨の合意があったものと推認し,不当利得返還請求を退けました。

他人の添え手で作られた遺言書は有効なのかをめぐって裁判(最判昭62.10.8)
 他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言が「自筆」といえるかについて争われた事案です。
 最高裁判所は,遺言者が文字を知り,かつ,これを筆記する能力を有することを前提とする自書能力があれば,自筆証書遺言の要件を満たすと判断しました。

死亡退職金をめぐっての裁判(最判昭62.3.3)
 財団法人の理事長である父が亡くなり,母親に対して支払われた死亡退職金について,子が分割するように請求して裁判になった事例です。
 最高裁判所は,死亡退職金は相続財産ではなく,配偶者個人に対して支給されたものであるとして,子らの請求を退けました。


 以上のように,相続についての判例は多岐にわたります。
 判例についてもっと詳しく知りたい方は裁判所のウェブサイト等をご覧ください。
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