
不法行為の判例
不法行為についての民事の判例は、多くの種類がありますが、代表的なものとしては以下のようなものが挙げられます。
[雲右衛門事件]
不法行為の損害賠償請求における過失責任の成立要件を明らかにした判例。
被告が原告の土地に無断で入り込んで雲右衛門という木を切り倒したことにより、原告が損害を受けたとして訴えた事件です。
最高裁判所は、被告が原告の土地であることを知らなかったとしても、一般的な注意義務を怠ったことにより過失があると判断しました。
[大学湯事件]
不法行為の損害賠償請求における因果関係の判断基準を示した判例。
被告が経営する銭湯で、原告が入浴中に心臓発作を起こして死亡したことにより、遺族が訴えた事件です。
最高裁判所は、銭湯の水温や湯量などが心臓発作を引き起こす可能性が高いという医学的知見があることから、銭湯側に過失があると認めました。
[京都地方裁判所が保有する,立件取消しが記された判例が分かる文書の不開示判断(不存在)に関する件]
情報公開請求法に基づく不開示決定に対する不服申立てにおける最高裁判所情報公開審査会の答申。
原告は,京都地方裁判所が保有する,立件取消しが記された判例が分かる文書(現在に至るまでの判例,全国の裁判所(最高,高裁,地裁,簡易))を開示請求したところ,京都地方裁判所は,そのような文書は存在しないとして不開示決定をした。
原告は,この決定に対して不服申立てを行った。
最高裁判所情報公開審査会は,京都地方裁判所の不開示決定(不存在)は適正であると答申しました。
[三井鉱山事件]
不法行為の損害賠償請求における連帯債務の成立要件を示した判例。
被告の三井鉱山が経営する炭鉱で、原告の労働者が炭鉱夫として働いていたところ、爆発事故により死亡したことにより、遺族が訴えた事件です。
最高裁判所は、三井鉱山と炭鉱夫の間には労働契約が成立しており、三井鉱山は炭鉱夫に対して安全措置を講じる義務を負っていたと判断しました。
また、爆発事故は三井鉱山の管理職員と炭鉱夫の共同過失により発生したものであると認め、三井鉱山と炭鉱夫は連帯して損害賠償責任を負うとしました。
三井鉱山事件は、不法行為の成立要件の一つである違法性について、社会通念に基づいて判断するという考え方を示しました。
また、連帯債務の成立要件についても、共同過失の有無や過失の程度などを考慮するという基準を示しました。
[田中清事件]
不法行為の損害賠償請求における人格権侵害の判断基準を示した判例。
被告の田中清が原告の松本清張に対して、小説『点と線』の盗作であるという内容の文書を新聞社や出版社などに送付したことにより、原告が名誉を傷つけられたとして訴えた事件です。
最高裁判所は、文書の内容が真実でなく、原告の名誉を毀損するものであることから、被告は原告の人格権を侵害したと判断しました。
また、文書の送付は公益上正当な理由がなく、被告自身もその真偽を確かめる努力を怠ったことから、被告に過失があるとしました。
田中清事件は、不法行為によって侵害される利益として、人格権が含まれることを明確にしました。
また、人格権侵害の判断基準として、文書の内容が真実でなく、名誉を毀損するものであること、文書の送付に公益上正当な理由がないこと、被告が文書の真偽を確かめる努力を怠ったことなどを示しました。
[住友金属事件]
不法行為の損害賠償請求における精神的苦痛(精神的損害)の賠償基準を示した判例。
被告の住友金属工業が経営する工場で、原告の労働者が有害物質であるアスベストに曝露されて肺がんや中皮腫などを発症し死亡したことにより、遺族が訴えた事件です。
最高裁判所は、被告が労働者に対して安全措置を講じる義務を怠ったことから過失責任を負うと判断しました。
また、遺族が労働者の死亡や病気によって精神的苦痛を受けたことは明らかであると認め、その程度や期間などを考慮して一定額の精神的損害賠償を認めました。
住友金属事件は、不法行為によって発生する損害として、精神的苦痛(精神的損害)が含まれることを認めました。
また、精神的損害賠償の計算方法として、苦痛の程度や期間などを総合的に考慮するという基準を示しました。
共同不法行為の判例
[山王川事件](最高裁昭和43年4月23日判決)
複数の工場の廃水がそれぞれ河川を汚染し、そのため下流域において農作物の枯死等の被害が発生した場合、複数の工場のうちどの工場の廃水が原因であるかを確定できないが、そのような場合であっても、被告の工場の廃水だけで作物が枯れる可能性があるのならば、被告は全損害について賠償しなければならないことになる。
[北津軽水争い事件](最高裁昭和63年7月1日判決)
共同不法行為者の一人(甲)が被害者に賠償した場合、他の共同不法行為者(乙)の使用者(丙)に対して求償が認められるかの問題(719条と715条とが交錯する場面)について、「甲が自己と被用者(乙)との過失割合に従って定められるべき自己の負担を超えて被害者に損害を賠償したときは、甲は、 被用者(乙)の負担部分について使用者(丙)に対し求償することができる 」としている。
使用者責任の判例
[労災事故の事例](大阪地方裁判所判決令和元年8月27日)
倉庫内作業中にフォークリフトを運転していた従業員が他の従業員の右足をひいた労災事故について、民法第715条に基づき、会社に対して約1600万円の賠償を命じた。
[パワハラ自殺の事例](福井地方裁判所判決平成26年11月28日)
上司によるパワーハラスメントにより従業員が自殺したとして、民法第715条に基づき、会社に対して、8000万円を超える損害賠償を命じた。
[通勤中の事故の事例](神戸地方裁判所判決平成22年5月11日)
従業員が自家用車で通勤中に起こした交通事故により被害者が負傷した事案について、民法第715条に基づき、会社に対して約850万円の支払いを命じた。
使用者責任は、報償責任の法理と危険責任の法理に基づいており、使用者が負う被用者の選任・監督について厳格に解しており、免責を容易に認めていないことが多いです。
したがって、使用者責任は実質的に無過失責任とされています。
土地工作物責任の判例
[大阪市立小学校校舎倒壊事件]最高裁平成19年11月29日判決
大阪市立小学校校舎倒壊事件では,大阪市立小学校の木造校舎が老朽化により倒壊し、児童や教職員が死傷した事故について、裁判所は、木造校舎の老朽化による耐震性の低下は瑕疵に当たり、その瑕疵が原因で倒壊が生じたことを認め、大阪市に対して約10億円の損害賠償責任を認めた。
以上、不法行為・共同不法行為と使用者責任・土地工作物責任の判例です。
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