
契約解除に関する判例
民法改正(2020年4月施行)により、契約解除に関する規定が一部変更されました。
主な改正点は以下の3つです。
・解除の要件から「債務者の帰責性」を削除した(民法543条)
・催告解除の要件が明確になった(民法541条)
・無催告解除の要件を整理した(民法542条)
これらの改正点に関する具体的な判例をいくつか紹介します。
解除の要件から「債務者の帰責性」を削除した(民法543条)に関する判例
[最高裁判所平成8年11月12日判決]
この判決では、同一当事者間で締結された二個以上の契約のうち一の契約の債務不履行を理由に他の契約を解除することができる場合について判断基準を示しました。
その判断基準は、「それらの目的とするところが相互に密接に関連付けられていて、社会通念上、甲契約又は乙契約のいずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合」というものです。
この判断基準は、債務者の帰責性にかかわらず適用されるものであると考えられます。
[最高裁判所平成30年7月13日判決]
この判決では、建築工事請負契約において、工事完了後に発覚した欠陥が重大である場合に、発注者が工事代金支払義務から解放されるかどうかについて争われました。
最高裁は、欠陥が重大である場合には、発注者は工事代金支払義務から解放されるとしました。
この場合にも、請負人の帰責性は問われないものと考えられます。
催告解除の要件が明確になった(民法541条)に関する判例
[最高裁判所平成29年11月24日判決]
この判決では、不動産売買契約において、売主が引渡し期日までに引渡しをしなかった場合に、買主が催告解除をすることができるかどうかについて争われました。
最高裁は、引渡し期日までに引渡しをしなかったことは、債務の不履行であるとして、買主は催告解除をすることができるとしました。
ただし、その場合には、債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微でないことが必要であるとも述べました。
無催告解除の要件を整理した(民法542条)に関する判例
[最高裁判所平成30年10月26日判決]
この判決では、不動産売買契約において、売主が買主に対して売買代金の支払いを拒絶した場合に、買主が無催告解除をすることができるかどうかについて争われました。
最高裁は、売主が売買代金の支払いを拒絶したことは、債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したことであり、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができない場合には、買主は無催告解除をすることができるとしました。
契約交渉過程における信義則上の注意義務の判例
契約関係には、様々な種類がありますが、ここでは、契約交渉過程における信義則上の注意義務についての判例を紹介します。
契約交渉過程とは、契約の締結に向けて当事者間で交渉を行う段階のことです。
この段階では、まだ契約が成立していないため、当事者は自由に交渉を中止することができます。
しかし、その一方で、当事者は信義誠実の原則に従って、相手方に対して一定の注意義務を負うことがあります。
注意義務とは、相手方の利益を不当に侵害しないように注意する義務のことです。
注意義務が認められるかどうかは、具体的な事情によって判断されますが、一般的には、以下のような要素が考慮されます。
・交渉の進展度合い
・交渉の内容
・交渉の方法
・交渉の期間
・交渉の中止理由
・交渉の中止方法
・交渉の中止時期
・交渉の中止による相手方の損害
注意義務を違反した場合には、相手方に対して損害賠償責任を負うことがあります。
それでは、注意義務に関する具体的な判例をいくつか紹介します。
[最高裁判所平成23年11月29日判決]
この判決では、マンションの売却予定者が、買受希望者の希望によって設計変更をし,そのために多くの費用を支払ったにもかかわらず,最終的には契約が成立しなかった場合について争われました。
最高裁は、売却予定者が買受希望者に対して注意義務を負担していたとし,注意義務違反を理由とする一定の費用の損害賠償責任を認めました。
[最高裁判所平成28年9月27日判決]
この判決では、不動産仲介業者が、売主から委託された物件を買主に紹介し,売買契約締結まで交渉を進めたものの,最終的には売主が他人と契約した場合について争われました。
最高裁は,仲介業者が売主及び買主双方に対して注意義務を負担していたとし,仲介業者が売主から他人と契約した旨を知りながら買主に伝えなかったことは注意義務違反であるとしました。
以上、契約関係の判例のです。
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