
履行遅滞の判例
離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は、離婚の成立時に遅滞に陥るとされた事例
最高裁判所は、離婚に伴う慰謝料は、離婚の成立と同時に発生する債務であり、その履行期は離婚の成立時であると判断しました。
したがって、離婚の成立時に慰謝料を支払わなかった場合には、履行遅滞が成立するということです。
この判例は、改正民法(令和2年4月1日)415条1項において明記された履行遅滞の帰責事由の要件が適用される前のものであることに注意が必要です。
建築請負契約において、請負人が工期を過ぎても建築物を完成させなかった場合、履行遅滞が成立するとされた事例
札幌高等裁判所は、建築請負契約においては、工期は履行期であり、工期までに建築物を完成させなければならないと判断しました。
したがって、工期を過ぎても建築物を完成させなかった場合には、履行遅滞が成立するということです。
この場合、請負人は、建築物の完成及び引渡しを求められるだけでなく、工期超過による損害賠償も請求される可能性があります。
いわゆるリゾートマンションの売買契約と同時にスポーツクラブ会員権契約が締結された場合に、その要素たる債務である屋内プールの完成の遅延を理由として、買主が右売買契約を解除することができるとされた事例
最高裁判所は、同一当事者間で締結された二個以上の契約が相互に密接に関連付けられていて、社会通念上、一方の契約だけが履行されるだけでは当事者間の利益調整が不十分であるような場合には、一方の契約上の債務不履行を理由として他方の契約を解除することができると判断しました。
したがって、リゾートマンションの売買契約とスポーツクラブ会員権契約がそのような関係にあると認められた場合には、屋内プールの完成の遅延は、スポーツクラブ会員権契約上の履行遅滞であるとともに、売買契約上の履行遅滞でもあり、買主は売買契約を解除することができるということです。
履行不能の判例
・不動産の二重売買において、一方の買主に対する売主の債務は、特段の事情がない限り、他の買主に対して所有権移転登記が完了した時点で、履行不能となる(最判昭和35・4・21)。
・債務者は履行遅滞後は、その者の責めに帰すものではない不能についても、責任を免れない(大判明治39・10・29)。
・家屋の賃借人が失火により家屋を焼失してしまって返還義務を履行できなくなった場合、損害賠償の責任がある(大判昭和45・3・23)。
これらの判例は、履行不能の要件や効果や損害賠償請求権について示しています。
履行不能に関する民事訴訟では、これらの判例が参考にされることが多いです。
不完全履行の判例
・不特定物の売買において給付されたものに瑕疵のあることが受領後に発見された場合、買主がいわゆる瑕疵担保責任を問うなど、瑕疵の存在を認識した上で右給付を履行として容認したと認められる事情が存しない限り、買主は、取替ないし追完の方法による完全履行の請求権を有し、また、その不完全な給付が売主の責に帰すべき事由に基づくときは、債務不履行の一場合として、損害賠償請求権および契約解除権をも有するものと解すべきである(最判昭和36・12・15)。
・建築工事契約において、工事完成後に施主が工事物に欠陥があることを発見した場合、施主は、欠陥除去ないし修復の方法による完全履行の請求権を有し、また、その不完全な給付が請負人の責に帰すべき事由に基づくときは、債務不履行の一場合として、損害賠償請求権および契約解除権をも有するものと解すべきである(最判平成13・3・27)。
・診療契約において、医師が手術中に患者の体内にガーゼを残置した場合、患者は、ガーゼ除去ないし治療の方法による完全履行の請求権を有し、また、その不完全な給付が医師の責に帰すべき事由に基づくときは、債務不履行又は不法行為(但し,使用者責任)に基づく損害賠償請求権をも有するものと解すべきである(最判平成13・11・29)。
これらの判例は、不完全履行の要件や効果や救済方法について示しています。
不完全履行に関する民事訴訟では、これらの判例が参考にされることが多いです。
民法改正以降の債務不履行の判例
2021年9月30日、最高裁判所は、建設工事の契約において、元請け業者が下請け業者に対して支払う工事代金を遅延した場合に、下請け業者が元請け業者に対して支払う遅延損害金の利率を定める条項が無効であると判断しました。
この判決では、民法改正前の法定利率(年5%)よりも低い利率(年3%)を定める条項は、下請け業者の利益を不当に制限するものであり、公序良俗に反するとされました。
2021年9月29日、最高裁判所は、自動車事故によって死亡した被害者の遺族が加害者に対して損害賠償を請求した場合に、被害者が生存していた場合に得られたであろう収入や家事労働量などをどのように推定するかについて示しました。
この判決では、被害者が生存していた場合の収入や家事労働量は、一般的な統計データや個別的な事情を総合的に考慮して推定する必要があるとされました。
以上、債務不履行に関する判例でした。
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