【強迫】の判例

【強迫】の判例

 強迫による意思表示の取消の要件は次の3つです。

・強迫がなされたこと
・これによって相手が畏怖したこと
・当該畏怖に基づいて意思表示がなされたこと


 強迫がなされたといえるためには、加害者に強迫の故意があったことが必要です。
 故意とは、害悪の告知によって相手を畏怖させ、かつ、その畏怖によって意思表示をさせようとする意図を指します。
 畏怖とは、害悪の告知で怖くなった、びびった状態を指します。
 害悪の告知があったものの、「全く怖くはなかった、だけど、なんか哀れに感じて財布を渡した」、といったケースでは、害悪の告知で相手方が畏怖していないので、民法96条1項の要件は満たしません。

 当該畏怖に基づいて意思表示がなされたというのは、強迫行為があり、それによって相手が畏怖し、畏怖に基づいて意思表示がなされた、という因果関係が必要です。
 害悪の告知によって、いったん怖くなったけど、その後、畏怖状態から脱した上で、意思表示に至った場合は、害悪の告知による畏怖に基づいて意思表示をしたとはいえませんので、やはり民法96条の要件は満たしません。

 強迫取消が認められる場合、意思表示は初めからなかったことになります(無効になります)。
 ただし、第三者や手形行為などの場合には特別な規定や判例がありますので注意が必要です。

 以上を踏まえた上で、具体的な判例を見て参りましょう。


強迫による意思表示の取消の判例


[最高裁判所昭和33年7月1日判決]
被告が原告に対し、暴行を加えた上で、自分の債務を肩代わりさせる旨の念書を書かせた場合、被告には強迫の故意があり、原告は畏怖によって意思表示をしたと認められた。しかし、原告はその後、念書に基づいて被告の債務を支払ったり、被告と和解したりしたことから、畏怖状態から脱したとみなされ、強迫による意思表示の取消しは認められなかった。

[最高裁判所昭和26年10月19日判決]
被告が原告に対し、自分の借金を肩代わりさせる旨の手形を発行させた場合、被告には強迫の故意があり、原告は畏怖によって意思表示をしたと認められた。しかし、手形行為は人的抗弁であり、善意の第三者に対しては主張できないとされた。したがって、被告が手形を裏書譲渡した第三者に対しては、原告の取消しは効力を発生しなかった。

[最高裁判所明治39年12月13日判決]
被告が原告に対し、自分の債権者から逃れるために自分の財産を譲渡する旨の契約書を作成させた場合、被告には強迫の故意があり、原告は畏怖によって意思表示をしたと認められた。しかし、原告はその後、契約書に基づいて財産を引き渡したことから、意思の自由を完全に喪失していたとはいえず、強迫による意思表示の取消しは認められなかった。

 以上の判例からわかるように、強迫による意思表示の取消しは、厳格な要件が必要であり、また第三者や後日行為などの影響も考慮しなければなりません。

 判例についてもっと詳しく知りたい方は裁判所のウェブサイト等をご覧ください。
→強迫の基本についてのわかりやすい解説はこちらをご覧ください←
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