【単純承認と限定承認】その手続と事例/相続財産の対象となる財産とは?一身専属権はどうなる?

▼この記事でわかること
限定承認について
単純承認について
相続財産の対象となる財産とは
一身専属権の相続問題
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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限定承認

 相続人は、熟慮期間中(相続があった事を知った時から3ヶ月間)に、相続放棄の他に限定承認をすることもできます。

(限定承認)
民法922条 
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる


 限定承認は、相続人にとって都合の良い制度です。
 被相続人の遺産が、プラスも大きいがマイナス(負債)もまた大きいというような場合を想定しています。
 この場合、プラスの財産のほうが大きいかもしれないので、相続の放棄をするのはもったいないのです。
 しかし、マイナスが多い可能性を考えれば、単純に承認をして権利義務の一切合財を承継することは危険です。
 そこで、限定承認という手を使うことができるのです。

限定承認の手続

 限定承認の手続は、まず、債権者等に対する公告をして被相続人の債権者等を探し出します。
 そして、被相続人の財産から債権者に対する弁済を行います。
 その残額があれば、遺贈を弁済します。
 さらに、その残りがあれば相続人がこれを承認するのです。
 仮に被相続人の遺産から債権者や受遺者への弁済をすることができなければ話はそれで終了であり、相続人が弁済をする必要はありません。
 つまり、被相続人の遺産で、債務を清算し、プラスが残れば相続人がこれを取得しますが、マイナスが残れば相続人は知らんぷりを決め込むことができるのです。
 このように、限定承認は相続人にとって都合のよい制度なのです。

【限定承認と家庭裁判所】
 限定承認手続は家庭裁判所の監督下に置かれます。相続人は限定承認をする旨を家庭裁判所で申述し、相続財産の目録を家庭裁判所に提出しなければなりません。つまり、勝手に相続財産を私物化することは許されなくなります。

限定承認の事例

事例1
Aが死亡し、BCDの3名が相続人である。


[問1]
BCの2名のみで限定承認をすることができるか?

 結論。BCのみの限定承認は不可能です。
 民法923条は、相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができると規定しています。
 さて、ではその理由は何でしょうか?
 限定承認は、死者の財産でのみ、死者の債務を弁済します。そのためには、死者の遺産と相続人の固有の財産を明確に分離する必要があるのです。
 民法922条が規定するように、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務および遺贈を弁済するためには、その前提として、どこまでが死者の財産であり、どこからが相続人固有の財産であるかがはっきりと分かれていなければなりません。
 ですから、相続人全員が団結して、とにかく限定承認の手続進行中は、死者の遺産を相続人の固有財産と混ぜ合わせないことが大事なのです。
 仮に、相続人の1人であるDが死者の遺産を単純に承認すれば、その限度で死者の遺産がDの固有資産と混じり合ってしまいます。
 だから、限定承認は共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができるのです。

[問2]
Dが相続を放棄した場合、BCの2名のみが限定承認をすることができるか?

 結論。相続を放棄したDはもはや相続人ではありません。したがって、相続人の全員であるBC両名が団結すれば限定承認できます。

単純承認

 相続の放棄もせず、限定承認でもないケースが単純承認です。
 世の中で一番多いパターンであり、単純に死者の遺産を相続人がまるごと承継する結果となります。
 単純承認をする場合には、家庭裁判所に行く必要はありません。
 民法921条2号は、熟慮期間が経過すれば相続人は単純承認をしたものとみなすと規定しており、世の中の相続事件の大半はこの規定により単純承認とみなされる結果となっています。
 上記のケースのように、相続人が単純承認の意思表示をしていないのにもかかわらず、民法の規定により単純承認をしたものとみなされるケースを法定単純承認といいます。
 では、ここからは事例とともに単純承認について具体的に解説して参ります。

事例2
Aが死亡した。Bが相続人である。


[問1]
相続の開始を知ったBは、亡Aの債権(Aの遺産の一部)を取り立ててこれを消費した。この後にBは相続の放棄をすることができるか?

 結論。Bは相続の放棄ができません。
 相続人が相続財産の全部または一部を処分すると単純承認をしたものとみなされます。(民法921条1号本文)
 債権の取立ては処分行為に該当します。いったん遺産を私物化しましたから、その後の放棄は認められません。
 つまり、相続の放棄をするのであれば、遺産には手をつけずにこれを行うことがスジであるにもかかわらず手をつけたので、その後の相続の放棄は認めないのです。

[問2]
BがA名義の建物の不法占拠者に立退き要求をした。この後にBは相続の放棄をすることができるか?

 結論。Bは相続の放棄ができます。
 この場合、Bの行為は、相続財産に対する保存行為です。
 民法921条1号ただし書は、相続人が保存行為や民法602条が規定する短期の賃貸をした場合には、単純承認とはみなされないと規定しています。遺産の私物化に該当しないからです。

【補足】短期賃貸借
 民法602条の短期賃貸借は以下のケースです。
・樹木の栽植または伐採を目的とする山林の賃貸借 10年まで
・土地の賃貸借 5まで
・建物の賃貸借 3年まで
・動産の賃貸借 6ヶ月まで

事例3
Aが死亡した。大きな負債を残したAには子Bがいる。


[問1]
Bは相続放棄をしたが、その後に相続財産である金員を私的に消費した。BはAの負債を免れるか?

 結論。相続放棄または限定承認をした場合、相続財産を私的に流用することは許されません。これを行った場合には、単純承認をしたものとみなされます。
 したがって、Bは負債を免れることはできません。

 民法921条3号は「相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠蔽し、私的にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかった(最後は限定承認のケース)とき」には、相続人は単純承認したものとみなされるとしています。
 これは、相続放棄をし債務を免れた上で、プラスの財産だけを承継しようというような相続放棄者の不正な目論見への民法上の制裁です。

【補足】相続の目録
 限定承認をするという申述の際、家庭裁判所に提出する被相続人の財産目録のこと。ここに悪意で記載をしない財産があるということは財産を隠したこと(隠蔽行為)になる。

[問2]
亡Aの父Cが存命であり、Bの相続放棄の後にCが相続を承認していた場合に、Bが相続財産である金員を私的に消費したとき、Bは単純承認したとみなされるか?

 結論。相続人(B)が相続の放棄をしたことによって相続人となった者(C)が相続の承認をした後に、相続人(B)が相続財産の隠蔽・私の消費をした場合には、相続人(B)が単純承認とみなされることはありません。(民法921条3号ただし書)
 すでに、相続債権者がCに対して弁済の要求をしているだけの段階であるため、これらの者に迷惑がかかるおそれがあるからです。

 以上、単純承認についての解説でしたが、下記の民法の条文も確認してみてください。

(法定単純承認)
民法921条 
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。


相続財産の対象となる財産
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 民法896条本文は、相続人は、相続開始の時から、被相続人に属した一切の権利義務を承継すると規定します。
 そこで、まず第一に、ある財産が被相続人に属しているのかどうかという問題点が生じます。
 この点について、事例を挙げて解説して参ります。

事例
Aが死亡した。その相続人がBである。Aは受取人をBとする保険金に入っていた。


 さて、この事例で、Aの死後支払われる保険金は、Aの相続財産に含まれるでしょうか?それとも、元々Bの財産であるのでしょうか?
 結論。これは、受取人がBであるから、生命保険金は相続人Bの固有財産であるというのが判例の考え方です。
 生命保険金は、その旨の約定に基づき、保険会社から直接Bに支払われるのであり、Aの相続財産を構成しません。

事例
Aが死亡した。その相続人がBである。Aの勤務先から死亡退職金が支払われることになった。


 さて、この事例で、死亡退職金はAの相続財産に含まれるのでしょうか?それとも、元々Bの財産であるのでしょうか?
 結論。死亡退職金は、遺族の生活保障の意味合いが強いとされており、これも相続人の固有財産であると考えられています。
 したがって、勤務先の支払規定に従って遺族が直接支給を受けるのであり、例えば、配偶者(内縁の妻を含む)を第一順位として支払うというような内規があれば、その規定に従い、配偶者の固有財産となります。

議論の実益

 上記の論点をどう解釈するかにより、遺族の取り分は大きく異なることになります。
 相続人が複数いるとしましょう。例えば、生命保険金を相続財産と考えれば、死者が遺言を残していない場合、生命保険金は法定相続分に従い相続人全員に帰属することになります。しかし、特定の受取人の固有財産と考えれば、その受取人が(生命保険金の)全額を取得する結果となります。 

【補足】
 死亡により終了する法律関係として、民法に明文が存在するものに、以下のような例があります。
1.委任の終了 
 委任者・受任者いずれかの死亡により終了する。(民法653条1号)
2.代理の終了
 本人・代理人のいずれかの死亡により終了する。(民法111条)
3.使用貸借の終了
 使用借人の死亡により終了する。(民法599条)
4.組合員たる地位
 組合員は死亡により組合を脱退し、相続人がその地位を引き継ぐことはない。(民法679条1号)

一身専属権の相続問題

 民法896条は、相続人は、相続開始の時から被相続人に属した一切の権利義務を承継するとしつつ、ただし、被相続人の一身に専属したものはこの限りではないと規定します。
 では、ある権利義務がこの一身専属権にあたるのかどうかを考えて参ります。

事例
Aが死亡した。その相続人がBである。


[問1]
Aが生活保護を受ける権利はBに相続されるか?

 結論。相続されません。
 憲法の判例として有名な朝日訴訟において、原告は生活保護基準の低劣を訴えましたが、最高裁は原告死亡により生活保護の受給権は消滅すると判示しました。
 将来の給付分はもちろんのこと、原告生存中ですでに未払いとなっているものも相続の対象にはならないという趣旨です。
 これは、生活保護受給権は、一身専属権であり、「生活困窮→給付」が不可分の関係にあるという考え方としています。

[問2]
Aが交通事故で死亡した場合、その精神的苦痛を慰謝するための損害賠償請求権はBに相続されるか?

 結論。相続されます。
 判例は、慰謝料請求権が発生する場合の被害法益は一身専属であるとしますが(痛いとか苦しいという精神的苦痛は死者に専属しているという意味)、しかし、これにより生じた慰謝料請求権という金銭債権は相続の対象となる判示をしています。
 つまり、死者を慰謝するための損害賠償を、相続人が加害者に請求することができるという結論となります。
 なお、判例は、現実には死者が慰謝料の請求を表明しなかったときにも、慰謝料請求権は発生し、それが相続人に相続されるものとしています。

[問3]
Aはある農村で土地の占有を継続していた。Aが死亡した場合、その相続人である東京にいる息子は占有権を相続するか?

 結論。占有権は相続され、死亡と同時に相続人に承継されます。
 占有は事実状態なので、東京にいる息子が、実際には農村にはいないのに、占有権を承継するというのはちょっと変な感じもしますが、判例は相続を認めています。
 こう解釈することにより、被相続人の死亡によっても占有は自然中断することはなく、例えば、被相続人が他人の土地を自主占有していた場合に、東京の息子がその土地の時効取得をすることが可能となります。

[問4]
Aが限度額と期間の定めのない継続的信用保証契約をしている場合、Aの死後に生じた主債務についての保証債務はBに相続されるか?

 結論。相続されません。
 限度額および期間の定めのない保証契約とは、すなわち、主債務者がケタ違いに高額な債務を負ってもすへて保証するし、しかも、いつまでが保証期間であるかも定めていないから永遠に保証しなければならないという、保証人にとってベラ棒に不利な契約です。
 これは、主債務者と保証人の特殊な人的関係を基礎とした契約であると考えられ、したがって相続人が上記の重すぎる保証契約を承継することはありません。

【補足】ゴルフ会員権
 会員が死亡した場合、会員資格を失うという規定のあるゴルフクラブにおける会員たる地位は一身に専属します。すなわち、相続人が会員権を相続することはできません。せいぜい、預託金(会員になる際、ゴルフクラブに預けたお金)の返還を求めることができる程度のことになります。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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