【相続の放棄】相続放棄の連鎖?/誤った使用例/金貸しとの戦い/生前の放棄/数次相続の場合の相続放棄をわかりやすく解説!

【相続の放棄】相続放棄の連鎖?/誤った使用例/金貸しとの戦い/生前の放棄/数次相続の場合の相続放棄をわかりやすく解説!

▼この記事でわかること
相続の放棄の基本
相続放棄の連鎖
相続の放棄の誤った使用法
金貸しとの戦い
生前の放棄
数次相続の場合の相続放棄
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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相続の放棄


 相続は、包括承継の代表選手であり、原則として、被相続人の財産上の権利義務の一切が、被相続人の死亡の瞬間に相続人へと承継されます。
 しかし、財産上の権利義務の一切の承継ですから、当然のことながら被相続人の債務も承継されます。
 
 さて、モデルケースとして、夫婦と子供1人の家庭を考えてみましょう。
 夫が大借金を残して死亡したらどうなるでしょうか?

 実は、この事態は緊急事態です。
 というのは、このケースでは、すでに述べた家庭裁判所への申述による相続の放棄が可能です。
 しかし、これには厳格な期間制限があります。
 それは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月です。(民法915条1項)

 上記のモデルケースでは、残された母子が相続の開始を知ったのは、夫死亡の時というのが一般的でしょう。
 とすれば、そこから3ヶ月です。
 3ヶ月以内に、家庭裁判所に駆け込まなければ、夫の債務のすべては法律上当然に母子の債務となります。


相続放棄の連鎖


 夫が死亡し、妻と子が相続放棄した後はどうなるでしょうか?
 子がもともと相続人ではなかったことになるので、死亡した夫に直系尊属がいれば、その者が相続人となります。
 だから直系尊属は大借金を免れるために相続放棄をしなければなりません。

 その後どうなるのでしょうか?

 直系尊属がもともと相続人でなかったことになるから、死亡した夫に兄弟姉妹がいれば、その者が相続人となります。
 なので兄弟姉妹は、大借金を免れるために相続放棄をしなければなりません。


相続の放棄の誤った使用法


 夫婦と子供1人の家庭があるとして、夫の両親は死亡しているが夫の兄弟が1人存命というケース。
 このケースで夫が死亡し、死亡した夫にプラスの相続財産があったとします。
 このような場合に、残された妻が遺産を独占する目的で、子に相続の放棄をすすめることがあります。
 そして、子がこれに同意し、家庭裁判所で相続放棄の申述をすると悲劇が起こります。

 相続放棄の強力な効果により、子がもともと相続人ではなかったとみなされる結果、次順位の夫の兄弟が相続人となり、4分の1の相続分を取得することになるのです。
 つまり、妻の遺産独占の目論見は、もろくも崩れ去ることになります。
 こういう場合は、家庭裁判所などには行かず、母子間で母が全財産を承継する旨の遺産分割をすればよかったのです。


金貸しとの戦い


 従来、借金まみれの人物が死亡した場合、金貸しはすぐに相続人に電話をかけました。
 そして借金の返済を迫りました。
 しかし、逆にそのことにより相続人が死者の借金に気づいた結果、相続の放棄をされてしまうという事例が多発しました。
 そこで、金貸しは知恵をつけます。
 死亡後3ヶ月の間は取立てをせず、死亡から3ヶ月経過後に、はじめて返済を迫る電話をかけるのです。

 さて、この事案において残された相続人の運命はどうなるのでしょうか?
 この点について、判例は、民法915条がいう自己のために相続の開始があったことを知った時とは、単に被相続人の死亡とそのことにより自己が相続人となったことを知った時であるとは限らないと判示しました。
 つまり、相続人が相続財産は存在しないと信じていたようなケースでは、相続財産の存在を認識した時(つまり、借金があるとわかった時)、または通常認識できる時から熟慮期間の3ヶ月を起算すべきであるということになります、
 熟慮期間とは、民法915条が規定する相続の承認、放棄を決定すべき期間を一般にいいます。

【相続の効果】

 相続の放棄の効果は絶対的であるという判例があります。
 元々、先祖の負債が代々引き継がれることは非人道的であるという考え方からできた制度であるから、このような強力な効果が認められます。
 その具体的な意味は、相続放棄をした者は、そもそも相続人ではない(初めから相続人ではなかったことになる)ということです。


生前の放棄


事例1
Aの子はBである。


[問1]
BはAの生前に相続を放棄することができるか?

 結論。
 相続の開始前に相続の放棄をすることはできません。相続の放棄は被相続人の死亡後に限られます。
 この点は、推定相続人が被相続人から不当な圧迫を受けることを防ぐためと説明されています。

[問2]
BはAの生前に遺留分を放棄することができるか?

 結論。
 相続の開始前に遺留分を放棄することは可能です。
 しかし、そのためには家庭裁判所の許可が必要です。
 放棄をしようという推定相続人の真意を確認するためです。(民法1043条1項)

事例2
Aの子がBである。BはAの死後、相続の放棄をした。


[問1]
熟慮期間内であれば、Bは相続の放棄を撤回することができるか?

 結論。
 相続放棄の撤回は、熟慮期間内においても認められません。(民法919条1項)

[問2]
Bの相続放棄の意思表示が、詐欺・強迫によるものであった場合、Bは相続の放棄を取り消すことができるか?

 結論。
 民法総則編の規定による取消しは認められています(民法919条1項)。
 つまり、詐欺による取消しの主張等は可能です。
 ただし、取消権の行使は追認をすることができる時(例えば詐欺強迫を脱した時)から6ヶ月または放棄の時から10年以内に家庭裁判所への申述により行わなければなりません。


数次相続の場合の相続放棄


 Aが死亡しBがこれを相続したが、Bがその熟慮期間中に何らの意思表示をせずに死亡しCが相続をした場合にどういう状況となるでしょうか?

 この場合、CはAB間とBC間の相続についての判断を迫られます。
 そして、その熟慮期間は、AB間BC間双方について、Cが自己のために相続の開始があったことを知ってから3ヶ月となります。(民法916条)
 Bの熟慮期間の残された時間でAB間の相続についての判断を迫られるのはCにとって酷であるからです。

 なお、この場合のCの判断について、以下に簡単に記します。

・CがBC間の相続を放棄すると、CはBの相続人としての地位を失うので、AB間の相続の承認・放棄のいずれもすることができなくなります。
・CがBC間の相続を承認したときは、CはBの相続人として、AB間の相続の承認・放棄のいずれもすることができます。
・CがBの相続人としてAB間の相続を放棄した後に、BC間の相続を放棄することができます。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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