【親権】【親権の喪失・停止・回復】【利益相反行為】誰が親権者になるか?様々なケースでわかりやすく解説!

【親権】【親権の喪失・停止・回復】【利益相反行為】誰が親権者になるか?様々なケースでわかりやすく解説!

▼この記事でわかること
親権の基本
親権の喪失
親権の停止
親権の回復
子の出生前の離婚ケースの親権者
親権者・監護者の変更ケースの親権者
未成年後見人の指定、選任と共同親権
利益相反行為について
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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親権の基本


 親権には、2つの内容があります。

1・身上監護権
2・財産管理権

 すなわち、未成年者の養育をし、また、その財産管理をするのが親権の内容です。
 未成年者に財産と呼べるほど大それたものは存在しないのが通常ですが、場合によっては、相続・遺贈等により生まれながらの億万長者もいますから、この場合には、親権者にしっかりその財産管理をしてもらう必要が生じるでしょう。

(財産の管理における注意義務)
民法827条 
親権を行う者は、自己のためにするのと同一の注意をもって、その管理権を行わなければならない。

 通常は、実親が親権者となりますが、養子縁組をすると、養親が親権者となります。
 未成年者が15歳未満であれば、その法定代理人である実親が養子縁組の代諾をするのですから、そうしたいきさつから考えても、養親が親権者となるのは、ごく自然の考え方です。


親権の喪失


(親権喪失の審判)
民法834条 
父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる。ただし、二年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、この限りでない。


 この民法834条は、ざっくり言えば「ろくでもない親から親権を奪い取る」ための規定です。

 この他、財産管理権の喪失宣告という制度もあります。(民法835条)
 こちらは、浪費家の親であって、子の財産を使い込むような人物の場合であり、親権のうち財産管理権のみを奪う制度です。
 この場合、浪費家の親は親権者ではありますが、身上監護権のみを行使することができます。
 なお、身上監護権のみの喪失という制度は存在しません。

 ところで、親権または財産管理権の辞任という制度があります。
 これは、親の方から親権を辞めたいとか、子の財産管理権を辞めたいと言い出す場合です。
 この場合、やむを得ない事由があり、かつ家庭裁判所の許可があれば辞任が許されます。

 さて、では親権者が存在しなくなりますと、その後はどうなるのでしょうか?
 未成年者に対して親権を行う者がいないときや管理権を行う者がいない場合には、未成年後見が開始します。(民法838条)
 親権喪失の問題の裏返しとして、未成年後見人には次の2種類が存在することとなります。

1・身上監護と財産管理を行う未成年後見
2・財産管理のみを行う未成年後見人


親権の停止


 親権の停止とは、幼児虐待と言われる状況が増えたので、政府が作った仕組みです。
 とはいえ、親権の喪失となるとちょっと行き過ぎじゃね?
 ということで、その前段階の様子見という仕組みを設けたというわけです。
 その要件は、父または母による親権の行使が困難または不適当であることにより子の利益を害するときとなっています。(民法834条の2第1項)

 以下、親権の喪失と停止に関する注意点です。

1、審判がなされることとなる要件の相違

・親権喪失の審判の場合
 親権の行使が著しく困難または不適当であることにより子の利益を著しく害するときに家庭裁判所が審判します。

・親権停止の審判の場合
 親権の行使が困難または不適当であることにより子の利益を害するときに家庭裁判所が審判します。

 上記2点の違いは、親権喪失の審判の要件から2つの「著しく」が抜けると、親権停止の審判の要件となります。

2、親権喪失と親権停止のすみわけ

 親権停止の期間は、2年を超えることができません。(民法834条の2第2項)
 これに対して、親権喪失の審判は、その原因となる事実が2年以内に消滅する見込みがあるときはすることができません。
 なぜかといえば、2年以内に消滅の見込みがあれば、親権停止の審判で足りると考えられるからです。


親権を行うことができない者


 親権の喪失、辞任の場合の他にも、親であって親権を行うことができない者がいます。

・行方不明の場合
・受刑中
・精神に著しい障害があるとき(成年被後見人、被保佐人は親権者となることはできないと考えるのが通説です)


親以外の者が親権を行使するケース


 これは、婚姻をしていない未成年の女性が子を出産したケースです。
 未成年者が親権者となることはできません。
 そこで、この場合はその未成年の女性の親権者(子から見れば祖父母の双方または一方)が、この親権を行使します。(民放833条)

 この他、未成年後見人が未成年者に代わって親権を行使するパターンも存在します。(民法867条1項)


親権の回復


 次に挙げる場合、実親の親権は回復するでしょうか?

1・未成年の子が養親と離縁をした場合
2・未成年の子が養親と死別をした場合

1について

 回復します。
 実親が親権者となります。

2について

 実親の親権は回復せず、未成年後見が開始します。
 離縁の場合には、養親との関係を切るという明確な意思があります。

 また、特に15歳未満の未成年の子の離縁は、離縁後に法定代理人となる者(通常は実親)が代諾して、養親との協議で行いますから、未成年の子の実親の親権の回復は自然な姿なのです。

 しかし、死別の場合は話が異なります。
 養子縁組をしたということは、実親に子供を育てるについて差し障りがあったケースも考えられます。
 そういう状況であるにもかかわらず養親の死亡により実親の親権を回復するのは、子供の福祉を考える上で問題があります。
 そこで、死別の場合には、いったん未成年後見を開始し、家庭裁判所がその適役を選任します。
 もちろん、この場合、実親が未成年後見人となるケースは多いに違いありませんが、その適格性について家庭裁判所が審査をする機会を設けるたに未成年後見を開始させるのです。

民法838条 
後見は、次に掲げる場合に開始する。
一号 未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。
二号 後見開始の審判があったとき。

 一号は未成年後見、二号は成年後見の開始事由です。


誰が親権者になるのか?様々なケース

ここがポイント女性

 ここからは、このケースでは誰が親権者になるのか?
 具体的に解説して参ります。

事例
婚姻外のA男とB女の間に未成年の子であるCがいる。


 さて、このケースで、Cの親権は誰が行うのでしょうか?

 結論。
 この場合、Cの親権はB女が単独で行います。
 A男の認知前は、Cの法律上の親は母であるBのみです。

 では、この事例で、A男がCを認知した場合はどうなるでしょうか?
 この場合も親権者は変わりません。
 Cの親権はB女が単独で行います。
 ただし、このケースでは、AB間で父Aを親権者とする協議をする事ができます。
 この協議により親権者を父Aに変更する事が可能です。(民法819条4項)


子の出生前の離婚


事例
A男とB女は婚姻中であったが、子の出生前に離婚をした。


 さて、この場合、子の親権者は誰でしょうか?

 結論。
 子の親権者は母Bです(民法819条3項)。ただし、子の出生後に父母の協議で親権者を父に変更することができます。

 では、子の氏はどうなるでしょうか?
 子は父Aと同一の氏となります。
 子は離婚の際の父母の氏を称します。(民法790条1項ただし書)
 妻が夫の氏を称する通常のケースでは、子の氏は夫の氏となります。


親権者・監護者の変更


事例
A男とB女は、B女を親権者かつ監護者と定めて離婚をした。


 さて、この事例で、後日に父母の協議で親権者を変更できるでしょうか?

 結論。
 親権者の変更はできません。
 基本的に、親権者の変更は家庭裁判所か行います。(民法819条6項)
 その要件は、子の利益のために必要があり、子の親族が変更の請求をすることです。
 つまり、いったん決めた親権者の変更は、親の都合ではできません。
 子の利益のために家庭裁判所がこれを行います。

 なお、父母が協議で親権者を定めることができる場合は、以下のケースが民法で明文化されています。

・離婚の際
・離婚後に出生した子の親権者を父に変更するとき
・父が子を認知し、親権者を父に変更するとき
・15歳未満の養子が離縁をするときに、実親が離婚をしており、その一方を離縁後の親権者と定めるケース(その者が離縁の代諾をすることになります)

 上記において、協議が調わない場合、または協議をすることができない場合は、家庭裁判所が協議に代わる審判をすることができます。

事例
A男とB女は、B女を親権者かつ監護者と定めて離婚をした。


 さて、上記は先ほどの事例ですが、後日に父母の協議で監護者の変更はできるのでしょうか?

 結論。
 監護者の変更は、いつでも当事者の協議ですることができます。
 父母が協議上の離婚をする場合には、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議で定めます。(民法766条1項前段)

 ここまでは、離婚の際の親権者についての協議の問題と同様です。
 しかし、監護者についてのその後の考え方は、親権の場合とは大きく異なります。

1・監護者は親である必要はない
 監護者とは、現実に子の面倒をみる者を指します。
 だから、若い夫婦が離婚し、幼少の子の面倒をみる財力や時間がなければ、たとえば、その子の祖父母がこれを監護してもかまいません。

2・監護者は、当事者が自由に変更できる。
 たとえば、上記の事例で、数年後に祖父母が体を壊し、その頃には実母が経済的に立ち直っていれば実母を監護者とすればよいのです。


補足1
未成年後見人の指定、選任



 未成年後見人の出現の方法は、次の2つがあります。

1・最後に親権を行う者が遺言で指定する。(民法839条1項)
 ただし、財産管理権のない親権者はこの指定ができません。
 また、片親が生存するケースでもその者に財産管理権がなければ、完全な親権を持つ者が遺言で指定をすることができます。(民法839条2項)

2・家庭裁判所が選任する。(民法840条)
 未成年後見人がある場合でも、家庭裁判所は一定の者の請求または職権により、さらに未成年後見人を選任することができます。(民法840条2項)
 つまり、成年後見、未成年後見のいずれにおいても複数後見が可能となっています。


補足2
共同親権



 父母が婚姻中であれば、親権は共同して行います。(民法818条3項)
 しかし、父母が婚姻中でない場合には、親権はどちらかが行います。単独親権です。
 この点については例外が存在します。
 それは、親権者の指定のない離婚届が誤って受理されたときです。(離婚の際、未成年の子がいれば、離婚後の親権者を定めなければならない。民法819条1項)。

 本来、離婚後の親権者を指定していない離婚届は受理してはいけません。
 ですが、戸籍係員が誤ってこれを受理した場合には、父母の双方が親権者と考えるしかないとされています。
 また、15歳以上の養子が養親と協議離縁をしたケースで、実親が離婚していれば、その瞬間が共同親権となります。

 上記、いずれの場合も、いったんは共同親権となりますが、その後、協議により親権者を定めることになります。


利益相反行為について

NG男性

 親権者(通常は親)は、子の利益のために行動します。
 そして、親権者が子の利益に反する行動をしたときは、それは利益相反行為となります。

(利益相反行為)
民法826条
1項 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2項 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

 では、利益相反行為に該当するか否かの判断基準は何なのでしょうか?
 これについて判例は、行為の外形からみて、子供に損害を与えることがあり得るかどうかで判断します。

 以下、話を単純化するために、子が父の単独親権に服する事例で解説します。

 例えば、父が子に贈与するのであれば、利益相反取引(行為)にはなりません。

 続いて、子が銀行から借入をし、父が自己所有の不動産に担保を設定する場合(物上保証のケース)を考えて参ります。
 この場合、借入金は子のものとなります。
 父の側には、子が債務を弁済しなければ自己の不動産を競売にかけられてしまうという危険だけが生じます。
 したがって、子に有利、親に不利であり利益相反取引は存在しません。
(なお、子が借入金の返済をするのは経済行為として当然のことであり、子の不利益とはいわない)

 では、親が銀行から借入れをし、子が自己所有の不動産に担保を設定する場合(子が物上保証人となるケース)はどうでしょうか?
 この場合、借入金は父のものとなります。
 子の側には、父が債務を弁済しなければ自己の不動産を競売にかけられてしまうという危険だけが生じます。
 したがって、父に有利、子に不利であり利益相反取引は存在します。

 さて、以上の原理で話を打ち切るのが利益相反取引に該当するかどうかを判断する場合の判例理論であり、行為の外形からのみ判断するということの意味です。
 例えば、最初のケースで、子が債務者、父が物上保証人ではあるが、実はこの父は借入金を横領してギャンブルに使うつもりであったとしても、利益相反取引ではありません。
 また、後のケースで、父が債務者、子が物上保証人の形ではあるが、借入れの目的が子の養育費や教育費のためだけであったとしても、行為の外形から見れば利益相反です。

 では、なぜ判例は、この問題について実質的な判断をせず、行為の外形だけで判断するのでしょうか?
 それは取引の安全のためです。
 つまり、利益相反取引にあたれば取引が無効となります。
 この点が、父の内心により、ある場合には無効、ある場合には有効という制度にしてしまうと、その結果、世の中が混乱するのです。
 だから、裁判所は行為の外形だけで判断すると決めたのであり、それが、この点に関する法律実務上の明確な基準となっています。

【補足】間接取引のケース

 父Aと子Cが共に、第三者の連帯保証をすることは利益相反取引に該当します。
 この場合、連帯保証契約の当初には、父と子の利益相反取引は存在しません。
 しかし、将来において、父子の間に共同保証人間の求償権の問題を生じ得ます。
 そこで、こうした間接取引の場合にも、利益相反取引とされるのです。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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