2022/06/13
【財産分与と離婚と慰謝料】【財産分与と内縁】【損害賠償請求と財産分与請求】内縁の妻が相続財産を承継する方法?
▼この記事でわかること・財産分与の基本
・離婚の時期と慰謝料
・財産分与と詐害行為取消権と債権者代位権
・財産分与と内縁
・損害賠償請求と財産分与請求
・内縁の妻が夫の相続財産を承継する方法
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

財産分与の基本
協議上の離婚(裁判じゃない離婚)をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができます。(民法768条1項)
なお、この民法の規定は、裁判上の離婚と婚姻解消の双方に準用があります。(民法771条、749条)
つまり、裁判上の離婚でも婚姻解消でも、財産分与を請求できるということです。
したかって、裁判上の離婚でも婚姻解消の場合でも、協議離婚の場合と同様に財産分与の問題が生じることになります。
[参考]婚姻取消に準用される離婚の条文(民法749条)
・姻族関係の終了(民法728条1項)
・離婚後の子の監護に関する事項の定め(民法766条)
・離婚による復氏等(民法767条)
・財産分与(民法768条)
・離婚による復氏の際の権利の承継(民法769条)
・子の出生前の離婚と子の氏(民法790条1項ただし書)
・離婚の場合の親権者(民法819条2項、3項、5項、6項)
財産分与は、婚姻中の共同財産の分配と、離婚後の一方当事者の生計を図ることを目的とします。
世の中で多いケースは、男が元妻に財産分与をするというケースです。
ですので、そのケースに沿って解説して参ります。
夫が婚姻中に「自己の名で得た」財産であっても、分与の対象になります。
妻の内助の功を評価するわけです。
財産分与の制度は、元妻の夫に対する扶養請求権という実質を持ちます。
もちろん、未成年子がいてその子を妻が育てるのであれば、その成人までの養育費も含まれます。
つまり、財産分与は、国が元妻の生活保護をしなくてもいいようにという、国家財政にとって都合のよい制度です。
そういう趣旨ですから、財産分与の問題については、男の側の有責性は要件ではありません。
男の側に落ち度がなくても、元妻は財産分与の請求をすることができます。
なお、財産分与は、当事者の協議により行いますが、協議が調わない、あるいは、協議そのものができない場合には、家庭裁判所に、協議に代わる処分を請求することができます。
しかし、これには期間制限があり、「離婚の時から2年」を経過すると、財産分与の協議に代わる処分を、家庭裁判所に請求することができなくなります。(民法768条2項)
財産分与と離婚の時期
財産分与請求権は、離婚により生じます。
その証拠に、民法768条1項には、協議上の離婚をした者は~財産分与を請求できると書いてあります。
したがって、実際に分与するのは、離婚後です。
仮に、離婚前に分与をすれば、税務署はこれを夫婦間の贈与とみなし、贈与税を賦課します。
贈与税は税率が高いです。ですので、実務上も、離婚届→財産分与の順が当たり前の順序です。
なお、離婚前に財産分与の協議が成立した場合、その効果は離婚の時に発生すると考えられています。
この場合(例えば夫所有のマンションの所有権を元妻に財産分与した場合)の登記原因日付は、離婚の日(離婚届を出した日)になります。
財産分与と慰謝料
離婚の際の財産分与と慰謝料はごっちゃに考えがちですが、一応は、別のものと考えられます。
慰謝料というのは、不法行為における精神的損害の賠償のことです。
ですので、慰謝料の場合には、男の側の有責性(故意・過失)が要件となります。
つまり、責任がないのであれば慰謝する必要なし、というのがこの場合の考え方なのです。
判例の考え方
判例は、財産分与と慰謝料は別物であると考えています。
両者は性質が違うので、財産分与後に慰謝料の請求をすることもできます。
しかし、判例は、財産分与の範囲を広く取る傾向にあります。
そして、すでにした財産分与の中に、実質的に慰謝料分が含まれる場合があり、この場合は、重ねて慰謝料の請求をすることはできないという結論を取ります。
財産分与と詐害行為取消権
財産分与により分与者の財産が減少する場合に、その者に対する債権者が財産分与を詐欺行為として取り消すことができるのでしょうか?
判例は、一般的にはこれを否定します。離婚に伴う元妻や子の養育費が、夫の債権者に優先するということです。
しかし、財産分与が不相当に過大であり、財産分与に仮託してなされた財産の処分であると認められる特段の事情がある場合に限り、詐害行為取消権の対象になり得るとしています。
財産分与と債権者代位権
離婚に伴う財産分与請求権を被保全債権として、債権者代位権の行使は可能なのでしょうか?
わかりやすく言えば、離婚の際の離婚相手に対する「その財産分けてよこせ」という財産分与請求権(すなわち債権)を持つ債務者に対して、その債権を、債権者は代位行使できるのか?(すなわち債権者代位権を行使できるのか?)という事です。
この問題について判例は、当事者間の協議または審判により財産分与請求権の内容が具体化するまでは、単に財産分与といっても、その範囲が不明確であり、したがって、そうした段階での債権者代位権の行使はすることができないとしています。
これは、どういう財産の分与を受けるかという点が不明瞭のまま、単なる将来の見込みに基づく債権者代位権の行使はできないという趣旨です。
まあ、これは当然と言えば当然と言えます。どんな財産をどれだけ受かられるかもハッキリしていない債権について「これぐらいはもらえるんじゃね?」という見込みだけで、債権者代位権の行使を可能としてしまうのはアカンやろ?という話です。
財産分与と内縁

内縁とは、事実上の婚姻ではあるが、婚姻届を欠く場合を言います。
例えば、10年間同棲しているが婚姻届は出していない、みたいな男女です。
婚姻届が出されていない以上、これは法律上の婚姻とは認められません。
いくら二人が愛を育んでいようとも関係ありません。
では、法律上の婚姻と内縁の違いとは何でしょうか?
法律上の婚姻と内縁の決定的な違いは、内縁の場合には、お互いがお互いを相続しないということです。
法律上の婚姻においては、配偶者(パートナー)は当然に相続人となりますから、この点は大きな違いです。
実は、民法には、内縁に関する条文は存在しません。
しかし、世の中には内縁という状態も数多く存在しますから、これに関する裁判例も多く存在します。
そして、この数々の裁判例が判例法となって、民法の不備を補完する形となっています。
その際の裁判所の基本的な考え方は、内縁においても、事実上の婚姻生活は存在するわけですから、なるべく、法律婚に関する条文を類推して適用しようということです。
最初に挙げた相互の相続権(お互いがお互いを相続する権利)は、その性質上、法律婚にしか認められません。(そうでなければ戸籍において相続人を確定しようとする民法の理想に反します)
しかし、性質上、類推可能な条文、つまり、婚姻届の存在が必須の前提条件であるとは考えられない規定は、そのまま内縁関係にも適用をするといのうが判例の基本的な方向性です。
損害賠償請求と財産分与請求
事例1
AはBとの内縁関係を不当に破棄した。
さて、この事例で、BはAに損害賠償請求をすることができるでしょうか?
結論。損害賠償請求は可能です。
その根拠として、婚姻予約の不履行または不法行為を理由として損害賠償を請求できるという判例が存在します。
この点、離婚に際して、一方から他方への損害賠償請求があり得ることと同様です。
また、内縁関係に不当な干渉をしてこれを破綻させた第三者が、不法行為による損害賠償責任を負うという判例もあります。
続いては、こちらの事例をご覧ください。
事例2
AとBは内縁関係を解消した。
さて、この事例2で、BはAに対して財産分与の請求をすることができるでしょうか?
結論。BはAに対して財産分与の請求は可能です。
離婚のケースで財産分与請求ができるのと同様、内縁の解消の場合でも財産分与の請求は可能なのです。
ただし、死別の場合、すなわち当事者の一方が死亡した場合には、財産分与請求はできないという判例があります。
死別の場合に財産分与を認めると、事実上、内縁の者に相続権を与えたのと同様の結論となり、相続に関する民法の基本的な理念に反することになるからです。
なお、内縁に類推適用される規定は他にもあります。
・婚姻費用の分担(民法760条)
・日常家事債務の連帯責任(民法761条)
・夫婦別産制(民法762条)
上記の規定も、内縁に類推適用されます。
オマケ:内縁の妻が夫の相続財産を承継する方法

裏技という訳でもないですが、一応、内縁の妻が相続財産を承継する方法はあるっちゃあります。
その方法を以下に解説します。
・夫に相続人がいる場合
内縁の妻には相続権がありません。夫の財産を相続することはできません。
この場合、夫の生前に「内縁の妻に遺贈する」という遺言を書いてもらうことが、内縁の妻に残された、夫の相続財産を承継するための最終手段だと言えます。
逆に言えば、遺言が存在せず、生前の贈与または死因贈与を受けていなければもうお手上げです。
・夫に相続人がいない場合
相続人が存在しない場合、内縁の妻は、その特別縁故者として夫の相続財産の付与の審判を求める申立てを家庭裁判所に対してすることができます。(民法958条の3)
この申立てを家庭裁判所が認めれば、内縁の妻が夫の財産を承継することが可能になります。
内縁の妻の方は、上記の方法で、夫の相続財産を承継することができますので、早めに手を打っておいた方が良いかもしれません(笑)。
【補足】
相続人が不存在の場合に、家庭裁判所が相続財産を取得させる審判をすることができる特別縁故者とは以下の者です。(民法958条の3)
・被相続人と生計を同じくしていた者(内縁の妻はここに含まれます)
・被相続人の療養看護に努めた者(ここには法人も含まれます。例:福祉法人など)
・その他被相続人と特別の縁故があった者
なお、上記の特別縁故者からの相続財産付与の申立てがないか、または、その請求が家庭裁判所に認められなかった場合、被相続人の財産は、原則として国庫に帰属します。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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