【婚姻解消~離婚と死別】【子の氏】【協議離婚と裁判上の離婚】【有責配偶者からの離婚請求】をわかりやすく解説!

【婚姻解消~離婚と死別】【子の氏】【協議離婚と裁判上の離婚】【有責配偶者からの離婚請求】をわかりやすく解説!

▼この記事でわかること
死別による婚姻解消
離婚による婚姻解消
子の氏について
協議離婚と裁判上の離婚
有責配偶者(不貞した側)からの離婚請求
裁判による婚姻
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
01冒頭画像

婚姻の解消~離婚と死別


 離婚によるものも死別によるものも、婚姻は解消します。
 しかし、その後の状況はそれぞれ異なります。
 では、一体どう違うのか?
 ひとつひとつ解説して参ります。

 なお、前提として、婚姻により妻が夫の氏を名乗るパターンで解説することをあらかじめご了承ください。
 夫婦別姓だなんだなどと議論があがる世の中ではありますが、これは一般的にイメージしやすくするためですので、余計な思考は及ばせないでください。(現行法では婚姻する場合どちらかの氏を双方が名乗ることになる←民法750条)


死別の場合


 死別の場合、婚姻を解消しようという当事者の意思が存在しません。
 そこで、当事者の一方が死亡しても諸々の事情はそのまま存続し、何も変化がないことが原則です。

1・婚姻により生じた姻族関係はそのまま
2・夫が死亡した場合の妻のもそのまま

 しかし、いずれの場合においても、生存配偶者の側で上記の関係を変化させることができます。


1について

 生存配偶者は、いつでも姻族関係を終了させる意思表示をすることができます。
 俗にわかりやすく言えば、残された妻が憎き姑との縁を切るということです。(民法728条2項は、姻族関係終了の意思表示をすることができる期間を規定していません。したがって「いつでも」できます)

 なお、民法は、生存配偶者(例えば生きている妻)からの姻族関係終了の意思表示だけを規定しています。
 したがって、姑(例えば死んだ夫の母)の側から姻族関係を切る手続きは存在しません。
 つまり、残された妻側から姑に対して姻族関係の縁を切ることはできても、姑の側からはできません。


2について

 妻はいつでも、婚姻前の氏に復する事ができます。(民法751条1項)
 つまり、夫と死別した妻は、いつでも旧姓に戻る事もできますし、そのまま夫の姓を名乗る事も可能です。


【補足】

 身分行為の問題は必ずしも連動しません。
 生存配偶者が姻族関係終了の意思表示をしても、氏は従来のままです。
 また、婚姻前の氏に復氏はしますが、姻族関係は切らないということも可能です。


離婚の場合


 離婚は、協議による場合も訴えによる場合も、いずれも、当事者における相手方配偶者との関係を絶つという明確な意思が存在します。
 そこで、従来の状況が変化することが原則です。

1・婚姻により生じた姻族関係は一挙に解消します。(民法728条1項)
→当然のことながら、離婚をした夫婦は、お互いがお互いを相続しません。

2・妻の氏は、当然に姻前の氏に復します。(民法767条1項)

 しかし、2についてのみ、次の例外が存在します。
 離婚により婚姻前の氏に復した者は、離婚の日から3ヶ月以内に限り戸籍の届出をすることにより、離婚の際に称していた氏を称することができます。(民法767条2時)
 つまり、離婚をした場合でも、妻は上記の3ヶ月以内の届出により、元夫の氏を名乗ることができます。

 ところで、この離婚の際の復氏の届けは、実務上、数多く存在します。
 その理由とは?
 離婚とは、相手と関係を絶つことなので、婚姻前の氏に復帰したいのが当然と考えられるところ、わざわざ元夫の氏になりますという届出をする人は、相当数存在します。
 これは、夫婦間に子供がいるケースです。
 これについて、順を追って解説して参ります。
 
 まず、夫婦間に子がいるとします。
 ここで、夫婦が離婚すると、妻の氏は、先述の3ヶ月以内の届出をしない限りは、婚姻前の氏に復します。
 では、この場合、子供の氏はどうなるのでしょうか?

 もちろん、変化はありません。
 つまり、子供は夫の氏のままなのです。
 そうすると、離婚後の妻の氏と子の氏が異なってしまうことになるのです。


【補足】


 民法790条1項は、子の出生前に父母が離婚した場合、生まれた子は、離婚の際における父母の氏(通常は夫の氏)を称するとしています。
 つまり、この場合にも、離婚後の妻と子の氏の齟齬が生じる(妻の氏と子の氏が異なってしまう)ことがあり得ます。
 
 なお、嫡出でない子(婚姻していない男女間の子)は母の氏を称します。(民法790条2項)
 このケースは、母を筆頭者とする戸籍に父の欄が空白のまま、子が記載されます。

 このように、妻が夫の氏を名乗る通常の婚姻のケースにおいては、離婚により母と子の氏が異なることになるのです。
 この事態を嫌えば、子を母の氏とするか、逆に母が子の氏になるしか手がありません。
 そして、この場合に、子を母の氏とすることが難しいのです。

 民法791条1項は
「子が父又は母と氏を異にする場合には、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができる」
 と規定しています。

 つまり、子の氏を婚姻前の母の氏にしようとすれば、この点についての家庭裁判所の許可必要なのです。
 これが、離婚後に子の氏を母の氏にそろえることが難しい理由です。

 そこで、この方法をらとらずに、母が子の氏(元夫の氏)を名乗ることにより母子の氏をそろえるのが、こうしたケースの一般的な形となるのです。
 こちらの方は、家庭裁判所の許可は不要であり、離婚から3ヶ月以内に届出をすれば簡単に母が元夫の氏を称することができるからです。

【親権と氏】

 双方にも直接の関係はありません。
 例えば、離婚後に母子の氏が異なっても、母が親権者であることは可能です。
 母子の氏をそろえたいと思うのは母子の情の問題であり、親権等の身分上の問題とは直接の関係はないのです。


父母が婚姻中の子の氏


 民法は、子を独立の人格と考え(戦前の家制度の否定)、子の氏は子独自のものと考えています。
 なので、父母の婚姻中にも子の氏と父母の氏が異なるという事態はあり得ます。

 例えば、婚姻中の父母が第三者の養子になるケースがあります。
 この場合、養子は養親の氏を称するので、父母は縁組をした相手方の養親の氏を称することになります。
 しかし、子の氏は変わりません。
 従前のままです。

 結婚した夫婦が第三者の養子になるという稀なケースですが、その夫婦は養親の氏を名乗ることになるので、その結果、父母の氏と子の氏(その夫婦とその子の氏)に齟齬が生じる訳です。
 ですが、この場合には、簡単に子の氏を父母の氏にそろえることができます。
 民法791条2項は、父母が婚姻中に限り、家庭裁判所の許可なく戸籍の届出により子の氏を父母の氏とすることができると規定しています。


未成年の子の氏


 子が15歳未満の場合、民法791条1項(父母婚姻外:要:家裁の許可)の規定による子の氏の変更は、その法定代理人(通常は親)が子に代わってすることができます。(民法791条3項)

 問題はこの後です。
 民法791条1~3項の規定により、子が氏を改めた場合、子は成年に達した時から1年以内に戸籍の届出をして従前の氏に復することができます。(民法791条4項)
 これなども、子の氏は子の人格の現れであり、親とは別の人格主体であるという民法の個人主義の現れの条文であると言えます。


協議離婚と裁判上の離婚

26家庭裁判所
 離婚には、協議によるものと、裁判によるものが存在します。
 夫婦は、その協議で離婚をすることができます。(民法763条)
 しかし、相手方が協議に応じない場合や、離婚に合意しない場合には、裁判によって離婚するしか手がありません。

 裁判上の離婚原因は次の5つです。(民法770条)

・配偶者に不貞な行為があったとき(例えば不倫など浮気)
・配偶者から悪意で遺棄されたとき
・配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
・配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
・その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき

※注意:離婚と婚姻取消しの違い
 離婚は、婚姻自体に瑕疵(欠陥)はないが、その後の事情により夫婦が別れるケースです。
 一方、婚姻取消しは、婚姻の成立そのものに瑕疵(欠陥)があるケースです。


裁量棄却


 裁判上の離婚については、他の訴訟においては考えにくい状況が生じることがあります。
 それは、裁判所による裁量棄却という制度です。

 通常、裁判は、原告側の主張がもっともだということになれば原告が勝ちます。
 民法の条文に書いてある法律要件にあたる事実が存在すれば、その法律効果が発生し原告が勝訴します。

 この原理によれば、民法770条が、離婚原因に配偶者の不貞を挙げているのだから、離婚の訴えを提起した者が、相手方配偶者の不貞(俗に言う浮気)の事実を証明すれば、原告勝訴、すなわち、離婚請求は認められるはずです。
 しかし、民法770条2項は、この場合であっても、すなわち、浮気の事実など先述の離婚原因が認められても「一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるとき」は、離婚の請求を棄却することができると規定しています。

 もっとわかりやすく噛み砕いて言うと、離婚したいと訴える原告の主張はもっともでも、原告を負けとして離婚を認めないという判決を出してもよいと、民法に規定されているのです。
 これを裁量棄却といいます。
 要するに、裁判官の裁量で請求を棄却することができる制度という訳です。

 具体例をあげればこうです、
→確かに夫は浮気した。
 しかし、一度きりの過ちであるし本人も深く反省している。
 また、二人の間にいるまだ幼少の子どもの福祉を考えれば、必ずしも離婚という結論が適切とは言えないと裁判官が判断すれば、妻からの離婚請求を棄却することが可能。

【補足】
 裁量棄却は、離縁の訴え(民法814条2項、770条2項)や株主総会決議取消の訴え(会社法831条2項)などでもあります。


有責配偶者からの離婚請求


 裁判上の離婚について、有責配偶者からの離婚請求は可能なのでしょうか?

 これはどういう事かといいますと、浮気した夫(あるいは妻)側から、離婚原因(配偶者の不貞)が存在するということを理由に、妻(あるいは夫)との離婚の訴えを提起することができるのか?という話です。
 わかりやすく言えば、浮気をしたなど不貞行為を働いた側から離婚請求ができるのか?という事です。

 この点について、有責配偶者(不貞行為を働いた側)からの離婚請求は認められないという考え方が一般的です。
 テメーで離婚原因を作りながら相手方に離婚を迫るなんてアカンやろ?という考え方です。
 これを有責主義といいます。
 一般論として、判例もこの立場と考えて間違いありません。
 つまり、有責配偶者からの離婚請求は、原則として認められません。

 まあ、これは当然と言えば当然ですよね。
 どのツラ下げて離婚請求しとんねん、て感じですからね(笑)。
 盗っ人猛々しいというか。

 しかし、次の特殊な事例において、判例では有責配偶者(不貞をした夫)からの離婚請求を認めています。

・夫婦がその年齢および同居期間と対比して相当の長期間別居している(具体的には同居10年、別居36年だった)
・夫婦間に未成熟の子がいない(上記別居期間から当然のことながら、事例においては未成熟子(幼い子供)はいない)
・相手方配偶者が離婚によって極めて過酷な状況に置かれる等、離婚請求により認容が著しく社会正義に反する特段の事情がある場合ではない(離婚により妻が過酷な状況に置かれるとは言えないという意味)

 上記3つの要素がそろえば、有責配偶者からの請求であるという一事をもって、離婚請求が許されないとすることはできないと判例は言っています。

 夫婦共同生活が事実上破綻している場合には、たとえ、有責配偶者からの離婚請求であっても認めてもよいという考え方を破綻主義といいます。
 破綻主義とは、なんだか坂口安吾なんかを思い起こさせるようなインパクトのある言葉ですよね(笑)。


【補足】

 配偶者の生死が不明の場合、裁判上の離婚原因にもなり得るが、失踪宣告(民法30条)の要件を満たせば、家庭裁判所に失踪宣告を求めることができます。
 この場合には、失踪者は死亡したものとみなされるから(民法31条)、財産法上は相続が発生し、身分法上は婚姻が死別により解消し、残された一方配偶者の再婚が可能となります。


裁判による婚姻


 ここまで、裁判等による離婚について解説して参りましたが、逆に、裁判による婚姻はあるのでしょうか?

 これについては、裁判所に婚姻を請求することはできないと考えられます。
 判例においては、内縁の妻が婚約の強制履行(すなわち婚姻の成立)を求めた裁判で、この請求を棄却しました。
 婚姻を成立させるかどうかは、あくまで、届出時の当事者の自由意思に任せるという趣旨です。

 当たり前と言えば当たり前の結論ですよね。
 仮にこの婚姻を認めたとしても、後に今度は離婚だなんだで揉めることが目に見えて明らかですし。

 なお、身分法上の問題として、婚約の強制履行はできませんが、婚約の不当な破棄が財産法上、婚姻予約の不履行または不法行為による損害賠償の問題を生じ得ることはあります。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
⇒⇒LECで宅建試験・行政書士試験・公務員試験の合格講座&テキストを探す!
関連記事