
▼この記事でわかること
・債務者が死亡した場合
・債務者(法人)の合併
・根抵当権者(法人)の合併
・会社分割の場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

根抵当権者、債務者の死亡・合併・分割
債務者の死亡
根抵当権者の債務者が死亡すると、その根抵当権はどうなるのでしょうか?
事例1
ZはAのために根抵当権を設定した(根抵当権はA、設定者はZ)。この根抵当権の債務者はBである。その後、Bは死亡した。
この場合、原則として、根抵当権は確定します。
その理由は、個人が死亡した場合、根抵当権者がその相続人と継続して取引を行うとは限らないからです。
これは当然ですよね。
八百屋の親父さんが死んで、跡を継ぐ気のないサラリーマンの息子が、相続人として親父さんの取引を継続することは考えにくいです。
しかし、場合によっては、関係当事者が取引の継続を願い、根抵当権の確定を好まないケースもあります。
これも当然ありますよね。
亡くなった八百屋の親父さんの跡を息子が脱サラして継ぐケースもありましょう。
そのため、民法は、根抵当権者と設定者の間で合意により定めた相続人が、相続の開始後に負担する債務を担保するという仕組みを用意しました。
つまり、事例1で、債務者Bの相続人である跡取り息子を、根抵当権者Aと設定者Zの間で、合意により定めていれば、債務者Bが死亡しても、根抵当権の継続使用が可能となります。
なお、この合意は、相続開始から6か月以内に登記をしなければなりません。
合意だけではダメです。
もし、登記をしなかった場合は、担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなされます。(民法398条の8第4項)
なので、仮に6か月経過後に合意の登記をしても却下になります。
なぜなら、相続開始の時に根抵当権はすでに確定しているからです。
いったん確定してしまった根抵当権を、確定前の状態に戻すことはできません。
合意の登記をして取引を継続した場合に担保する債権
合意の登記をすれば、債務者Bの死亡後も、根抵当権の取引を継続できることはわかりました。
そして、合意の登記をした場合、根抵当権は以下の債権を担保します。
・相続開始の時に存する債務(被相続人=死亡した債務者Bの債務)
・合意による債務者(Bの跡取り息子)が、相続開始後に負担する債務
死亡した債務者Bの債務についての債権=x
跡取り息子の相続開始後の債務=y
x + y =合意の登記した根抵当権が担保する債権
債務者が法人の場合

事例2
ZはAのために根抵当権を設定した(根抵当権はA、設定者はZ)。この根抵当権の債務者は(株)Bである。その後、(株)Bが(株)Cに吸収合併された。
さて、この事例2の場合、根抵当権はどうなるでしょうか?
結論。
この場合、根抵当権は原則として確定しません。
その理由は、会社が合併した場合、合併による存続会社と継続して取引を行うことが普通だからです。
このケースでは、根抵当権は、つぎの債務を担保します。(民法398条の9第2項)
・合併の時に存する債務(株式会社Bの債務)
・合併後存続する債務者(株式会社C)が合併後に負担する債務
合併の時に存する債務(株式会社Bの債務)=x
合併後存続する債務者(株式会社C)が合併後に負担する債務=y
x+ y =根抵当権が担保する債務
しかし、場合によっては、設定者Zが、取引の継続を嫌い、根抵当権の確定を望むケースもあります。
(株)Bには義理があったが、(株)Cの経営陣には義理がない、というようなケースです。
そのため、民法は、設定者からの「元本確定の請求」という制度を用意しました。
つまり、元本を確定させ「合併後存続する債務者=(株)Cが合併後に負担する債務」についての負担を免れさせる道もある、ということです。
ただ、これはあくまでも、担保の負担をする設定者の利益のための制度です。
なので、債務者からの確定請求という仕組みは存在しません。
なお、元本確定の請求は、設定者が以下の期間内にすれば、根抵当権の元本は「合併の時」に確定したものとみなされます。
・根抵当権設定者が合併のあったことを知った日から2週間以内
・合併の日から1か月以内
上記のうち、どちらかの期間を過ぎてしまうと、設定者は、債務者の合併を理由とする「元本確定の請求」ができなくなってしまいます。
根抵当権者の合併
こちらも、基本的は考え方は債務者合併のケースと同様です。(民法398の9第1項・4項・5項)
以下に、簡潔に解説をまとめます。
・原則として元本は確定しない。
・しかし、設定者が合併後の根抵当権者に義理がないことがある。
・なので、設定者が元本確定の請求をすることができる。
・設定者が、次の期間内に確定請求をすれば、元本は「合併の時」に確定する。
・根抵当権設定者が合併のあったことを知った日から2週間以内
・かつ、合併の日から1か月以内
上記請求期間ですが、合併のあったことを知った日から2週間以内かつ合併後の日から1か月以内です。
債務者死亡のケースよりも厳しくなっています。
なお、この根抵当権者合併のケースでの考え方は、設定者が債務者を兼ねるケースでも該当します。
合併したのは根抵当権者なので、設定者が合併による存続会社には義理がないケースはありうるからです。
会社分割の場合
会社分割とは、1つの会社を2つに割るケースです。
この場合、
分割前→(株)B
分割後→(株)B・(株)C
となります。
(株)Bが自社を2つに割り、これを設立した新会社または承継会社である(株)Cに包括承継する(まるまる受け継がせる)仕組みです。
このケースは、民法398条の10に規定されてます。
そして、基本的な流れは、合併のケースとまったく同様です。
ただし、会社分割の場合、元本確定請求がない場合の根抵当権の担保する範囲が合併のケースと異なりますので、この点のみ簡単に解説します。
1、根抵当権者の(株)Aが(株)Dに分割するケースでの根抵当権の担保する範囲
・分割の時に存する債権(株式会社Aの債権)
・分割後に株式会社A・Dが取得する債権
2、債務者の(株)Bが(株)Cに分割するケースでの根抵当権の担保する範囲
・分割の時に存する債務(株式会社Bの債務)
・分割後に株式会社B・Cが負担する債務
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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・債務者が死亡した場合
・債務者(法人)の合併
・根抵当権者(法人)の合併
・会社分割の場合
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今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

根抵当権者、債務者の死亡・合併・分割
債務者の死亡
根抵当権者の債務者が死亡すると、その根抵当権はどうなるのでしょうか?
事例1
ZはAのために根抵当権を設定した(根抵当権はA、設定者はZ)。この根抵当権の債務者はBである。その後、Bは死亡した。
この場合、原則として、根抵当権は確定します。
その理由は、個人が死亡した場合、根抵当権者がその相続人と継続して取引を行うとは限らないからです。
これは当然ですよね。
八百屋の親父さんが死んで、跡を継ぐ気のないサラリーマンの息子が、相続人として親父さんの取引を継続することは考えにくいです。
しかし、場合によっては、関係当事者が取引の継続を願い、根抵当権の確定を好まないケースもあります。
これも当然ありますよね。
亡くなった八百屋の親父さんの跡を息子が脱サラして継ぐケースもありましょう。
そのため、民法は、根抵当権者と設定者の間で合意により定めた相続人が、相続の開始後に負担する債務を担保するという仕組みを用意しました。
つまり、事例1で、債務者Bの相続人である跡取り息子を、根抵当権者Aと設定者Zの間で、合意により定めていれば、債務者Bが死亡しても、根抵当権の継続使用が可能となります。
なお、この合意は、相続開始から6か月以内に登記をしなければなりません。
合意だけではダメです。
もし、登記をしなかった場合は、担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなされます。(民法398条の8第4項)
なので、仮に6か月経過後に合意の登記をしても却下になります。
なぜなら、相続開始の時に根抵当権はすでに確定しているからです。
いったん確定してしまった根抵当権を、確定前の状態に戻すことはできません。
合意の登記をして取引を継続した場合に担保する債権
合意の登記をすれば、債務者Bの死亡後も、根抵当権の取引を継続できることはわかりました。
そして、合意の登記をした場合、根抵当権は以下の債権を担保します。
・相続開始の時に存する債務(被相続人=死亡した債務者Bの債務)
・合意による債務者(Bの跡取り息子)が、相続開始後に負担する債務
死亡した債務者Bの債務についての債権=x
跡取り息子の相続開始後の債務=y
x + y =合意の登記した根抵当権が担保する債権
債務者が法人の場合

事例2
ZはAのために根抵当権を設定した(根抵当権はA、設定者はZ)。この根抵当権の債務者は(株)Bである。その後、(株)Bが(株)Cに吸収合併された。
さて、この事例2の場合、根抵当権はどうなるでしょうか?
結論。
この場合、根抵当権は原則として確定しません。
その理由は、会社が合併した場合、合併による存続会社と継続して取引を行うことが普通だからです。
このケースでは、根抵当権は、つぎの債務を担保します。(民法398条の9第2項)
・合併の時に存する債務(株式会社Bの債務)
・合併後存続する債務者(株式会社C)が合併後に負担する債務
合併の時に存する債務(株式会社Bの債務)=x
合併後存続する債務者(株式会社C)が合併後に負担する債務=y
x+ y =根抵当権が担保する債務
しかし、場合によっては、設定者Zが、取引の継続を嫌い、根抵当権の確定を望むケースもあります。
(株)Bには義理があったが、(株)Cの経営陣には義理がない、というようなケースです。
そのため、民法は、設定者からの「元本確定の請求」という制度を用意しました。
つまり、元本を確定させ「合併後存続する債務者=(株)Cが合併後に負担する債務」についての負担を免れさせる道もある、ということです。
ただ、これはあくまでも、担保の負担をする設定者の利益のための制度です。
なので、債務者からの確定請求という仕組みは存在しません。
なお、元本確定の請求は、設定者が以下の期間内にすれば、根抵当権の元本は「合併の時」に確定したものとみなされます。
・根抵当権設定者が合併のあったことを知った日から2週間以内
・合併の日から1か月以内
上記のうち、どちらかの期間を過ぎてしまうと、設定者は、債務者の合併を理由とする「元本確定の請求」ができなくなってしまいます。
根抵当権者の合併
こちらも、基本的は考え方は債務者合併のケースと同様です。(民法398の9第1項・4項・5項)
以下に、簡潔に解説をまとめます。
・原則として元本は確定しない。
・しかし、設定者が合併後の根抵当権者に義理がないことがある。
・なので、設定者が元本確定の請求をすることができる。
・設定者が、次の期間内に確定請求をすれば、元本は「合併の時」に確定する。
・根抵当権設定者が合併のあったことを知った日から2週間以内
・かつ、合併の日から1か月以内
上記請求期間ですが、合併のあったことを知った日から2週間以内かつ合併後の日から1か月以内です。
債務者死亡のケースよりも厳しくなっています。
なお、この根抵当権者合併のケースでの考え方は、設定者が債務者を兼ねるケースでも該当します。
合併したのは根抵当権者なので、設定者が合併による存続会社には義理がないケースはありうるからです。
会社分割の場合
会社分割とは、1つの会社を2つに割るケースです。
この場合、
分割前→(株)B
分割後→(株)B・(株)C
となります。
(株)Bが自社を2つに割り、これを設立した新会社または承継会社である(株)Cに包括承継する(まるまる受け継がせる)仕組みです。
このケースは、民法398条の10に規定されてます。
そして、基本的な流れは、合併のケースとまったく同様です。
ただし、会社分割の場合、元本確定請求がない場合の根抵当権の担保する範囲が合併のケースと異なりますので、この点のみ簡単に解説します。
1、根抵当権者の(株)Aが(株)Dに分割するケースでの根抵当権の担保する範囲
・分割の時に存する債権(株式会社Aの債権)
・分割後に株式会社A・Dが取得する債権
2、債務者の(株)Bが(株)Cに分割するケースでの根抵当権の担保する範囲
・分割の時に存する債務(株式会社Bの債務)
・分割後に株式会社B・Cが負担する債務
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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