2021/12/08
【共同根抵当権と共有根抵当権】その特徴と違い/累積根抵当とは?わかりやすく解説
▼この記事でわかること・共同根抵当権の基本
・共同根抵当権の設定後
・累積根抵当とは
・共有根抵当権の基本
・共有根抵当権の元本確定前の譲渡
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

共同根抵当権
根抵当権は、「誰が誰とどういう取引をした場合にいくらまで担保するか」という「枠」を設定します。
つまり、根抵当権は、債権者と債務者の間の一定の取引を前提にして担保の枠だけを決めておく抵当権です。
その「枠」こそが、根抵当権のボスであり、その「枠」に出入りする不特定債権(枠の中で都度発生する債権)が部下です。
(こちら根抵当権の基本についての詳しい解説は「「【根抵当権】極度額の限度と債権の範囲」」をご覧ください)
なので、根抵当権の場合、複数の不動産を共同担保にするという概念になじみません。
抵当権であれば、特定の被担保債権を担保するための共同担保、と法律上当然に考えられます。
しかし、根抵当権の場合には、基本的にはそれぞれの不動産に「別の枠」がのっているだけなのです。
そこで、これらの根抵当権を「共同根抵当」として取り扱うためには、その設定と同時に「共同担保たる旨の登記」をしなければなりません。
(共同根抵当)
民法398条の16
第392条及び第393条の規定は、根抵当権については、その設定と同時に同一の債権の担保として数個の不動産につき根抵当権が設定された旨の登記をした場合に限り、適用する。
※民法392条→(共同抵当における代価の配当)
※民法393条→(共同抵当における代位の付記登記)
したがいまして、その旨の登記をすれば、1つの「枠」が、共同で各不動産にのることになります。
また、条文では「その設定と同時に」とあります。
その意味は「根抵当権の設定と同時に」ということです。
したがって、設定後の2つの根抵当権を「共同根抵当権」にすることはできません。
同じ理屈で、いったん「共同根抵当権」と登記したものを、別個の根抵当権に分割することもできません。
ちなみに、共同根抵当権を追加設定する場合、「根抵当権者」「極度額」「債務者」「債権の範囲」については、既存の根抵当権と一字一句違ってはならないという厳格さが要求されます。
一方、通常の抵当権の追加設定の場合、債務者の住所が、既存の登記は引越し前、追加設定後は引越し後、なんてことは実務上よくあり、不問に付されています。
共同根抵当権の設定後
共同根抵当権は、「債務者」「債権の範囲」「極度額」の変更、そして、譲渡(分割譲渡を含む)もしくは一部譲渡は、その根抵当権が設定されているすべての不動産について登記をしなければ、その効力が生じません。(民法398条の17第1項)
例えば、甲土地と乙土地に共同根抵当権が登記されていて、根抵当権者はA(楽器メーカー)、債務者はどちらもB(楽器店)だとします。
このケースで、根抵当権者と設定者の間で債務者変更の合意がされて、甲土地についてのみ債務者をC(別の楽器店)とする変更登記をしたとします。
その後、失念した乙土地の登記ををしない間に、元本が確定したらどうなるでしょう?
この場合、民法398条の17第1項により、乙土地の債務者はBであるとみなされます。
その結果、この共同根抵当権は、AB間に発生した債権において「確定」してしまいます。
つまり、乙土地の債務者変更の登記をし忘れたことによって、AもBもCも設定者も意図しない事態が起こり、困ってしまうことがあり得るのです。
このように、根抵当権の場合は、こまめに登記をしなければ、当事者の意図に反する結果となってしまうことがあるのです。
あれ?そもそも根抵当権者と設定者の関知しないところで元本確定事由が発生することはありえるの?
十分ありえます。
その理由は、共同根抵当権の元本は、一個の不動産についてのみ発生すれば、民法398条の17第2項の規定によりすべての不動産について確定するからです。
ちょこっとコラム

累積根抵当
これは、共同根抵当と同様に、複数の不動産に同一の根抵当権者が根抵当権を有するケースです。
しかし、累積根抵当は、共同根抵当とは異なる仕組みのものです。
累積根抵当のケースでは、民法392条1項(共同抵当における代価の配当)の割り付けは行いません。
(累積根抵当)
民法398条の18
数個の不動産につき根抵当権を有する者は、第三百九十八条の十六の場合を除き、各不動産の代価について、各極度額に至るまで優先権を行使することができる。
つまり、累積根抵当のケースでは、各不動産に設定された根抵当権は「相互に別物」ということです。
したがって、各根抵当権の債務者が一緒で同時に競売となった場合でも、民法392条1項(共同抵当における代価の配当)の割付は行われません。それぞれ別個の競売案件ということです。
また、債権の範囲、極度額なども同一である必要はまったくありません。
1個の不動産に確定事由が生じても他には影響しません。
これも「相互に別物」だからです。
なお、A不動産(価格金3000万円)、B不動産(価格金3000万円)で、Zが根抵当権者という場合に、累積根抵当設定のケースと、共同根抵当のケースの違いは以下のようになります。
[累積根抵当]
極度額 Z 極度額
2000万円↙︎ ↘︎2000万円
A B
2つの根抵当権は別物
[共同根抵当]
Z
極度額4000万円
/\
A B
1つの根抵当権
共有根抵当権
こちらは[共同]ではなく共有根抵当権です。(共有についての詳しい解説は「【共有】持分権とは」をご覧ください)
確定前の根抵当権の共有の性質は、含有であるとされています。
含有と言われてもピンと来ないと思いますが、その意味は「持分が潜在化している(隠れている)」ということです。
どういうことかと言いますと、確定前の共有根抵当権は、登記手続としては共有であるのに、持分の登記をしません。
不動産登記法では、登記名義人が複数いる場合、原則として持分が登記事項になっていますので、これは共有根抵当権の大きな特徴と言えます。
さて、では、その配当はどのように行われるのでしょうか?
例えば、ABの2名による共有根抵当権の場合、その配当金の取り分はどうなるのか?
この場合、ABはそれぞれの債権額に応じて弁済を受けることになります。(民法398条の14第1項本文)
つまり、ABは「同順位」で弁済を受けます。
ただし、元本の確定前に、これと異なる割合を定め、またはある者が他の者に先立って弁済を受けるべきことを定めたときは、その定めに従います。(民法398条の14第1項ただし書)
この定めを「優先の定め」といい、これは登記事項となります。
【補足】優先の定め
「AはBに優先する」「A7、B3の割合」といった具合に登記をします。
なお、優先の定めは「元本確定前に定めろ」との規定がありますが「元本確定前に登記しろ」とは定められておりません。
共有根抵当権の元本確定前の譲渡
ABの2名の共有根抵当権で、Aがその権利を譲渡することは可能です。(民法398条の14第2項)
この場合、設定者の承諾のほか、Bの同意も必要です。
ただし、譲渡できるのは、全部譲渡のみです。
一部譲渡、分割譲渡は、その後の法律関係がややこしくなるため認められていません。(法律関係がややこしくなるのは基本的に民法も裁判所も嫌う)
一方、ABが共同根抵当の場合は、全部譲渡、一部譲渡、分割譲渡のすべてが可能です。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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