2021/11/08
【譲渡担保】民法の条文にはない?【代理受領】債権の担保化とは?
▼この記事でわかること・譲渡担保とは
・譲渡担保の法的構成の問題
・集合物の譲渡担保
・債権を担保化する代理受領とは
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今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

譲渡担保の基本
譲渡担保は、民法の条文には存在しません。
つまり、慣習や判例により確立された担保の形式です。(非典型担保)
譲渡担保とは、債権担保のために目的物の所有権その他の財産権を債権者に譲渡し、一定の期間内に債務を弁済するときには、これを再び返還させるものです。
もう少しわかりやすく簡単に言いますと、債権の担保のために目的物の所有権を債権者に譲渡し、無事に弁済したら、債務者は譲渡したその所有権を債権者から返してもらう、というものです。噛み砕いて言えば、所有権を「質入れ」する、みたいな感じです。
譲渡担保は、不動産の他、担保物が動産の場合にも利用できます。
動産で譲渡担保を利用する場合、担保目的物の占有を、債権者に現実に移転するかどうかは自由です(任意)。なので、占有改定による引渡しも可能です。占有改定による引き渡しなら、債務者が(担保目的物となる)動産を実際には使用しながら、担保目的を果たすことも可能という訳です。(債務者が「債権者のために担保目的物を占有します」という形の公示が可能ということ)
動産を担保とするときには、民法上「質権」の制度がありますが、質権の場合は占有改定による引渡しでは成立しません。この点は譲渡担保の実益と言えます。
【補足】
動産の譲渡担保の公示方法は「引渡し」だが(占有改定を含む)、不動産の場合の公示方法はもちろん「登記」になります。
譲渡担保の法的構成の問題
そもそも、譲渡担保は民法の条文に存在しませんが、その法的構成が問題となります。
どういう事かと言いますと、具体例を挙げて解説します。
例えば、ある町工場の社長のおっさんが、銀行に自己所有の機械を譲渡担保に供したとします。
この場合に、機械の所有権がおっさんと銀行どちらにあるのか?というのがその問題の所在です。
そして、この点については次の2つの考え方があります。
1・所有権的構成
こちらは形式重視で、銀行が所有者という考え方です。
譲渡担保権者は内部的にも対外的にも取得します。
担保目的以外の権利行使は禁じられますが、それは当事者間の債権に過ぎません。
2・担保的構成
こちらは実質重視で、町工場のおっさんが所有者という考え方です。
譲渡担保権者が把握するのは、担保権のみであり、その他の価値は債務者に帰属します。
以上2つの考え方の内、通説は1の所有権的構成になります。
譲渡担保権は、当事者間において「譲渡」の形式をとるのだから、その意思を無視することは法律的に無理があるというのがその理由です。
判例も所有権的構成と評価されていますが、一部、担保的構成への接近を示す傾向もあります。
また、判例は、譲渡担保を実行するためには、清算手続きを要するとしています。具体的には、譲渡担保の目的物の価格が金5000万円で、(譲渡担保)実行時の債権額が金2000万円であれば、3000万円を清算しろということです。
集合物の譲渡担保
「在庫商品一式を担保にする」という形の、流動する多数の集合体(在庫は毎日変動する)を担保とする譲渡担保は可能なのでしょうか?
この点については、次の結論が判例によって採用されています。
・集合物の上にも1個の物権が成立する(一物一権主義に反しない)
・目的物の種類、所在、量的範囲が限定され、目的物が特定できれば譲渡担保の目的物となる。
なお、「家財一切」と定めただけでは特定方法として不十分です。
それでは、ここで次の事例をご覧ください。
事例
町工場の主が、倉庫にある在庫商品一式について金融機関に譲渡担保権を設定した。
さて、ではこの事例で、町工場から在庫商品を買った者は、無事に所有権を取得することができるのでしょうか?
結論。在庫商品の売買が、通常の営業の範囲内のものであれば、買主は購入商品の所有権を町工場の主から承継取得できます。
集合物の譲渡担保は、町工場の主は通常の営業活動を行いその利益で金融機関に債務の返済をする仕組みだからです。(主に債務者が抵当不動産を使用収益しながら債務を返済していく抵当権と似ている)
でもよくよく考えてみると在庫商品の数って変動するよね?それでも金融機関はいいのかな?
もともと、この場合には、在庫の内容は日々変動することは前提に、ある倉庫内の在庫一式を担保目的にしているのです。なので、通常の営業の範囲内の売却であれば、金融機関も了承済みなのです。
しかし、通常の営業の範囲外の売却については、所有権的構成によることころの金融機関の目的商品への所有権が優先します。
つまり、この場合は在庫商品の買主は所有権を取得できません。
代理受領
代理受領とは、債権を担保化する方法の1つです。
例えば、BがAに対して債務を負担する場合に、その弁済に代えてBがCに対して有する債権の取り立てをAに委任するというケースは代理受領です。
債権 債権
A → B → C
↑
Aに委任
ポイントは、Aは債権の取り立ての機能のみを取得するのであり、AC間に債権債務関係は生じません。
したがって、代理受領後も、Cの債権者はBのままです。AとCは無関係のままです。
この点が債権譲渡との違いです。
これがまず原則です。
しかし、Cが代理受領を承認し、その承認が、Bに対する債権の満足を代理受領により得ることができるというAの利益を「正当な理由なく侵害しない」という趣旨を含むと解されるときは、CがBに債務を弁済したときに、CのAに対する「不法行為」が成立することになります。
詳しく説明するとこうです。
債権 債権
A → B → C
↑
Aが取り立て
「BのAに対する債務」の弁済に代えて、AはCに対して「BのCに対する債権」の取り立てをすることにより「AのBに対する債権」の満足を得られる、という代理受領をCが承認し、その「承認」には「Aの利益を正当な理由なく侵害しない」という趣旨を含むと解される場合に、正当な理由なくCが(Aに対してでなく)Bに対して債務を弁済したときは、そのCの行為はAに対する不法行為になるということです。
要するに、Aの利益を知り、これを承認しながらもそれを踏みにじったCの行為が不法行為だという意味です。
では、なぜ「不法行為」になるのか?ですが、AC間に債権債務関係がないからです(契約関係がない)。
不法行為は「契約によらない債権(債務)」ですよね。したがって、不法行為の問題となるのです。
さて、譲渡担保と代理受領について、いかがでしたでしょうか?
譲渡担保と代理受領は、どちらかと言えば、民法の中でもマニアックな部類の項目になると思います。
譲渡担保は抵当権・質権との違いを、代理受領は債権譲渡との違いをしっかり押さえ、ごちゃごちゃにならないようにお気をつけください。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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