【先取特権】民法の原則を曲げる?/一般の先取特権/動産の先取特権/不動産の先取特権/第三取得者とは?わかりやすく解説!

【先取特権】民法の原則を曲げる?/一般の先取特権/動産の先取特権/不動産の先取特権/第三取得者とは?わかりやすく解説!

▼この記事でわかること
先取特権の基本
一般の先取特権
動産の先取特権
先取特権と第三取得者
不動産の先取特権
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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先取特権の基本


 先取特権とは、法律で定められたある種の債権を有する者に認められる、債務者の財産から他の債権者をすっ飛ばして優先的に弁済を受けられる権利です。 .

 先取特権は、法定担保物権の一種です。
 ある種類の債権者は法律上、当然に先取特権者になります。
 (設定契約なく法律の定めにより自動的に成立する権利(担保物権)ということ)なので、物上保証もありません。

 そして、先取特権は、債権者平等原則という民法の大原則をねじ曲げてしまうものです。
 場合によっては、早い者勝ちという民法の物権編の大原則すら曲げてしまいます。
 では一体、先取特権とはどのようなものなのか?
 わかりやすく具体的に解説して参ります。


先取特権の分類


 先取特権には、一般の先取特権と特別の先取特権があります。
 さらに、特別の先取特権は、動産に成立するものと不動産に成立するものがあります。

・一般の先取特権  
         動産の先取特権
・特別の先取特権〈
         不動産の先取特権

 一般の先取特権は、債務者の財産であれば、動産、不動産、債権などすべてに成立可能です。
 つまり、債務者の一般財産を目的とする先取特権です。
 一方、特別の先取特権である動産&不動産の先取特権は、特定の目的物の上にだけ成立します。


一般の先取特権


 一般の先取特権は、債務者の総財産を目的とします。
 債務者の総財産とtは、特別の担保の目的となっていない(抵当権や質権等の目的となっていない)債務者の総財産のすべてのことです(一般財産・責任財産)。
 なので先取特権者は、抵当権者や質権者などの者たちと違い、いわばサラ金業者等の担保のない一般債権者と同じ位にある者と言えます。
 ということは、債権者平等原則に従い、他の一般債権者と同様に優先弁済権は持たないように見えますが......。

 裁判所は先取特権者を優遇します。
 なんと先取特権者は、なんの登記もなく、対抗要件も必要なく、後からノコノコと現れても、サラ金業者等の一般債権者を押しのけて優先的に弁済を受けることができます。
 なのでサラ金業者等は、先取特権者が喰い漁った財産の残りから弁済を受けるしかありません。
 さすがのウシジマ君も困りもんです。

 ではなぜ、先取特権者はそのように優遇されるのでしょうか?
 もちろん、それには理由があります。


一般の先取特権の種類

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 一般の先取特権には、次のものがあります。

1・共益の費用
2・雇用関係
3・葬式の費用
4・日用品の供給

 これが、一般の先取特権の全部です。

 ではなぜ、これら一般の先取特権が優遇されるのか?ですが、それは社会政策的配慮によるものとされています。

 どういうことかといいますと、例えば、2の雇用関係の債権者が先取特権者の場合、勤務先(=雇用関係の債務者)が倒産した場合に、その従業員(=雇用関係の債権者)が優先して未払い給料等の債権を払ってもらえる、という訳です。
 給料等は必須の生活費になるのものだから優先しよう、という社会政策的配慮が一般の先取特権の制度の主旨なのです。

 なお、一般の先取特権者が複数いる場合の優先順位は、上記1~4の順番どおりになります。


補足

【退職金について】

 退職金は先取特権の対象となるのか?
 これについては、退職金の支払基準および実情に照らし給料の後払いの性格が認められるものについては、先取特権が認められます。


【パートタイム等バイト代について】

 これも雇用関係の債権です。
 したがって、先取特権が認められます。


【共益費用の先取特権について】

 一般の先取特権中では、共益費用の先取特権だけは他3者と毛色が違います。
 共益費用というのは、債権者全員にとってプラスになる費用です。

 例えば、不動産を競売するのであれば、裁判所に差押さえにかかる費用を予納しなければならないのですが、これが共益費用の典型です。
 この費用は、競売手続で配当をもらうすべての債権者にとっての共益費用ですよね。
 なので、共益費用を先取りされても他の債権者達も文句は言えないという訳です。

 以上の理由で、共益費用の先取特権は、その利益を受けた特別の先取特権者をも含めてその利益を受けたすべての債権者に優先します。


動産の先取特権


 動産の先取特権は、特定の動産を目的として成立します。
 動産の先取特権には次のものがあります。

1・不動産の賃貸借、旅館の宿泊および運輸
2・動産の保存の先取特権
3・動産の売買、種苗、肥料の供給および農工業労務の先取特権

 動産の先取特権者が複数いる場合の優先順位は、上記1~3の順番どおりになります。
 そして、上記の中で太字のものが主要なものになります。


【不動産の賃貸借の先取特権】

 これは、不動産の借り手が賃料を支払わない場合や、目的物を損傷するなど賃貸借契約上の損害賠償債務を負う場合に、その不動産のオーナーが持つ先取特権です。
 民法312条では「賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務」に先取特権が存在する、とありますので、賃料以外の債務も含みます。

 例えば、あるビルのオーナーが事務所を賃貸した場合に、その事務所内にある借主の動産全部について先取特権が成立します。
 金銭、有価証券、借主の家族の時計や宝石などにも成立します。
 仮に、事務所内に他人の動産があったとしても、オーナーがこれについて善意無過失であれば、先取特権は成立します。

 え?そこまでできちゃうの?

 はい。そうなんです。
 これ、中々のことですよね。(民法319条により、このケースでの即時取得に関する民法192~195条を準用すると規定されている)
 つまり、オーナーは借主が家賃を滞納しているような場合借主の事務所内の動産をまるごと押さえてしまえるという訳です。

 先取特権、ホントになんともウシジマ君ばりの荒々しい姿を持っています。
 でもこれが、不動産の賃貸借の先取特権の正体なんです。


【動産保存&動産売買の先取特権】

 こちらは、特定の動産だけが対象になります。
 例えば、時計を修理したのであれば、修理屋に、修理費用についての先取特権が生じます。(動産保存の先取特権)
 また、時計を売ったが代金未払いであれば、売主は売買代金について先取特権を取得します。(動産売買の先取特権)


【補足】
動産の先取特権者間の優先順位の注意点


 動産の先取特権者が複数いる場合の優先順位が
「1・不動産の賃貸借、2・動産の保存の先取特権、3・動産の売買」
 であることはすでに述べたとおりですが、例外のケースがいくつかあります。

「1・不動産の賃貸借の先取特権」で、家主が債権取得の時において、2または3の先取特権者の存在を知っていたときは、その者に対しては優先しません。
 その理由は、知っていて優先とするのはさすがに厚かましいからです。

 次に「2・動産の保存の先取特権」で、家主のために動産の修理をした者がいる場合は、動産保存の先取特権が優先します。
 こちらは、家主の善意・悪意とは無関係です。
 なぜなら、保存行為による利益(動産の修理による利益)を家主が受けているからです。

 そして、動産保存の先取特権者間では、後の保存者が優先します。
 つまり、後に修理した方が優先されるという事です。
 これは、後の者は前の者のためにも保存行為(修理等)をしたと考えられるからです。

 ちなみに、動産質権者と動産先取特権者との優先度の関係だと、動産質権者と「第一順位の先取特権者」が同順位の関係となります。
 したがって、配当金は債権額に応じて按分となります。
 もし試験で「質権者が優先」「先取特権者が優先」という肢があれば、どちらも誤りとなりますので、ご注意ください。


先取特権と第三取得者


 先取特権は、不動産を目的とする場合には登記をすることができます。
 しかし、動産を目的とする場合だと、登記は不可能です。
 なので、先取特権は公示のしようがないのです。
 公示のしようがないとは、先取特権という権利の存在を公に示す方法がないということです。

 つまり、先取特権は、外部からはまったく見えない権利なのです。
 そんな公示できない見えない権利であるにもかかわらず、一般債権者に対して優先するという訳ですから、先取特権とは何とも厚かましい権利だと言えます。
 しかし、そんな厚かましい先取特権にも、弱点があります。

 民法の条文はこちらです。
 
(先取特権と第三取得者)
民法333条 
先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。

 この民法333条の規定により、先取特権は、目的物の動産が債務者の手を離れ第三取得者のもとに移ってしまうと、行使することができなくなってしまうのです。
 具体的には次のようケースです。

事例
AはBが所有する時計の修理をしたが、まだ修理代金はもらっていない。その後、債務者Aは、その宝石を第三取得者のCに引き渡した。


 このケースで、Aが第三取得者Cに対し「Bが修理代金を払わないから時計を競売するぞ!」と先取特権(動産保存の先取特権)を主張することはできません。
 なぜなら、時計が第三取得者Cの手に渡ってしまったからです。
 たとえCが悪意であっても(修理代金未払いの事情を知っていても)Aは先取特権の主張はできません。
 また、BからCへの時計の引渡しが占有改定であっても無理です。

 というわけで、Aの先取特権は完全に詰んでしまったということです。
 これが、先取特権の決定的な弱点です。
 なお、この弱点は、一般の先取特権が動産を目的とする場合にも共通しています。

【補足】

 ではもうAには打つ手がないのでしょうか?
 実は、Aにはまだ奥の手が残されています。
 それは物上代位です。
 どういうことかといいますと、仮に債務者Bが時計をCに売ったのならば、その売買代金債権を差し押さて物上代位することは可能です。


不動産の先取特権

家くん

 不動産の先取特権は、その効力を登記により保存します。
 そして、不動産の先取特権には次の3種類があります。

1・不動産保存の先取特権
 (不動産の修繕費を被担保債権とする)
2・不動産工事の先取特権
 (不動産の工事費を被担保債権とする)
3・不動産売買の先取特権
 (不動産の売買代金を被担保債権とする)

 上記はいずれも登記されているものと考えてください。
 注意点を以下に簡単に記します。

 1は、権利の保存をしたときにも先取特権が発生します。
 2は、工事による不動産価額の増加が現存しないときは先取特権は生じません。
 3は、利息が不動産売買の先取特権の登記事項となります。

【補足】

 上記以外でも、一般の先取特権が不動産を目的とすることもあります。
 一般の先取特権の場合は、登記をしなくても一般債権者には優先します。
 ただし、登記がないと、抵当権者等の登記ある担保権者には勝てません。


権利間の順位


 さて、ここで問題となるのは、権利間の順位です。
 誰が誰に優先するのか、その順位争いです。
 登記された一般の先取特権を含めて、この戦いの参加メンバーは次の5者です。

1・不動産保存の先取特権
2・不動産工事の先取特権
3・不動産売買の先取特権
4・一般の先取特権
5・抵当権・質権

 不動産登記の基本原則から言えば、この5者の優先順位争いは登記の前後によるはずです。
 不動産登記は早い者勝ちの世界ですから。

 しかし、上記5者の内、その早い者勝ちの基本原則を破る者が2者います。
 その2者とは、1の不動産保存の先取特権と、2の不動産工事の先取特権です。
 この2者は、先順位の担保権を押しのけて優先配当を受けることができます。
 さらに、1の不動産保存の先取特権は、2の不動産工事の先取特権に優先します。
 
 一方、3~5の不動産売買の先取特権・一般の先取特権・抵当権・質権の間の順位は、「早い者勝ち」の不動産登記の原則通り、登記の先後によって決まります。


【順位の具体例】

 ある不動産に、つぎの順位で登記がされているとします。

1番 抵当権
2番 一般の先取特権
3番 不動産工事の先取特権
4番 不動産売買の先取特権
5番 不動産保存の先取特権

 この不動産を競売した場合、配当を受ける順番は以下の通りです。

1位 不動産保存の先取特権
  (原則破りのランクup)
2位 不動産工事の先取特権
  (原則破りのランクup)
3位 抵当権
  (早い者勝ちの原則通り)
4位 一般の先取特権
  (早い者勝ちの原則通り)
5位 不動産売買の先取特権
  (早い者勝ちの原則通り)

【補足】先取特権の効力

 これについては、その性質に反しないかぎり、抵当権の関する規定が準用されます。(民法341条)


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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