占有の推定力とは/占有回収の訴え/占有の承継人への返還請求/占有保持の訴え・占有保全の訴え/他主占有が自主占有へ転換するとき

▼この記事でわかること
占有の推定力とは
占有訴権(占有回収の訴え)の基本
占有の承継人への返還請求
占有保持の訴えと占有保全の訴え
他主占有から自主占有への転換
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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占有の推定力

 民法188条では、占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定しています(権利適法の推定)。
 これはどういう意味かと言いますと「真の所有権がどうだとかという真実はさておき、占有者は占有物について行使する権利を、適法に持ってると推定します」ということです。
 さらに、民法186条では「所有の意思」も推定されますから、民法188条の推定(権利適法の推定)とあいまって、占有者は特段の事情がなければ「所有者」であると推定されます。
 このように、占有者には「権利適法の推定」が働くわけですが、これは「第三者が占有者の権利を適法に信頼する場合」の話です。どういう事かといいますと、例えば「Aは占有者であるから所有者に違いない」という信頼が保護されるかどうか、というような「即時取得」のような局面での話になるということです。なので、AがBから所有権を取得した場合に、Bがその売買契約の無効を主張したときに、Aが現にその売買物を占有しているからといって、Aがその売買物の所有者だと推定される訳ではない(権利適法の推定は働かない)ということです。

占有訴権

 占有訴権とは、占有という事実状態に基づいて、裁判所に提起する訴えです。
 この訴えは、本権(所有権)についての訴えとは別物です。
 例えば、AがBから借りた物を第三者Cに奪われた場合、Aはどうやって第三者Cに対しその返還を求めればいいのでしょう?借りた物なのでAにはその所有権がありません。そうです。ここでAは占有権に基づく返還の訴えを提起できるのです。これが占有訴権です。
 なお、Aに所有権があれば「本権(所有権)に基づく返還の訴え」をする訳ですが、本権(所有権)も持っていて占有していた場合は「本権に基づく返還の訴え」と「占有権に基づく返還の訴え」のどちらを選択しても構いません。
 この「占有権に基づく返還の訴え」を占有回収の訴えと言います。
 そして、占有回収の訴えの要件は次の2点です。

1・占有者が占有を奪われたこと
2・占有を奪われた時から1年以内に訴えを提起すること

 実にシンプルな要件ですよね。
 まず1についてですが、これは「占有を奪われた」場合ということなので、占有物を騙されて渡してしまった場合や、失くしたりなど遺失した場合には、占有回収の訴えはできません。
 次に2についてですが、権利を行使できるのは、占有を奪われた時から1年です。占有を「奪われたことを知った時」から1年ではないので、ご注意ください。

占有回収の訴えに対し所有権を主張してきた場合

 もし占有回収の訴えを提起した場合に、相手方が「私はその物の所有者だ!」と所有権を主張してきたら、一体どうなるのでしょう?
 実は「占有回収の訴え」においては、裁判官は先述の要件「占有を奪われたかどうか」「占有を奪われた時から1年か」の2点しか判断しません。したがって、占有回収の訴えにおいて、たとえ相手方が所有権を主張してきたところで、原告側の占有者が勝ちます。なぜなら、民法202条2項に「占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない」とハッキリ規定されているのです。なので、相手方が所有権を主張してきたところで「知らねーし」となるのです。
 でもそうなると、被告側(占有者から占有回収の訴えを受けた相手方)には打つ手がないのでしょうか?本当に真の所有者であるなら何とかできないと困りますよね?
 その場合は、本権(所有権)に基づく反訴を提起すれば良いのです。反訴とは、被告が原告を逆に訴えることです。つまり、占有回収の訴えの被告(訴えられた側)が、原告(訴えた側)の占有者を本権に基づいて訴え返せば良いのです。
 そうすれば、占有回収の訴えでは負けても、本権の訴えで勝つことは可能です。
 ややこしく感じるかもしませんが、ルール上そのような仕組みになっているのです。そしてこれが、先に「占有訴権と本権についての訴えとは別物」と言ったことの意味です。両訴えはまったく別の原理による訴えなのです。
 なお、これは過去の判例でも「占有の訴えに対して防御方法として本権を主張することは許されないが、本権に基づく反訴の提起は同条(民法202条2項のこと)の禁じるところではない」と裏付けられています。

占有の承継人への返還請求
泥棒
 それでは、次のような場合は一体どうなるのでしょう。

事例1
Aは所有するジュエリーをBに貸して引き渡した。その後、Cはそのジュエリーを盗み出し、それから三ヶ月が経過した。


 これは、AがBに貸したジュエリーをCが盗んだ、という事例です。
 さて、ではこの事例で、AはCに対して占有回収の訴えを提起できるでしょうか?
 まず、BがCに対して占有回収の訴えを提起できるのは明らかです。なぜなら、Bは占有者で、ジュエリー(占有物)は奪われていて、まだ1年以内だからです。
 ということで、ここでの問題は、盗まれたジュエリーの所有者だが実際に占有はしていないAが、占有権に基づいたものである占有回収の訴えを提起できるのか?Aに占有権はあるのか?になります。 
 先に結論を申し上げてしまうと、Aは占有回収の訴えを提起することができます。それを根拠づける民法の条文がこちらです。

(代理占有)
民法181条 
占有権は、代理人によって取得することができる。


 この条文中での「代理人」とは、無権代理人とか委託を受けた代理人とかで言うような代理人とは意味が違います。ここで言う代理人とは「占有の代理人」という意味です。
 したがって、民法181条は「占有権は占有の代理人を通して取得できる」と言っているのです。
 では、その「占有の代理人」は誰なのか?ですが、事例1で言えばそれはBになります。つまり、民法上、BはAの代わりに占有していることになります。そして、Aは占有代理人Bを介してジュエリーの占有権を取得する、ということです。
 また、この場合のAの占有を代理占有と言います(間接占有とも言う)。
 一方、Bの占有を自己占有と言います(直接占有とも言う)。

【補足】
 事例1で、賃貸借期間を定めてAがBにジュエリーを賃貸していた場合に、その賃貸借期間が終了したら、Aの占有はどうなるのでしょう?
 これについては、民法204条2項に「占有権は、代理権の消滅のみによっては、消滅しない」とあります。したがって、Aは占有を失いません。ただし、Bが「ジュエリーは私のモノだ!」と主張すると、Aは占有権を失ってしまいます(民法204条1項2号)。なので、そうなってしまった場合は、もはやAに占有回収の訴えを提起することはできません。
 では、Aはどうやってジュエリーを取り戻せばいいのか?ですが、これは単純に「本権(所有権)に基づく返還請求」をすればいいのです。そもそもAはジュエリーの所有者なのですから、本権のフィールドで争えばいいのです。 

 では続いて、次のケースではどうなるでしょう?

事例2
Aは所有するジュエリーをBに貸して引き渡した。その後、Cはそのジュエリーを盗み出し、Dに売り渡した。


 なんだかCがどんどん悪どいヤツになってきましたね(笑)。
 さて、ではこの事例2で、AおよびBは、Dに対して占有回収の訴えを提起できるのでしょうか?
 結論。DがCによるジュエリーの侵奪の事実を知っていれば、AおよびBはDに対して占有回収の訴えを提起できます。逆に、DがCによるジュエリーの侵奪の事実を知らなければ、AおよびBはDに対して占有回収の訴えの提起はできません。
 なお、この結論の根拠となる条文はこちらです。

(占有回収の訴え)
民法200条2項
占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。


上記条文中の「特定承継人」とは、事例2で言えばDです。
「侵奪の事実を知っていたとき」とは、要するに「侵奪の事実について悪意」ということですね。
 したがって、D(特定承継人)が悪意なら、AおよびBは占有回収の訴えを提起することができるが、Dが善意なら、AおよびBは占有回収の訴えを提起することはできない、となるのです。
 じゃあ何か手はないの?
 Aはジュエリーの所有者なので、その所有権(本権)に基づいて争う事になります。そして、その場合に適用する民法は193条「盗品又は遺失物の回復」になります。

 続いて、次のケースではどうなるでしょう。

事例3
Aは所有するジュエリーをBに貸して引き渡した。その後、Cは死亡し、Dが相続した。


 この事例3で、AおよびBはDに対して占有回収の訴えを提起できるでしょうか?
 結論。AおよびBはDに対して占有回収の訴えを提起できます。
 事例2とは違い、この事例3のDはCの相続人です。相続は包括承継であり、財産上の地位そのものの移転です。ということは、DはCの「ジュエリーの侵奪者という地位」そのものを、そのまま引き継ぐことになります。したがって、AおよびBから(Cの侵奪者としての地位を包括承継した)Dへの占有回収の訴えの提起が可能なのです。
 なお、相続による包括承継は法律の定めによるものなので、相続人Dが侵奪の事実について善意でも結論は変わりません。Dの善意悪意はこの場合は関係ないのです。

占有保持の訴え・占有保全の訴え
裁判所
 占有訴権には、占有回収の訴えの他にも2つの規定が存在します。
 それは、占有保持の訴え(民法198条)と占有保全の訴え(民法199条)です。

【占有保持の訴え】
 占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止および損害の賠償を請求することができます。
 妨害の停止の請求ってなに?
 例えば、台風で隣家の木が自分が占有する土地に倒れてきた場合、占有侵害を理由に「この木をどかせ!」と隣家の主に請求することができます。
 なお、その場合の「木をどかすための費用」をどちらが持つか?ですが、判例は隣家の側としています。また「木をどかせ」と請求するのに占有侵害の事実以外の要件はありません。木が倒れた原因が台風なら隣家に過失はなさそうですが、それでも「木をどかせ」と請求できます。

【占有保全の訴え】
 例えば、隣家の木が自分の土地に倒れてきそうな場合、まだ現実の占有侵害の事実はないけども、「妨害の予防措置」を講ずるか、万が一倒れた場合の「損害賠償の担保」を立てるかの、どちらか一方を請求できます。これが占有保全の訴えです。
 ここでご注意いただきたいのが「損害賠償の担保の請求」であって「損害賠償の請求」ではないということです。そもそも、現実に発生していない損害の賠償を請求できる訳がありませんよね。なので、あくまで「損害賠償の担保の請求」なのです。

【補足】
 占有保持の訴えを行うケースでは、すでに占有侵害の事実が現実化しているので「木をどかせ」のような請求以外にも、シンプルに損害賠償請求も可能です。しかし、この損害賠償の性質は、不法行為による請求になると考えられます。となると、侵害者や妨害者の故意・過失が要件になるので、台風が原因で木が倒れた等の場合は難しいと考えられるでしょう。

提訴期間

【占有保持の訴え】
 占有回収の訴えの提訴期間は「占有を奪われた時から1年」です。
 これは、占有保持の訴えも同様です。
 占有保持の場合、占有の妨害が存在する間はずっと「妨害の停止」と「損害賠償」の請求が可能です。そして、妨害が終わった場合は「損害賠償」の請求のみ、妨害終了後1年の期間可能です。
 なお、その妨害が工事によるものである場合には、たとえ妨害が継続していても「その工事に着手した時から1年を経過し、又はその工事が完成したとき」に、「妨害の停止」と「損害賠償」の両請求ができなくなります(訴えの提起ができなくなる)。これは例えば、隣地で何か工事をやっていて、それが自分の占有を侵害したようなケースです。この場合に、もし完成した工事について「妨害の停止」の請求ができてしまうと、せっかく時間と費用をかけて完成させた工事をがっつりやり直すことになりかねません。ましてやそんな事例が全国各地で起きてしまったら社会経済的損失にも繋がりますよね。なので、このような規定になっています。(民法201条1項ただし書き)

【占有保全の訴え】 
 占有保全の訴えの場合「妨害予防」または「損害賠償の担保」の請求ができるのは、妨害の危険が生じている期間だけです。
 つまり、その危険が去れば請求権を残す必要もないという訳です。
 また、妨害の危険が工事によるものであれば、占有保持の訴えの場合と同様「その工事に着手した時から1年を経過し、又はその工事が完成したとき」に、訴えの提起はできなくなります。(民法201条2項後段)

自主占有への転換

「所有の意思のある占有」を自主占有、「所有の意思のない占有」を他主占有と言います。
 わかりやすく簡単に言うと、「買主」は自主占有者ですが、「賃貸人」や「受寄者(物を預かって保管する者)」は他主占有者です。
 そして、両者の違いが重要になる局面として、即時取得のケースがあります。
 例えば、Aさんが宝石の買主であれば、たとえ売買が無効な場合でも、権原の性質(権利の元の性質)が自主占有なので、その占有を続ければ時効取得の可能性が出てきます。しかし、そしAさんがその宝石の借主にすぎなければ、それは他主占有なので、いくら占有を続けようが時効取得はできません。なぜなら、取得時効の要件は「所有の意思のある占有の継続」だからです。
 自主占有かどうかはどう決まるの?
 これは占有を生じさせた事実(占有権原)の性質により客観的に決まります。どういう意味かというと、例えば、Aさんがアパートを借りていたとして「今年からは所有の意思を持って占有しよう」と決意しても、Aさんの自主占有に変わることない、ということです。
 では、どうすれば他主占有が自主占有に転換するのでしょうか?
二本指b
 民法では、2つの場合に、他主占有が自主占有に切り替わる旨を規定しています。

(占有の性質の変更)
民法185条
権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。
 

1・占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示する
 これは、借家人が家主に「この家は私の物だ!」と表示するケースですが、賃貸借そのものの終了がないと認められない主張です。
 ちょっと現実には考えにくいケースなので、そういうケースもあるんだぁ、ぐらいに思っておいていただければ結構です。

2・新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始める
 これは、借家人が家主から家を買い取るようなケースです。
 買い取ることが、民法185条条文中の「新たな権原」にあたります。したがって、他主占有者だった借家人が家主から家を買い取って占有すれば、それは自主占有へと転換されます。

相続は「新たな権原(新権原)」にあたるのか

 例えば、ある土地の賃借人Aが死亡し、相続人Bがその占有を承継した場合に、相続人Bは、相続開始の時からの占有を理由としてその土地の時効取得ができるのでしょうか?もし相続が、民法185条の「新たな権原」にあたるなら、相続開始の時から他主占有から自主占有へ切り替わり、占有を続ければ時効取得できることになりますが...。
 結論。相続という事実だけでは「新たな権原(新権原)」と言えないとするのが一般的な考え方で、判例の見解も同様です。したがいまして、相続人Bは土地の時効取得はできません。
 ただし、被相続人が土地建物の管理人だったケースで、以下のような判例の一文があります。

「相続人が被相続人の死亡により、相続財産の占有を承継しただけでなく、新たに相続財産を事実上支配し、その占有に所有の意思ありとみられる場合、新権原による自主占有と認めうる」

 どういうことかと言いますと、上記判例のような特殊な事情がある場合には相続人による自主占有も可能性アリで、相続人による時効取得も可能性アリ、ということです。(上記判例では、相続人が一時期賃料をいたため、所有の意思は否定された)
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