占有~本権のある&ない占有/善意占有と悪意占有と果実/占有者の不法行為と費用

▼この記事でわかること
占有の基本~本権のある&ない占有
善意占有と悪意占有とは
占有と果実
占有者の不法行為
占有者と費用
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者でもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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占有

 占有とは、事実上の支配状態で、それを保護するのが占有制度です。
 占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得します。
 以上は、占有についての小難しい言い回しの端的な説明ですが、まず大事なポイントとして、占有権は所有権とは違います。両方とも物権ですが、所有権は「本権」で、占有権は「本権」ではありません(これについて詳しくはこちら)。
 そしてここも大事なポイントですが、占有には「本権(所有権)のある占有」「本権(所有権)のない占有」があります。
 この違いをわかりやすく噛み砕いてざっくり言うとこうです。
 人から借りた物を自己のために所持することは「本権のない占有」です。例えば、レンタルDVDなんかもそうですね。(ちなみに盗品でも本権のない占有になる)。
 一方、自分で買ったり人からもらった物を自己のために所持するとそれは「本権のある占有」です。例えば、購入したDVDなんかそうです。
 つまり、自己所有物の占有などの本権(所有権)を持った占有と、自己所有物ではない物の占有などの本権(所有権)を持たない占有とがあるのです。

善意占有と悪意占有

 占有について考えるときに、善意占有悪意占有という言葉が使われます。
 善意占有も悪意占有も「本権のない占有」です。
 それぞれどういう意味かというと、こうです。
 善意占有は「その占有に本権がないこと」について善意という意味です。本当は所有者ではないのにそれとは知らず自分の物だと思って占有していた場合はまさに善意占有になります。
 悪意占有は「その占有に本権がないこと」について悪意という意味です。つまり、本当は所有者ではないことを知りながらの占有です。

[参考図]

   本権のある占有
  ↗
占有         善意占有           
  ↘       ↗
   本権のない占有
          ↘
           悪意占有

 なお「本権のない占有」の場合、その占有者は、善意占有だろうが悪意占有だろうが、真の権利者(所有者)から本権に基づく目的物の返還請求をされる可能性があります。まあ普通に考えて当たり前の話ですよね。

占有と果実
アパート
 ここからは占有と果実の問題について考えて参ります(果実については詳しくはこちらへ)。

事例1
Aは所有権があると誤信して甲建物を善意占有している。そしてAは甲建物をBに賃貸した。その後、甲建物の真の所有者Cが現れ、Aに対してその所有権に基づき甲建物の返還を請求した。


 これはどういう事例かといいますと、所有者ではないのに所有権があると間違えて信じて甲建物を占有しているAが、甲建物をBに賃貸していて、そこに甲建物の真の所有者Cが現れて、Aに対して甲建物の返還請求をした、という話です。
 まず前提として、Aは善意占有なので甲建物の所有権は持っていません。つまり、Aの甲建物の占有は「本権のない占有」です。なので、所有権=本権を持っている真の所有者Cからの「所有権(本権)に基づく返還請求」に対して、Aは拒むことができません。これは善意占有だろうが悪意占有だろうが一緒です。
 以上を踏まえた上で、本題はここからです。
 AがBから受け取った甲建物の家賃(果実)はどうなるのでしょう?
 本来のスジから考えれば、AがBから受け取った家賃はCに返還すべきです。なぜなら、それは不当利得になるからです。
 なので、AはCに対し、Bから受け取った家賃を耳を揃えて返さなければならないはずです。
 しかし、どうでしょう。これはこれでAはが少し気の毒な気もします。妙な言い方かもしれないですが、Aは甲建物を善意占有、つまり、本権(所有権)があると誤信しているだけなのです。
 ということで、民法は、そんな善意占有者を救済するための規定を置きました。

(善意の占有者による果実の取得等)
民法189条 
善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。


 上記条文中の果実とは、事例1で言えば「甲建物の家賃」になります。そして、占有物は甲建物です。
 という訳で、答えは出ましたね。
 結論。善意占有者AはBから受け取った甲建物の家賃を取得します。Cに返還する必要はありません。 

【補足】占有者はいつから悪意になるのか

 善意占有者であっても、真の所有者が現れれば、その占有者は「本権がないこと」について悪意になります。ではその善意から悪意に切り替わるのは具体的にいつなのでしょう?
 これについては民法189条2項で「訴えの提起の時」と規定されています。この「訴えの提起の時」とは、真の所有者が目的物の返還請求の訴えを提起した時のことです。つまり、事例1で言えば、真の所有者Cが「甲建物の真の所有者は私だ!だから返還しろ!」と裁判所に訴えた時にAは悪意占有になる、ということです。
 したがって、そのままAがその裁判に敗訴すれば、悪意占有に切り替わって以降、すなわち訴えの提起の時以降の果実=「訴えの提起の時以降に受け取った家賃」は、真の所有者Cに返還すべきことになります。

悪意占有と果実
悪意
 悪意占有は「本権のないこと」を占有者が知っています。なので、本当は目的物から生じる果実も真の権利者のものであることを占有者は知っています。言ってみれば自分の物でないと分かっていながらかすめ取ってるようなもんです。
 ということで、民法190条1項では「悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う」と定めています。つまり、もし事例1のAが悪意占有だった場合、AはBから受け取った甲建物の家賃を真の所有者Cに返還しなければならないのはもちろん、滞納家賃があればその分の償還の義務もAはCに対し負うということです。
 そして、ここでひとつ注意点があります。
 民法190条2項によると「暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者」は悪意占有と同じように扱うとしています。つまり、たとえ善意占有だとしても「暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者」であれば、悪意占有の場合と同じように果実を返還しなければならないのです。
 善意・悪意とは、あくまで「事情を知っているか知らないか」に過ぎません。したがって「暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者」が善意であることも十分ありえます。なので、もし試験で「善意占有者が果実を返還しなければならないケースはない」という肢が出てきたら、それは誤りです。ご注意ください。

占有者の不法行為

事例2
Aは所有権があると誤信して甲建物を善意占有している。そしてAは甲建物を自らの不注意で損傷した。なお、甲建物の真の所有者はCである。


 さて、この事例2で、善意の占有者Aは甲建物の真の所有者Cに対して、その損害を賠償すべきなのでしょうか?
 まず、Aは自己の不注意によって甲建物を損傷しましたので「これによって生じた損害を賠償する責任」(民法709条:不法行為による責任)を負うことになります。
 でもこれ、どうでしょう。Aが少し気の毒な気もしませんか?というのも、Aは自分の物だと思って甲建物を使用しています。本来自分の物であれば損傷しようが困るのは自分自身で、誰に賠償も何もないですよね?つまり、善意占有のAはそういう前提のもとに甲建物を使用していたはずなんです。それで全額賠償というのは、さすがにAがちょっと気の毒です。
 そこで民法は、このような場合、善意占有者の責任自体は免除しないものの、その賠償金額をオマケしてあげる規定を置きました。それは民法191条の「善意の占有者はその滅失又は損傷によって現に利益を受けている限度において賠償をする義務を負う」です。
 この「現に利益を受けている限度」とは現存利益を指しますが、では具合的に何を言っているのかといいますと、例えば、甲建物が失火で焼けた場合「現存利益」はないから賠償しなくていいが、もしAが火災保険を受け取っていたなら、その分は真の所有者Cに返還しなさいよ、ということです。
 なお、悪意占有の場合には賠償金額のオマケはありません。損害の全部を賠償すべきです。
 さらに、試験等での注意点として、たとえ善意占有者でも「所有の意思がない」ときは、全額の賠償すべきとなります。「所有の意思のない善意占有」とはなんぞや?ですが「賃借権がないのにあると誤信して占有している者」がその代表例です。これはつまり、所有の意思がない時点で「他人の物」だという事は知っているわけですから「他人の物は大事にしろ」となるのは当たり前で、借りた物を過失(落ち度)によって壊したのなら、それは全額賠償すべきだ、となるのです。 
 また、もうひとつ注意点があります。
 善意占有も悪意占有も、占有者に帰すべき事由(故意または過失)がなければ賠償の必要はありません。この点は一般の不法行為責任と同様となります。この点ご注意ください。

【補足】
「所有の意思のある占有」を自主占有と言います。
「所有の意思のない占有」を他主占有と言います。

占有者と費用
お金
事例3
甲建物を善意占有しているAは、その建物の雨漏りの修繕をした。また、建物の雨戸を新調した。その後、甲建物の真の所有者のCが現れ、甲建物はAからCに返還されることとなった。


 まず、この事例での論点は、雨漏りの修繕費と雨戸の新調費用についてになります。
 雨漏りの修繕費は必要費です。一方、雨戸の新調の費用は有益費です。
 ということで、ではこの事例3で、善意占有者のAは真の所有者Cに対して甲建物を返還する際、必要費と有益費を請求できるでしょうか?
 まず、この問題についての考え方の基本は「公平」の観点になります。つまり「どうするのがよりフェアか?」という考え方です。
 真の所有者Cは甲建物の返還を受けることになります。その際に、甲建物の価値がAの負担によって維持され(必要費)、またその価値が増加しているのであれば(有益費)、それは「公平の観点」から考えればCが負担すべきですよね。でないとCがマル得になってしまいます。それはフェアとは言えません。加えて申し上げるなら、これには善意か悪意かも関係ありません。
 以上の事を踏まえた上で、民法196条の規定により、必要費については全額の請求が可能です。つまり、事例3のAは、甲建物の返還の際、真の所有者Cに対し必要費(修繕費)の全額を請求することができます。

【補足】
 同じ論理で、泥棒(占有者)が盗んだ自転車のパンクを修理した場合に、その費用は修繕費=必要費なので、なんと泥棒は被害者に対し必要費(パンクの修理代)の請求をすることができます。ただ、このことと被害者が泥棒に対してその盗難によって生じた損害の賠償を請求(不法行為による損害賠償請求)できるこことは、法律的にまったく別問題なのでご注意ください。
 なお、占有者が果実を取得したケースでは、通常の必要費は請求できません。(民法196条1項ただし書き)

 さて、必要費についてはわかりました。では、有益費の方はどうなのでしょうか。
 こちらについても、民法196条に規定があり「有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる」と定められています。これは何を言っているのか、事例3に当てはめて説明するとこうです。
「甲建物の価格の増加が現存する場合に限り、真の所有者C(回復者)の選択に従い、Aが支出した必要費(雨漏りの修繕費)か有益費(雨戸の新調費用)のどちらかを請求できる」
 つまり、実際には、Aは真の所有者Cに対して、必要費か有益費のどちらか安い方のみしか請求できないのです(普通に考えてCは安い方を選択するに決まっている。もちろん高い方を選択してくれれば高い方を請求できるが...)。
 また、もし甲建物の価格の増加額がゼロならば、請求できる金額もゼロです(つまり請求できない)。

 最後に繰り返しますが、占有者から回復者(真の所有者)への必要費・有益費の請求額は、占有者の善意・悪意による違いはありません。この点はくれぐれもご注意ください。
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Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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