抵当権者は抵当権を行使せず一般財産を差し押さえられる?抵当権者と一般債権者の利害の調整をわかりやすく解説!

抵当権者は抵当権を行使せず一般財産を差し押さえられる?抵当権者と一般債権者の利害の調整をわかりやすく解説!

▼この記事でわかること
抵当権者は抵当不動産を競売にかけず一般財産を差し押さえることができるのか?
抵当不動産より一般財産の方が先に競売されたとき抵当権者は何ができる?
一般財産の強制競売に抵当権者が参加できる理由と一般債権者とのバランス
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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抵当権者と一般債権者の利害調整



 抵当権者などの担保権者は、抵当権を設定した不動産などの担保目的物の競売代金から優先的に弁済を受けることができます。(優先弁済権←競売代金から優先的に金を回収できる権利)
 しかし、抵当権などの担保を持たない一般債権者(例えばサラ金業者など)は、(担保権者がごっそり持っていった後の)担保物の競売代金のおこぼれにあずかるか、担保物以外の財産(一般財産)にありつくしかありません。
 この点を踏まえた上で、まずは次の問題について解説して参ります。


抵当権者は抵当不動産を競売にかけず
一般財産を差し押さえることができるのか?



 結論から先に述べると、抵当権者が一般財産を差し押さえることは可能です。
 つまり、抵当権者が抵当権を行使するかしないかは、抵当権者の自由ということです。

 ただ現実に、抵当権者が抵当権を行使せず、わざわざ一般財産を差し押さえるなんてことはあまり考えられません。
 なぜなら、抵当権者が優先弁済権を持つのはあくまで抵当不動産についてだけです。

 それに、一般財産を差し押さえるには、裁判所の手続を経て債務名義を取得しなければなりません。
 つまり、裁判を起こさないといけないわけです。
 ですので、抵当権を持つ抵当権者が、わざわざあえてそんな面倒なことを普通はしないでしょう。

 ですが、もし抵当権者が、その抵当権を行使しないで一般財産を差し押さえる手続きを取ったらどうなるでしょう?
 こうなると、困ってしまうのは抵当権者以外の一般債権者です。
 なぜ一般債権者が困ってしまうかというと、一般財産に群がる債権者が1人増えてしまうからです。
 一般債権者が1人増えれば、その分、一般債権者ひとりひとりの取り分が減ります。
 つまり、一般債権者からすると「おまえ(抵当権者)はこっち来んなよ」という感じなんです。
 さらに、たとえ抵当権者が抵当権を行使しないからといって、一般債権者が抵当権者より先立って抵当不動産の競売代金に手を出すことはできません。

 ということで、抵当権者が一般債権者の群れに参加するのは、一般債権者にとってはただただ迷惑でしかないのです。
 でもこれってどうでしょう?
 ちょっと抵当権者に有利すぎるというか、公平さに欠けると思いませんか?
 そこで、民法394条1項で次のような規定が置かれています。

(抵当不動産以外の財産からの弁済)
民法394条1項
抵当権者は、抵当不動産の代価から弁済を受けない債権の部分についてのみ、他の財産から弁済を受けることができる。

 この民法394条1項で言っている事がどういう事なのか解説しますと「抵当権者が抵当権を行使せずに一般財産を差し押さえるのは自由だが、もし抵当権者が一般財産を差し押さえた場合、抵当権者が一般財産から弁済を受けられる範囲は、抵当不動産からだけでは足りない部分についてのみ」という事です。

 もっとわかりやすく具体的に解説すると、例えば、抵当不動産の価格が2000万円で被担保債権額が1000万円だった場合、抵当権者は一般財産から弁済を受けることはできません。
 しかし、被担保債権額が3000万円だったら、3000万−2000万(抵当不動産の価格)=1000万円は、一般財産から弁済を受けることができる、ということです。

 なお、一般債権者が存在しない場合は、抵当権者が一般財産から弁済を受けることに何の制約もありません
 民法394条1項の規定は、あくまで一般債権者が存在する場合の抵当権者と一般債権者の利害の調整のための規定です。
 一般債権者が存在しなければ、利害の調整も必要ないですからね。


抵当不動産より一般財産の方が先に競売されたときの抵当権者
家くん
 民法394条1項の規定により、抵当権者はその被担保債権について抵当不動産から弁済を受けられない部分(抵当不動産の競売代金からの配当では足りない分)のみ、一般財産から弁済を受けることができます。
 抵当権者が一般財産の競売に参加することには制限があるからです。

 しかし、民法394条2項では、一般財産の強制競売が抵当不動産の強制競売より先行するときは、民法394条1項の規定は適用しないと定めています。
 したがって、一般財産の強制競売が抵当不動産の強制競売より先行するケースでは、抵当権者は被担保債権の全額について、一般財産の競売に参加できます。(そのケースでは抵当権者の参加に制限がないということ)


一般財産の強制競売に抵当権者が参加できる理由


 一般財産の強制競売が先行するケースで、その競売への抵当権者の参加が制限されてしまうと、次のような弊害が起こる可能性があります。

 その後に行われる抵当不動産の競売だけでは被担保債権の全額を回収できなかった場合に、本来なら、その足りない分について一般財産から配当を受けることができる部分も、抵当権者は配当を受けられなくなってしまいます。
 つまり、一般財産の強制競売が先行するケースで、その競売への抵当権者の参加が制限されてしまうと、抵当権者の権利を侵害してしまうという弊害があるのです。

 以上の理由から、民法394条2項により、一般財産の強制競売が抵当不動産の強制競売よりも先行するケースでは、抵当権者は被担保債権の全額について、一般財産の競売に参加できるのです。


一般債権者は困らないのか


 一般財産の強制競売への抵当権者の参加は、一般債権者からすると債権者が増えるので迷惑です。
 債権者が増えると、その分ひとりひとりの取り分が減ってしまうからです。
 ですので、抵当権者の一般財産の競売への参加をただただそのまま認めてしまうと、一般債権者の権利とのバランスを考えると不公平です。

 そこで、民法394条2項では、一般財産から抵当権者が受ける配当金を抵当権者に直接配当せず、その金額を供託するように、一般債権者が裁判所に請求できることを定めています。

 供託とは、法務局にお金を預けることです。
 つまり、民法394条2項では、一般債権者が「その抵当権者への配当金は法務局に預けておけ!」と裁判所に請求できることを定めているのです。
 供託された配当金は、その後に行われる抵当不動産の競売の結果を見てから、関係当事者(抵当権者や一般債権者)に振り分けられます。
 このような形で、抵当権者の権利と一般債権者の権利のバランスを図っているのです。


抵当権についての論点おまけ:
抵当権と地上権(永小作権)の放棄



 抵当権を設定した地上権者は、その地上権を放棄することを抵当権者に対抗することができません。
 ここでの注意点は、抵当権を設定した地上権者は、その地上権を放棄すること自体はできるということです。
 ただ「それを抵当権者に対抗することができない」ということです。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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