2019/02/03
抵当権の時効~抵当権は時効消滅するのか
抵当権には付従性があります。ですので、その抵当権の元となっている被担保債権が消滅すれば、その抵当権も消滅します。従いまして、被担保債権が時効により消滅すれば、抵当権も消滅します。そして、この場合の時効期間は、民法167条1項により10年間になります。これは債権の消滅時効の一般則です。
実は抵当権には、先述の債権の消滅時効の一般則である民法167条1項の規定以外に、抵当権自体の消滅時効についての規定があります。
(抵当権の消滅時効)
民法396条
抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。
これは何を言っているのかといいますと、債務者(金を借りた人)と抵当権設定者(多くは金を借りた本人だが、本人以外に物上保証人というケースもある)に対しては、被担保債権と同時でなければ抵当権が時効消滅することはない、ということです。つまり、債務者と抵当権設定者に対しては、抵当権が独自に時効消滅することはないということです。
まあ、これは当たり前の話ですよね。被担保債権があって抵当権が存在する訳ですから、被担保債権が時効消滅しない限り、抵当権も時効消滅しないのは当然です。
ただ、ここでポイントになるのは「債務者及び抵当権設定者に対しては」というところです。これは逆に言えば、債務者及び抵当権設定者以外であれば、抵当権が独自に時効消滅することがあり得るということです。
従いまして、後順位抵当権者や抵当不動産の第三取得者などの債務者及び抵当権設定者以外の者に対してであれば、抵当権が独自に時効消滅することはあります。そしてこの場合の時効期間は、民法167条2項により20年です。
なぜ債務者及び抵当権設定者以外に対しては抵当権が独自に時効消滅するのか
これはシンプルにこう考えるとわかりやすいと思います。
債務者及び抵当権設定者は、被担保債権の直接の関係者です。しかし、債務者及び抵当権設定者以外の、後順位抵当権者や抵当不動産の第三取得者は、被担保債権とは直接の関係はありませんよね?なので、後順位抵当権者や抵当不動産の第三取得者に対しては抵当権が独自に時効消滅する、ということになるのです。
抵当目的物の所有権が時効取得された場合
民法では、抵当目的物の所有権が時効取得された場合の規定を設けています。
(抵当不動産の時効取得による抵当権の消滅)
民法397条
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。
これは、例えば、A所有の甲不動産に抵当権を設定し登記していたところ、Bが甲不動産を時効取得したようなケースのことを言っています。
そしてこの場合、民法397条の規定により、Bが甲不動産を時効取得すると甲不動産に設定登記されていた抵当権は消滅します。
時効取得者に甘くね?
そう思う方もいるでしょう。しかし、時効取得は原始取得です。原始取得ということはつまり、Bが甲不動産を時効取得すると、甲不動産は始めからBの物だったことになるのです。始めからBの物だったということは、甲不動産は抵当権設定以前からBの物だったということです。そうなると、もはや甲不動産に設定されていた抵当権は、Bにとっては全く無関係であり、入り込む余地がないのです。
従いまして、民法397条の規定は、何も特別に時効取得者に甘くしているわけでなく、そもそも時効取得自体がとても強力なモノだということです。
ここでひとつポイントがあります。
時効取得は原始取得なので、わざわざ先述の民法397条の規定を置かずとも、抵当不動産が時効取得されれば、時効取得本来の性質により抵当権は消滅しますよね?
ここで今一度、民法397条をよく読んでみて下さい。
民法397条
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。
よく読んでみると、条文の主語が「債務者又は抵当権設定者でない者が」となっています。ということはつまり、「債務者又は抵当権設定者が」時効取得しても、抵当権は消滅しないということです。
従いまして、実は民法397条で本当に言いたいことは「債務者又は抵当権設定者が時効取得しても抵当権は消えない」ということなのです。
ややこしい書き方するな~
と思われる方もいるかと思いますが、これは典型的な法律の読み方のひとつです。法律に慣れてきて、リーガルマインドが身に付いてくると、違和感なくこのような読み方もできるようになります。
今後、本格的に民法を学びたい!試験のために民法の理解が必要だ!という方は、このような法律の読み方には、是非慣れて頂きたいと存じます。
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