
▼この記事でわかること
・抵当権の消滅時効の基本
・なぜ債務者及び抵当権設定者以外に対しては抵当権が独自に時効消滅するのか
・抵当目的物(抵当不動産など)の所有権が時効取得された場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

抵当権の消滅時効
抵当権には付従性があります。
そして、くっ付いて従うのが付従性という性質です。
ですので、その抵当権の元となっている被担保債権(融資等で抵当権設定の原因となっている債権)が消滅すれば、それに従って抵当権も消滅します。
したがいまして、被担保債権が時効により消滅すれば、抵当権も消滅します。
そして、この場合の時効期間は、民法166条により「債権者が権利を行使することができる時から10年間(または権利を行使することができることを知った時から5年間)」となります。
これは債権の消滅時効の一般則です。
実は抵当権には、先述の債権の消滅時効の一般則である民法166条の規定以外に、抵当権自体の消滅時効についての民法の規定があります。
(抵当権の消滅時効)
民法396条
抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。
この民法396条で何を言っているのかをわかりやすく解説するとこうです。
債務者(金を借りた人)と抵当権設定者(多くは金を借りた本人だが、本人以外に物上保証人というケースもある)に対しては、被担保債権と同時でなければ消滅時効により抵当権が消滅することはない、ということです。
つまり、債務者と抵当権設定者に対して、抵当権が消滅時効により独自に消滅することはないということです。
まあ、これは当たり前の話ですよね。
被担保債権(抵当権で担保する債権)の存在があって初めて抵当権が存在する訳ですから、被担保債権が消滅時効により消滅しない限り、抵当権も消滅時効による消滅をしないのは当然です。
ただ、ここでポイントになるのは「債務者及び抵当権設定者に対しては」という部分です。
これは、逆に言えば、債務者及び抵当権設定者以外であれば、抵当権が独自に消滅時効により消滅することがあり得るという意味でもあります。
したがいまして、後順位抵当権者や抵当不動産の第三取得者(抵当不動産を売買等で取得した者)などの債務者及び抵当権設定者以外の者に対してであれば、抵当権が独自に消滅時効により消滅することはあります。
そして、この場合の時効期間は、民法166条2項により20年です。
なぜ債務者及び抵当権設定者以外に対しては抵当権が独自に時効消滅するのか
これは、わかりやすくシンプルに考えるとこうです。
債務者(金を借りた人)及び抵当権設定者(多くは金を借りた本人)は、被担保債権(融資等で抵当権設定の原因となっている債権)の直接の関係者です。
しかし、債務者及び抵当権設定者以外の、後順位抵当権者や抵当不動産の第三取得者(抵当不動産を売買等で取得した者)は、被担保債権とは直接の関係はありませんよね?
なので「後順位抵当権者や抵当不動産の第三取得者に対しては抵当権が独自に消滅時効により消滅する」となるのです。
抵当目的物の所有権が時効取得された場合
民法では、抵当目的物の所有権が時効取得された場合の規定を設けています。
(抵当不動産の時効取得による抵当権の消滅)
民法397条
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。
民法397条は、例えば、A所有の甲不動産に抵当権を設定し登記していたところ、Bが甲不動産を時効取得したようなケースのことを言っています。
そしてこの場合、民法397条の規定により、Bが甲不動産を時効取得すると甲不動産に設定登記されていた抵当権は消滅します。
時効取得者に甘くね?
そう思う方もいるでしょう。
しかし、時効取得は原始取得です。
原始取得ということは、つまり、Bが甲不動産を時効取得すると、甲不動産は始めからBの物だったことになるのです。
始めからBの物だったことになる、ということは「甲不動産は抵当権設定以前からBの物だったことになる」ということです。
そうなると、もはや甲不動産に設定されていた抵当権は、Bにとっては全く無関係であり、入り込む余地がないのです。
したがいまして、民法397条の規定は、何も特別に時効取得者に甘くしているわけでなく、そもそも時効取得自体がとても強力なモノだということです。

ここでひとつポイントがあります。
時効取得は原始取得なので、わざわざ先述の民法397条の規定を置かずとも、抵当不動産が時効取得されれば、時効取得本来の性質により抵当権は消滅しますよね?
ここで今一度、民法397条をよく読んでみてください。
民法397条
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。
この民法397条、よく読んでみると、条文の主語が「債務者又は抵当権設定者でない者が」となっています。
これは何を意味しているかというと「債務者又は抵当権設定者が」時効取得しても、抵当権は消滅しないという事を意味しています。
したがいまして、実は民法397条で本当に言いたいことは「債務者又は抵当権設定者が時効取得しても抵当権は消えない」ということなのです。
ややこしい書き方するな~
ですよね。
きっと男だったらこんな奴モテないでしょう(笑)。
なんて冗談はさておき、実はこれ、典型的な法律の読み方のひとつなんです。
なので、法律に慣れてきて、リーガルマインドが身に付いてくると、違和感なくこのような読み方もできるようになります。(決してモテなくなる訳ではない)
今後、本格的に民法を学びたい!試験のために民法の理解がどうしても必要だ!という方は、このような法律の読み方には、是非慣れていただきたいと存じます。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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・抵当権の消滅時効の基本
・なぜ債務者及び抵当権設定者以外に対しては抵当権が独自に時効消滅するのか
・抵当目的物(抵当不動産など)の所有権が時効取得された場合
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今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

抵当権の消滅時効
抵当権には付従性があります。
そして、くっ付いて従うのが付従性という性質です。
ですので、その抵当権の元となっている被担保債権(融資等で抵当権設定の原因となっている債権)が消滅すれば、それに従って抵当権も消滅します。
したがいまして、被担保債権が時効により消滅すれば、抵当権も消滅します。
そして、この場合の時効期間は、民法166条により「債権者が権利を行使することができる時から10年間(または権利を行使することができることを知った時から5年間)」となります。
これは債権の消滅時効の一般則です。
実は抵当権には、先述の債権の消滅時効の一般則である民法166条の規定以外に、抵当権自体の消滅時効についての民法の規定があります。
(抵当権の消滅時効)
民法396条
抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。
この民法396条で何を言っているのかをわかりやすく解説するとこうです。
債務者(金を借りた人)と抵当権設定者(多くは金を借りた本人だが、本人以外に物上保証人というケースもある)に対しては、被担保債権と同時でなければ消滅時効により抵当権が消滅することはない、ということです。
つまり、債務者と抵当権設定者に対して、抵当権が消滅時効により独自に消滅することはないということです。
まあ、これは当たり前の話ですよね。
被担保債権(抵当権で担保する債権)の存在があって初めて抵当権が存在する訳ですから、被担保債権が消滅時効により消滅しない限り、抵当権も消滅時効による消滅をしないのは当然です。
ただ、ここでポイントになるのは「債務者及び抵当権設定者に対しては」という部分です。
これは、逆に言えば、債務者及び抵当権設定者以外であれば、抵当権が独自に消滅時効により消滅することがあり得るという意味でもあります。
したがいまして、後順位抵当権者や抵当不動産の第三取得者(抵当不動産を売買等で取得した者)などの債務者及び抵当権設定者以外の者に対してであれば、抵当権が独自に消滅時効により消滅することはあります。
そして、この場合の時効期間は、民法166条2項により20年です。
なぜ債務者及び抵当権設定者以外に対しては抵当権が独自に時効消滅するのか
これは、わかりやすくシンプルに考えるとこうです。
債務者(金を借りた人)及び抵当権設定者(多くは金を借りた本人)は、被担保債権(融資等で抵当権設定の原因となっている債権)の直接の関係者です。
しかし、債務者及び抵当権設定者以外の、後順位抵当権者や抵当不動産の第三取得者(抵当不動産を売買等で取得した者)は、被担保債権とは直接の関係はありませんよね?
なので「後順位抵当権者や抵当不動産の第三取得者に対しては抵当権が独自に消滅時効により消滅する」となるのです。
抵当目的物の所有権が時効取得された場合
民法では、抵当目的物の所有権が時効取得された場合の規定を設けています。
(抵当不動産の時効取得による抵当権の消滅)
民法397条
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。
民法397条は、例えば、A所有の甲不動産に抵当権を設定し登記していたところ、Bが甲不動産を時効取得したようなケースのことを言っています。
そしてこの場合、民法397条の規定により、Bが甲不動産を時効取得すると甲不動産に設定登記されていた抵当権は消滅します。
時効取得者に甘くね?
そう思う方もいるでしょう。
しかし、時効取得は原始取得です。
原始取得ということは、つまり、Bが甲不動産を時効取得すると、甲不動産は始めからBの物だったことになるのです。
始めからBの物だったことになる、ということは「甲不動産は抵当権設定以前からBの物だったことになる」ということです。
そうなると、もはや甲不動産に設定されていた抵当権は、Bにとっては全く無関係であり、入り込む余地がないのです。
したがいまして、民法397条の規定は、何も特別に時効取得者に甘くしているわけでなく、そもそも時効取得自体がとても強力なモノだということです。

ここでひとつポイントがあります。
時効取得は原始取得なので、わざわざ先述の民法397条の規定を置かずとも、抵当不動産が時効取得されれば、時効取得本来の性質により抵当権は消滅しますよね?
ここで今一度、民法397条をよく読んでみてください。
民法397条
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。
この民法397条、よく読んでみると、条文の主語が「債務者又は抵当権設定者でない者が」となっています。
これは何を意味しているかというと「債務者又は抵当権設定者が」時効取得しても、抵当権は消滅しないという事を意味しています。
したがいまして、実は民法397条で本当に言いたいことは「債務者又は抵当権設定者が時効取得しても抵当権は消えない」ということなのです。
ややこしい書き方するな~
ですよね。
きっと男だったらこんな奴モテないでしょう(笑)。
なんて冗談はさておき、実はこれ、典型的な法律の読み方のひとつなんです。
なので、法律に慣れてきて、リーガルマインドが身に付いてくると、違和感なくこのような読み方もできるようになります。(決してモテなくなる訳ではない)
今後、本格的に民法を学びたい!試験のために民法の理解がどうしても必要だ!という方は、このような法律の読み方には、是非慣れていただきたいと存じます。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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