【抵当権の消滅請求と代価弁済】どう違う?第三取得者が抵当不動産について費用を支出すると?わかりやすく解説!

【抵当権の消滅請求と代価弁済】どう違う?第三取得者が抵当不動産について費用を支出すると?わかりやすく解説!

▼この記事でわかること
抵当権の消滅請求の基本
誰に対してどのように請求するのか
代価弁済
抵当権消滅請求と代価弁済の違い
第三者取得者が抵当不動産について費用を支出した場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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抵当権の消滅請求


 抵当権の設定された不動産を取得した者(抵当不動産の第三取得者)から、抵当権の消滅を請求する手段があります。
 それが抵当権消滅請求です。
 ケースとしては、抵当権の設定された不動産を「売買で取得した者」「贈与を受けて取得した者」「財産分与で取得した者」などが抵当権消滅請求をします。

 ここで一点、ご注意いただきたいのが、抵当不動産を相続により取得した者は、抵当権消滅請求はできません。
 なぜなら、相続人は、抵当権設定者の地位そのまま受け継ぐからです(包括承継)。
 また、抵当不動産の地上権・賃借権の取得者からの抵当権消滅請求という仕組みはありません。
 この点もご注意ください。


誰に対してどのように請求するのか


 抵当権消滅請求は、登記簿(登記事項証明書)に載っている抵当権者全員に対して書面を送達して行います。
 ちなみに、その書面には「金〇〇円支払うから抵当権の消滅に応じろ」という旨の文章が書いてあります。
 そして、抵当権消滅請求の通知を受けた抵当権者は、通知の到達から2ヶ月以内に、次のどちらかの選択を迫られます。

1・金〇〇円に納得し、素直に抵当権消滅請求に応じる
2・金〇〇円では少なすぎるとして、抵当権権者自らが競売を申し立てる


 抵当権権者としては、しっかりと被担保債権(抵当権の原因となる貸金=抵当権者が債務者に貸した金)の弁済を受けられることが第一です。
 ですので、抵当権消滅請求の書面に書かれた「金〇〇円」の金額で、被担保債権の弁済が満足を受けられるのであれば、抵当権者は納得して1の選択をします。

 しかし、金〇〇円は、実際には抵当権消滅請求をしてきた第三取得者(抵当不動産を売買や贈与等で取得した者)が値踏みした金額であることがほとんでしょう。
 そこで、抵当権者がその金〇〇円では少ないと思った場合は、2の方法で、競売代金から配当金を受けることもできるというわけです。

 さて、では抵当権消滅請求を受けた抵当権者が、何の回答もしないまま2ヶ月が経過した場合はどうなるでしょう?
 その場合は、抵当権者は、金〇〇円を承諾したとみなされます。
 また、抵当権者が2の手段を選択したが、その競売の申立てを取り下げた場合も、金〇〇円を承諾したとみなされます。
 同様に、競売の申立てが却下または取り消された場合も、金〇〇円を承諾したとみなされます。


抵当権者の承諾後
OKサラリーマン
 登記簿に載っている抵当権者全員が、第三取得者(抵当不動産を売買や贈与等で取得した者)の提示した金〇〇円を承諾し、第三取得者がその金額を払い渡すか、供託すると、抵当権は消滅します。※
※供託とは、わかりやすく簡単に言うと、法務局に一旦お金を預けること。弁済と同じ法的効果がある。

 なお、抵当権者のうち1人でも抵当権を実行し競売を申し立てれば、競売手続へ移行します。
 以上が、抵当権消滅請求の手続の流れになります。

【補足1】
 相続人が抵当権消滅請求ができないことは、すでに解説しました。
 他にも、主たる債務者その保証人も抵当権消滅請求をすることはできません。

【補足2:買主の代金支払拒絶権】
 民法には「買い受けた不動産について、抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続きが終わるまで、その代金の支払いを拒むことができる」との規定があります。
 通常、売買契約上、買主には代金支払義務が生じます。
 ですので、これは義務を拒絶するという、かなりレアな、数少ない例外規定です。

 あとこれは余談ですが(抵当権消滅請求とは関係ありませんが)他にも、売買の目的について権利を主張する者があるために買主がその買い受けた権利を失うおそれがある場合に、代金の全部または一部の支払いの拒絶をできる、との規定もあります。


代価弁済


 抵当権消滅請求と似て非なる制度があります。
 それは代価弁済です。

 抵当権の設定された不動産の所有権または地上権を買い受けた第三者(第三取得者)が、抵当権者の請求に応じて、その抵当権者にその代価(その抵当権者から金〇〇円と請求された金額)を弁済すると、抵当権は、その第三者(第三取得者)のために消滅します。
 これが、代価弁済という制度です。
 民法の条文はこちらです。

(代価弁済)
民法378条
抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。

 代価弁済と抵当権消滅請求には違う点がいくつかあります。
 最大の違いは、抵当権消滅請求第三取得者側(抵当不動産を売買や贈与等で取得した者)から金額を提示して抵当権の消滅を迫る制度なのに対して、代価弁済は抵当権者側からアクションを起こします。
 つまり、抵当権消滅請求の場合は第三取得者側(抵当不動産を売買や贈与等で取得した者)が主導権を握るのに対して、代価弁済の場合抵当権者側が主導権を握ります。

 では、代価弁済を迫られた第三取得者はどうすればいいのでしょう?
 実は、第三取得者に代価弁済に応じる義務はありません。
 したがって、第三取得者(抵当不動産を売買や贈与等で取得した者)は、抵当権者から代価弁済を迫られても、無視してもかまいません。
 要するに、第三取得者が代価弁済に応じるかどうかは任意、つまり第三者取得者の自由で、抵当権者の請求に応じて代価弁済をすれば抵当権が消滅する、というだけの話です。


抵当権消滅請求と代価弁済の違い


 抵当権消滅請求と代価弁済の最大の違いについては、先ほど解説いたしました。
 さらに、他にも以下のような相違点があります。

・代価弁済の第三取得者等は「買受人」に限る
・地上権の取得者が代価弁済できる
・保証人が代価弁済をすることができる


 それでは、わかりやすくひとつひとつ解説して参ります。

【代価弁済の第三取得者等は「買受人」に限る】
 これは、代価弁済ができる第三取得者は、売買の買受人のみという意味です。
 つまり、代価弁済ができるケースは、第三取得者が抵当不動産を「売買」で取得したとき限定です。
「相続」や「贈与」などの場合は代価弁済はできず、あくまで「第三者取得者の、抵当不動産の取得原因が売買のときのみ」ということです。
 これは、代価弁済の「第三取得者が売主ではなく抵当権者に支払う」という性質上、当然のことでしょう。

【地上権の取得者が代価弁済できる】
 抵当不動産の地上権の第三取得者は、抵当権消滅請求はできません。
 しかし、代価弁済はすることができます。
 なお、賃借権、永小作権の第三取得者は代価弁済できません。

【保証人が代価弁済をすることができる】
 抵当権の被担保債権についての保証人は、抵当権消滅請求をすることができません。
 しかし、保証人が抵当不動産を買い受けた場合、抵当権者側から代価を払ってくれという申し出があったときは、これに応じることは可能です。
 つまり、保証人が代価弁済することができる場合がある、ということです。
 もし、試験問題等で「保証人は代価弁済することができない」という肢があれば、それは誤りの肢となります。
 お気をつけください。


第三者取得者が抵当不動産について費用を支出した場合


 抵当権付きの不動産を取得した第三者(第三取得者)が、その抵当不動産について、必要費または有益費(雨漏りの修繕費や外壁を美化するための工事費)といった費用を支出したケースで、その抵当不動産が競売にかけられてしまった場合、第三取得者は、その費用を取り戻せるのでしょうか?

 結論。
 第三取得者は、抵当不動産について支出した費用を取り戻すことができます。

 どういう形で取り戻すことになるの?

 第三取得者は、他の債権者に先立って、抵当不動産の代価(競売代金)の中から、支出した費用の償還を受けることになります。


なぜ第三取得者は、抵当不動産について支出した費用の償還を受けることができるのか
?女性
 次のような理屈になります。

第三取得者の費用の支出により、抵当不動産の価値が維持または増価した

それによってどうなる?

抵当不動産の価値が維持または増価したということは、競売価格のアップに繋がる

それで得をする者は誰か?

競売代価(競売代金)から債権を回収しようとする抵当権者等

ということは?

第三取得者の出費により抵当権者が利得(利益)を受けていることになる。それは不当利得(不当な利益)ではないか?

 ということで、第三取得者が抵当不動産について支出した費用分については、第三取得者が競売代価(競売で売っ払って得た代金)から優先的に償還を受けるのが公平ですよね。
 したがって、第三取得者が最初に抵当不動産の競売代価(競売代金)の中から支出した費用分を取り戻し、差し引かれた残額から抵当権者への配当が行われることになります。


第三取得者を無視して競売手続が終了してしまった場合


 この場合、第三取得者は、支出した費用を取り戻せなくなってしまうのでしょうか?
 結論。
 この場合でも、第三取得者は支出した費用を取り戻すことができます。
 ではどうやって取り戻すのか?ですが、第三取得者は、抵当権者に対し「オマエのそれは不当利得だ!」として、支出した費用の返還を請求することができます。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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