
▼この記事でわかること
・抵当権の順位の変更の超基本
・順位変更はどうやって行うのか
・抵当権の順位変更は登記をしなければ効力を生じない
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

抵当権の順位の変更
同一の不動産に複数の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位と優先度は登記の先後で決まります。
なぜなら、不動産登記の世界は早く登記したもの勝ちだからです。(つまり抵当権の場合は登記が早い順に1番抵当権者、2番抵当権者となる)
そして、この抵当権の順位を、後から変更できる仕組みがあります。
それが、抵当権の順位変更です。
抵当権の順位変更を行うと、抵当権の順位が変わります。
例えば、1番抵当権者Aと2番抵当権者Bが抵当権の順位変更を行なって、1番抵当権者Bと2番抵当権者Aになる、といった具合です。
抵当権の順位変更はどうやって行うのか
当事者間の合意により行います。
例えば、1番抵当権者Aと2番抵当権者Bが、AB間の合意により抵当権の順位変更を行います。
ただし、利害関係者がいる場合は、その者の承諾も必要です。
このときの利害関係者というのは、その順位変更によって順位が下がってしまう転抵当権者等を意味します。
転抵当とは、抵当権を担保にすることです。
例えば、甲土地の一番抵当権者AがCから融資を受けるために「甲土地の1番抵当権」を担保にする、というような事です。
この場合、Aは引き続き甲土地の1番抵当権者のままですが、Cは転抵当権者となります。
そして、甲土地の1番抵当権が実行されると、その競売代金から転抵当権者Cが弁済を受けることになります。
これが転抵当の仕組みです。
では、話を戻します。
抵当権の順位変更によって転抵当権者がどのような影響を受けるのか?というとこうです。
例えば、甲土地に1番抵当権者Aと2番抵当権者Bがいて、1番抵当権について転抵当権者Cがいたとします。
この場合に抵当権の順位変更を行うときは、AB間の合意だけでなく、転抵当権者Cの承諾も得た上で、AとBは抵当権の順位変更を行うことになります。
なぜなら、Aの1番抵当権の順位が下がり2番抵当権になると、1番抵当権として転抵当にしているCが、いざその転抵当権を実行したときに、弁済を受けられる額に影響するからです。
それはCにとって重大なことですよね。
以上の理由から、利害関係者(転抵当権者等)がいる抵当権の順位変更を行う際には、転抵当権者(利害関係者)の承諾が必要なのです。
抵当権の順位変更は登記をしなければ効力を生じない

抵当権の順位変更は、当事者間の合意により行いますが、それを登記して初めて、その効力が生じます。
つまり、当事者間が合意しても、それを登記をしなければ意味がないということです。
「効力発生要件」で、第三者対抗要件ではないのです。
一般的には、不動産の登記というのは第三者対抗要件であり、当事者間においては、登記がなくともその所有権の移転自体は有効です。
例えば、AB間で不動産の売買を行えば、登記をしなくても、AB間の意思のみで所有権は移転します。
ところが、抵当権の順位変更は、当事者間の合意があってもその登記をしなければ、当事者間ですら効力が生じないのです。
このようなものは、不動産登記において非常に珍しく、かなりレアなものと言っていいでしょう。
少し小難しい言い方をすればこうなります。
「通常の場合、不動産登記は諾成契約で、登記をせずとも当事者間であれば効力は生じる。しかし、抵当権の順位変更は要式契約で、登記という形式を経なければ効力を生じない」
とにもかくにも、抵当権の順位変更の登記は第三者対抗要件ではなく効力発生要件である、ということ、くれぐれもご注意ください。
抵当権の優先弁済の範囲
抵当権者は、1番抵当権者から順番に競売代金から優先的に弁済を受けられますが、その「優先」の範囲は一体どこまでなのでしょうか?
次のようなケースで考えてみましょう。
[抵当不動産]
甲土地
競売代金5000万円
[甲土地の抵当権者]
1番抵当権者:債権額→2000万円
損害金→年15%
2番抵当権者:債権額→1500万円
このケースで、甲土地を競売するとどうなるでしょうか?
ここで問題になってくるのが損害金です。
もし、1番抵当権の債務者(1番抵当権者からお金を借りてる者)が10年支払いが滞っている(借金返済が滞っている)などの履行遅滞状態であった場合に競売したとします。
すると損害金が、
2000万円✖️15%✖️10年=3000万円
となり、これを元本2000万円にプラスすると、なんと1番抵当権の債権額が5000万円となってしまいます。
となると、抵当不動産である甲土地の価格5000万円まるまるを1番抵当権者が独占してしまい、2番抵当権者の取り分が全くなくなってしまいます。
でも、これってどうでしょう。
1番抵当権の損害金次第で、2番抵当権者などの後順位抵当権者や一般債権者(抵当権者以外の債権者)は、競売代金からの配当を一切受けられなくなってしまうということですよね?

いくら1番抵当権者に、他に先立って優先弁済を受ける権利があるとはいえ、公平さに欠くと言えます。
そこで、民法375条では、後順位の担保権者(後順位抵当権者)や一般債権者の保護のための規定を置きました。
(抵当権の被担保債権の範囲)
民法375条
1項 抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の二年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。ただし、それ以前の定期金についても、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時からその抵当権を行使することを妨げない。
2項 前項の規定は、抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の二年分についても適用する。ただし、利息その他の定期金と通算して二年分を超えることができない。
上記、民法375条の規定により、抵当権の優先弁済額の上限は、利息や損害金については満期となった最後の2年分のみとなります。
つまり、先のケースだと、1番抵当権者が優先弁済を受けられる金額の上限は、
元本2000万円+損害金2000万円×15%×2年
=2600万円
となり、2番抵当権者は、
抵当不動産の価額5000万円―2600万円
=2400万円
から配当を受けられることになります。
すると、2番抵当権の債権額は1500万円なので、2番抵当権者も無事、債権額の全額の弁済を受けられることになります。
上記の民法375条の規定があるのとないのとでは、2番抵当権者にとって天と地の差がありますね。
補足:1番抵当権の残りの損害金8年分はどうなる?
これはもちろん残ります。
決して消えてなくなる訳ではありません。
民法375条の規定は、あくまで後順位抵当権や一般債権者の保護のための規定です。
したがいまして、1番抵当権の損害金8年分の2400万円は、無担保債権として残ります。
無担保債権ということは、サラ金などと同じような、単に抵当権が設定されていない一般債権(抵当権のような優先的に弁済を受けることがないフツーの債権)として残るということです。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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・抵当権の順位の変更の超基本
・順位変更はどうやって行うのか
・抵当権の順位変更は登記をしなければ効力を生じない
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今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

抵当権の順位の変更
同一の不動産に複数の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位と優先度は登記の先後で決まります。
なぜなら、不動産登記の世界は早く登記したもの勝ちだからです。(つまり抵当権の場合は登記が早い順に1番抵当権者、2番抵当権者となる)
そして、この抵当権の順位を、後から変更できる仕組みがあります。
それが、抵当権の順位変更です。
抵当権の順位変更を行うと、抵当権の順位が変わります。
例えば、1番抵当権者Aと2番抵当権者Bが抵当権の順位変更を行なって、1番抵当権者Bと2番抵当権者Aになる、といった具合です。
抵当権の順位変更はどうやって行うのか
当事者間の合意により行います。
例えば、1番抵当権者Aと2番抵当権者Bが、AB間の合意により抵当権の順位変更を行います。
ただし、利害関係者がいる場合は、その者の承諾も必要です。
このときの利害関係者というのは、その順位変更によって順位が下がってしまう転抵当権者等を意味します。
転抵当とは、抵当権を担保にすることです。
例えば、甲土地の一番抵当権者AがCから融資を受けるために「甲土地の1番抵当権」を担保にする、というような事です。
この場合、Aは引き続き甲土地の1番抵当権者のままですが、Cは転抵当権者となります。
そして、甲土地の1番抵当権が実行されると、その競売代金から転抵当権者Cが弁済を受けることになります。
これが転抵当の仕組みです。
では、話を戻します。
抵当権の順位変更によって転抵当権者がどのような影響を受けるのか?というとこうです。
例えば、甲土地に1番抵当権者Aと2番抵当権者Bがいて、1番抵当権について転抵当権者Cがいたとします。
この場合に抵当権の順位変更を行うときは、AB間の合意だけでなく、転抵当権者Cの承諾も得た上で、AとBは抵当権の順位変更を行うことになります。
なぜなら、Aの1番抵当権の順位が下がり2番抵当権になると、1番抵当権として転抵当にしているCが、いざその転抵当権を実行したときに、弁済を受けられる額に影響するからです。
それはCにとって重大なことですよね。
以上の理由から、利害関係者(転抵当権者等)がいる抵当権の順位変更を行う際には、転抵当権者(利害関係者)の承諾が必要なのです。
抵当権の順位変更は登記をしなければ効力を生じない

抵当権の順位変更は、当事者間の合意により行いますが、それを登記して初めて、その効力が生じます。
つまり、当事者間が合意しても、それを登記をしなければ意味がないということです。
「効力発生要件」で、第三者対抗要件ではないのです。
一般的には、不動産の登記というのは第三者対抗要件であり、当事者間においては、登記がなくともその所有権の移転自体は有効です。
例えば、AB間で不動産の売買を行えば、登記をしなくても、AB間の意思のみで所有権は移転します。
ところが、抵当権の順位変更は、当事者間の合意があってもその登記をしなければ、当事者間ですら効力が生じないのです。
このようなものは、不動産登記において非常に珍しく、かなりレアなものと言っていいでしょう。
少し小難しい言い方をすればこうなります。
「通常の場合、不動産登記は諾成契約で、登記をせずとも当事者間であれば効力は生じる。しかし、抵当権の順位変更は要式契約で、登記という形式を経なければ効力を生じない」
とにもかくにも、抵当権の順位変更の登記は第三者対抗要件ではなく効力発生要件である、ということ、くれぐれもご注意ください。
抵当権の優先弁済の範囲
抵当権者は、1番抵当権者から順番に競売代金から優先的に弁済を受けられますが、その「優先」の範囲は一体どこまでなのでしょうか?
次のようなケースで考えてみましょう。
[抵当不動産]
甲土地
競売代金5000万円
[甲土地の抵当権者]
1番抵当権者:債権額→2000万円
損害金→年15%
2番抵当権者:債権額→1500万円
このケースで、甲土地を競売するとどうなるでしょうか?
ここで問題になってくるのが損害金です。
もし、1番抵当権の債務者(1番抵当権者からお金を借りてる者)が10年支払いが滞っている(借金返済が滞っている)などの履行遅滞状態であった場合に競売したとします。
すると損害金が、
2000万円✖️15%✖️10年=3000万円
となり、これを元本2000万円にプラスすると、なんと1番抵当権の債権額が5000万円となってしまいます。
となると、抵当不動産である甲土地の価格5000万円まるまるを1番抵当権者が独占してしまい、2番抵当権者の取り分が全くなくなってしまいます。
でも、これってどうでしょう。
1番抵当権の損害金次第で、2番抵当権者などの後順位抵当権者や一般債権者(抵当権者以外の債権者)は、競売代金からの配当を一切受けられなくなってしまうということですよね?

いくら1番抵当権者に、他に先立って優先弁済を受ける権利があるとはいえ、公平さに欠くと言えます。
そこで、民法375条では、後順位の担保権者(後順位抵当権者)や一般債権者の保護のための規定を置きました。
(抵当権の被担保債権の範囲)
民法375条
1項 抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の二年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。ただし、それ以前の定期金についても、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時からその抵当権を行使することを妨げない。
2項 前項の規定は、抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の二年分についても適用する。ただし、利息その他の定期金と通算して二年分を超えることができない。
上記、民法375条の規定により、抵当権の優先弁済額の上限は、利息や損害金については満期となった最後の2年分のみとなります。
つまり、先のケースだと、1番抵当権者が優先弁済を受けられる金額の上限は、
元本2000万円+損害金2000万円×15%×2年
=2600万円
となり、2番抵当権者は、
抵当不動産の価額5000万円―2600万円
=2400万円
から配当を受けられることになります。
すると、2番抵当権の債権額は1500万円なので、2番抵当権者も無事、債権額の全額の弁済を受けられることになります。
上記の民法375条の規定があるのとないのとでは、2番抵当権者にとって天と地の差がありますね。
補足:1番抵当権の残りの損害金8年分はどうなる?
これはもちろん残ります。
決して消えてなくなる訳ではありません。
民法375条の規定は、あくまで後順位抵当権や一般債権者の保護のための規定です。
したがいまして、1番抵当権の損害金8年分の2400万円は、無担保債権として残ります。
無担保債権ということは、サラ金などと同じような、単に抵当権が設定されていない一般債権(抵当権のような優先的に弁済を受けることがないフツーの債権)として残るということです。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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