
▼この記事でわかること
・共同抵当の基本
・複数の不動産の全部が債務者所有の場合
・同時配当
・異時配当
・抵当不動産の一部が債務者所有(物上保証)の場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

共同抵当の基本
1つの被担保債権の担保のために複数の不動産に設定される抵当権を、共同抵当といいます。
例えば、山田さんがA不動産・B不動産・C不動産を所有していたとします。
そして、山田さんが金融機関から5000万円の融資を受けるためにA不動産・B不動産・C不動産に抵当権を設定します。
これが共同抵当です。
つまり、5000万円という1つの被担保債権について、A不動産・B不動産・C不動産の3つの不動産に抵当権が設定されている共同抵当、ということです。
ちなみに、土地と建物のセットで抵当権を設定した場合も共同抵当になります。
例えば、甲土地上にA建物が建っていて、一つの被担保債権について甲土地とA建物にセットで抵当権を設定したら、それは共同抵当です。
そして、共同抵当の問題は、大きく次の2つのパターンに分かれます。
・複数の不動産の全部が債務者所有の場合
・複数の不動産の一部が債務者所有の場合
ということで、まずは「複数の不動産の全部が債務者所有の場合」について解説して参ります。
複数の不動産の全部が債務者所有の場合
このケースで問題になってくるのは、後順位の担保権者(順位2以下の抵当権者)の保護です。
まずは事例をご覧ください。
事例1
債務者DはAから2500万円の融資を受けるために、自己所有の甲土地(3000万円相当)と乙土地(2000万円相当)に第1順位の抵当権を設定した。その後、債務者DはBから2000万円の融資を受けるために、甲土地に第2順位の抵当権を設定した。さらに、債務者DはCから1500万円の融資を受けるために乙土地に第2順位の抵当権を設定した。
本題に入る前に、まずは事例1の状況を確認します。
甲土地(3000万円相当) 乙土地(2000万円相当)
1番抵当権者→A 1番抵当権者→A
2番抵当権者→B 2番抵当権者→C
[債権額(Dに融資した金額)]
(甲土地・乙土地の)1番抵当権者A→2500万円
(甲土地の)2番抵当権者B→2000万円
(乙土地の)2番抵当権者C→1500万円
それではここから、本題の解説に入って参ります。
事例1で、1番抵当権者Aが抵当権を行使すると、競売代金の配当はどうなるのでしょうか?
当然、第1順位抵当権者から優先的に配当を受けることになる訳ですが、その具体的な配当割合をいくらになるでしょう?
まず、この場合に配当のパターンは2つあります。

それは、同時配当と異時配当です。
同時配当
これは、1番抵当権者Aが甲土地と乙土地を同時に競売にかけた場合です。
すなわち、1番抵当権者Aが甲土地と乙土地の両方に抵当権を行使した場合です。
この場合の配当額とその計算方法は次のようになります。
・Aが甲土地の競売代金から受ける配当
2500万×5000万(3000万+2000万)分の3000万=1500万円
(3000万÷5000万=0,6×2500万=1500万)
・Aが乙土地の競売代金から受ける配当
2500万× 5000万(3000万+2000万)分の2000万=1000万円
(2000万÷5000万=0,4×2500=1000万)
このような配当(割付)で、1番抵当権者Aはその債権2500万円の全額の弁済(債権の回収)を受けることができます。
では、甲乙両土地の2番抵当権者のBとCはどうなるのかといいますと、次のようになります。
・Bが甲土地の競売代金から受ける配当
3000万-1500万=1500万円
・Cが乙土地の競売代金から受ける配当
2000万-1000万=1000万円
このようになります。これは単純ですね。
甲土地・乙土地から1番抵当権者のAが受けた配当分を差し引いた残りから2番抵当権者のB・Cはそれぞれ配当を受ける、ということです。
したがって、甲土地の2番抵当権者Bは債権額(Dに融資した金額)2000万のうち1500万円を、乙土地の2番抵当権者Cは債権額(Dに融資した金額)1500万のうち1000万円を、それぞれ回収できるこになります。
ちなみに、B・Cが弁済を受けることができなかった分(競売代金の配当からで回収しきれなかった債権額の残り)の500万円は抵当権のない債権、すなわち、無担保債権としてB・Cそれぞれに残ります。
以上のように、1番抵当権者Aが優先的に配当を受けた上で、2番抵当権者のB・Cは公平に配当を受けることになります。
異時配当の場合
続いては異時配当についての解説ですが、今一度事例の確認です。
事例1
債務者DはAから2500万円の融資を受けるために、自己所有の甲土地(3000万円相当)と乙土地(2000万円相当)に第1順位の抵当権を設定した。その後、債務者DはBから2000万円の融資を受けるために、甲土地に第2順位の抵当権を設定した。さらに、債務者DはCから1500万円の融資を受けるために乙土地に第2順位の抵当権を設定した。
甲土地(3000万円相当) 乙土地(2000万円相当)
1番抵当権者→A 1番抵当権者→A
2番抵当権者→B 2番抵当権者→C
[債権額(Dに融資した金額)]
(甲土地・乙土地の)1番抵当権者A→2500万円
(甲土地の)2番抵当権者B→2000万円
(乙土地の)2番抵当権者C→1500万円
まず、抵当権は、実際に行使するかどうかは抵当権者の自由です。
つまり「抵当権を行使しない」という選択もできます。
ということは、1番抵当権者Aは、甲土地と乙土地のどちらかだけに抵当権を行使することも可能です。
そして、どちらかだけに抵当権を行使した場合というのが、異時配当になります。

それでは本題の解説に入ります。
1番抵当権者Aが甲土地にだけ抵当権を行使した場合、その配当はどうなるのでしょうか?
この場合、1番抵当権者Aは、甲土地3000万円からその債権2500万円全額の弁済を受けることになります。
するとどうでしょう。
甲土地の2番抵当権者Bは、
3000万-2500万=500万円の弁済しか受けられなくなりますよね。
なのに、乙土地の2番抵当権者Cは(1番抵当権者Aがすでに全額の弁済を受けているので)乙土地2000万円からその債権1500万円全額の弁済を受けることができます。
これは同時配当の場合とはエラい違いですよね。
でもこれってどうでしょう。
いくらBとCが後順位の抵当権者とはいえ、1番抵当権者Aのさじ加減で結果がガラリと変わってしまうわけです。
これって、ハッキリ言って不公平ですよね。
ということで、民法ではこのような不公平は不当だと考え、異時配当の場合でも、結果として同時配当とまったく同じ配当額とする規定を置きました。
(共同抵当における代価の配当)
民法392条2項
債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、ある不動産の代価のみを配当すべきときは、抵当権者は、その代価から債権の全部の弁済を受けることができる。この場合において、次順位の抵当権者は、その弁済を受ける抵当権者が前項の規定に従い他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使することができる。
この民法392条2項の条文だけではちょっとわかりづらいですが、要するにこういうことです。
1番抵当権者Aが甲土地にだけ抵当権を行使しても、甲土地の2番抵当権者Bは、Aが甲土地・乙土地の両方に抵当権を行使した場合(同時配当の場合)と同じ配当を受けられるように、同時配当の場合の配当金額の限度で乙土地に抵当権を代位行使(Aに代わって行使)できる、ということです。
これはちょっと、その論理がわかりづらいかもしれません。
ですがまず、
「結果として、異時配当も、その配当金額は同時配当の場合と同じになる」
この結論の部分を覚えていただければと存じます。
【補足】
先順位抵当権者による抵当権の放棄
例えば、Aが甲土地・乙土地に1番抵当権を設定していて、甲土地にのみ2番抵当権者Bがいたとします。
そして、Aが乙土地の抵当権を放棄したらどうなるでしょう?
この場合だと、BはAに代位して乙土地に抵当権を行使できなくなりますよね。
つまり、Aが乙土地の抵当権を放棄したことにより、Bへの配当金額が少なくなってしまうのです。
これはBとしては困りものです。

そこで、判例では、このBの「乙土地への抵当権の代位行使への期待」は保護に値するとして、甲土地の競売代金について、Aが乙土地の抵当権を放棄しなければBが乙土地に代位できた限度において、AはBに優先できないとしています。
つまり、Aが乙土地の抵当権を放棄するのは自由ですが、だからといって2番抵当権者Bの権利を害することはできないということです。
抵当不動産の一部が債務者所有の場合
ここからは、共同抵当における抵当不動産の一部が債務者所有の場合について、解説して参ります。
まず「抵当不動産の一部が債務者所有」とは、抵当不動産の一部が物上保証ということを意味します。
それでは、まずは事例をご覧ください。
事例2
債務者DはAから2000万円の融資を受けるために、自己所有の甲土地(2000万円相当)とE所有の乙土地(2000万円相当)に第1順位の抵当権を設定した(EはDの物上保証人)。その後、債務者DはBから1000万円の融資を受けるために、甲土地に第2順位の抵当権を設定した。さらに、債務者DはCから1000万円の融資を受けるために、乙土地に第2順位の抵当権を設定した。
まずは事例の状況を確認します。
債務者D
物上保証人E
D所有 E所有
甲土地(2000万円相当) 乙土地(2000万円相当)
1番抵当権者A 1番抵当権者A
2番抵当権者B 2番抵当権者C
[債権額(Dに融資した金額)]
(甲土地・乙土地の)1番抵当権者A→2000万円
(甲土地の)2番抵当権者B→1000万円
(乙土地の)2番抵当権者C→1000万円
さて、ではこの事例2で、甲土地が競売された場合、その競売代金の配当はどうなるでしょうか?
この場合、まず1番抵当権者Aが、その債権2000万円全額の弁済を受けますが、問題はここからです。
甲土地は2000万円相当なので、1番抵当権者Aが2000万円全額の弁済を受けることによって、2番抵当権者Bへの配当金額は0円です。
以上です。
つまり、Bへの配当はナシで終了です。
あれ?異時配当の場合の民法392条2項の適用は?
このケースでは民法392条2項の適用はありません。
したがって、どうあがいてもBへの配当金はゼロです。
一方、乙土地の2番抵当権者Cはどうなるでしょう?
Aは甲土地の競売により、2000万円全額の弁済を受けていますので、その被担保債権は消滅しています。
抵当権には付従性があります。
ですので、被担保債権が消滅すれば抵当権も消滅します。
したがって、Aの被担保債権が消滅したことにより、甲土地の1番抵当権とともに乙土地の1番抵当権も消滅します。
そして、乙土地の1番抵当権が消滅すると、Cの2番抵当権の順位が上昇します。
E所有
乙土地(2000万円相当)
1番抵当権者A 消滅
2番抵当権者C
E所有
乙土地(2000万円相当)
1番抵当権者C 順位上昇
したがいまして、将来、乙土地が競売された場合、Cは1番抵当権者として優先的に弁済を受けることができます。
さて、それでは続いて、事例2で、乙土地が競売された場合、その競売代金の配当はどうなるでしょうか?
E所有
乙土地(2000万円相当)←競売
1番抵当権者A
2番抵当権者C
この場合、物上保証人E所有の乙土地の競売により、Aはその債権2000万円全額の弁済を受けます。
そして、2番抵当権者Cへの配当はナシです。
ここまでは、先ほどのD所有の甲土地の場合と同じです。
しかし、ここからが違います。
物上保証人E所有の乙土地の競売によりAが弁済を受けたということは、物上保証人EがDに代わってAに弁済した(つまりEがDの借金を肩代わりした)のと同じようなものです。
したがって、物上保証人Eには「私が肩代わりした分の金を私に払え!」という「Dに対する2000万円全額の求償権」が生じます。
物上保証人Eとしては、Dの借金返済のために自分の土地を失った訳ですから、そのDに対して「責任とれ」と迫れるのは当然と言えば当然ですよね。
なお、保証人の求償権についての詳しい解説は「【保証人の求償権】委託を受けたか受けないかで違う?求償の制限と事前求償権とは?わかりやすく解説!」をご覧ください。
さて、では次に、甲土地はどうなるのか?です。
1番抵当権者Aは、物上保証人E所有の乙土地から全額を受けました。
なので、抵当権の付従性により、甲土地のAの1番抵当権は消滅しそうです。
ところが、なんと!
今度の場合、甲土地の1番抵当権は消滅しません。
ではどうなるかというと、甲土地の1番抵当権は、そのまま物上保証人Eに移転します。
D所有
甲土地(2000万円相当)
1番抵当権者E ←1番抵当権者A
(弁済により消滅)
2番抵当権者B
これは弁済による代位というものです。
つまり、今後、物上保証人Eは、Aに代わって甲土地の1番抵当権を行使できるということです。
したがいまして、甲土地の1番抵当権者はEになり、Bは2番抵当権者のままです。
となると、この後に甲土地が競売されると、Eの取り分が2000万円、Bは配当金ゼロとなりそうですが、そうはなりません。
なんとここで、乙土地の2番抵当権者Cの登場です。
乙土地の2番抵当権者Cは、乙土地の競売により、配当金ゼロのままその抵当権を失いました。
そして、物上保証人Eは、甲土地の1番抵当権を「弁済による代位」により取得するわけですが、この物上保証人Eが取得した「甲土地の1番抵当権」は「乙土地の価値変形物」と考えられます。
つまり、これは目的不動産が焼失した場合の火災保険金と同じような状況と言えるのです。
そこで、Cはこの「乙土地の価値変形物である甲土地の1番抵当権」に「物上代位」して優先弁済権を主張することができます。
つまり「弁済による代位」により物上保証人Eに移転した甲土地の1番抵当権は、さらにCが物上代位することできるということです。
ということで、結局、甲土地の競売代金はどうなるかというと、前述の物上代位により、まずCが1000万円全額の弁済を受け、残り1000万円でEが弁済を受け、Bの配当はゼロ、となります。
以上、まとめると、事例2では、甲土地・乙土地のどちらから競売した場合でも、1番抵当権者A以外への配当金額は
B←0円
C←1000万円
E←1000万円
となります。
これはBにはちょっと気の毒な気もしますが、この結論と論理を覚えておいてください。
Bにとっては、物上保証人Eの存在がネックとも言えますね。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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・共同抵当の基本
・複数の不動産の全部が債務者所有の場合
・同時配当
・異時配当
・抵当不動産の一部が債務者所有(物上保証)の場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

共同抵当の基本
1つの被担保債権の担保のために複数の不動産に設定される抵当権を、共同抵当といいます。
例えば、山田さんがA不動産・B不動産・C不動産を所有していたとします。
そして、山田さんが金融機関から5000万円の融資を受けるためにA不動産・B不動産・C不動産に抵当権を設定します。
これが共同抵当です。
つまり、5000万円という1つの被担保債権について、A不動産・B不動産・C不動産の3つの不動産に抵当権が設定されている共同抵当、ということです。
ちなみに、土地と建物のセットで抵当権を設定した場合も共同抵当になります。
例えば、甲土地上にA建物が建っていて、一つの被担保債権について甲土地とA建物にセットで抵当権を設定したら、それは共同抵当です。
そして、共同抵当の問題は、大きく次の2つのパターンに分かれます。
・複数の不動産の全部が債務者所有の場合
・複数の不動産の一部が債務者所有の場合
ということで、まずは「複数の不動産の全部が債務者所有の場合」について解説して参ります。
複数の不動産の全部が債務者所有の場合
このケースで問題になってくるのは、後順位の担保権者(順位2以下の抵当権者)の保護です。
まずは事例をご覧ください。
事例1
債務者DはAから2500万円の融資を受けるために、自己所有の甲土地(3000万円相当)と乙土地(2000万円相当)に第1順位の抵当権を設定した。その後、債務者DはBから2000万円の融資を受けるために、甲土地に第2順位の抵当権を設定した。さらに、債務者DはCから1500万円の融資を受けるために乙土地に第2順位の抵当権を設定した。
本題に入る前に、まずは事例1の状況を確認します。
甲土地(3000万円相当) 乙土地(2000万円相当)
1番抵当権者→A 1番抵当権者→A
2番抵当権者→B 2番抵当権者→C
[債権額(Dに融資した金額)]
(甲土地・乙土地の)1番抵当権者A→2500万円
(甲土地の)2番抵当権者B→2000万円
(乙土地の)2番抵当権者C→1500万円
それではここから、本題の解説に入って参ります。
事例1で、1番抵当権者Aが抵当権を行使すると、競売代金の配当はどうなるのでしょうか?
当然、第1順位抵当権者から優先的に配当を受けることになる訳ですが、その具体的な配当割合をいくらになるでしょう?
まず、この場合に配当のパターンは2つあります。

それは、同時配当と異時配当です。
同時配当
これは、1番抵当権者Aが甲土地と乙土地を同時に競売にかけた場合です。
すなわち、1番抵当権者Aが甲土地と乙土地の両方に抵当権を行使した場合です。
この場合の配当額とその計算方法は次のようになります。
・Aが甲土地の競売代金から受ける配当
2500万×5000万(3000万+2000万)分の3000万=1500万円
(3000万÷5000万=0,6×2500万=1500万)
・Aが乙土地の競売代金から受ける配当
2500万× 5000万(3000万+2000万)分の2000万=1000万円
(2000万÷5000万=0,4×2500=1000万)
このような配当(割付)で、1番抵当権者Aはその債権2500万円の全額の弁済(債権の回収)を受けることができます。
では、甲乙両土地の2番抵当権者のBとCはどうなるのかといいますと、次のようになります。
・Bが甲土地の競売代金から受ける配当
3000万-1500万=1500万円
・Cが乙土地の競売代金から受ける配当
2000万-1000万=1000万円
このようになります。これは単純ですね。
甲土地・乙土地から1番抵当権者のAが受けた配当分を差し引いた残りから2番抵当権者のB・Cはそれぞれ配当を受ける、ということです。
したがって、甲土地の2番抵当権者Bは債権額(Dに融資した金額)2000万のうち1500万円を、乙土地の2番抵当権者Cは債権額(Dに融資した金額)1500万のうち1000万円を、それぞれ回収できるこになります。
ちなみに、B・Cが弁済を受けることができなかった分(競売代金の配当からで回収しきれなかった債権額の残り)の500万円は抵当権のない債権、すなわち、無担保債権としてB・Cそれぞれに残ります。
以上のように、1番抵当権者Aが優先的に配当を受けた上で、2番抵当権者のB・Cは公平に配当を受けることになります。
異時配当の場合
続いては異時配当についての解説ですが、今一度事例の確認です。
事例1
債務者DはAから2500万円の融資を受けるために、自己所有の甲土地(3000万円相当)と乙土地(2000万円相当)に第1順位の抵当権を設定した。その後、債務者DはBから2000万円の融資を受けるために、甲土地に第2順位の抵当権を設定した。さらに、債務者DはCから1500万円の融資を受けるために乙土地に第2順位の抵当権を設定した。
甲土地(3000万円相当) 乙土地(2000万円相当)
1番抵当権者→A 1番抵当権者→A
2番抵当権者→B 2番抵当権者→C
[債権額(Dに融資した金額)]
(甲土地・乙土地の)1番抵当権者A→2500万円
(甲土地の)2番抵当権者B→2000万円
(乙土地の)2番抵当権者C→1500万円
まず、抵当権は、実際に行使するかどうかは抵当権者の自由です。
つまり「抵当権を行使しない」という選択もできます。
ということは、1番抵当権者Aは、甲土地と乙土地のどちらかだけに抵当権を行使することも可能です。
そして、どちらかだけに抵当権を行使した場合というのが、異時配当になります。

それでは本題の解説に入ります。
1番抵当権者Aが甲土地にだけ抵当権を行使した場合、その配当はどうなるのでしょうか?
この場合、1番抵当権者Aは、甲土地3000万円からその債権2500万円全額の弁済を受けることになります。
するとどうでしょう。
甲土地の2番抵当権者Bは、
3000万-2500万=500万円の弁済しか受けられなくなりますよね。
なのに、乙土地の2番抵当権者Cは(1番抵当権者Aがすでに全額の弁済を受けているので)乙土地2000万円からその債権1500万円全額の弁済を受けることができます。
これは同時配当の場合とはエラい違いですよね。
でもこれってどうでしょう。
いくらBとCが後順位の抵当権者とはいえ、1番抵当権者Aのさじ加減で結果がガラリと変わってしまうわけです。
これって、ハッキリ言って不公平ですよね。
ということで、民法ではこのような不公平は不当だと考え、異時配当の場合でも、結果として同時配当とまったく同じ配当額とする規定を置きました。
(共同抵当における代価の配当)
民法392条2項
債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、ある不動産の代価のみを配当すべきときは、抵当権者は、その代価から債権の全部の弁済を受けることができる。この場合において、次順位の抵当権者は、その弁済を受ける抵当権者が前項の規定に従い他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使することができる。
この民法392条2項の条文だけではちょっとわかりづらいですが、要するにこういうことです。
1番抵当権者Aが甲土地にだけ抵当権を行使しても、甲土地の2番抵当権者Bは、Aが甲土地・乙土地の両方に抵当権を行使した場合(同時配当の場合)と同じ配当を受けられるように、同時配当の場合の配当金額の限度で乙土地に抵当権を代位行使(Aに代わって行使)できる、ということです。
これはちょっと、その論理がわかりづらいかもしれません。
ですがまず、
「結果として、異時配当も、その配当金額は同時配当の場合と同じになる」
この結論の部分を覚えていただければと存じます。
【補足】
先順位抵当権者による抵当権の放棄
例えば、Aが甲土地・乙土地に1番抵当権を設定していて、甲土地にのみ2番抵当権者Bがいたとします。
そして、Aが乙土地の抵当権を放棄したらどうなるでしょう?
この場合だと、BはAに代位して乙土地に抵当権を行使できなくなりますよね。
つまり、Aが乙土地の抵当権を放棄したことにより、Bへの配当金額が少なくなってしまうのです。
これはBとしては困りものです。

そこで、判例では、このBの「乙土地への抵当権の代位行使への期待」は保護に値するとして、甲土地の競売代金について、Aが乙土地の抵当権を放棄しなければBが乙土地に代位できた限度において、AはBに優先できないとしています。
つまり、Aが乙土地の抵当権を放棄するのは自由ですが、だからといって2番抵当権者Bの権利を害することはできないということです。
抵当不動産の一部が債務者所有の場合
ここからは、共同抵当における抵当不動産の一部が債務者所有の場合について、解説して参ります。
まず「抵当不動産の一部が債務者所有」とは、抵当不動産の一部が物上保証ということを意味します。
それでは、まずは事例をご覧ください。
事例2
債務者DはAから2000万円の融資を受けるために、自己所有の甲土地(2000万円相当)とE所有の乙土地(2000万円相当)に第1順位の抵当権を設定した(EはDの物上保証人)。その後、債務者DはBから1000万円の融資を受けるために、甲土地に第2順位の抵当権を設定した。さらに、債務者DはCから1000万円の融資を受けるために、乙土地に第2順位の抵当権を設定した。
まずは事例の状況を確認します。
債務者D
物上保証人E
D所有 E所有
甲土地(2000万円相当) 乙土地(2000万円相当)
1番抵当権者A 1番抵当権者A
2番抵当権者B 2番抵当権者C
[債権額(Dに融資した金額)]
(甲土地・乙土地の)1番抵当権者A→2000万円
(甲土地の)2番抵当権者B→1000万円
(乙土地の)2番抵当権者C→1000万円
さて、ではこの事例2で、甲土地が競売された場合、その競売代金の配当はどうなるでしょうか?
この場合、まず1番抵当権者Aが、その債権2000万円全額の弁済を受けますが、問題はここからです。
甲土地は2000万円相当なので、1番抵当権者Aが2000万円全額の弁済を受けることによって、2番抵当権者Bへの配当金額は0円です。
以上です。
つまり、Bへの配当はナシで終了です。
あれ?異時配当の場合の民法392条2項の適用は?
このケースでは民法392条2項の適用はありません。
したがって、どうあがいてもBへの配当金はゼロです。
一方、乙土地の2番抵当権者Cはどうなるでしょう?
Aは甲土地の競売により、2000万円全額の弁済を受けていますので、その被担保債権は消滅しています。
抵当権には付従性があります。
ですので、被担保債権が消滅すれば抵当権も消滅します。
したがって、Aの被担保債権が消滅したことにより、甲土地の1番抵当権とともに乙土地の1番抵当権も消滅します。
そして、乙土地の1番抵当権が消滅すると、Cの2番抵当権の順位が上昇します。
E所有
乙土地(2000万円相当)
2番抵当権者C
E所有
乙土地(2000万円相当)
1番抵当権者C 順位上昇
したがいまして、将来、乙土地が競売された場合、Cは1番抵当権者として優先的に弁済を受けることができます。
さて、それでは続いて、事例2で、乙土地が競売された場合、その競売代金の配当はどうなるでしょうか?
E所有
乙土地(2000万円相当)←競売
1番抵当権者A
2番抵当権者C
この場合、物上保証人E所有の乙土地の競売により、Aはその債権2000万円全額の弁済を受けます。
そして、2番抵当権者Cへの配当はナシです。
ここまでは、先ほどのD所有の甲土地の場合と同じです。
しかし、ここからが違います。
物上保証人E所有の乙土地の競売によりAが弁済を受けたということは、物上保証人EがDに代わってAに弁済した(つまりEがDの借金を肩代わりした)のと同じようなものです。
したがって、物上保証人Eには「私が肩代わりした分の金を私に払え!」という「Dに対する2000万円全額の求償権」が生じます。
物上保証人Eとしては、Dの借金返済のために自分の土地を失った訳ですから、そのDに対して「責任とれ」と迫れるのは当然と言えば当然ですよね。
なお、保証人の求償権についての詳しい解説は「【保証人の求償権】委託を受けたか受けないかで違う?求償の制限と事前求償権とは?わかりやすく解説!」をご覧ください。
さて、では次に、甲土地はどうなるのか?です。
1番抵当権者Aは、物上保証人E所有の乙土地から全額を受けました。
なので、抵当権の付従性により、甲土地のAの1番抵当権は消滅しそうです。
ところが、なんと!
今度の場合、甲土地の1番抵当権は消滅しません。
ではどうなるかというと、甲土地の1番抵当権は、そのまま物上保証人Eに移転します。
D所有
甲土地(2000万円相当)
1番抵当権者E ←
2番抵当権者B
これは弁済による代位というものです。
つまり、今後、物上保証人Eは、Aに代わって甲土地の1番抵当権を行使できるということです。
したがいまして、甲土地の1番抵当権者はEになり、Bは2番抵当権者のままです。
となると、この後に甲土地が競売されると、Eの取り分が2000万円、Bは配当金ゼロとなりそうですが、そうはなりません。
なんとここで、乙土地の2番抵当権者Cの登場です。
乙土地の2番抵当権者Cは、乙土地の競売により、配当金ゼロのままその抵当権を失いました。
そして、物上保証人Eは、甲土地の1番抵当権を「弁済による代位」により取得するわけですが、この物上保証人Eが取得した「甲土地の1番抵当権」は「乙土地の価値変形物」と考えられます。
つまり、これは目的不動産が焼失した場合の火災保険金と同じような状況と言えるのです。
そこで、Cはこの「乙土地の価値変形物である甲土地の1番抵当権」に「物上代位」して優先弁済権を主張することができます。
つまり「弁済による代位」により物上保証人Eに移転した甲土地の1番抵当権は、さらにCが物上代位することできるということです。
ということで、結局、甲土地の競売代金はどうなるかというと、前述の物上代位により、まずCが1000万円全額の弁済を受け、残り1000万円でEが弁済を受け、Bの配当はゼロ、となります。
以上、まとめると、事例2では、甲土地・乙土地のどちらから競売した場合でも、1番抵当権者A以外への配当金額は
B←0円
C←1000万円
E←1000万円
となります。
これはBにはちょっと気の毒な気もしますが、この結論と論理を覚えておいてください。
Bにとっては、物上保証人Eの存在がネックとも言えますね。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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