
▼この記事でわかること
・法定地上権の超基本
・コラム~更地と底地とは
・法定地上権が成立する場合の土地買受人の地位と抵当権者
・法定地上権の要件
・要件を満たしても法定地上権が成立しない場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

法定地上権の基本
法定地上権とは、一定の要件を満たすと、法律の定めにより自動的に設定される(発生する)地上権です。
それでは、事例とともに法定地上権について解説して参ります。
事例1
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有している。そしてBは建物に抵当権を設定した。抵当権者はAである。その後、抵当権が実行され、競売によりCが建物を取得した。
この事例で、抵当権を設定した時の土地と建物の所有者はBです。
ところが、抵当権が実行されて、競売によりCが建物を取得すると
土地の所有者→B
建物の所有者→C
となります。
それの何が問題なの?
確かにこれだけ見れば何も問題ありませんね。
ただ、よく考えてみてください。
抵当権を設定した時、土地と建物の所有権は両方ともBのものでした。
ということは、土地利用権(借地権)は設定されていません。
当たり前ですよね。
土地もBの自己所有ですから。
となると、抵当権が設定されたのは建物のみなので、抵当権の効力は建物だけ、すなわち「建物の所有権」だけに及びます。
ということは、競売により建物を取得したCには、建物の所有権はあっても土地の利用権はない、ということになります。
するとCは、B所有の土地上に土地利用権なく建物を所有していることになります。
これは、土地の不法占拠者ということになってしまいます。
そして、不法占拠者となってしまったCには建物の収去義務が生じ、土地の所有者Bから土地の引渡し請求を受けてしまうことになります。
これって、どう思います?
ハッキリ言って、かなり問題アリですよね。
こんな結果になってしまうのであれば、競売によってCが建物を取得する意味がありません。
そもそも、こんな結果になるなら誰も競売に手を出さなくなります。
そうなると、競売に出された建物にはロクな値段がつかなくなります。
すると、もはや建物を担保とする抵当権自体が意味のないものになってしまいます。
さらに、問題はそれだけではありません。
もし競売により取得した建物を収去しなければならないとなると、全国の競売取得の建物が取り壊される事になり兼ねません。
それは、社会経済的に大きな損失であり、我が国の経済の発展を阻害することににも繋がります。
そこで!
大変お待たせいたしました。
いよいよ、法定地上権の登場となります。
民法では、このような事態を解消するため、法定地上権の規定を置きました。
その規定により、事例のCは、競売により建物を取得すると、自動的に土地の地上権が設定されます。
すると、Cは土地の不法占拠者ではなくなり、土地の地上権者として堂々と建物を所有し、利用することができます。
以上が、法定地上権の基本の解説になります。
まずはここをしっかり押さえてください。
ちょこっとコラム
~更地と底地~

建造物等の上物が無い状態の土地(簡単に言えばまっさらな土地)を更地といいます。
一般に、土地の価値は、更地(さらち)が一番高いです。
一方、土地利用権(借地権)の付着した土地を底地(そこち)といいます。
底地の価値は更地に比べて格段に下がります。
なぜなら、底地は所有者自身で利用できないからです。
そして、事例1のような競売の買受人Cに自動で法定地上権が設置されるということは、土地には底地の価値しか残らないということです。
そして、同じ借地権でも地上権は賃借権よりもかなり強い権利です。
(この点についての詳しい解説は「【借地権】賃借権と地上権の違い/借地人の対抗要件と対抗力とは/借地上の建物滅失問題/借地人の賃借権の譲渡(転貸)をわかりやすく解説!」をご覧ください)
したがって、法定地上権が自動で成立するということは、抵当権者および買受人に非常に有利で、抵当権設定者(土地の所有者)には不利ということになります。
こういった点においても、抵当権の強さが表れていると言えるでしょう。
土地のみに抵当権を設定した場合
それでは続いて、土地と建物のうち、土地のみに抵当権が設定され、抵当権が実行された場合はどうなるのでしょうか?
事例2
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有している。そしてBは、土地に抵当権を設定した。抵当権者はAである。その後、抵当権が実行され、競売によりCが甲土地を取得した。
この事例2では、競売によりCが甲土地を取得したことにより
土地の所有者→C
建物の所有者→B
となります。
さて、ではこの事例の場合、建物の所有者Bのために、法定地上権は成立するでしょうか?
もし、法定地上権が成立しないとなると、競売でCが土地の所有権を取得したことにより、Bは土地の利用権なく土地上に建物を所有していることになり、不法占拠者となってしまいます。
不法占拠者となってしまうということは、建物の収去義務が生じ、Cに土地の収去請求をされたら、建物を取り壊さなければならなくなります。
さて、Bの運命やいかに?
結論。
この事例2で、Bのために法定地上権は成立します。
理由は、社会経済的な損失の防止です。
土地の所有権が競売により他人のものになる度に、その土地上の建物を取り壊していたら、それは社会経済上よろしくありません。ひいては我が国の経済の発展を阻害します。
よってBは、競売によりCが土地の所有権を取得した後も、法定地上権が自動的に設定されることにより、問題なく土地上の建物を使い続けることができます。
法定地上権が成立する場合の土地買受人(事例のC)の地位
さて、事例2で法定地上権が成立するとなると、競売により土地を買い受けたCは困らないのでしょうか?
というのも、Bのために法定地上権が成立するということは、せっかくCは土地を買い受けたのに、自分で土地を利用できないことになります。
つまり、Cは土地利用権のない、いわゆる底地を買い受けたことになります。それはCにとって問題ないのでしょうか?
実は、それについては問題ありません。
なぜなら、そんなことはわかった上で、Cは土地を買い受けているはずだからです。
というのも、そんな事情がある土地は、底地として相当に叩かれた破格の値段で競売にかけられているはずです。
ですので、そんな事情に見合った金額でCは買い受けているはずなのです。
つまり「そんな事情があるけどこの値段なら」と、Cは買い受けているということです。
土地にそんな値段しかつかないなら、抵当権者Aが困らないのか
これについても問題ありません。
なぜなら、土地が底地として大した値段がつかないことを前提に、抵当権者AはBに対する融資の金額を決めているはずだからです。
ですので、いざ抵当権を実行して土地を競売によってCが取得して、Bのために法定地上権が成立したからといって、抵当権者Aには特段の損失にならないのです。
そんなことは、抵当権者Aにとって元々織り込み済みの想定内の事なのです。
法定地上権の要件

法定地上権は、一定の要件を満たすと、法律の定めにより自動的に設定される(発生する)地上権です。
では、その「一定の要件」とは何なのでしょうか?
法定地上権が成立するには、以下の要件を満たしている事が必要になります。
1・抵当権設定時に土地上に建物が存在すること
2・抵当権設定時に土地と建物が同一の所有者に属すること
3・土地か建物のどちらか、または両方に抵当権がされること
4・所有者が競売により異なるに至ること
これらの要件をすべて満たして初めて、建物所有者のために法定地上権が成立します。
ここで大事な論点としては、1と2の要件についてになります。
3と4の要件については、文章そのままに理解するだけで問題ありません。
ということで、1と2の要件について、ひとつひとつ解説して参ります。
1・抵当権設定時に土地上に建物が存在すること

まずはこちらの事例をご覧ください。
事例3
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有している。そしてBは、土地だけに抵当権を設定した。抵当権者はAである。その後、火災により建物が滅失したので、Bは新建物を再築した。その後、抵当権が実行され、競売によりCが甲土地を取得した。
この場合、再築した新建物のために法定地上権が成立します。
なぜなら、一度建物が滅失したとはいえ、抵当権設定時には土地上に建物が存在していたからです。
ただし、このケースでは、法定地上権の成立範囲というものがあります。
成立範囲は、原則として旧建物と同一の範囲です。
これはどういう意味かといいますと、仮に再築した新建物が旧建物に比べてあまりにガッチリした強固な建物だとします。
その場合は、法定地上権の成立は難しくなります。なぜなら、抵当権を害することになるからです。
土地は、更地の方が価値が上がります。
別の言い方をすれば、土地上に取り壊しづらい建物があるほど、土地の価値は下がります。
したがって、旧建物に比べてあまりにガッチリした新建物が再築されてしまうと、その結果として土地の価値が下がり、競売時の値段にも影響します。それは抵当権者にとって予期せぬ負担になってしまいます。
ですので、このようなケースで法定地上権が成立するためには、その成立範囲は旧建物と同一の範囲(旧建物と同レベルの範囲内)でなければならないのです。
【更地に抵当権が設定された後に土地所有者が建物を建築した場合】
この場合、法定地上権は成立しません。
なぜなら、抵当権設定時には更地だったからです。
もし、この場合に法定地上権が成立してしまうと、競売時の土地は底地として価値の低い評価の値段になり、更地としての価値を評価して抵当権を設定した抵当権者に損害を与えてしまいます。
また、もし抵当権設定時に、抵当権者が土地上に建物を建築することを承諾していた場合でも、法定地上権は成立しません。
なぜなら、承諾の有無などという主観的な事情が法定地上権の成立に影響を与えてしまうと、競売等の問題も含め法的安定性が害されるからです。
したがいまして、更地に抵当権が設定された後に土地所有者が建物を建築したケースで、抵当権が実行され、その土地を競売により取得した買受人は、建物所有者に対して建物の収去と明渡しを請求できます(法定地上権が成立しないから)。
2・抵当権設定時に土地と建物が同一の所有者に属すること
これは読んだとおりで、抵当権設定時に、土地とその土地上の建物の所有者が同一でないと法定地上権は成立しない、という意味です。
ここは単純に考えてください。
ただ、次のような微妙なケースもあります。
事例4
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有しているが、建物の登記は前主のままである。そしてBは抵当権を設定した。抵当権者はAである。その後、抵当権が実行され、競売によりCが甲土地を取得した。
さて、この場合、法定地上権は成立するでしょうか?
実はこのケースでも、法定地上権は成立します。
これは意外な結果だと思う方も多いと思います。
では、なぜそうなるのか?ですが、ここは単純に「そういうルールになっているんだ」と覚えてください。
一応理屈はあるのですが、それがよくわからない理屈なので(笑)。
なお、このケースは試験で問われやすいので、とにかくこの結論をしっかり押さえておいてください。
【抵当権設定時には土地と建物が同一の所有者だったが、その後に土地または建物が譲渡され、土地と建物の所有者が異なるに至った場合】
このケースも法定地上権は成立します。
あくまで抵当権設定時に土地と建物の所有者が同一であればいいということです。
【借地人が借地上の自己所有の建物に抵当権を設定後、その土地の所有者が借地人からその建物を買い受けた場合】
これはどういう事かというと、Aが地主の土地にB所有の甲建物があって、甲建物に抵当権が設定された後、地主AがBから甲建物を買い取った場合、その後に抵当権が実行されて甲建物が競売により誰かに買い受けられたとき、法定地上権は成立するのか?という話です。
結論。
このケースでは、法定地上権は成立しません。
これはわかりますよね。
抵当権が設定された時に土地と建物の所有者が同一ではありませんから。
抵当権が設定された時に土地と建物が同一の所有者ではないということは、そもそもその時点で土地利用権が設定されているはずなので、わざわざ法定地上権が成立する必要がないのです。
要件を満たしても法定地上権が成立しない場合
実は、上記の4要件すべてを満たしても、法定地上権が成立しない例外的なケースがあります。
それは、土地と建物の両方に抵当権を設定した共同担保の、次のようなケースです。
事例5
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有している。そしてBはAから融資を受けるため土地・建物の両方に抵当権を設定した(共同担保)。抵当権者はAである。その後、Bは建物を取り壊し、新建物を再築した。その後、抵当権が実行され、競売によりCが甲土地を取得した。
抵当権は物権です。物権は物に対する権利です。
ですので、目的とする物が無くなれば権利も消滅します。
ということは、この事例5では、抵当権の目的となっている建物が一度取り壊された時点で、物権である抵当権は消滅することになります。

でもこれってどうでしょう?
抵当権者Aにとっては、ちょっと理不尽な話ですよね。
Bが勝手に建物を取り壊したことで、建物への抵当権が消滅してしまうとなると、元々、土地と建物のセットでの担保として評価した価値を見た上で抵当権を設定して、AはBに融資をしているわけですから、その抵当権者Aの担保(抵当不動産)への期待を裏切ることになりますよね。
そして、その期待への裏切りは、実際に抵当権が実行されて競売が行われたときに顕在化します。
建物の抵当権が消滅するとなると、残る抵当権は土地だけになります。
これは元々の土地・建物セットの担保評価と比べてかなり低いものとなってしまいます。
なぜなら、その土地の評価は、底地としての評価になってしまうからです。
したがって、Bが建物を取り壊したことによって建物への抵当権が消滅すると、残る土地のみの担保価値は底地としての評価になるので、競売にかけても大した値段にならず、被担保債権の弁済が満たせなくなる可能性が高いのです。
ということは、つまり、Bが建物を取り壊した行為は、抵当権者Aに対する重大な背信行為と言えるでしょう。
Bが抵当権者Aに対して重大な背信行為をしたことと、法定地上権の不成立がどう関係あるのか
法定地上権の成立は、建物の所有者Bの保護になります。
なぜなら、法定地上権が成立しないとなると、競売により土地の所有者がCになり、BはCの土地上に土地利用権なく建物を所有することになり、不法占拠者という扱いになってしまうからです。
それが法定地上権の成立によって不法占拠者ではなくなるからです。
さて、では改めて、事例5の状況を考えてみてください。
先ほどの説明から、Bは抵当権者Aに対して重大な背信行為をしたと言えますよね。
そのような人間を法定地上権を成立させて保護する必要ありますかね?
したがいまして、事例5では、法定地上権の成立のための4要件すべてを満たしてはいますが、例外的に法定地上権が成立しないのです。
なお、法定地上権が成立しないということは、競売によりCが土地を取得し所有者となった時点で、Bは不法占拠者という扱いになります。
不法占拠者となってしまうということは、Bには建物の収去義務が生じます。
したがいまして、事例5では、例外的に法定地上権が成立せず、建物の買受人Cは、Bに対して建物の収去請求をすることができます。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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・法定地上権の超基本
・コラム~更地と底地とは
・法定地上権が成立する場合の土地買受人の地位と抵当権者
・法定地上権の要件
・要件を満たしても法定地上権が成立しない場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

法定地上権の基本
法定地上権とは、一定の要件を満たすと、法律の定めにより自動的に設定される(発生する)地上権です。
それでは、事例とともに法定地上権について解説して参ります。
事例1
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有している。そしてBは建物に抵当権を設定した。抵当権者はAである。その後、抵当権が実行され、競売によりCが建物を取得した。
この事例で、抵当権を設定した時の土地と建物の所有者はBです。
ところが、抵当権が実行されて、競売によりCが建物を取得すると
土地の所有者→B
建物の所有者→C
となります。
それの何が問題なの?
確かにこれだけ見れば何も問題ありませんね。
ただ、よく考えてみてください。
抵当権を設定した時、土地と建物の所有権は両方ともBのものでした。
ということは、土地利用権(借地権)は設定されていません。
当たり前ですよね。
土地もBの自己所有ですから。
となると、抵当権が設定されたのは建物のみなので、抵当権の効力は建物だけ、すなわち「建物の所有権」だけに及びます。
ということは、競売により建物を取得したCには、建物の所有権はあっても土地の利用権はない、ということになります。
するとCは、B所有の土地上に土地利用権なく建物を所有していることになります。
これは、土地の不法占拠者ということになってしまいます。
そして、不法占拠者となってしまったCには建物の収去義務が生じ、土地の所有者Bから土地の引渡し請求を受けてしまうことになります。
これって、どう思います?
ハッキリ言って、かなり問題アリですよね。
こんな結果になってしまうのであれば、競売によってCが建物を取得する意味がありません。
そもそも、こんな結果になるなら誰も競売に手を出さなくなります。
そうなると、競売に出された建物にはロクな値段がつかなくなります。
すると、もはや建物を担保とする抵当権自体が意味のないものになってしまいます。
さらに、問題はそれだけではありません。
もし競売により取得した建物を収去しなければならないとなると、全国の競売取得の建物が取り壊される事になり兼ねません。
それは、社会経済的に大きな損失であり、我が国の経済の発展を阻害することににも繋がります。
そこで!
大変お待たせいたしました。
いよいよ、法定地上権の登場となります。
民法では、このような事態を解消するため、法定地上権の規定を置きました。
その規定により、事例のCは、競売により建物を取得すると、自動的に土地の地上権が設定されます。
すると、Cは土地の不法占拠者ではなくなり、土地の地上権者として堂々と建物を所有し、利用することができます。
以上が、法定地上権の基本の解説になります。
まずはここをしっかり押さえてください。
ちょこっとコラム
~更地と底地~

建造物等の上物が無い状態の土地(簡単に言えばまっさらな土地)を更地といいます。
一般に、土地の価値は、更地(さらち)が一番高いです。
一方、土地利用権(借地権)の付着した土地を底地(そこち)といいます。
底地の価値は更地に比べて格段に下がります。
なぜなら、底地は所有者自身で利用できないからです。
そして、事例1のような競売の買受人Cに自動で法定地上権が設置されるということは、土地には底地の価値しか残らないということです。
そして、同じ借地権でも地上権は賃借権よりもかなり強い権利です。
(この点についての詳しい解説は「【借地権】賃借権と地上権の違い/借地人の対抗要件と対抗力とは/借地上の建物滅失問題/借地人の賃借権の譲渡(転貸)をわかりやすく解説!」をご覧ください)
したがって、法定地上権が自動で成立するということは、抵当権者および買受人に非常に有利で、抵当権設定者(土地の所有者)には不利ということになります。
こういった点においても、抵当権の強さが表れていると言えるでしょう。
土地のみに抵当権を設定した場合
それでは続いて、土地と建物のうち、土地のみに抵当権が設定され、抵当権が実行された場合はどうなるのでしょうか?
事例2
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有している。そしてBは、土地に抵当権を設定した。抵当権者はAである。その後、抵当権が実行され、競売によりCが甲土地を取得した。
この事例2では、競売によりCが甲土地を取得したことにより
土地の所有者→C
建物の所有者→B
となります。
さて、ではこの事例の場合、建物の所有者Bのために、法定地上権は成立するでしょうか?
もし、法定地上権が成立しないとなると、競売でCが土地の所有権を取得したことにより、Bは土地の利用権なく土地上に建物を所有していることになり、不法占拠者となってしまいます。
不法占拠者となってしまうということは、建物の収去義務が生じ、Cに土地の収去請求をされたら、建物を取り壊さなければならなくなります。
さて、Bの運命やいかに?
結論。
この事例2で、Bのために法定地上権は成立します。
理由は、社会経済的な損失の防止です。
土地の所有権が競売により他人のものになる度に、その土地上の建物を取り壊していたら、それは社会経済上よろしくありません。ひいては我が国の経済の発展を阻害します。
よってBは、競売によりCが土地の所有権を取得した後も、法定地上権が自動的に設定されることにより、問題なく土地上の建物を使い続けることができます。
法定地上権が成立する場合の土地買受人(事例のC)の地位
さて、事例2で法定地上権が成立するとなると、競売により土地を買い受けたCは困らないのでしょうか?
というのも、Bのために法定地上権が成立するということは、せっかくCは土地を買い受けたのに、自分で土地を利用できないことになります。
つまり、Cは土地利用権のない、いわゆる底地を買い受けたことになります。それはCにとって問題ないのでしょうか?
実は、それについては問題ありません。
なぜなら、そんなことはわかった上で、Cは土地を買い受けているはずだからです。
というのも、そんな事情がある土地は、底地として相当に叩かれた破格の値段で競売にかけられているはずです。
ですので、そんな事情に見合った金額でCは買い受けているはずなのです。
つまり「そんな事情があるけどこの値段なら」と、Cは買い受けているということです。
土地にそんな値段しかつかないなら、抵当権者Aが困らないのか
これについても問題ありません。
なぜなら、土地が底地として大した値段がつかないことを前提に、抵当権者AはBに対する融資の金額を決めているはずだからです。
ですので、いざ抵当権を実行して土地を競売によってCが取得して、Bのために法定地上権が成立したからといって、抵当権者Aには特段の損失にならないのです。
そんなことは、抵当権者Aにとって元々織り込み済みの想定内の事なのです。
法定地上権の要件

法定地上権は、一定の要件を満たすと、法律の定めにより自動的に設定される(発生する)地上権です。
では、その「一定の要件」とは何なのでしょうか?
法定地上権が成立するには、以下の要件を満たしている事が必要になります。
1・抵当権設定時に土地上に建物が存在すること
2・抵当権設定時に土地と建物が同一の所有者に属すること
3・土地か建物のどちらか、または両方に抵当権がされること
4・所有者が競売により異なるに至ること
これらの要件をすべて満たして初めて、建物所有者のために法定地上権が成立します。
ここで大事な論点としては、1と2の要件についてになります。
3と4の要件については、文章そのままに理解するだけで問題ありません。
ということで、1と2の要件について、ひとつひとつ解説して参ります。
1・抵当権設定時に土地上に建物が存在すること

まずはこちらの事例をご覧ください。
事例3
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有している。そしてBは、土地だけに抵当権を設定した。抵当権者はAである。その後、火災により建物が滅失したので、Bは新建物を再築した。その後、抵当権が実行され、競売によりCが甲土地を取得した。
この場合、再築した新建物のために法定地上権が成立します。
なぜなら、一度建物が滅失したとはいえ、抵当権設定時には土地上に建物が存在していたからです。
ただし、このケースでは、法定地上権の成立範囲というものがあります。
成立範囲は、原則として旧建物と同一の範囲です。
これはどういう意味かといいますと、仮に再築した新建物が旧建物に比べてあまりにガッチリした強固な建物だとします。
その場合は、法定地上権の成立は難しくなります。なぜなら、抵当権を害することになるからです。
土地は、更地の方が価値が上がります。
別の言い方をすれば、土地上に取り壊しづらい建物があるほど、土地の価値は下がります。
したがって、旧建物に比べてあまりにガッチリした新建物が再築されてしまうと、その結果として土地の価値が下がり、競売時の値段にも影響します。それは抵当権者にとって予期せぬ負担になってしまいます。
ですので、このようなケースで法定地上権が成立するためには、その成立範囲は旧建物と同一の範囲(旧建物と同レベルの範囲内)でなければならないのです。
【更地に抵当権が設定された後に土地所有者が建物を建築した場合】
この場合、法定地上権は成立しません。
なぜなら、抵当権設定時には更地だったからです。
もし、この場合に法定地上権が成立してしまうと、競売時の土地は底地として価値の低い評価の値段になり、更地としての価値を評価して抵当権を設定した抵当権者に損害を与えてしまいます。
また、もし抵当権設定時に、抵当権者が土地上に建物を建築することを承諾していた場合でも、法定地上権は成立しません。
なぜなら、承諾の有無などという主観的な事情が法定地上権の成立に影響を与えてしまうと、競売等の問題も含め法的安定性が害されるからです。
したがいまして、更地に抵当権が設定された後に土地所有者が建物を建築したケースで、抵当権が実行され、その土地を競売により取得した買受人は、建物所有者に対して建物の収去と明渡しを請求できます(法定地上権が成立しないから)。
2・抵当権設定時に土地と建物が同一の所有者に属すること
これは読んだとおりで、抵当権設定時に、土地とその土地上の建物の所有者が同一でないと法定地上権は成立しない、という意味です。
ここは単純に考えてください。
ただ、次のような微妙なケースもあります。
事例4
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有しているが、建物の登記は前主のままである。そしてBは抵当権を設定した。抵当権者はAである。その後、抵当権が実行され、競売によりCが甲土地を取得した。
さて、この場合、法定地上権は成立するでしょうか?
実はこのケースでも、法定地上権は成立します。
これは意外な結果だと思う方も多いと思います。
では、なぜそうなるのか?ですが、ここは単純に「そういうルールになっているんだ」と覚えてください。
一応理屈はあるのですが、それがよくわからない理屈なので(笑)。
なお、このケースは試験で問われやすいので、とにかくこの結論をしっかり押さえておいてください。
【抵当権設定時には土地と建物が同一の所有者だったが、その後に土地または建物が譲渡され、土地と建物の所有者が異なるに至った場合】
このケースも法定地上権は成立します。
あくまで抵当権設定時に土地と建物の所有者が同一であればいいということです。
【借地人が借地上の自己所有の建物に抵当権を設定後、その土地の所有者が借地人からその建物を買い受けた場合】
これはどういう事かというと、Aが地主の土地にB所有の甲建物があって、甲建物に抵当権が設定された後、地主AがBから甲建物を買い取った場合、その後に抵当権が実行されて甲建物が競売により誰かに買い受けられたとき、法定地上権は成立するのか?という話です。
結論。
このケースでは、法定地上権は成立しません。
これはわかりますよね。
抵当権が設定された時に土地と建物の所有者が同一ではありませんから。
抵当権が設定された時に土地と建物が同一の所有者ではないということは、そもそもその時点で土地利用権が設定されているはずなので、わざわざ法定地上権が成立する必要がないのです。
要件を満たしても法定地上権が成立しない場合
実は、上記の4要件すべてを満たしても、法定地上権が成立しない例外的なケースがあります。
それは、土地と建物の両方に抵当権を設定した共同担保の、次のようなケースです。
事例5
Bは自己所有の土地上に自己所有の建物を所有している。そしてBはAから融資を受けるため土地・建物の両方に抵当権を設定した(共同担保)。抵当権者はAである。その後、Bは建物を取り壊し、新建物を再築した。その後、抵当権が実行され、競売によりCが甲土地を取得した。
抵当権は物権です。物権は物に対する権利です。
ですので、目的とする物が無くなれば権利も消滅します。
ということは、この事例5では、抵当権の目的となっている建物が一度取り壊された時点で、物権である抵当権は消滅することになります。

でもこれってどうでしょう?
抵当権者Aにとっては、ちょっと理不尽な話ですよね。
Bが勝手に建物を取り壊したことで、建物への抵当権が消滅してしまうとなると、元々、土地と建物のセットでの担保として評価した価値を見た上で抵当権を設定して、AはBに融資をしているわけですから、その抵当権者Aの担保(抵当不動産)への期待を裏切ることになりますよね。
そして、その期待への裏切りは、実際に抵当権が実行されて競売が行われたときに顕在化します。
建物の抵当権が消滅するとなると、残る抵当権は土地だけになります。
これは元々の土地・建物セットの担保評価と比べてかなり低いものとなってしまいます。
なぜなら、その土地の評価は、底地としての評価になってしまうからです。
したがって、Bが建物を取り壊したことによって建物への抵当権が消滅すると、残る土地のみの担保価値は底地としての評価になるので、競売にかけても大した値段にならず、被担保債権の弁済が満たせなくなる可能性が高いのです。
ということは、つまり、Bが建物を取り壊した行為は、抵当権者Aに対する重大な背信行為と言えるでしょう。
Bが抵当権者Aに対して重大な背信行為をしたことと、法定地上権の不成立がどう関係あるのか
法定地上権の成立は、建物の所有者Bの保護になります。
なぜなら、法定地上権が成立しないとなると、競売により土地の所有者がCになり、BはCの土地上に土地利用権なく建物を所有することになり、不法占拠者という扱いになってしまうからです。
それが法定地上権の成立によって不法占拠者ではなくなるからです。
さて、では改めて、事例5の状況を考えてみてください。
先ほどの説明から、Bは抵当権者Aに対して重大な背信行為をしたと言えますよね。
そのような人間を法定地上権を成立させて保護する必要ありますかね?
したがいまして、事例5では、法定地上権の成立のための4要件すべてを満たしてはいますが、例外的に法定地上権が成立しないのです。
なお、法定地上権が成立しないということは、競売によりCが土地を取得し所有者となった時点で、Bは不法占拠者という扱いになります。
不法占拠者となってしまうということは、Bには建物の収去義務が生じます。
したがいまして、事例5では、例外的に法定地上権が成立せず、建物の買受人Cは、Bに対して建物の収去請求をすることができます。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
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