【抵当権に基づく妨害排除請求権と損害賠償請求権】【抵当不動産の賃貸と取り壊し】をわかりやすく解説

▼この記事でわかること
抵当権の侵害の基本
妨害排除請求権
抵当権侵害による損害賠償請求権
担保目的物(抵当権を設定した不動産)の賃貸
担保目的物が取り壊されたら?
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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抵当権の侵害

 抵当権が侵害されるような事態になったとき、抵当権者には何ができるのでしょうか?
 まずは事例をご覧ください。

事例1
BはAから2000万円の融資を受けるために、自己所有の山林(時価総額5000万円相当)に抵当権を設定した。その後、Bは不当にその山林を伐採した。なお、伐採した材木の価格は1000万円相当である。


 まずは事例の状況を確認します。
 抵当権は、担保目的物(抵当権を設定した不動産)の使用収益は抵当権設定者が自由に行います。
 つまり、事例1の抵当権設定者Bは、抵当権を設定後も山林を自身で自由に使用収益できます。
 これは、抵当権設定者だけでなく、抵当権者にもメリットがあります。
 抵当権者は自分で担保目的物の管理をする必要はないし、抵当権設定者が自由に担保目的物を使用収益することによって得た利益から弁済してもらえる(貸したお金を返してもらえる)わけですから。
 ところが、事例1では問題が生じています。
 それは、抵当権設定者Bが、自由に山林(担保目的物)を使用収益できることをイイことに「不当に」山林の伐採を行ったことです。
 抵当権設定者Bは、担保目的物の山林を自由に使用収益できます。
 しかし、それはあくまで通常の山林経営です。
 通常の山林経営で収益を上げることは何ら問題はありません。むしろ、その収益から弁済してもらえれば抵当権者Aとしても望ましいことです。
 したがって、抵当権設定者Bが通常の山林経営では行わない行為、つまり「不当に」山林を伐採したことは、問題アリなのです。
 そして、Bのそのような行為は、Aの抵当権を侵害する行為にあたります。
 さて、では、そのような抵当権を侵害する行為をした抵当権設定者Bに対して、抵当権者Aはどのような請求ができるのでしょうか?

妨害排除請求権
それは絶対にダメです
 抵当権者Aは、そんなBに対して「抵当権に基づく妨害排除の請求」ができます。
 その請求とは次の2つです。

・伐採した材木の搬出禁止の請求
・すでに材木が搬出されていた場合、その材木を「元の場所に戻せ」という請求

 それでは、わかりやすくひとつひとつ解説して参ります。

・伐採した材木の搬出禁止の請求

 Bが不当に伐採した材木の価格は1000万円相当です。
 ですので、残った山林の価格は
5000万ー1000万=4000万円分あり、
AがBに融資した額、すなわちAのBに対する債権額2000万円を担保するにはまだ十分とも言えます。
 しかし、それでも抵当権者Aは、抵当権設定者Bに対して、伐採した材木の搬出禁止の請求ができます。
 その理由は、抵当権の不可分性です。
 抵当権の不可分性とは、担保物権を持つ者は被担保債権の全額の弁済があるまでその目的物の全部について権利を行使できる、という性質です。
 つまり、抵当権者Aは、被担保債権の額(AがBに貸した金額)は2000万円ですが、担保目的物の全体、すなわち5000万円の山林全体に対して抵当権を実行できるということです。
 ですので、5000万円の山林全体の一部である1000万円相当の材木に対しても、それが「不当な」伐採であれば「侵害があった」ということだけを理由にして、AはBに対してその妨害の排除を請求できるのです。
 したがいまして、抵当権者Aは「侵害があった」ということを理由にして、抵当権設定者Bに対して、伐採した1000万円相当の材木の搬出禁止の請求ができます。

・すでに材木が搬出されていた場合、その材木を元の場所に戻せという請求

 抵当権設定者Bが不当に伐採した材木がすでに搬出されていた場合でも、抵当権者Aは材木の返還請求ができます。
 ただし、することができる請求は「元の場所に戻せ」です。「私に引き渡せ!」という請求はできません
 なぜなら、抵当権占有を内容としない権利だからです。つまり、抵当権者Aには山林の占有権限はないので、Bに対してできる請求はあくまで「不当に伐採した材木を元の場所に戻せ」なのです。むしろ占有権限のない者が自己への引渡し請求をすることは、ありえないことなのです。
 この点はご注意ください。

第三者が故意・過失なく誤信して山林を伐採した場合

 それでは、例えば第三者Cが現れて、故意・過失なく自身の山林だと誤信してBの山林を伐採した場合、どうなるのでしょうか?
 この場合も、抵当権者Aは第三者Cに対して「侵害があった」ということだけを理由に、先述の抵当権に基づく妨害排除請求「伐採した材木の搬出禁止・搬出された材木を元に戻せ」ができます。しかも、第三者Cに故意・過失がなくてもです。
 このとき、抵当権者Aに求められる要件は登記です。
 つまり、抵当権者Aは、しっかり抵当権の登記さえしていれば、第三者Cに故意・過失がなかろうが、抵当権に基づく妨害排除請求権を行使することができます。
 抵当権てスゲェ
 そうですね。これは、抵当権は担保物権、すなわち、債権でなく物権であることの表れでしょう。
「物権=排他的支配権」が形を変えて、強力な権利であることの意味を表していると言えます。

抵当権侵害による損害賠償請求権
指さし
 抵当権者は、その抵当権が侵害されるような事態になった場合は、抵当権を侵害するものに対し、抵当権に基づく妨害排除請求権を行使することができます。
 では、抵当権者は、抵当権を侵害した者に対し、抵当権侵害による損害賠償請求をすることはできるのでしょうか?

事例2
BはAから1000万円の融資を受けるため、自己所有の甲建物に抵当権を設定した(抵当権者はA)。その後、第三者Cが甲建物を損傷した。損傷後の甲建物の残存価値は3000万円である。


 さて、この事例2で、抵当権者Aは第三者Cに対して、抵当権侵害による損害賠償請求をすることができるのでしょうか?
 結論。抵当権者Aは、第三者Cに対して、抵当権侵害による損害賠償請求はできません。
 なぜなら、損害が生じていないからです。
 え?どゆこと?
 はい。今から解説します。
 第三者Cは、抵当権者Aの担保目的物である甲建物を損傷させました。これは確かに抵当権の侵害と言えます。
 しかし「損害が生じた」とまでは言えません。なぜなら、担保目的物である甲建物の残存価値がまだ3000万円あるからです。
 損害賠償の請求は「損害の発生」という前提があった上で行うものです。
 では、抵当権者の損害とは何でしょう?
 それは、被担保債権の弁済を受けられなくなることです。
 つまり、抵当権者Aの損害とは、Bに対する1000万円の貸金債権(被担保債権)の弁済を受けられなくなる(1000万円返してもらえなくなる)ことです。
 抵当権者Aの被担保債権額は1000万円です。つまり、第三者Cが損傷したとはいえ、担保目的物である甲建物の残存価値が3000万円あれば、1000万円の被担保債権の弁済には影響がないのです。
 したがって「損害が生じた」とまでは言えない、つまり「損害の発生」がないので、抵当権者Aは第三者Cに対して損害賠償の請求はできない、ということになります。
 それでは「損害が生じた」と言えるレベル、すなわち「損害の発生」が十分認められる場合はどうなるのでしょう?

事例3
BはAから1000万円の融資を受けるため、自己所有の甲建物に抵当権を設定した(抵当権者はA)。その後、第三者Cが故意・過失なく甲建物を損傷した。損傷後の甲建物の残存価値は900万円である。


 今度は、被担保債権額に影響を及ぼしたケースです。
 この事例3では、第三者Cが担保目的物の甲建物を損傷したことにより、甲建物の残存価値が900万円になってしまいました。
 そして、抵当権者AのBに対する債権額、すなわち被担保債権額は1000万円です。ということは、被担保債権の弁済に影響を及ぼしてしまっています。被担保債権の弁済に影響を及ぼしているということは、損害が発生しているということです。
 さて、ではこの場合、抵当権者Aは第三者Cに対して、抵当権侵害による損害賠償の請求ができるでしょうか?
 結論。抵当権者Aは第三者Cに対して、抵当権侵害による損害賠償の請求はできません。
 え?なんで?
 なぜなら、第三者Cに過失がないからです。法律に別段の定めがなければ、過失がない相手に対して損害賠償の請求はできません。(過失責任主義の原則)
 抵当権侵害による損害賠償の請求については、あくまで過失責任主義の原則に従います。
 では、第三者に過失がある場合はどうなるのか?

事例4
BはAから1000万円の融資を受けるため、自己所有の甲建物に抵当権を設定した(抵当権者はA)。その後、第三者Cの過失により甲建物を損傷した。損傷後の甲建物の残存価値は900万円である。


 この事例4では、第三者Cの損傷により被担保債権の弁済に影響を及ぼしています。しかも、第三者Cには過失があります。
 したがいまして、この事例4では、抵当権者Aは第三者Cに対して、抵当権侵害による損害賠償の請求ができます。
 なお、抵当権者Aが第三者Cに対して損害賠償できるタイミングは、被担保債権の弁済期です。第三者Cが甲建物を損傷した時ではありません。なぜなら、弁済期になってみないと、実際にどれぐらいの額が被担保債権の弁済に影響を与えたかがわからないからです。
 つまり、それでもBが普通に弁済したのであれば「損害は発生しなかったこと」になり、抵当権者Aは損害賠償の請求はできなくなります。というか、Bが普通に弁済したとすれば、そもそもAは損害賠償の請求をする必要もなくなります。
 繰り返しますが、抵当権者の損害とは、被担保債権の弁済が受けられなくなることです。
 この点はしっかり覚えておいてください。
 また、試験等での引っかけとして「抵当権者が抵当権侵害による損害賠償の請求ができる時は抵当権実行時である」というような選択肢が出てくることがありますが、これは×です。
 繰り返しますが、抵当権者が抵当権侵害による損害賠償の請求ができる時被担保債権の弁済期です。
 お気をつけください。

抵当不動産の賃貸
アパート
 続いては、抵当権の侵害の中で、担保目的物(抵当権を設定した不動産)の賃貸が絡んだケースについて、解説して参ります。

事例5
BはAから1000万円の融資を受けるため、自己所有の甲建物に抵当権を設定した(抵当権者はA)。その後、Aに無断でBは甲建物をCに賃貸し、引き渡した。


 さて、この事例5で、抵当権者AはCに対して、抵当権の侵害を理由として甲建物の立退きを請求できるでしょうか?
 結論。抵当権者AはCに対して、抵当権侵害を理由として甲建物の立退きを請求することはできません。
 なぜなら、抵当権者Aには甲建物を占有する権利はなく、抵当権の侵害はないからです。そもそも、抵当権設定者Bが担保目的物となった甲建物を使用収益するのはBの自由です。
 したがって、Bが甲建物をCに賃貸して賃料を取るのはBの自由なんです。その際に、Aの許可などいらないのです。むしろ、それで抵当権設定者Bに収益を上げてもらえば、被担保債権の弁済にもプラスになり、抵当権権者Aにとっても都合が良いのです。

事例6
BはAから1000万円の融資を受けるため、自己所有の甲建物に抵当権を設定した(抵当権者はA)。その後、Aに無断でBは甲建物をCに賃貸し、引き渡した。しかし、このBC間の賃貸借契約は、競売手続を妨害する目的でなされたもので、このことでAの甲建物の競売をまともに行うことが困難になった。


 これは、いわゆる競売の妨害を目的とする占有屋のケースです。
 この事例6の場合は、抵当権設定者のBには「競売手続の妨害」という故意があります。
 したがって、この場合、抵当権者Aは、抵当権侵害による妨害排除請求権を行使できます。
 では、抵当権者Aは妨害排除請求をするにあたり、甲建物を「私に引き渡せ」とCに請求することはできるでしょうか?
 結論。抵当権者AはCに対して、甲建物の「自己への引渡し」を請求することはできません。Cに対してAができる請求は「Bに引き渡せ」にすぎません。
 つまり、この事例6のような場合、賃貸されている抵当不動産の賃借人に抵当権者ができる請求は「抵当権設定者の元にその不動産を戻せ(引き渡せ)」にすぎない、ということです。

事例7
BはAから1000万円の融資を受けるため、自己所有の甲建物に抵当権を設定した(抵当権者はA)。その後、Aに無断でBは甲建物をCに賃貸し、引き渡した。しかし、このBC間の賃貸借契約は、競売手続を妨害する目的でなされたものだった。なお、抵当権設定者であり甲建物の所有者であるBには、甲建物を適切に管理できない事情がある。


 この事例7では、なんと抵当権者AはCに対して、甲建物の「自己への引渡し」を請求することができます。つまり、甲建物を「私に引き渡せ」と請求できます。
 なぜこの事例7だとそれができるのか?それは、Bには「甲建物を適切に管理できない事情」があるからです。そしてBに「甲建物を適切に管理できない事情」がある以上、Bに引き渡しても抵当権の侵害を免れることができないと考えられるからです。
 したがって、この事例7では、賃貸されている抵当不動産の賃借人に対する、抵当権者の「自己への引渡し請求」が認められるのです。

AはCから賃料相当額の損害金の請求はできるのか
?女性
 この請求はできません。
 AはCに対して「自己への引渡し請求」をして、自分自身で甲建物を維持管理することはできますが、それはあくまで甲建物を維持管理するためであり、使用収益するためではありません。
 したがって「金払え」という損害金の請求はできないのです。

補足:担保目的物が取り壊されたら?

 通常、銀行が融資をする場合、土地と建物をセットで抵当権を設定します。
 ではこの場合に、建物を建て替えてしまったらどうなるでしょう?
 民法の理屈で考えれば、抵当権は物権なので、建て替える際に建物が一度無くなっているわけですから、その時に物権である抵当権は消滅します。なぜなら、物権は物に対する権利なので、目的となる物が無くなれば、それにともなって物権も消滅するからです。ただ、そうなると銀行が困ってしまいますよね?
 そこで、このような場合は、債務者は期限の利益喪失することになります。債務者が期限の利益を喪失するという意味は、銀行は融資をした相手(債務者)に対して、全額一括の支払い請求ができるということです。
 つまり、債務者が住宅ローンを組んでいたら、その住宅ローンの分割払いの約定は反故になり、債務者は全額一括の弁済を迫られることになるということです。そうなったら債務者はアウトですよね。しかし、それは債務者自らが期限の利益の喪失を招いたわけで(債務者が抵当権を設定した不動産を建て替えちゃったせいでこうなった)、債務者の自業自得ということになります。

 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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Author:根本総合行政書士
東京都行政書士会所属
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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