【抵当権の効力と物上代位の基本と要件】法定果実(家賃)や転貸賃料債権へ物上代位できるのか

▼この記事でわかること
法定果実と物上代位(家賃)
物上代位により債権の回収をなし崩し的に実現?
物上代位の要件~「払渡し又は引渡し前の差押え」そして抵当権者自身による差押えが必要な理由
転貸賃料債権への物上代位
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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法定果実と物上代位

 抵当権の効力は、債務不履行前の果実には及ばず、債務不履行後の果実には及びます。(果実についての詳しい解説は「抵当権の効力の及ぶ範囲~果実とは」をご覧ください)。
 いきなり果実がどうと言われてもピンと来ないと思いますが「物から生じる経済的収益」のことを果実と言います。
 そして、家賃や地代は法定果実になります。
 それが抵当権の効力に何の関係があるんだ! 
 はい。つまり、抵当不動産の法定果実(家賃)にも抵当権の効力は及ぶのか?ということです。
 まずは事例をご覧ください。 

事例1
BはA金融機関から500万円の融資を受け、自己所有の甲不動産に抵当権を設定した。その後、Bは債務不履行に陥った。なお、Bは甲不動産を家賃10万円でCに賃貸している。

 さて、この場合に、Aが抵当権を実行すると、法定果実である甲不動産の家賃にも抵当権の効力が及びます。なぜなら、Bが債務不履行に陥っているからです。

      抵当権の効力及ぶ
    (債務不履行)
  融資      賃料債権
A  →  B  →  C
      甲不動産  →    賃借
          賃貸

 ところで、家賃に抵当権が及ぶとなると、それで一体どうなるのでしょうか?
 まず、ここで一度、そもそもの抵当権の目的について確認しましょう。
 抵当権は、被担保債権(事例1ならAのBに対する「500万返せ」)が回収できなくなった場合に、目的不動産(抵当権を設定した不動産)を競売にかけて、その売却代金から被担保債権(事例1なら500万円)を回収するのが目的です。言い方を変えると、抵当権は、目的不動産を競売で換価することが目的です。
 ということは、抵当権が把握するものは目的物の交換価値(競売で売却した場合の価格)です。
 以上のことから、家賃にも抵当権の効力が及ぶということは、目的物の交換価値以外のもの、すなわち、目的物の価値変形物(果実)に対しても抵当権を行使できるということになります。
 このように、本来の目的物以外のもの、すなわち、目的物の価値変形物に対して抵当権などを行使するようなことを物上代位と言います。別の「物」で「代位」するから「物上代位」ということですね。
 つまり「抵当権の効力が家賃にも及ぶ」ということを民法的に言えば「賃料(家賃)は目的不動産に物上代位できる」となります。

物上代位により債権の回収をなし崩し的に実現

 ここで再び事例を確認します。

事例1
BはAから500万円の融資を受け、自己所有の甲不動産に抵当権を設定した。その後、Bは債務不履行に陥った。なお、Bは甲不動産を家賃10万円でCに賃貸している。

 Aが抵当権を実行すると、通常は甲不動産を競売にかけて、その売却代金からAは500万円(被担保債権)を回収することになります。しかし、抵当権の効力は甲不動産のみならず、甲不動産の家賃10万円にも及びます。
 それでは、甲不動産を競売にかけず、10万円の家賃に物上代位するとどうなるのでしょうか?
 そうなると抵当権者Aは、BのCに対する「家賃10万円よこせ」という賃料債権をもらうことになり、AはCから月々の家賃10万円の支払いを受けることができます。そして、それを500万円の回収に充てるという訳です。
 したがって、抵当権者Aは、家賃に物上代位して50ヶ月間10万円の支払いを受け続ければ、言ってみれば、なし崩し的に500万円(被担保債権)を回収できるという訳です。
 ただ、家賃に物上代位すれば、なし崩し的に被担保債権を回収できるといっても、このやり方では時間がかかりますよね。
 ですので、抵当権者(債権者)は競売で一気に被担保債権を回収した方が手っ取り早いです。
 しかし、時間のかかるなし崩し的手段とはいえ、競売以外にも被担保債権を回収する方法があるというのは、抵当権者にとってはありがたい話です。債権を回収する手段は多ければ多いほど債権者は助かりますから。
 
物上代位の要件

 抵当権の効力は家賃にも及び、競売でなく家賃に物上代位することでも被担保債権を回収できますが、実は家賃に物上代位するためには要件があります。
 その要件を満たさなければ家賃に物上代位できません。つまり、要件を満たさないと抵当権の効力が家賃に及ばなくなってしまうのです。
 その要件とは何なのか?
 それは「払渡し又は引渡し前の差押え」です。
 さて、この物上代位の要件についてですが、これを理解するには家賃よりももっとわかりやすい例があります。それは火災保険金です。
 それでは、ここからは物上代位の典型例である火災保険金の事例をもとに、その要件および物上代位というもの自体を、さらに掘り下げて解説して参ります。

事例2
BはAから500万円の融資を受け、自己所有の甲不動産に抵当権を設定した。その後、甲不動産が火災により滅失した。


 これは、抵当権を設定している不動産が火災により滅失した、すなわち担保目的物が滅失したという事例です。
 通常、このような場合は、担保権である抵当権は消滅するはずです。なぜなら、担保権は物権です。物権は物に対する権利です。したがって、目的とする物がなくなればその物権もなくなるのが原則です。
 ですので、Aの抵当権の目的となっている甲不動産が滅失すれば、その抵当権は消滅すると考えられます。
 しかしこれが、Bが火災による「保険金請求権」を取得すると話が違ってきます。
 抵当権者Aは、このときの保険金を、甲不動産の「価値変形物」として差し押さえることができます。
 これが物上代位です。
 ただし、抵当権者Aが保険金を差し押さえる場合に、気をつけなければならないことがあります。
 それが「払渡し又は引渡し前の差押え」です。これは物上代位をするための要件です。この要件を満たさなければ物上代位はできません。
 これはどういうことかと言いますと、Bに保険金が「払い渡される」つまり、Bに保険金が支払われる前差し押さえないと、保険金に物上代位することができないということです。
 保険金に物上代位できなければ、抵当権者Aは、保険金から被担保債権を回収することができなくなってしまいます。

「払渡し又は引渡し前の差押え」が必要な理由

 ではなぜ、抵当権者AがBの保険金に物上代位するには、保険金がBに支払われる前に差し押さえなければならないのでしょうか?
 それは、保険金の支払いが行われてしまうと、Bの一般財産(甲不動産以外の財産)保険金が紛れ込んでしまうからです。つまり、抵当権者Aの取り分がわからなくなってしまうのです。
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 抵当権は、抵当権を設定した不動産を競売にかけて、その売却代金から他の債権者に先立って優先的に弁済を受けるものです。
 つまり、抵当権者は、抵当権を設定した不動産以外の財産からは優先的に弁済を受けることはできません。抵当不動産以外の財産は、一般債権者(例えばサラ金などの他の債権者)のものだからです。
 そして、物上代位の場合は、不動産の競売から得る売却代金に代えて、火災保険金などから弁済を受けます。つまり、事例2の抵当権者Aは、物上代位により保険金から債権を回収できますが、抵当権者として優先的に手を出せるのは保険金だけです。
 抵当権者Aが物上代位により優先的に保険金を差し押さえることができるのは、それが甲不動産の価値変形物※だからです。甲不動産の価値変形物以外の財産に対しては、Aの「抵当権者としての強い権利」は及ばないのです。
 したがって、Bに実際に保険金が支払われてしまうと、それがBの一般財産(甲不動産以外の財産)の中に紛れてしまい、抵当権者Aが差し押さえるべき財産がどれだかわからなくなってしまうので、抵当権者Aは、Bへ保険金が支払われる前に差し押さえなければならない、ということになる訳です。
 ん?じゃあ抵当権者Aの取り分がどれかハッキリわかればいいってことだよね?なら他の債権者が保険金を差し押さえてもいいってこと?だってそれで保険金の分がどれかはハッキリわかるわけだから
 そういう考え方もあります。そして、実はそのような考え方を特定性維持説と言います。
 しかし、判例は特定性維持説は採用していません。つまり、裁判官はそのような考え方を認めていないのです。
 判例では、抵当権者が物上代位により優先的に債権を回収するためには、抵当権者自身で差し押さえなければならないとしています。
 ではなぜ、抵当権者自身で差し押さえなければならないのか?ですが、実はその理由を考えるときに、今度は冒頭に挙げた、物上代位による賃料(家賃)の差し押さえの問題に繋がっていきます。
 
抵当権者自身による差押え

 まずはこちらの事例をご覧ください。

事例3
Bは自己所有の甲建物をCに賃貸し引き渡した。その後、BはAから500万円の融資を受け、甲建物に抵当権を設定した。その後、Bは債務不履行に陥った。そしてAは抵当権を実行した。


 さて、この事例3で、抵当権者Aは物上代位により甲不動産の家賃を差し押さえることができます。
 ただし、Aが抵当権者として、他の債権者より優先的に差し押さえた家賃から弁済を受けるためには、抵当権者A自身による差押えが必須になります。その理由は、甲不動産の賃借人Cの立場に立って考えるとよくわかります。

抵当不動産に住む賃借人
アパート
 ところで、事例3の甲不動産の賃借人Cは、甲不動産のオーナーBが差し押さえられるような状況にあることを知っているでしょうか?
 通常、オーナーのそのような状況を、賃借人は知らないと思います。というより、知らないのが普通です。それこそ、抵当権が設定されていることすら知らなかったりするでしょう。
 例えば、アパートの一室を借りて住んでいる学生が「大家が銀行からお金を借りてそのアパートに抵当権が設定されて、その後に大家が債務不履行に陥ってその抵当権が実行された」なんて状況、知らないのが普通ですよね。
 ということは、事例3で、抵当権者Aは抵当権を実行しましたが、甲不動産の賃借人Cは何も知らないまま、それまでどおりBに家賃を支払い続けるはずですよね。そうなると、抵当権者Aが物上代位により甲不動産の家賃を差し押さえた場合、抵当権者A自身が差し押さえてくれないと、Cは本当に家賃を支払うべき相手を知ることができないまま、Bに家賃を支払い続けてしまうことになるので、Cには家賃の二重払いの危険性が生じてしまいます。これはつまり、Cを保護する必要があるということです。
 したがって、抵当権者Aが物上代位により優先的に甲不動産の家賃から弁済を受けるためには、抵当権者A自身による差押えが必要なのです。抵当権者A自身が差し押さえれば、Cは誰に家賃を支払うべきかを間違えずに済み、家賃の二重払いの危険を回避することができます。
 なお、事例3の、Cのような立場にある者を第三債務者と言います。
 つまり、抵当権の物上代位の要件「抵当権者自身による差押え」とは、第三債務者の保護という理由によるものなのです。
 ちなみに、実際に抵当権者Aが物上代位により甲不動産の家賃を差し押さえると、差押命令が第三債務者Cにも送達され、それによりCは誰に家賃を支払うべきかを知ることができます。
 要するに、抵当権者Aによる差押えについてのお知らせが、裁判所から第三債務者Cにも送られるので、それによりCは事情を知って、本当に家賃を払うべき相手が誰かを知ることができるのです。
 したがいまして、第三債務者Cは、裁判所からの送達前(お知らせが届くまで)はBに家賃を支払い、送達後はAに支払えば、それでCは免責されます(法的な責任は果たしたということ)。

補足

 抵当権者がしっかり物上代位の要件を満たして差し押さえることができれば、他の債権者(一般債権者)よりも優先して、差し押さえた価値変形物から債権を回収できます。
 しかも、他の債権者の後に差し押さえたとしてもです。
 これは保険金の例だとわかりやすいので、次の事例で解説します。

BはAから融資を受け、自己所有の甲不動産に抵当権を設定した。その後、甲不動産が火災により滅失した。 なお、サラ金業者CもBにお金を貸し付けていた。

 このケースで、サラ金業者Cが一番手で火災保険金を差し押さえたとします。しかし、抵当権者Aは物上代位の要件「払渡しまたは引渡し前の差押え」「抵当権者自身による差押え」の要件をしっかり満たすと、抵当権者Aが後から二番手でBの火災保険金を差し押さえても、抵当権者Aはその火災保険金から優先的に弁済を受けることができます。
 これは、抵当権の強さを現していると言えるでしょう。もっとも、サラ金業者Cからするとハタ迷惑な話なんですけどね。まあ、それだけ抵当権という担保物権が強力な権利ということです。

転貸賃料債権への物上代位

 抵当権が設定された不動産が賃貸されていた場合、抵当権者は物上代位によりその不動産の賃料債権を差し押さえることができます。
 では、抵当権が設定された不動産が転貸(また貸し)されていた場合に、その転貸賃料債権に物上代位することはできるのでしょうか?

事例4
BはCに自己所有の甲建物を賃貸し引き渡した。そしてCはDに甲建物を転貸し引き渡した。その後、BはAから融資を受けるために甲建物に抵当権を設定し、その旨の登記をした(抵当権者はA)。その後、Bが債務不履行に陥ったので、Aは抵当権を実行した。


 この事例4では
「オーナーB→賃借人&転貸人C→転借人D」
と転貸(また貸し)されたB所有の甲建物にAの抵当権が設定され、その後に抵当権が実行されました。
 さて、ではこの場合に、抵当権者Aは、転貸人Cの転借人Dに対する「家賃払え」という賃料債権に物上代位することはできるのでしょうか?

    オーナーB
賃料債権)↓     
   賃借人&転貸人C
賃料債権ここに物上代位できるのか?
      転借人D

 まず、普通に考えると、抵当権者Aが転貸人CのDに対する賃料債権に物上代位できるわけがありません。
 なぜなら、Cは甲建物の賃借人でしかないからです。抵当権者Aから融資を受けたのは抵当権設定者であるBです。抵当権による負担抵当権設定者であるBが負うべきものです。それは、Cが転貸人としてDに甲建物を転貸していることとは全く別の問題です。
 ですので、抵当権の負担はBが負うべきで、Cが負うのはどう考えてもオカシな話なのです。
 したがいまして、抵当権者Aは、転貸人(賃借人)Cの転借人Dに対する賃料債権に物上代位することは、原則、できません。
 ただし、例外的に、抵当権者が抵当不動産の転貸人の賃料債権に物上代位できる場合があります。

事例5
BはC会社に自己所有の甲建物を賃貸し引き渡した。そしてC会社はDに甲建物を転貸し引き渡した。その後、BはAから融資を受けるために甲建物に抵当権を設定し、その旨の登記をした(抵当権者はA)。その後、Bが債務不履行に陥ったので、Aは抵当権を実行した。なお、C会社はB個人が設立し、B自身が代表取締役を務めている。


 この事例5の場合は、なんと抵当権者Aは、転貸人Cの転借人Dに対する賃料債権に物上代位することができます。
 つまり、抵当権者Aは、C会社のDに対する賃料債権を物上代位により差し押さえることができるのです。

なぜ事例5では転貸人Cの賃料債権に物上代位できるのか

 それは、事例5の場合、オーナーBと転貸人(賃借人)Cが実質同一の者と考えられるからです。

  オーナーB(C会社社長)
賃料債権)↓    ↕ 同一の者   
  賃借人&転貸人C会社
賃料債権ここに物上代位可
      転借人D

 問題はないの
 本来、抵当権者が抵当不動産の転貸人の賃料債権に物上代位することはできません。その理由はこれまでの解説のとおりです。
 しかし、事例5の場合は、Aから融資を受けた抵当権設定者B(C会社社長)と、甲建物をDにまた貸ししている転貸人C会社が、実質同一の者と考えられるので、転貸人CのDに対する賃料債権と、抵当権設定者BのCに対する賃料債権も、実質同一のものと考えることができます。
 したがいまして、事例5の場合、抵当権者Aが、甲建物の転貸人Cの転借人Dに対する賃料債権に物上代位することができても、何も問題はないのです。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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東京都行政書士会所属
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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