
▼この記事でわかること
・抵当権の効力の範囲とは
・付加一体物とは
・借地権に抵当権の効力が及ぶ理由
・果実に抵当権の効力は及ぶのか
・果実とは
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

抵当権の効力の及ぶ範囲
原則として、抵当権は不動産に設定するものです。
では、抵当権の効力は、抵当権を設定した不動産について、どの範囲まで及ぶのでしょうか?
というのは、抵当権は債務者(抵当権設定者)が債務不履行になったような場合に、債権者(抵当権者)が抵当権を設定した不動産を強制的に競売にかけて、その売却代金から優先的にお金を回収することができる権利です。
でも、例えば、その不動産が一軒家だった場合、庭石はどうなるのでしょう?
抵当権が実行されると庭石も競売に出されてしまうのか?
あるいは、抵当権設定後に設置されたエアコンはどうなるのでしょうか?
つまり、抵当権の効力がどの範囲まで及ぶのかという問題は、庭石やエアコンやその他、どこまでの物がその抵当不動産と一緒に競売にかけられるのか?という問題と同じ意味になります。
ということで、まずは、抵当権の効力の及ぶ範囲についての民法の条文を確認してみましょう。
(抵当権の効力の及ぶ範囲)
民法370条
抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。
この民法370条の条文によれば、抵当権の効力は「不動産に付加して一体となっている物」にも及ぶとあります。
「不動産に付加して一体となっている物」は、略して付加一体物と呼びます。
ということは、何が付加一体物なのか?がわかれば、おのずと抵当権の効力の及ぶ範囲もわかることになります。
付加一体物
実は、何が付加一体物で何が付加一体物でないのかについて、学説上では争いが生じています。
ですが、それをここで記しても意味がありませんので、判例上の見解にのっとった解説をして参ります。
まず、付加一体物に該当する可能性のあるものは、次の2種類があります。
・付合物
・従物
では、それぞれにどのような物があるのか、見て参ります。
【付合物】

これは、元々は独立した動産だけど付合により建物と一体化し、建物の構成部分になるものです。
要するに、設置すると建物と一体化するようなタイプの物です。
例→取り外しの容易でない庭石、石灯籠、建物の内外を遮断する建具(入口用の扉、入口用のガラス、雨戸)
【従物】

これは、建物備え付きの備品のことで、備え付けられても独立した動産としての地位を失わないものです。
要するに、設置しても建物と一体化しない物です。
例→取り外しの容易な庭石、エアコン、畳、建物の内外を遮断しない建具(ふすま等)
さて、この時点で、抵当権の効力の及ぶ範囲がどこまでなのか、なんとなく見えてきましたよね。
結論。
付加一体物には付合物が含まれます。
したがって、付合物(取り外しの容易でない庭石、石灯籠、建物の内外を遮断する建具)には抵当権の効力が及びます。
ということは、付加一体物である付合物は抵当不動産と一緒に競売にかけることができるということです。
ですので、容易に取り外せない庭石は、抵当不動産と一緒に競売にかけられてしまいます。
また、従物については、抵当権設定時の従物には、抵当権の効力が及びます。
つまり、エアコンでも抵当権設定時にすでに設置されていたものであれば抵当権の効力は及び、競売にかけられます。
しかし、抵当権権を設定した後に設置されたエアコンであれば、抵当権の効力は及ばず競売にかけられません。
なお、付合物については、付合の時期を問わず、抵当権の効力が及びます。
つまり、容易に取り外せない庭石は、抵当権設定後に設置していたとしても抵当権の効力は及び、競売にかけられます。
【補足:主物】
エアコンは従物になりますが、そのエアコンを設置する対象の建物は主物になります。
原則として、従物は主物の処分に従います。
しかし、抵当権の効力が及ぶ範囲については、その従物が抵当権の設定後に設置されたかどうかで扱いを分けているということです。
この点はご注意ください。
なお、従物には、先述に例示した物以外にも、ガソリンスタンドの存在する土地上または地下に設置されている地下タンク、ノンスペース軽量機、洗車機などの設備も従物になります。(主物はガソリンスタンド用建物)

つまり、ガソリンスタンド用建物に抵当権が設定された場合、それらの設備が抵当権設定時にすでに設置されていた場合は、それらの設備にも抵当権の効力が及び、競売にかけられます。
付加一体物の例外:借地権
付加一体物である付合物、そして抵当権設定時にすでに設置されていた従物には、抵当権の効力が及びます。
では、抵当権が設定されている建物が借地上にある場合に、その抵当権が実行されると、その土地の借地権(土地の利用権)はどうなるのでしょうか?
例えば、Aが借地上に甲建物を所有していて、甲建物に抵当権を設定していたとします。
この場合に、抵当権が実行されると甲建物が競売にかけられますが、そのとき、抵当権の効力は借地権にも及ぶのでしょうか?
結論。
抵当権の効力は借地権にも及びます。
なぜなら、借地権は建物に従たる権利だからです。
これは判例により、このように結論付けられています。
借地権に抵当権の効力が及ぶ理由
「借地権が建物に従たる権利だから」と言われても、なんだかよくわからないですよね。
実は、判例が抵当権の効力は借地権にも及ぶとしているのには、そうしないと非常に困った事態になってしまう事情があるからなのです。
事例
AはBに500万円を融資し、その債権を担保するために借地上にあるB所有の甲建物に抵当権を設定した。その後、Bが債務不履行に陥り抵当権が実行され、競売によりCが甲不動産を取得した。
図にすると以下になります。
[抵当権実行前]
債権者
(抵当権者)
A
抵当権⇨↙︎ ↘︎⇦被担保債権
B所有 B
甲不動産 債務者
(抵当権設定者)
[抵当権実行競売後]
債権者
(抵当権者)
A
抵当権⇨↙︎ ↘︎⇦被担保債権(債権回収)
C所有 B
甲不動産 債務者
(抵当権設定者)
この事例で、甲建物への抵当権の効力は借地権にも及ぶので、Cは甲建物の所有権だけでなく、その借地権(甲建物が建っている土地の利用権)も取得することになります。
では、今度は仮に、この場合に、借地権に抵当権の効力が及ばないとなると、一体どうなるでしょう?
Cは甲建物を取得しますが、借地権は持っていないことになります。
するとCは、土地の利用権なく土地上に建物を所有するということになります。
それはなんと!法律上、不法占拠者ということになってしまいます。
不法占拠者になってしまうということは、地主から立退き請求を受けたら、Cはせっかく手に入れた甲建物の収去に応じなければならなくなるのです。
これでは競売の買受人Cにとってあまりに不当ですよね。
それに、このような結論になってしまうとなると、そもそも借地上の建物の競売には誰も手を出さなくなり、抵当権の意味すらなくなってしまいます。
したがって、判例により、抵当権の効力は借地権にも及ぶとしているのです。
ただし、判例により抵当権の効力が借地権にも及ぶとしている、といっても、借地権が地上権ではなく賃借権である場合に、その賃借権が競売により移転しても、法律上、地主にその賃借権の移転についての承諾義務が当然に生じるわけではありません。
え?じゃあ競売で借地上の賃借権付き不動産を買い受けた人はどうすればいいの?
ですので、その場合は、地主がその承諾をしないときは、競売の買受人は、裁判所に対し地主の承諾に代わる許可を求めることができます。
少しややこしいですが、この理屈は覚えておいてください。
補足:付加一体物の例外その他
抵当権の効力は付加一体物に及びます。
しかし、付加一体物であっても、抵当権の効力が及ばない場合があります。
例えば、先述の事例で、Bが金塊を持っていたとしましょう。
その場合に、Aが抵当権を実行しても、金塊には抵当権の効力は及びません。※
※金塊は一般財産なので、一般債権者の対象の財産にはなっても、抵当権の対象となる財産ではない。
(一般財産・一般債権者についての詳しい解説は「【抵当権の超基本】その特徴と意味とは?抵当権の強さの理由とは?一般財産って何?初学者にもわかりやすく解説!」をご覧ください)
では、AとBが共謀して、金塊で建物に金の壁を作ったらどうなるでしょう?
すると、金塊と建物が一体化(付合)し、抵当権の効力が及ぶ付加一体物となりますよね?
もちろん、こんなことは許されません。
もし一般債権者がいれば、明らかにその者の権利を害する行為になります。
したがって、この場合、金の壁に抵当権の効力が及ぶことはありません。
果実に抵当権の効力は及ぶのか
抵当権の効力は、抵当不動産の付加一体物や借地権にも及びます。
では、果実には、抵当権の効力は及ぶのでしょうか?
果実とは

「物から生じる経済的収益」のことを果実といいます。
果実には、天然果実と法定果実があります。
天然果実とは、小麦畑の小麦、みかんの木のみかん、乳牛の牛乳、羊の羊毛、油田の石油といった類のものです。
一方、法定果実とは、代表的なものとしては家賃や地代です。
これで言葉の意味・イメージはわかりますよね。
また、果実を生じるものを元物といいます。
先述の例だとこうです。
→天然果実なら、小麦が果実で、小麦畑は元物。法定果実なら、家賃が果実で、賃貸不動産は元物。
【補足:天然果実の権利】

天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属します。
つまり、小麦畑の小麦は、その小麦を収取する権利のある者が取得するということです。(例:小麦農家が小麦畑の小麦を取得する)
また、売買において、引渡し前に生じた果実は売主に帰属します。
つまり、小麦畑の土地売買契約が締結されてから買主に引き渡されるまでの間に取れた小麦は売主のものになる、ということです。
なお、元物から分離する以前の果実は、元物の所有権の内容に含まれます。
つまり、小麦が取れる前に小麦畑を売れば、その小麦も畑と一緒に売ったと考えられます。
果実についての抵当権の効力
さて、話を戻しまして、改めて問いかけます。
抵当権の効力は、法定果実や天然果実にも及ぶのでしょうか?
結論。
原則、抵当権の効力は果実には及びません。
なぜなら、抵当権は目的物を使用収益する権利ではないからです。
果実は目的物の使用収益から生まれます。
また、抵当権者(債権者)としても、抵当権設定者(債務者)に使用収益してもらって、そこから得た利益で債務を弁済してほしいわけです。
例えば、小麦畑に抵当権を設定した場合、抵当権者は、抵当権設定者には小麦畑の収穫の利益から債務を弁済してもらった方が都合良いわけですよね?というか、それがそもそもの抵当権のあり方なのです。
したがいまして、抵当権の効力は果実には及ばないのです。
ただし、抵当権の被担保債権に債務不履行があった場合は話が変わってきます。
その場合、債務不履行後に生じた果実については、抵当権の効力は及びます。
つまり、小麦畑に抵当権が設定されていて、その被担保債権に債務不履行が生じると、債務不履行後に収穫した小麦の売却益について、抵当権の効力が及ぶということです。
以上のことから、解説をまとめるこうなります。
「抵当権の効力は、債務不履行前の果実には及ばないが、債務不履行後の果実には及ぶ」
このようになります。
あれ、小麦畑は天然果実の話だよね。そういえば、法定果実の方はどうなの?
もちろん、法定果実についても、債務不履行前だと抵当権の効力は及ばず、債務不履行後であれば抵当権の効力は及びます。
なお、法定果実(家賃)と物上代位の問題については、「【抵当権の効力と物上代位の基本と要件】法定果実(家賃)や転貸賃料債権へ物上代位できるのか?わかりやすく解説!」にて解説していますので、よろしければ併せてご覧ください。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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・抵当権の効力の範囲とは
・付加一体物とは
・借地権に抵当権の効力が及ぶ理由
・果実に抵当権の効力は及ぶのか
・果実とは
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

抵当権の効力の及ぶ範囲
原則として、抵当権は不動産に設定するものです。
では、抵当権の効力は、抵当権を設定した不動産について、どの範囲まで及ぶのでしょうか?
というのは、抵当権は債務者(抵当権設定者)が債務不履行になったような場合に、債権者(抵当権者)が抵当権を設定した不動産を強制的に競売にかけて、その売却代金から優先的にお金を回収することができる権利です。
でも、例えば、その不動産が一軒家だった場合、庭石はどうなるのでしょう?
抵当権が実行されると庭石も競売に出されてしまうのか?
あるいは、抵当権設定後に設置されたエアコンはどうなるのでしょうか?
つまり、抵当権の効力がどの範囲まで及ぶのかという問題は、庭石やエアコンやその他、どこまでの物がその抵当不動産と一緒に競売にかけられるのか?という問題と同じ意味になります。
ということで、まずは、抵当権の効力の及ぶ範囲についての民法の条文を確認してみましょう。
(抵当権の効力の及ぶ範囲)
民法370条
抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。
この民法370条の条文によれば、抵当権の効力は「不動産に付加して一体となっている物」にも及ぶとあります。
「不動産に付加して一体となっている物」は、略して付加一体物と呼びます。
ということは、何が付加一体物なのか?がわかれば、おのずと抵当権の効力の及ぶ範囲もわかることになります。
付加一体物
実は、何が付加一体物で何が付加一体物でないのかについて、学説上では争いが生じています。
ですが、それをここで記しても意味がありませんので、判例上の見解にのっとった解説をして参ります。
まず、付加一体物に該当する可能性のあるものは、次の2種類があります。
・付合物
・従物
では、それぞれにどのような物があるのか、見て参ります。
【付合物】

これは、元々は独立した動産だけど付合により建物と一体化し、建物の構成部分になるものです。
要するに、設置すると建物と一体化するようなタイプの物です。
例→取り外しの容易でない庭石、石灯籠、建物の内外を遮断する建具(入口用の扉、入口用のガラス、雨戸)
【従物】

これは、建物備え付きの備品のことで、備え付けられても独立した動産としての地位を失わないものです。
要するに、設置しても建物と一体化しない物です。
例→取り外しの容易な庭石、エアコン、畳、建物の内外を遮断しない建具(ふすま等)
さて、この時点で、抵当権の効力の及ぶ範囲がどこまでなのか、なんとなく見えてきましたよね。
結論。
付加一体物には付合物が含まれます。
したがって、付合物(取り外しの容易でない庭石、石灯籠、建物の内外を遮断する建具)には抵当権の効力が及びます。
ということは、付加一体物である付合物は抵当不動産と一緒に競売にかけることができるということです。
ですので、容易に取り外せない庭石は、抵当不動産と一緒に競売にかけられてしまいます。
また、従物については、抵当権設定時の従物には、抵当権の効力が及びます。
つまり、エアコンでも抵当権設定時にすでに設置されていたものであれば抵当権の効力は及び、競売にかけられます。
しかし、抵当権権を設定した後に設置されたエアコンであれば、抵当権の効力は及ばず競売にかけられません。
なお、付合物については、付合の時期を問わず、抵当権の効力が及びます。
つまり、容易に取り外せない庭石は、抵当権設定後に設置していたとしても抵当権の効力は及び、競売にかけられます。
【補足:主物】
エアコンは従物になりますが、そのエアコンを設置する対象の建物は主物になります。
原則として、従物は主物の処分に従います。
しかし、抵当権の効力が及ぶ範囲については、その従物が抵当権の設定後に設置されたかどうかで扱いを分けているということです。
この点はご注意ください。
なお、従物には、先述に例示した物以外にも、ガソリンスタンドの存在する土地上または地下に設置されている地下タンク、ノンスペース軽量機、洗車機などの設備も従物になります。(主物はガソリンスタンド用建物)

つまり、ガソリンスタンド用建物に抵当権が設定された場合、それらの設備が抵当権設定時にすでに設置されていた場合は、それらの設備にも抵当権の効力が及び、競売にかけられます。
付加一体物の例外:借地権
付加一体物である付合物、そして抵当権設定時にすでに設置されていた従物には、抵当権の効力が及びます。
では、抵当権が設定されている建物が借地上にある場合に、その抵当権が実行されると、その土地の借地権(土地の利用権)はどうなるのでしょうか?
例えば、Aが借地上に甲建物を所有していて、甲建物に抵当権を設定していたとします。
この場合に、抵当権が実行されると甲建物が競売にかけられますが、そのとき、抵当権の効力は借地権にも及ぶのでしょうか?
結論。
抵当権の効力は借地権にも及びます。
なぜなら、借地権は建物に従たる権利だからです。
これは判例により、このように結論付けられています。
借地権に抵当権の効力が及ぶ理由
「借地権が建物に従たる権利だから」と言われても、なんだかよくわからないですよね。
実は、判例が抵当権の効力は借地権にも及ぶとしているのには、そうしないと非常に困った事態になってしまう事情があるからなのです。
事例
AはBに500万円を融資し、その債権を担保するために借地上にあるB所有の甲建物に抵当権を設定した。その後、Bが債務不履行に陥り抵当権が実行され、競売によりCが甲不動産を取得した。
図にすると以下になります。
[抵当権実行前]
債権者
(抵当権者)
A
抵当権⇨↙︎ ↘︎⇦被担保債権
B所有 B
甲不動産 債務者
(抵当権設定者)
[抵当権実行競売後]
債権者
(抵当権者)
A
C所有 B
甲不動産 債務者
(抵当権設定者)
この事例で、甲建物への抵当権の効力は借地権にも及ぶので、Cは甲建物の所有権だけでなく、その借地権(甲建物が建っている土地の利用権)も取得することになります。
では、今度は仮に、この場合に、借地権に抵当権の効力が及ばないとなると、一体どうなるでしょう?
Cは甲建物を取得しますが、借地権は持っていないことになります。
するとCは、土地の利用権なく土地上に建物を所有するということになります。
それはなんと!法律上、不法占拠者ということになってしまいます。
不法占拠者になってしまうということは、地主から立退き請求を受けたら、Cはせっかく手に入れた甲建物の収去に応じなければならなくなるのです。
これでは競売の買受人Cにとってあまりに不当ですよね。
それに、このような結論になってしまうとなると、そもそも借地上の建物の競売には誰も手を出さなくなり、抵当権の意味すらなくなってしまいます。
したがって、判例により、抵当権の効力は借地権にも及ぶとしているのです。
ただし、判例により抵当権の効力が借地権にも及ぶとしている、といっても、借地権が地上権ではなく賃借権である場合に、その賃借権が競売により移転しても、法律上、地主にその賃借権の移転についての承諾義務が当然に生じるわけではありません。
え?じゃあ競売で借地上の賃借権付き不動産を買い受けた人はどうすればいいの?
ですので、その場合は、地主がその承諾をしないときは、競売の買受人は、裁判所に対し地主の承諾に代わる許可を求めることができます。
少しややこしいですが、この理屈は覚えておいてください。
補足:付加一体物の例外その他
抵当権の効力は付加一体物に及びます。
しかし、付加一体物であっても、抵当権の効力が及ばない場合があります。
例えば、先述の事例で、Bが金塊を持っていたとしましょう。
その場合に、Aが抵当権を実行しても、金塊には抵当権の効力は及びません。※
※金塊は一般財産なので、一般債権者の対象の財産にはなっても、抵当権の対象となる財産ではない。
(一般財産・一般債権者についての詳しい解説は「【抵当権の超基本】その特徴と意味とは?抵当権の強さの理由とは?一般財産って何?初学者にもわかりやすく解説!」をご覧ください)
では、AとBが共謀して、金塊で建物に金の壁を作ったらどうなるでしょう?
すると、金塊と建物が一体化(付合)し、抵当権の効力が及ぶ付加一体物となりますよね?
もちろん、こんなことは許されません。
もし一般債権者がいれば、明らかにその者の権利を害する行為になります。
したがって、この場合、金の壁に抵当権の効力が及ぶことはありません。
果実に抵当権の効力は及ぶのか
抵当権の効力は、抵当不動産の付加一体物や借地権にも及びます。
では、果実には、抵当権の効力は及ぶのでしょうか?
果実とは

「物から生じる経済的収益」のことを果実といいます。
果実には、天然果実と法定果実があります。
天然果実とは、小麦畑の小麦、みかんの木のみかん、乳牛の牛乳、羊の羊毛、油田の石油といった類のものです。
一方、法定果実とは、代表的なものとしては家賃や地代です。
これで言葉の意味・イメージはわかりますよね。
また、果実を生じるものを元物といいます。
先述の例だとこうです。
→天然果実なら、小麦が果実で、小麦畑は元物。法定果実なら、家賃が果実で、賃貸不動産は元物。
【補足:天然果実の権利】

天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属します。
つまり、小麦畑の小麦は、その小麦を収取する権利のある者が取得するということです。(例:小麦農家が小麦畑の小麦を取得する)
また、売買において、引渡し前に生じた果実は売主に帰属します。
つまり、小麦畑の土地売買契約が締結されてから買主に引き渡されるまでの間に取れた小麦は売主のものになる、ということです。
なお、元物から分離する以前の果実は、元物の所有権の内容に含まれます。
つまり、小麦が取れる前に小麦畑を売れば、その小麦も畑と一緒に売ったと考えられます。
果実についての抵当権の効力
さて、話を戻しまして、改めて問いかけます。
抵当権の効力は、法定果実や天然果実にも及ぶのでしょうか?
結論。
原則、抵当権の効力は果実には及びません。
なぜなら、抵当権は目的物を使用収益する権利ではないからです。
果実は目的物の使用収益から生まれます。
また、抵当権者(債権者)としても、抵当権設定者(債務者)に使用収益してもらって、そこから得た利益で債務を弁済してほしいわけです。
例えば、小麦畑に抵当権を設定した場合、抵当権者は、抵当権設定者には小麦畑の収穫の利益から債務を弁済してもらった方が都合良いわけですよね?というか、それがそもそもの抵当権のあり方なのです。
したがいまして、抵当権の効力は果実には及ばないのです。
ただし、抵当権の被担保債権に債務不履行があった場合は話が変わってきます。
その場合、債務不履行後に生じた果実については、抵当権の効力は及びます。
つまり、小麦畑に抵当権が設定されていて、その被担保債権に債務不履行が生じると、債務不履行後に収穫した小麦の売却益について、抵当権の効力が及ぶということです。
以上のことから、解説をまとめるこうなります。
「抵当権の効力は、債務不履行前の果実には及ばないが、債務不履行後の果実には及ぶ」
このようになります。
あれ、小麦畑は天然果実の話だよね。そういえば、法定果実の方はどうなの?
もちろん、法定果実についても、債務不履行前だと抵当権の効力は及ばず、債務不履行後であれば抵当権の効力は及びます。
なお、法定果実(家賃)と物上代位の問題については、「【抵当権の効力と物上代位の基本と要件】法定果実(家賃)や転貸賃料債権へ物上代位できるのか?わかりやすく解説!」にて解説していますので、よろしければ併せてご覧ください。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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