2021/04/26
【連帯債務】別個独立の連帯責任とは/債務の履行請求&承認&免除と負担部分/消滅時効の相対効とは
▼この記事でわかること・連帯債務とは
・債権者が弁済を受けられる額
・連帯債務の債権債務関係はそれぞれが別個独立のもの
▽連帯債務の相対効
・債務の履行の請求の場合
・債務の承認の場合
・債務の免除の場合
・負担部分とは
・連帯債務者の1人の消滅時効
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

連帯債務とは
債権とは、特定の者が特定の者に対して、一定の行為(「金払え」「物よこせ」)を請求することを内容とする権利です。(これについての詳しい解説は「分割債権(債務)と不可分債権(債務)~」もご覧ください)
そして、請求する側(「金払え」「物よこせ」と言う側)は債権者、請求される側が債務者です。
ここまでは債権債務の基本中の基本ですが、債権債務の関係は何も一対一とは限りません。
例えば、ひとつの債権関係に対して債務者が複数になるケースも存在します。
それが連帯債務です。
まずは事例をご覧ください。
事例1
BCDは連帯してAから150万円を借り受けた。
この事例は、連帯債務の典型的なケースです。150万円の借金という債務を、BCDの3人が連帯して負っています。
B
↗︎
A「150万円返せ」→C
↘︎
D
つまり「150万円返せ」という貸金債権に、B・C・Dという3人の債務者がいる、ということです。
この場合のB・C・Dを連帯債務者と言います。
さて、ではこの事例で、BCDの3人の債務者それぞれが負うことになる債務の金額は、一体いくらになるのでしょうか?
正解は、150万円全額です。
え?マジで?
マジです。実は、連帯債務においての各債務者は、ひとりひとりが債務の全部の履行義務(全額の支払い義務)を負います。
根拠となる民法の条文はこちらです。
(連帯債務者に対する履行の請求)
民法436条
債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。
上記、民法436条の規定により、連帯債務の場合は、分割債務のように債務を分割する(分け合う)訳ではないのです。
したがいまして、事例1のB・C・Dの3人は、ひとりひとりがそれぞれ150万円全額の支払い義務を負います。
また、各債務者ひとりひとりが全額の支払い義務を負う、ということは、債権者は各債務者ひとりひとりに対して全額の支払い請求ができるということです。
つまり、事例1のAは、Bに対してもCに対してもDに対しても「150万円返せ」と、債務の全額が請求できます。
これは、債権者にとっては非常にメリットが大きいですよね。
分割債務であれば、債権者は、各債務者に対して分割された債務を分割された割合でしか請求できません。
したがって、連帯債務は分割債務よりも債権者にとって有利なのです。
なるほど。でも連帯債務にするためにはどうすればいいの?
ある債権に対する債務を連帯債務にするには、契約の段階でそのような約定をします。つまり、契約の段階であらかじめ「この債務は連帯債務になりますよ」という約束を結んでおく、ということです。
そして、事例1では、Aはその約束をあらかじめB・C・Dとの間で結んでいた、ということです。Aは中々抜け目ないあなどれないヤツですね(笑)。
債権者Aが弁済を受けられる額はあくまで150万円
事例のBCDは連帯債務なので、債権者Aは、ひとりひとりに対して150万円全額の請求ができるわけですが、ここで注意点があります。
債権者Aが弁済を受けられる(返済を受けられる)金額は、あくまで150万円までです。
もちろん、連帯債務者BCDは、ひとりひとりに150万円全額の支払い義務があります。
しかし、だからといって、債権者Aが150万円×3=450万円の弁済を受けられる訳ではありません。
つまり、連帯債務とは、言ってみれば、債務について債務者が連帯責任を負うものなのです。

ですので、連帯債務者BCDは、150万円の返済義務について、連帯して責任を負っているということです。
したがいまして、誰か1人がその責任を果たせば、残りの者の責任もなくなります。つまり、仮にBがAに対して150万円全額を弁済すれば、CとDの支払い義務(債務)はなくなります。
連帯債務ひとつひとつの債権債務関係はそれぞれが別個独立のもの
例えば、事例1の連帯債務において、AとBの間だけ錯誤などの理由で契約が無効になった場合、他の連帯債務者CDはどうなるのでしょうか?
B
A「150万円返せ」→C
↘︎
D
AC間、AD間はどうなる?
このような場合、その契約が無効になるのはAB間だけです。
したがって、AとC、AとDの間の連帯債務の契約は有効のままです。
よって連帯債務者C・Dは、引き続き150万円の連帯債務を負い、Bだけがそこからいなくなります。
つまり、連帯債務における債権者と連帯債務者ひとりひとりとの債権債務関係は、それぞれが別個独立の債権債務関係になっているのです。
先ほど、連帯債務とは、言ってみれば連帯責任だ、というようなことを申しましたが、その意味は、この点からも言えることなのです。
連帯債務の相対効
債務の履行の請求
事例2
BCDは連帯してAから150万円を借り受けた。やがて月日が経過し、AのBCDに対する貸金債権は、時効による消滅が迫っている。
この事例2のB・C・Dは連帯債務を負っています(連帯債務者)。
連帯債務ということは、Aは連帯債務者のBCDひとりひとりに、150万円全額の弁済を請求できます。
そして、そのAの貸金債権は、月日の経過で時効により消滅しそうになっている、というのがこの事例の内容です。
B
↗︎
A「150万円返せ」→C
↑ ↘︎
消滅時効間近 D
さて、Aとしては、150万円の貸金債権が時効により消滅してしまっては困ります。
そこで、時効を止めるために(時効の更新等)Aは債務の履行を請求(金払えと請求)しなければなりません。
ではこのとき、AがBに対して債務の履行の請求をした場合、AC間・AD間についての消滅時効はどうなるのでしょうか?
結論。AがBに対して債務の履行を請求しても、AB間の消滅時効が止まるだけで、AC間・AD間の消滅時効は止まりません。
つまり、AからBに対する債務の履行の請求の効果は、AC間・AD間には及ばないのです。
このような効果を、相対効と言います。
相対とは「人によって違う」という意味です。すなわち、相対効とは「人によって効果が違う」ということです。
そして、民法は連帯債務について、相対効の原則を取ります。
なので、連帯債務においての債権者と連帯債務者ひとりひとりとの関係は、それぞれ別個独立したものなのです。
連帯債務者は、ひとりひとり別個独立した関係でありながら、債務について連帯責任を負っている、と考えると理解しやすいかもしれません。

なお、もし事例の債権者Aと連帯債務者CDとの間で、あらかじめ「Bに対する債務の履行の請求(金払えの請求)は、C・Dにもその効果が及ぶ」と取り決めしていた場合(意思を表示していた場合)、AのBに対する債務の履行の請求の効果は、AC間・AD間にも及びます。
つまり、そのような取り決めをしていた場合は、AがBに対して債務の履行の請求をすれば、AB間だけでなくAC間もAD間の消滅時効も止まります。(民法441条)
この点はご注意ください。
参考条文
(相対的効力の原則)
民法441条
第四百三十八条、第四百三十九条第一項及び前条に規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。
債務の承認
それでは今度は、3人の連帯債務者のうち、BだけがAに対して「債務の承認」をしたら、AC間・AD間の消滅時効はどうなるのでしょうか?
消滅時効において、債権者に対して債務者が債務の承認をすると、消滅時効は更新(リセット)します。
したがって、BがAに対して債務の承認をすれば、AB間の消滅時効は当然に更新(リセット)します。
つまり、今ここで問題となるのは、「債務の承認」は相対効なのか絶対効なのか?です。
B
↗︎ ←債務の承認
A「150万円返せ」→C
↑ ↘︎
消滅時効間近 D
AC間、AD間はどうなる?
結論。債務の承認は相対効です。
したがって、BがAに対して債務の承認をすると、AB間についての消滅時効だけが更新(リセット)し、AC間・AD間の消滅時効は更新(リセット)しません。
ですので、もしAがそのまま放ったらかしていたら、C・Dの債務については時効により消滅してしまいます。
債務の免除
連帯債務者の1人が債務の免除を受けた場合
事例3
BCDは連帯してAから150万円を借り受けた(各自の負担部分は均一)。その後、AはBに対して債務の免除をした。
この事例3は、連帯債務を負っているB・C・D(連帯債務者)のうち、AがBに対してだけ債務の免除をした、というケースです。
AがBに対してだけ債務の免除したとは、AがBに対してだけ「あなたは返済しなくていいよ」と許した、という意味です。
B
A「150万円返せ」→C
↘︎
D
さて、このとき、AがBに対して債務の免除をした(返済を許した)ことにより、AB間の債権債務関係は消滅します。
したがって、Bは連帯債務の枠から抜けることになります。
では、AがBに対して債務の免除をしたことにより、AC間・AD間の債権債務関係への影響はあるのでしょうか?
結論。債務の免除による効果も相対効です。
したがって、AがBに対して債務の免除をしても、AB間についての債権債務関係だけが消滅するだけで、AC間・AD間の債権債務関係は何も変わらず、C・Dの連帯債務はそのまま残ります。
補足:負担部分とは
これは、連帯債務者内部で決めた各自の債務の分担割合です。
事例3では、その分担割合(負担部分)は各自均一なので、B・C・Dの各自の負担は3分割の50万円ずつです。

ただし、これはあくまで、連帯債務者内部で「最終的には誰がいくら負担するか」を決めたものであって、債権者としては連帯債務者ひとりひとりに対して債務の全部の履行を請求できます(BCD各自の負担部分がどう決められていようと、AはBCDのいずれに対しても150万円全額の支払い請求ができる、ということ)。
以下、事例3の債務免除のケースを簡単に図でまとめると、このようになります。
(Bの債務免除前)
B
↗︎
A「150万円払え」→C
↘︎
D
(Bの債務免除後)
A「150万円払え」→C
↘︎
D
連帯債務者の1人の消滅時効
事例4
BCDは連帯してAから150万円を借り受けた(各自の負担部分は均一)。やがて月日が経ち、Bの債務が時効により消滅した。
さて、今度は、B・C・Dの連帯債務のうち、Bの債務だけ時効により消滅した、というケースです。
ではこのとき、Bの債務が時効により消滅したことにより、C・Dの債務はどうなるのでしょうか?
B
A「150万円返せ」→C
↘︎
D
C・Dの債務はどうなる?
結論。連帯債務者の1人のために時効が完成したときの効果は、相対効です。
したがって、Bの債務が時効により消滅しても、Bの債務だけが消滅するだけで、AC間・AD間の債権債務関係は何も変わらず、C・Dの連帯債務はそのまま残ります。
先述の債務の免除と結果も内容も全く一緒ということですね。
(Bの時効完成前)
B
↗︎
A「150万円払え」→C
↘︎
D
(Bの時効完成後)※Bは連帯債務から離脱
A「150万円払え」→C
↘︎
D
債務の承認・免除と消滅時効の補足
もし事例2と事例3と事例4のケースで、債権者Aと連帯債務者CDとの間で、あらかじめ「AB間の債務の承認・免除・消滅時効は、C・Dにもその効果が及ぶ」と取り決めしていた場合(意思を表示していた場合)、AB間の債務の承認・免除・消滅時効の効果は、AC間・AD間にも及びます。
つまり、このような取り決めしていた場合は、AB間で債務の承認・免除、消滅時効の完成があれば、その効果はAB間だけでなくAC間もAD間にも及びます。
これは債務の履行の請求のときと同様で、民法441条の規定によるものです。
この点もご注意ください。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。