2021/08/03
【差押え&強制執行&破産の超基本】借金で考える債権の世界~債務者に財産が無いとどうなる?
▼この記事でわかること~お金の貸し借りで考える債権の世界~
・約束を破った先には何がある?
・不起訴の合意には気をつけろ!
・差押え・強制執行の超基本
破産の超基本
・債務者に財産がなかったらどうなるのか
・債務者破産の典型的なケース
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。

お金の貸し借りで考える債権の世界
約束を破った先には何がある?
債務を履行するとは、約束を守ることです。
債務を履行しないとは、約束を破ることです。
(債権債務・債務不履行の基本についての解説は「債権債務の世界がよくわかる!債務不履行&損害賠償&過失責任の原則など超基本から徹底解説!」をご覧ください)。
さて、では債務を履行しない=約束を破った先には、一体どんな債権の世界が待ち受けているのでしょうか?
今回はその問題について、わかりやすく、現実にもよくあるお金の貸し借り(金銭消費貸借契約)を例に、解説して参ります。
事例1
AはBに200万円を貸し付けた。その後、返済期限が過ぎても、Bは一向にその借金を返済しない。
まず、各当事者の立場と関係性を確認します。
Bに200万円を貸したAは、Bに対して「200万円返せ」という債権を持ちます。つまり、Aは債権者です。
そして、Bは「返済期限までに200万円を返さなければならない」という債務を負います。つまり、Bは債務者です。
債権者 債務者
A → B
↑
債権
(200万返せ)
このようになります(Aを貸金業者と考えるとよりイメージしやすいでしょう)。
さて、この事例1の債務者Bは、返済期限を過ぎても200万円を返しません。つまり、Bは債務を履行しないまま期限を過ぎた=約束を破っています。
では債権者Aは、債務を履行しない=約束を破ったBに対して、これから一体どのような行為・手続きを行っていくことになるのでしょうか?
民法には次のような規定があります。
(履行の強制)
414条
債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。
上記、民法414条の規定により、債権者Aは、債務不履行に陥った債務者Bに対して、裁判所を使って強制的にその債務を履行させることができます。
裁判所を使うとは、訴訟を起こすということです。
訴訟を起こすかどうかは債権者の自由

ここでひとつポイントです。
債権者は、裁判所を使って強制的にその債務を履行させることができる、つまり、債権者Aは、訴訟を起こすことができるのであって、実際に訴訟を起こすかどうかは、債権者Aの自由なのです。
このように、民事訴訟の世界では、実際に訴訟を提起するかどうかは、訴える者の自由なのです。(これを処分権主義と言う)
不起訴の合意
また、債権者と債務者の間で「不起訴の合意」を交わすこともできます。
不起訴の合意とは「訴えません」という約束をすることです。
そして、この「訴えません」という約束=不起訴の合意は、拘束力を持ちます。拘束力を持つということは、一度、不起訴の合意をしてしまうと、その後、いくら債務者がその債務を履行しなかったとしても、債権者は訴訟を提起することができなくなります。
ですので、もし友人間のお金の貸し借りでモメていて、借りた側から不起訴の合意を持ちかけてきた場合は、貸した側の人は、十分お気をつけください。
なお、不起訴の合意がなされると、その債務は自然債務になります。
自然債務とは、債務者がその債務を履行すれば有効な弁済※になるが、債権者がそれを強制することができないという、債務者にとっては実に都合の良い債務です。
※弁済とは、債務を履行して、その債権を消滅させること。わかりやすく言えば、約束を果たしてその義務がなくなること。
不起訴の合意には気をつけろ!
自然債務とは、言ってみれば「いくら金借りても絶対に文句を言わない都合のいい友人」から借金した債務みたいなものです(笑)。
ですので、繰り返しますが、友人間などのお金の貸し借りで不起訴の合意を求められたら、くれぐれも!お気をつけください。もし不起訴の合意をしてしまえば、法的な拘束力を持った形で「いくら金借りても絶対に文句を言わない都合のいい友人」に成り下がってしまいますから。
【補足】
訴訟などで実際に履行を強制させるための手続きを規定したものが、民事訴訟法です。また、このような法律は、手続法と呼ばれます。
一方、先述の民法414のような規定・法律は、実体法と呼ばれます。
差押え・強制執行の超基本
ここからは、債権者が実際に訴訟を起こすフェーズへと話を進めて参ります。
事例2
AはBに200万円を貸し付けた。その後、返済期限が過ぎてもBが一向にその借金を返済しないので、Aは訴訟を提起した。
これは、債務者のBが返済期限を過ぎてもその借金を返さないので、債権者のAが裁判を起こした、という話です。
さて、この金の貸し借り(金銭消費貸借契約)のケースで、Aが裁判で立証しなければならないことがあります。それは次の2点です。
1・返還の約束
2・金銭の授受
つまり債権者Aは、債務者Bの「返済期限までに200万円を返済する義務」と、債務者Bに対して「実際にお金を貸したこと」を証明しなければ裁判に勝てません。また、他にも弁済期の到来(返済期限の到来)も主張すべきとされています。
これらの証明は、借用書があれば、その強力な証拠になります(だから貸金・借金の借用書は大事なのだ!)。
そして、債権者Aの立証・主張が認められれば
「BはAに対し金200万円を支払え」
というような判決文を裁判所が書き、無事、Aの勝訴となります。

強制執行
ところで、そもそもなぜ、債権者Aは裁判を起こす必要があるのでしょうか?
裁判は、時間も手間もお金もかかります。そして裁判に勝って、裁判所に「BはAに対し金200万円を支払え」というような判決文を書いてもらって、それでどうなるのでしょうか?
Bがその判決文を見て自主的に200万円を返してくれるのか?じゃあBが往生際の悪いヤツで、それでも200万円を返そうとしなかったら?
そうなんです。たとえ判決が出ても、必ずしも、Bが200万円を返すとは限りません。
もしBが金を返さないままなら、判決文はただの紙切れとなってしまいます。となると、Aはただの紙切れのために時間と手間とお金を使った!ということになってしまいます。
そこで「BはAに対し金200万円を支払え」という判決文を手に入れたAは、強制執行の手続きを取ることになります。
強制執行とは、わかりやすく簡単に言えば、国家権力を使って強制的に目的を果たすことです。それが判決文を手に入れることにより可能になります。RPGゲーム風に言えば、裁判というイベントをクリアすると「判決文」というアイテムが手に入り、判決文があれば「強制執行」という魔法が使えるようになり、「強制執行」を使えば強制的に借金を回収できる、みたいな感じでしょうか。
さしずめ強制執行とは、国家権力という魔獣を召喚する召喚魔法といったところでしょうか(笑)。
したがいまして、債権者Aは、判決文をもらって強制執行の手続きをして、国家権力を使って、強制的にBから債権を回収(借金を回収)することができます。
差押え
強制執行には「不動産執行」「動産執行」「債権執行」があります。いずれの強制執行も、債務者の財産を差し押えて行います。
差押えとは、債務者の目的財産の処分行為を禁止することです。「債務者の目的財産の処分行為を禁止」とは、債務者が勝手に債務者自身の財産を処分できないようにすることです。
したがいまして、債権者Aは、まず債務者Bの財産を差し押えて、勝手に財産を処分できないようにした上で、差し押えた財産を売却して(これを強制競売と言う)、その売却代金から借金を回収することを、国家権力を使って強制的に行うことができます。
なお、強制的とは「Bの意思に関係なく」ということです。つまり、いくらBが泣こうがわめこうが、国家権力を使って無理矢理Bの財産を差し押えて売却して借金を回収するというわけです。
Bがかわいそう!
確かにそうかもしれません。しかしこれは、そもそも借金を返さない債務者Bが自ら引き起こした結果です。
さらに言えば、Bがかわいそうなら、200万円を返してもらえないAはどうなの?もっと可哀想じゃね?となりますよね。
というわけで、皆さん。借りたお金はしっかり返しましょう(笑)。ただし、悪徳金融業者にはお気をつけくださいね。
破産の超基本
債務者に財産がなかったらどうなるのか

さて、ここからはさらに、強制執行の手続きまで至ったフェーズへと話を進めて参ります。
事例3
AはBに200万円を貸し付けた。その後、返済期限が過ぎてもBが一向にその借金を返済しないので、Aは訴訟を提起し、勝訴した。そしてAは強制執行の手続きを取った。
これは、Bに200万円を貸し付けた債権者であるAが、債務者であるBが返済期限を過ぎても借金200万円を返さないので、裁判を起こして勝訴して強制執行まで至った、という話です。
さて、ここでひとつ、こんな問題があります。
強制執行で、借金を回収できれば何も問題はありません。しかし、そもそも債務者Bに、差し押える財産がなかった場合は一体どうなるのでしょうか?
強制執行とは、債務者の財産を差し押えて、その財産を売却して(強制競売)、その売却代金から債権を回収する事です。
しかし、これは債務者に財産があることが前提ですよね。つまり、債権者Aが強制執行でお金を回収するには、債務者Bの財産の存在が前提になるということです。
債務者Bの財産の中で、債権者Aが差し押さえることができる財産を、Bの責任財産や一般財産と言います。
そして、借金を踏み倒した債務者Bからお金を回収するために債権者Aができる方法といえば、債務者Bの責任財産・一般財産を差し押えて売却する強制執行以外にはありません。
したがって、債務者Bの責任財産・一般財産がスッカラカンなら、債権者Aはお手上げなのです。
そして、債権者Aがそのお手上げ状態になってしまう典型的なケースが、債務者破産です。
債務者破産の典型的なケース

事例4
AはBから「店を始めるのでお金を貸してくれ。絶対にこの商売を成功させて返すから!」と頼まれた。そこで、AはBにその事業資金として200万円を貸した。それからしばらく、Bの店の経営は順調だったが、ある時からBの店の売り上げはどんどん下がっていき、次第に店の経営状況は悪化し、それと共にBの財産状況も悪化した。金に困ったBはサラ金に手を出し、サラ金業者Cから100万円を借金した。それでも足りないBはさらにクレジット会社Dからも100万円を借金した。そして結局、その後、Bは破産した。なお、Bに残っている財産は200万円の不動産だけである。
この事例4では、債務者Bに対して「金返せ」という債権者はA・C・Dの3者います。
そして、各債権者の貸金の金額は、A200万円、サラ金業者C100万円、クレジット会社D100万円です。
しかし、債務者Bは破産してしまい、Bに残された一般財産は200万円の不動産だけです。
A(200万返せ)
↙︎
B(残財産200万円)←サラ金業者C(100万返せ)
↖︎
クレジット会社D(100万返せ)
さて、この時点で、残された財産が200万円の不動産のみの債務者Bは、背負った借金
200万+100万+100万=400万円
この全額の返済は不可能なのがわかります。
では、債務者Bに残された200万円の財産の行方は、一体どうなるのでしょうか?
Aが回収するのか?それともC?D?
結論。債務者Bに残された一般財産200万円は、債権者A・C・Dの3者平等に配当されます。
1番最初にお金を貸したのはAなのに?
そうです。誰が1番最初にお金を貸したか、つまり、誰が1番最初に債権を有したかは関係ありません。
そして、返済期限の前後も関係ありません。あくまで債権者は平等に扱われます。これを債権者平等原則と言います。
したがいまして、債務者Bの財産200万円に対して、借金の総額は400万円ですので、債権者A・C・Dの3者は
200÷400=50%
の配当をそれぞれ受けることになります。
すると、各債権者が返済を受ける額は次のようになります。
Aが返済を受ける額→200万×50%=100万円
Cが返済を受ける額→100万×50%=50万円
Dが返済を受ける額→200万×50%=50万円
このような形で、債務者Bの破産手続は終了になります。
したがって、債権者A・C・Dは、3者とも平等な割合で借金を回収して、3者とも平等な割合で損をするということです。
債権者平等原則とは、債権者みんなで平等に泣き合う原則、と言ってもいいかもしれません。
破産の裏で泣く債権者
実は、現実の債務者破産のケースでは、債権者は、1割の配当がもらえればマシ、ぐらいなものです。
え?そんなもんなの?
はい。そんなものです。
ですので、事例4のA・C・Dは、債務者破産のケースの債権者としては、ありえないぐらいマシです。
よく借金問題とか破産事件だとかの話を聞くと、とかく債務者の方ばかりに目が向きがちだと思いますが、しかしその実、その裏には、スズメの涙ほどの配当で泣いている債権者達がいるんです。
このように考えていくと、クレジットカード会社などが、なぜ、わざわざ申込者をいちいち審査するのか、その理由がよくわかりますよね。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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