【囲繞地通行権】無償ではない?負担するのは誰か/通行地役権と併存するのか/分筆によって袋地が生じた場合を初学者にもわかりやすく解説!

【囲繞地通行権】無償ではない?負担するのは誰か/通行地役権と併存するのか/分筆によって袋地が生じた場合を初学者にもわかりやすく解説!

▼この記事でわかること
囲繞地通行権の超基本
囲繞地通行権は無償ではない
通行地役権と併存するのか
分筆によって袋地が生じた場合
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者にもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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囲繞地通行権


 通行地役権と似て非なるものに、囲繞地通行権というものがあります。
(地役権についての詳しい解説は「【地役権】その性質とは/地役権の登記と放棄/未登記でも対抗できる場合/永小作権をわかりやすく解説!」をご覧ください)

「囲繞地」という言葉自体が見慣れない聞き慣れないものだと思いますが、読み方は「いにょうち」です。
 囲繞地とは、他の土地に周りを完全に囲まれている土地のことです。

囲繞地

 上図のAのような土地が囲繞地です。
 Aのような土地に住んでいる者は、公道に出るためには周りの土地のどれかを通らざるを得ません。

 そこで、そのような者のために、法律の定めにより通行する権利を規定しました。
 それが囲繞地通行権です。
 民法の規定はこちらです。

(公道に至るための他の土地の通行権)
民法210条
他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。

 この民法210条により規定された権利=囲繞地通行権は、法律の定めにより生じるものです。
 そして「法律の定めにより生じる」というところが、通行地役権との大きな違いになります。

 通行地役権は、あくまで当事者同士の契約により設定され、その上で適用されます。
 しかし、囲繞地通行権は、法律の定めにより問答無用に適用されます。
 つまり、契約で定めていなくとも問答無用で適用されるということです。

 なんで囲繞地通行権だけそうなってるの?

 それは、もし囲繞地を取り囲んでいる土地の所有者が通行を認めなかった場合に、囲繞地は完全に使えない土地になってしまうからです。
 そうなってしまうと、囲繞地の所有者が困ってしまうのはもちろん、それは社会的な経済的損失にもなります。
 それは国家としても望ましくありません。
 したがって、囲繞地に関しては「土地から出らんないとなるとどうにもならん。
 せめて公道に出られるように、そこは周りのみんなで協力してやろうや」ということを国家のルールとして定めた、ということです。

 なお、囲繞地通行権は登記できません。
 なので、登記する必要すらありません。
 囲繞地通行権は、法律の定めにより当然に発生する権利です。
 したがいまして、囲繞地の所有者は、その登記なく堂々と囲繞地通行権の主張ができます。


囲繞地通行権は無償ではない


 さて、ここまでの説明だと、囲繞地の所有者への保護ばかりが手厚くなっているように思えますよね。
 しかし、そんなことはありません。
 次の民法の条文をご覧ください。

民法212条
210条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。

 この民法212条にある「210条の規定による通行権を有する者」とは、囲繞地通行権を有する囲繞地の所有者です。
 つまり、囲繞地の所有者は、通行のために利用する土地の所有者に対して、償金を支払わなければなりません。

 囲繞地の所有者が通行のために利用する土地の所有者に償金を支払わなければならないということは、通行のために利用される土地の所有者、つまり、囲繞地通行権の負担義務を負う者は、囲繞地の所有者に対して償金請求権を持つことになります。
 囲繞地通行権の行使はタダではないのです。
 したがって、囲繞地の所有者自身も「償金」という形で負担を負うことになる、ということです。

 なお、囲繞地通行権を有する者が支払う償金ですが、民法212条ただし書きの規定により、その支払いを1年ごとにすることもできます。
 つまり、1年に1回、1年分まとめて支払うことができる、ということです。
 ただし、通路を開設するために生じた損害があった場合、その損害についての支払いについては「1年に1回・1年分まとめて」という形での支払いはできません。


囲繞地通行権と通行地役権
併存するのか

囲繞地通行権と通常の地役権の設定契約


 囲繞地の所有者は、法律の定めにより囲繞地通行権を取得しますが、隣地の所有者と通常の通行地役権の設定契約をすることもできるのでしょうか?

囲繞地

 例えば、上図のA地は囲繞地ですが、この場合に、A地の所有者がC地に通行地役権を設定できるのか?という話です。

 結論。
 囲繞地の所有者は、隣地の所有者と通常の地役権の設定契約をすることもできます。
 したがいまして、A地の所有者はC地に通常の通行地役権を設定することができます。

 そして、囲繞地の所有者が通常の地役権の設定契約をすると、その後は、地役権の設定契約が適用され、囲繞地通行権は消滅します。
 つまり、A地の所有者がC地に通行地役権を設定すると、A地のための囲繞地通行権は消滅するのです。

 なんで囲繞地通行権が消滅してしまうの?

 囲繞地通行権は「囲繞地という名の袋地」の所有者のために、言ってみればやむを得ず規定したような権利です。
 したがって、通常の地役権の設定契約があれば、わざわざそのような囲繞地通行権を適用する必要はなくなるので、その場合は当然に消滅するのです。


囲繞地通行権の負担を誰が負うのか


 囲繞地を取り囲んでいる四方八方の土地のうち、どの土地が囲繞地通行権により通行利用される義務を負うのでしょうか?

 これについては、完全にケースバイケースです。
 なぜなら、そんなことは現地を見てみなければわからないからです。
 そんなことまで法律で一律に規定しまうと、むしろ不備が生じてしまいます。
 したがって、事案ごとに、個別的具体的に、合理的な結論を出していくことになります。


分筆によって袋地が生じた場合


事例
A地とC地は元々ひとつの甲土地であったが、分筆したことによりA地が袋地になった。※

分筆とは、ひとつの土地を複数の土地に分けること

 これは、ひとつの土地を分筆したことによって、その土地のひとつが袋地になってしまった、というケースです。

[分筆]
囲繞地(分筆)
[分筆後]
囲繞地

 さて、この事例で、A地を取り囲む土地は、A地のために囲繞地通行権の負担を負わなければならなくなるのでしょうか?

 結論。
 A地を取り囲む土地は、A地のために囲繞地通行権の負担義務を負うことにはなりません。
 なぜなら、分筆しなければ袋地(A地)は存在しなかったからです。

 分筆によって袋地が生じた場合、それは分筆した者自身の責任になります。
 したがって、分筆によって生じた袋地を取り囲む土地は、囲繞地通行権の負担義務は生じません。
 ただし、分筆された土地同士であれば、囲繞地通行権の主張をすることができます。

 したがって、事例の場合、A地の囲繞地通行権を、C地に主張することはできます。
 しかし、その場合は、償金の支払い義務は生じません。
 ですので、A地の所有者はC地の所有者に対して償金を支払う義務はなく、C地の所有者はA地の所有者に対して償金請求権を持ちません。
 また、この場合に、AC間で地役権の設定契約をすれば、そのときは当然にその設定契約が適用され、囲繞地通行権は消滅します。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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