
▼この記事でわかること
・地役権とその性質
・地役権の登記
・登記のない地役権が対抗できる場合
・永小作権
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者にもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。

地役権とその性質
土地を利用するための物権といえば、所有権です。
ですが、それ以外にも、土地を利用するための物権を民法は規定しています。
それは「地上権、永小作権、地役権、入会権」です。
そして、これらの権利を用益権といいます。
(宅建などの資格試験で出題される用益権のほとんどは地上権と地役権になります)
ここでは、地役権と永小作権ついて解説いたします。
なお、地上権についての詳しい解説は「【借地権】賃借権と地上権の違い/借地人の対抗要件と対抗力とは/借地上の建物滅失問題/借地人の賃借権の譲渡(転貸)をわかりやすく解説!」をご覧ください。
地役権とは
地役権とは、自分の土地を利用するために他人の土地を利用する権利です。
このとき、自分の土地のことを要役地、他人の土地のことを承役地といいます。
読み方は「ようえきち」「しょうえきち」です。
この地役権は物権であり、登記をすることで、第三者への対抗力を持ちます。
う~んなんか今ひとつよくわからん
この説明だけだと分かりづらいですよね。
もう少し具体的にご説明いたします。
例えば、Aが自宅から公道に出るために、Bの土地を通る必要があるときに、AB間の契約で、Bの土地に通行地役権を設定します。
つまり、AがBの土地を通行のために利用する権利が地役権です。
そして、このときのAの土地が要役地、Bの土地が承役地となります。
また、要役地の者(Bの土地を利用するA)を地役権者、承役地の者(Aの通行のために土地を利用されるB)を地役権設定者といいます。
A→地役権者 B→地役権設定者
Aの土地→要役地 Bの土地(隣地)→承役地
なお、地役権は通行地役権だけではありません。
例えば、Aが眺めの良い別荘を建てていて、すぐ隣のB所有の土地に建築物が建ってしまうと、その別荘の眺望が損なわれて困ってしまうような場合、AはBの土地(承役地)に「高さ〇〇メートル以上の建物を建ててはいけない」という地役権を設定します。
これを眺望地役権といいます。
このような地役権も存在します。
地役権の性質
地役権は、所有権などの他の物権とは違う性質があります。
というのは、地役権は「人に付着した権利」というより「土地に付着した権利」という性質が強いのです。
土地に付着した権利という性質とは、例えば、A所有の甲土地とB所有の乙土地が隣地で、Aが甲土地にある自宅から公道に出るまでに乙土地を通行する必要があるとき、通行地役権を設定することができますが、これは「Aのため」ではなく、あくまで「甲土地の便益のため」です。
ですので、Aが生物学者に憧れていて、昆虫採集をライフワークにしているからといっても、そのための地役権を乙土地に設定することはできません。
なぜならそれは「Aのため」であって「甲土地の便益のため」ではないからです。
また、地役権は、それのみを譲渡することはできません。
なぜなら、地役権は土地に付着しているからです。
したがって、Aが甲土地の地役権のみをCに譲渡することはできません。
なぜなら、甲土地の地役権は、所有者であるAではなく、甲土地に付着しているからです。
これも、地役権が土地に付着した権利という性質の所以です。
地役権の付従性
地役権には付従性があります。
付従性とは「付いて従っていく」という性質のことです。
例えば、A所有の甲土地の所有権がCに移転すると、それにくっ付いて地役権もCに移転します。
すると、Cは甲土地の所有者となるのと同時に(甲土地という要役地のための)地役権者にもなります。

地役権の登記
地役権は、その登記をすることにより対抗力を持ちます。
地役権を対抗するときって?
例えば、このような場合です。
事例
Aは、自己所有の甲土地上にある自宅から公道に出るために、隣地のB所有の乙土地を通る必要があり、B所有の乙土地に通行地役権を設定し、その旨の登記をした。その後、BはCに乙土地を譲渡しその旨の登記をした。
このようなケースで、Aが乙土地(承役地)の譲受人Cに対して地役権を主張するような場合です。
[地役権設定&登記]
地役権者 地役権設定者
A B
甲土地 乙土地
(要役地) (承役地)
[乙土地をCに譲渡]
地役権者 地役権設定者
A C
甲土地 乙土地
(要役地) (承役地)
このとき、Aは登記をしているからこそ、乙土地を堂々と通行することができます。
たとえCから文句を言われても、Aは「地役権の登記がある!」と法的に正当な主張ができます。
地役権の登記があるということは、Bから地役権の登記をされた乙土地を譲渡されたCは、地役権設定者という地位も譲り受けることになるのです。
したがって、Cは乙土地を、Aの通行のために利用される義務があるのです。
逆に、地役権の登記がない場合、Aはこのような主張ができません。
これが、地役権は登記をすることにより対抗力を持つ、ということの意味です。
登記のない地役権も対抗できる場合がある
判例では、次の2つの要件を満たした場合においては、地役権者(事例でのA)は地役権の登記がなくとも、承役地の譲受人(事例でのC)にその地役権を対抗できるとしています。
1・譲渡のときに、承役地が要役地の所有者により継続的に通路として使用されていたことが客観的に明らかであること
→例えば、事例のA(地役権者)が、乙土地を通路として使用していることが客観的に見て明らかであること、という意味。
2・譲受人がそのことを認識していたがまたは認識することができたこと
→例えば、事例のCが、乙土地が甲土地の通行のために使用されていたことを認識していたか、少し調べれば認識できたであろう、という意味(善意・無過失とほぼ同義)。
上記2点は、要するに「承役地の譲受人(事例のC )は、その土地に、客観的に見て明らかにわかるような地役権が付いていることぐらい自分で確認しとけ!」ということです。
したがいまして、もし事例のAが地役権の登記をしていなかったとしても、上記2点の要件を満たした場合、Aはその地役権をCに対抗できます。
Cは乙土地に地役権が付いていることぐらいちゃんと確認しとけ!ということです。
補足:地役権の放棄
地役権設定者(通行などで利用される側)は、地役権の設定契約により、地役権行使のための工作物の設置やその修繕義務を負うことがあります。(その旨の登記が必要)
つまり、通行地役権の場合、地役権設定者は、自分の土地を通行のために利用されるだけでなく、そのための設備を設置する義務を負うこともあるのです。
これは地役権設定者にとっては中々酷なことですよね。
そこで、民法287条では、承役地の所有者(利用される側の土地の所有者)が、いつでも、地役権に必要な土地の部分を放棄して地役権者(通行などで利用する側)に移転し、この義務を免れることができるとしています。
これを地役権の放棄といいます。
永小作権

用益権のひとつに永小作権があります。
まず、永小作権についての民法の条文はこちらです。
(永小作権の内容)
民法270条
永小作人は、小作料を支払って他人の土地において耕作又は牧畜をする権利を有する。
永小作権とは、小作料を支払って、他人の土地で耕作・牧畜をする権利です。
小作料は、永小作権の要素です。
小作料が要素ということは、タダの永小作権を設定することはできないということです。
この点は、地代をタダに設定できる地上権とは異なります。(地上権の場合、地代は要素ではない)
また、永小作権は物権です。
したがって、永小作人(永小作権を有する者)が、その権利を自由に譲渡・賃貸することができます。
この点は地上権と一緒です。
ただし、永小作権の場合、永小作権の設定契約の際、その権利の譲渡・賃貸を禁止する特約をし、その旨の登記をすることができます。これは地上権ではできないことです。
永小作権の存続期間
永小作権には、存続期間の定めがあります。
【永小作権の存続期間】
20年以上50年以下(民法278条1項)
→設定行為で50年を超える期間を定めても、その期間は50年になります。
つまり、もし永小作権の存続期間60年という設定契約をしても、その期間は問答無用で50年となります。(民法278条1項)
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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・地役権とその性質
・地役権の登記
・登記のない地役権が対抗できる場合
・永小作権
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今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者にもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。

地役権とその性質
土地を利用するための物権といえば、所有権です。
ですが、それ以外にも、土地を利用するための物権を民法は規定しています。
それは「地上権、永小作権、地役権、入会権」です。
そして、これらの権利を用益権といいます。
(宅建などの資格試験で出題される用益権のほとんどは地上権と地役権になります)
ここでは、地役権と永小作権ついて解説いたします。
なお、地上権についての詳しい解説は「【借地権】賃借権と地上権の違い/借地人の対抗要件と対抗力とは/借地上の建物滅失問題/借地人の賃借権の譲渡(転貸)をわかりやすく解説!」をご覧ください。
地役権とは
地役権とは、自分の土地を利用するために他人の土地を利用する権利です。
このとき、自分の土地のことを要役地、他人の土地のことを承役地といいます。
読み方は「ようえきち」「しょうえきち」です。
この地役権は物権であり、登記をすることで、第三者への対抗力を持ちます。
う~んなんか今ひとつよくわからん
この説明だけだと分かりづらいですよね。
もう少し具体的にご説明いたします。
例えば、Aが自宅から公道に出るために、Bの土地を通る必要があるときに、AB間の契約で、Bの土地に通行地役権を設定します。
つまり、AがBの土地を通行のために利用する権利が地役権です。
そして、このときのAの土地が要役地、Bの土地が承役地となります。
また、要役地の者(Bの土地を利用するA)を地役権者、承役地の者(Aの通行のために土地を利用されるB)を地役権設定者といいます。
A→地役権者 B→地役権設定者
Aの土地→要役地 Bの土地(隣地)→承役地
なお、地役権は通行地役権だけではありません。
例えば、Aが眺めの良い別荘を建てていて、すぐ隣のB所有の土地に建築物が建ってしまうと、その別荘の眺望が損なわれて困ってしまうような場合、AはBの土地(承役地)に「高さ〇〇メートル以上の建物を建ててはいけない」という地役権を設定します。
これを眺望地役権といいます。
このような地役権も存在します。
地役権の性質
地役権は、所有権などの他の物権とは違う性質があります。
というのは、地役権は「人に付着した権利」というより「土地に付着した権利」という性質が強いのです。
土地に付着した権利という性質とは、例えば、A所有の甲土地とB所有の乙土地が隣地で、Aが甲土地にある自宅から公道に出るまでに乙土地を通行する必要があるとき、通行地役権を設定することができますが、これは「Aのため」ではなく、あくまで「甲土地の便益のため」です。
ですので、Aが生物学者に憧れていて、昆虫採集をライフワークにしているからといっても、そのための地役権を乙土地に設定することはできません。
なぜならそれは「Aのため」であって「甲土地の便益のため」ではないからです。
また、地役権は、それのみを譲渡することはできません。
なぜなら、地役権は土地に付着しているからです。
したがって、Aが甲土地の地役権のみをCに譲渡することはできません。
なぜなら、甲土地の地役権は、所有者であるAではなく、甲土地に付着しているからです。
これも、地役権が土地に付着した権利という性質の所以です。
地役権の付従性
地役権には付従性があります。
付従性とは「付いて従っていく」という性質のことです。
例えば、A所有の甲土地の所有権がCに移転すると、それにくっ付いて地役権もCに移転します。
すると、Cは甲土地の所有者となるのと同時に(甲土地という要役地のための)地役権者にもなります。

地役権の登記
地役権は、その登記をすることにより対抗力を持ちます。
地役権を対抗するときって?
例えば、このような場合です。
事例
Aは、自己所有の甲土地上にある自宅から公道に出るために、隣地のB所有の乙土地を通る必要があり、B所有の乙土地に通行地役権を設定し、その旨の登記をした。その後、BはCに乙土地を譲渡しその旨の登記をした。
このようなケースで、Aが乙土地(承役地)の譲受人Cに対して地役権を主張するような場合です。
[地役権設定&登記]
地役権者 地役権設定者
A B
甲土地 乙土地
(要役地) (承役地)
[乙土地をCに譲渡]
地役権者 地役権設定者
A C
甲土地 乙土地
(要役地) (承役地)
このとき、Aは登記をしているからこそ、乙土地を堂々と通行することができます。
たとえCから文句を言われても、Aは「地役権の登記がある!」と法的に正当な主張ができます。
地役権の登記があるということは、Bから地役権の登記をされた乙土地を譲渡されたCは、地役権設定者という地位も譲り受けることになるのです。
したがって、Cは乙土地を、Aの通行のために利用される義務があるのです。
逆に、地役権の登記がない場合、Aはこのような主張ができません。
これが、地役権は登記をすることにより対抗力を持つ、ということの意味です。
登記のない地役権も対抗できる場合がある
判例では、次の2つの要件を満たした場合においては、地役権者(事例でのA)は地役権の登記がなくとも、承役地の譲受人(事例でのC)にその地役権を対抗できるとしています。
1・譲渡のときに、承役地が要役地の所有者により継続的に通路として使用されていたことが客観的に明らかであること
→例えば、事例のA(地役権者)が、乙土地を通路として使用していることが客観的に見て明らかであること、という意味。
2・譲受人がそのことを認識していたがまたは認識することができたこと
→例えば、事例のCが、乙土地が甲土地の通行のために使用されていたことを認識していたか、少し調べれば認識できたであろう、という意味(善意・無過失とほぼ同義)。
上記2点は、要するに「承役地の譲受人(事例のC )は、その土地に、客観的に見て明らかにわかるような地役権が付いていることぐらい自分で確認しとけ!」ということです。
したがいまして、もし事例のAが地役権の登記をしていなかったとしても、上記2点の要件を満たした場合、Aはその地役権をCに対抗できます。
Cは乙土地に地役権が付いていることぐらいちゃんと確認しとけ!ということです。
補足:地役権の放棄
地役権設定者(通行などで利用される側)は、地役権の設定契約により、地役権行使のための工作物の設置やその修繕義務を負うことがあります。(その旨の登記が必要)
つまり、通行地役権の場合、地役権設定者は、自分の土地を通行のために利用されるだけでなく、そのための設備を設置する義務を負うこともあるのです。
これは地役権設定者にとっては中々酷なことですよね。
そこで、民法287条では、承役地の所有者(利用される側の土地の所有者)が、いつでも、地役権に必要な土地の部分を放棄して地役権者(通行などで利用する側)に移転し、この義務を免れることができるとしています。
これを地役権の放棄といいます。
永小作権

用益権のひとつに永小作権があります。
まず、永小作権についての民法の条文はこちらです。
(永小作権の内容)
民法270条
永小作人は、小作料を支払って他人の土地において耕作又は牧畜をする権利を有する。
永小作権とは、小作料を支払って、他人の土地で耕作・牧畜をする権利です。
小作料は、永小作権の要素です。
小作料が要素ということは、タダの永小作権を設定することはできないということです。
この点は、地代をタダに設定できる地上権とは異なります。(地上権の場合、地代は要素ではない)
また、永小作権は物権です。
したがって、永小作人(永小作権を有する者)が、その権利を自由に譲渡・賃貸することができます。
この点は地上権と一緒です。
ただし、永小作権の場合、永小作権の設定契約の際、その権利の譲渡・賃貸を禁止する特約をし、その旨の登記をすることができます。これは地上権ではできないことです。
永小作権の存続期間
永小作権には、存続期間の定めがあります。
【永小作権の存続期間】
20年以上50年以下(民法278条1項)
→設定行為で50年を超える期間を定めても、その期間は50年になります。
つまり、もし永小作権の存続期間60年という設定契約をしても、その期間は問答無用で50年となります。(民法278条1項)
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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