【共同相続と登記】遺産分割協議と相続人&相続放棄者の勝手な不動産譲渡問題/遺言による相続と登記をわかりやすく解説!

【共同相続と登記】遺産分割協議と相続人&相続放棄者の勝手な不動産譲渡問題/遺言による相続と登記をわかりやすく解説!

▼この記事でわかること
相続と登記の超基本
共同相続と登記
遺産分割協議とは
共同相続人の勝手な不動産譲渡?と登記
相続放棄者が相続財産を譲渡?と登記
遺言による相続と登記
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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相続と登記


 登記の問題に相続が絡んでくる場合とは、一体どのようなケースでしょう? 

事例1
BはAに甲不動産を譲渡した後、死亡した。その後、Bの唯一の相続人であるCは、甲不動産をDに譲渡した。


 これがまず、不動産登記に相続が絡んだ場合の基本的なケースでしょう。
 この事例の流れはこうです。

BがAに甲不動産を譲渡

Bが死亡

BをCが相続

CがDに甲不動産を譲渡


 この事例1について考えるときのポイントは、BとCは同一人物だと考えることです。

 CはBを相続しています。
 そして、相続は包括承継です。
 わかりやすく言うと、Cはそのものを引き継いでいるのです。

 したがって、事例1は、C(=B)が、AとDに甲不動産を譲渡している、という不動産の二重譲渡のケースになります。
 さて、ではこの事例1で、甲不動産を取得できるのは、Aでしょうか?それともDでしょうか?

 答えは簡単です。
 これは不動産の二重譲渡のケースなので、単純に早く登記した方が甲不動産を取得します。


共同相続と登記


事例2
Aが死亡し、A所有の甲土地をBとCが共同相続した。相続分は同一(半々)である。その後、BC間で、甲土地はBが単独で所有するという遺産分割協議が成立した。ところが、Cは甲土地の全部につき自己名義の登記をした上、Dに甲土地を譲渡し、その移転登記をした。


 さて、ここからが「相続と登記」の本格的な内容になります。
 状況の整理をしないとややこしいので、まず、この事例2の流れを確認しましょう。

A死亡

甲土地
BC共同相続(持ち分半分ずつ)

BC間の遺産分割協議により

甲土地の所有権全部
B単独所有


ところが

甲土地の所有権全部
Cが自己名義登記

Dに譲渡

甲土地
Dが登記


 事例2の流れと状況はこのとおりです。
 さて、ではこの事例2で、そもそもCに、甲土地の所有権全部について自己名義の登記(甲土地の所有権全部をC名義で登記)をして、そこからさらに甲土地をDに譲渡する権利があるのでしょうか?


遺産分割協議とは

60アヒルの話し合い
 相続財産を、相続人間の話し合いで分けることを遺産分割といいます。
 例えば、長男は土地、次男は株、三男は預金、といった具合です。
 そして、遺産分割の効力についての、民法の規定はこちらです。

(遺産の分割の効力)
民放909条
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。

 この民法909条の条文を見ると、遺産分割の効力は、相続開始の時にさかのぼるとあります。
 ということは、事例2は、BC間の遺産分割協議が成立して、その効力はAの死亡時(相続が開始した時)にさかのぼります。
 となると、甲土地の所有権は、Aが死亡して相続が開始した時からBのものだったことになります。
 こう考えていくと、そもそも、Cには甲土地についてどうこうする権利などない、ということになります。

 しかし!
 判例の考えは、民法909条の遺産分割の遡及効(遡って生じる効力)を制限します。
 これはどういう事かといいますと、甲土地について、Cの権利を全く認めない訳ではないのです。


共同相続人の勝手な不動産譲渡


 ここで今一度、事例2の流れと状況を確認しましょう。

A死亡

甲土地
BC共同相続(持ち分半分ずつ)

BC間の遺産分割協議により

甲土地の所有権全部
B単独所有


ところが

甲土地の所有権全部
C単独で自己名義登記

Dに譲渡

甲土地
Dが登記


 さて、ではこの事例2で、無権利者のように思われるCから甲土地を譲渡されたDに対し、Bは「遺産分割により甲土地の所有権全部が私のものとなった!なので返せ!」と、甲土地の所有権を主張できるでしょうか?

~Dの救いの道~

 本来、遺産分割されると、その効力は相続開始の時まで遡ります。
 つまり、BC間の遺産分割協議により遺産分割されると、Aが死亡して相続が開始した時から甲土地の全部はBのものだったことになります。

 しかし、判例はこの原則を曲げて、遺産分割の遡及効(遡って生じる効力)を制限します。
 そして、遺産分割の遡及効を制限することにより、Dには救いの道が開かれます。
 Dに救いの道が開かれるということは、Aが泣くことになる可能性を意味します。
 Aの主張の雲行きが怪しくなってきましたね。


甲土地をBの持ち分と
Cの持ち分とに分けて考える


61真っ二つ
 まず、Aが死亡すると、甲土地はBとCへ相続されます。
 その際、甲土地の持ち分は半々となっています。
 ここで、Bの持ち分をb土地、Cの持ち分をc土地とします。
 そして、Cは甲土地の所有権全部について自己名義の登記をしてDに譲渡します。
 つまり、Cは、b土地とc土地の両方を合わせた甲土地に自己名義の登記をした上でDに譲渡した、ということになります。
 さて、ここからは甲土地の行方を、b土地とc土地に分けて考えていきます。


・Bの持ち分:b土地

 こちらは、相続により直接Bに帰属します。
 つまり、b土地の所有権は、相続によりダイレクトにBのものになります。
 ですので、b土地については、Cは一回もその権利を取得したことはなく、全くの無権利者です。
 したがいまして、b土地について全くの無権利者のCから譲渡されたDがb土地を取得することはあり得ません。

〈Bの持ち分:b土地〉

↓直接

(Cの入る余地なし)

 なので、CD間のb土地(Bの持ち分)の譲渡は無効であり、Dの登記も無効です。
 よってBは、b土地については登記がなくともDに対抗できます。
 したがって、Bはb土地については登記をしていなくとも、(無効な)登記をしているDに対して「b土地を返せ!」と主張することができます。


・Cの持ち分:c土地

 こちらは、相続によりいったんCに帰属します(判例により遺産分割の遡及効が制限されるので)。
 つまり、c土地の所有権は相続によりいったんCのものとなり、その後、遺産分割により、Bのものとなります。

 そして、ここからがポイントです。
 c土地は相続によりいったんCのものとなり、その後、遺産分割によりBのものとなる訳ですが、Cがc土地をDに譲渡したことにより、c土地がBとDに二重譲渡されたと考えます。

〈C持ち分:c土地〉



二重譲渡


 不動産の二重譲渡は、民法177条の規定により、第三者(事例だとD)の善意・悪意も関係なく、単純に早く登記をした方が勝ちます。
 したがいまして、事例2のDは登記をしていますので、c土地については、その所有権はDが取得します。

 以上のように、判例では、C持ち分:c土地に関しましては、Dに救いの道を示したということです。
 逆にBは、B持ち分:b土地については登記がなくともDに対抗できますが、C持ち分:c土地に関しましては、先に登記をされてしまったDに対しては、もはや泣くしかありません。

 ということで結論。
 BはDに対して「甲土地の所有権の全部を私に返せ!」と主張しても、c土地に関しましては「私(D)が登記したから私のモノだ!」というDに対抗することができません。
 したがいまして、BがDから取り戻せるのは「B持ち分:b土地のみ」となります。


相続放棄者が相続財産を譲渡?


 続いては、共同相続人の相続放棄が絡んだケースを解説します。

事例3
Aが死亡し、A所有の甲土地をBとCが共同相続した。相続分は同一(半々)である。しかし、Cはすぐに相続放棄した。その後、Cは甲土地の全部につき自己名義の登記をした上、Dに甲土地を譲渡し、その移転登記をした。


 事例の前に、まず「相続放棄」について、簡単に解説いたします。

 相続放棄とは、相続人としての地位そのものを放棄することです。
 相続人としての地位そのものを放棄するということは、そもそも最初から相続人ではなかったとみなされます。
 そして一度、相続放棄をして相続人ではなかったとみなされると、もう二度と相続人に戻ることはありません(「みなす」という言葉はそれぐらい強力なのだ。その後の反論も一切許さないのである)。
 したがって、相続放棄をした者は、もはや相続人ではないので、当然、相続人としてカウントされなくなります。

 なぜそんな制度があるの?

 相続は、死亡した人間の財産上の地位をまるごと引き継ぎます(包括承継)。
 財産上の地位をまるごと引き継ぐということは、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産(負債)も、まとめて引き継ぐということを意味します。
 ですので、もし親が大借金を抱えて亡くなると、相続人となる子供は、親の作った大借金をそのまま丸ごと引き継ぐことになります。

 しかし、それでは相続人が困ってしまいますよね。
 それどころか、その借金があまりにも莫大なものだったとしたら、子々孫々まで延々とその借金を背負わされてしまい兼ねません。
 そこで「相続放棄」という制度があるのです。

 なお、プラスの財産しかない場合でも相続放棄することは可能です。
 実際、相続争いに巻き込まれるのは勘弁ということで、プラスの財産でも相続放棄するケースは多々あります。

 さて、それではここから、事例3についての解説に入って参りますが、今一度、事例の流れと状況を確認します。

A死亡

甲土地
BC共同相続(持ち分半分ずつ)

Cが相続放棄

甲土地の所有権全部
B単独所有


ところが

甲土地の所有権全部
C単独で自己名義登記

Dに譲渡

甲土地
Dが登記


 以上が事例の流れと状況です。
 それでは事例について本格的に見ていきましょう。

 Aの相続人はBとCです。
 甲土地はBとCに共同相続されます。
 しかし、すぐにCは相続放棄します。
 すると、Cは最初から相続人ではなかったとみなされ、甲土地は最初からBが一人で相続したことになります。
 そして、相続放棄の効果は絶対です。
 ですので、一度、相続放棄をしたCには、もはや甲土地の何もかもについてどうこうする余地は1ミリもありません。
 相続放棄をしたC完全な無権利者です。

 したがって、Cが相続放棄をするとこうなります。

〈甲土地〉

↓直接

(相続人としてのCの存在は最初からいなかったことになる)

 したがいまして、相続放棄をして、甲土地について最初から完全な無権利者となるCに、甲土地をDに譲渡することなどは当然できず、CD間の甲土地の譲渡完全に無効なもので、Dの登記も無効です。
 よってBは、登記を備えたDに対して、登記なくとも甲土地の所有権の全部について対抗できます。
 つまり、Bは甲土地について登記をしていなくても、登記をしたDに対して「甲土地の所有権全部、私に返せ!」と主張できます。
 事例3の場合、Dが甲土地の所有権争いに勝つ可能性は全くありません。


遺言による相続の場合

62紙とペン
 最後に、遺言による相続のケースを解説します。

事例4
Aが死亡した。そしてAの遺言により、A所有の甲土地をBが持ち分3分の1、Cが持ち分3分の2で相続した。その後、Cは甲土地の全部につき自己名義の登記をした上、Dに甲土地を譲渡し、その移転登記をした。


 これは、遺言により相続分が指定されたケースです。
 そして、Cが遺言による指定を無視して、甲土地の所有権全部について自己名義の登記をした上、Dに譲渡して移転登記もした、というものです。
 さて、この事例で、Dは甲土地を取得できるのでしょうか?

 結論。
 Dは甲土地を取得できます。
 ただし、Dが取得できる甲土地は、3分の2のC持ち分のみです。(論理・考え方は遺産分割の事例2と一緒です)

 Bの持ち分は?

 甲土地の3分の1のB持ち分については、Dが取得することはあり得ません。
 なぜなら、B持ち分については、Cがそもそも完全な無権利者だからです。
 完全な無権利者のCから、B持ち分がDへ譲渡されることがあり得ないんです。
 つまり、CD間のB持ち分の譲渡は無効です。

〈B持ち分〉

↓相続

(Cの入る余地なし/Dの登記は無効)

 なお、Bは登記がなくとも、B持ち分については、Dに対抗できます。
 よってDは、B持ち分については、登記のないBから「返せ!」と迫られたら、大人しく返還しなければなりません。
 
事例5
Aが死亡した。そしてAの遺言により、A所有の甲土地をBが持ち分3分の1、Cが持ち分3分の2で相続した。その後、Cは相続放棄した。ところが、Cは甲土地の全部につき自己名義の登記をした上、Dに甲土地を譲渡し、その移転登記をした。


 これも、遺言により相続分が指定されたケースで、相続放棄をしたCが、甲土地の所有権全部につき自己名義の登記をした上、Dに譲渡しその移転登記もした、というものです。
 さて、ではこの事例5で、Dは甲土地を取得できるでしょうか?

 結論。
 Dは甲土地を取得することはできません。
 論理・考え方は相続放棄の事例3と一緒です。

 Cの持ち分は?

 はい。DはCの持ち分すら取得することはできません。
 なぜなら、Cが相続放棄したということは、Cは最初から相続人ではなかったとみなされます。
 Cが相続人ではなかったとみなされると、最初から甲土地はB1人で相続したことになります。
 それは遺言による相続分の指定があろうと関係ありません。

〈甲土地〉

↓相続

(相続人としてのCの存在は最初からいなかったことになる)

 相続放棄の効果は絶対です。
 一度、相続放棄をしたCが、再び相続人に戻ることもありません。
 相続放棄したけどやっぱナシ!とはできないのです。
 したがいまして、相続放棄をしたCは、もはや相続人ではないので、甲土地に関しては全くの無権利者です。

 全くの無権利者CからDに甲土地が譲渡されることはあり得ません。
 よってCD間の甲土地の譲渡は無効であり、Dの登記も無効です。
 ということなので、Bは登記がなくとも、Dに対し甲土地の全部について対抗できます。
 つまり、Bは登記をしていなくとも、(無効な)登記をしたDに対し「甲土地の所有権全部返せコラ!」と主張することができます。

 事例5でDが勝つ可能性はゼロです。
 それだけ、Cの相続放棄の効果が絶対ということなのです。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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