【賃貸借の終了】必要費と有益費・価値増加現存分の償還請求とは/造作買取請求権と建物買取請求権とは

▼この記事でわかること
賃貸借の終了の基本
有益費について
賃借人の造作買取請求権
借地人の建物買取請求権
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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賃貸借の終了

 賃貸借契約が期間満了になると、賃借人(借主)は、その契約を更新するか終了するかを選ぶことになります。(賃貸人から更新拒絶する場合は正当事由が必要になります)
 さて、それでは、賃貸借契約が終了すると、賃借人(借主)が賃借物について支出した費用があった場合、それはどうなるのでしょうか?

 賃借人(借主)が賃借物を賃借中に支出した費用があった場合、その費用は、賃貸人(貸主・オーナー)に対して償還請求することができます。
 償還請求というのは「支出した費用を払え」ということです。例えば、賃貸マンションの賃借人(借主)が、その賃貸マンション(賃借中の建物)について支出した費用があれば、賃借人(借主)は賃貸人(貸主・オーナー)に対して、支出した分の費用を請求できます。
 そして、その費用は、以下の2種類に分けることができます。

・必要費
・有益費


【必要費】
 これは物を保存・管理するための費用、つまり、現状の価値を維持するための費用で、いわゆる修繕費のことです。
 例えば、雨漏りの修繕、水まわりの修繕、エアコンの修繕などです。
【有益費】
 物の価値を増加させる費用、つまり、物をグレードアップさせる費用です。例えば、外壁工事の美化、トイレのウォシュレットへの交換などです。

 以上の費用を、賃借人(借主)は賃貸人(貸主・オーナー)に対して償還請求することができるのです。
 なお、必要費については、費用発生次第、賃借人は賃貸人に対し、直ちに償還請求できます。
 一方、有益費については、賃貸借契約の終了のときになって初めて、民法196条の規定に従って償還請求できます。

有益費についての注意点

 賃借人(借主)は賃貸借契約の終了のとき、賃貸人(貸主・オーナー)に対して有益費の償還請求ができるわけですが、その際、つまり賃借人に償還請求されたときに賃貸人(貸主・オーナー)は、償還する費用を「支出額」「価値増加の現存分」の、どちらかを選択することができます。
「支出額」はわかりますが、価値増加の現存分とは何なのでしょう?
 例えば、賃貸中に賃借人(借主)が建物の価値を増加させる増強をしていても、賃貸借契約の終了のときには、増強部分が滅失してしまっていたような場合は「価値増加の現存分はなし」と判断されます。つまり、そのような場合は、賃貸人(貸主・オーナー)は、賃借人から有益費の償還請求をされても「価値増加の現存分」を選択すれば、結果として何も支払わずに済ませることができます。
 また、賃借人(借主)が賃貸人(貸主・オーナー)に有益費の償還請求をした際、裁判所は、賃貸人(貸主・オーナー)の請求により「相当の期限の許与」をすることができます。
裁判所
 この場合、賃貸人(貸主・オーナー)は「相当の期限」償還請求された支払いを待ってもらうことができます。
 なお、裁判所により「相当の期限の許与」がされると、明渡しが先履行となるので、賃借人(借主)は、賃貸借契約終了時に、有益費の支払い請求を根拠とする留置権の主張ができなくなります。
 要するに、本来、賃借人(借主)は、有益費の償還請求をした場合、賃貸人(貸主・オーナー)がその有益費の支払いをするまでは、明渡しを拒むことができます。「有益費を支払うまで明け渡さん!」と主張できるのです。しかし、裁判所による「相当の期限の付与」があった場合は、賃借人(借主)は、その主張ができないということです。
※留置権についての詳しい解説は「【留置権】最強の担保物権?成立要件と対抗力」をご覧ください。

補足
 現実には、賃貸借契約の際、契約条項に、有益費の償還請求権を排除する特約を置いていることがほとんどだと思います。
 なぜなら、有益費の償還請求権は任意規定※なので、特約で問題なく排除することが可能なのです。
 賃貸人(貸主・オーナー)が、自分に不利になるような規程を排除せず、わざわざ置いたままにしておく方が、むしろ考えにくいということです。
※任意規定(任意法規)についての詳しい解説は「強行法規と任意法規とは?その意味と違い」をご覧ください。

造作買取請求権

 賃借人(借主)には、賃借物について賃借中に支出した費用があれば、賃貸人(貸主・オーナー)に対してそれを請求する費用償還請求権があることは分かりました。
 では、賃借人が、賃借物について賃借中に、何らかの造作を施した場合は、一体どうなるのでしょうか?

【造作】
 造作とは「建物に付加された物で、借家人の所有に属し、かつ、建物の使用・収益に客観的便益を付与するもの」を言います。
 造作は動産になるのですが、建物に設置され、容易に取り外しができないもので、建物の使用価値を増大させるものが、これに当てはまります。
 一方、取り外しが容易であり、撤去しても建物の価値に影響を及ぼさないものは造作には当たらない、と考えられています。
 判例上、空調設備、雨戸、事業用賃貸の場合の広告用表示版などが、造作に該当するとされています。

 さて、「賃貸借契約が終了すると造作は一体どうなるのか?」に話を戻します。
 民法の原則では、賃借人(借主)が賃借中に建物に付加した造作は、賃貸借契約終了時に、賃借人(借主)が収去(造作をする前の元の状態に戻すこと)しなければなりません。
 しかし、借家借家法33条により「造作買取請求権」という規定が設けられています。

(造作買取請求権)
借地借家法33条
建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。建物の賃貸人から買い受けた造作についても、同様とする。


 借地借家法は民法よりも優先して適用されます。よって、この規定により、賃借人(借主)は、賃借中の建物に付加した造作がある場合、賃貸借契約終了時に、賃貸人(オーナー)に対して、その造作の時価の買取を請求することができます。つまり、賃借人は「造作を時価で買い取れ!」と賃貸人に対し請求できるのです。
 ただし、賃貸人(オーナー)の同意を得て造作をしていた場合に限ります。賃貸人に無断で、賃借人(借主)が勝手に造作していた場合は、上記の規定による造作買取請求はできません。

補足
 造作買取請求権は任意規定になります。よって、契約の条項で問題なく排除することが可能です。
 したがいまして、現実においては、賃貸借契約の際に、造作買取請求権を排除する旨の特約を置いていることがほとんどでしょう。
 なお、造作買取請求権が正当で有効な場合は、賃借人(借主)が賃貸人(貸主・オーナー)に対して造作買取請求をしたとき、賃貸人がその代金を支払わない間は、同時履行の抗弁権により、賃借人(借主)は建物の明渡しを拒むことができます。(同時履行の抗弁権について詳しい解説は「契約解除後~同時履行の抗弁権」をご覧ください)。
 つまり、賃借人(借主)は「造作の代金を支払うまで建物は明け渡さん!」と賃貸人(貸主・オーナー)に主張できるということです。
 なぜ、現実には、特約により造作買取請求権を排除していることがほとんどな理由は、これでよくお分かりになりますよね。
 そうです。造作買取請求権は、賃貸人(貸主・オーナー)側にとって不利になるものだからです。

土地の賃貸借(借地契約)の終了
借地人の建物買取請求権
家くん
 建物の場合、賃貸借契約が終了すると、賃借人は賃貸人(オーナー)に対し、有益費の償還請求や造作買取請求をすることができます。
 では、借地上に自己所有の建物を有していた場合、その土地賃貸借契約が終了すると、借地人は、賃貸人(地主)に対して何か請求ができるのでしょうか?
 借地人は、借地権の存続期間が満了し(借地契約の期間が満了し)、契約の更新がないとき、賃貸人(地主)に対して、借地上の自己所有の建物を時価で買い取ることを請求することができ、これを建物買取請求権と言います。
 本来の賃貸借の原則に立てば、借地人は、土地賃貸借契約が終了すると、原状回復義務として、建物を取り壊して、借地を更地にした上で返還しなければなりません。
 しかし、そのような原則に従って、まだ使用可能な建物であっても取り壊さなければならないとなると、借地人にとっての負担の大きさもさることながら、社会経済にとってもよろしくありません。
 そこで、借地人に対し、借地上の建物のために投下した資本の回収を保障するという借地人保護の観点と、いったん建築した借地上の建物をちゃんと保存させて社会的経済的効用を全うさせるという経済的観点から、借地人の建物買取請求権が、借地借家法13条により規定されている、という訳です。

(建物買取請求権)
借地借家法13条
借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。


 この建物買取請求権は「請求権者の一方的意思表示により効力を生じる形成権」であるとされています。
 どういう意味かといいますと、借地人が建物買取請求権を行使すると、直ちに賃貸人(地主)に建物の所有権が移転するため、借地人は賃貸人に対し、建物をそのまま引渡すことで、引渡し義務を果たしたことになるのです。
 また、借地人が賃貸人(地主)に対して建物買取請求権を行使すると、借地人は、賃貸人に対する建物の代金請求権を取得します(建物の買取代金をよこせ!という権利を得るということ)。この賃貸人(地主)の代金支払義務は、買取請求と同時に、直ちに履行期に達するとされており、この代金支払義務と建物明渡義務は同時履行の関係にあるので、借地人は賃貸人から建物代金の支払いを受けるまでは、賃貸人に対する建物の引渡しを拒絶することができます(借地人は賃貸人に対し「買取代金を払うまではこの建物は明け渡さん!」と主張できるということ(同時履行の抗弁権)。

借地人の建物買取請求権は無制限に認められる訳ではない

 このように、土地賃貸借契約終了時の借地人の建物買取請求権が、借地借家法13条の規定により、正当な権利として認められている訳ですが、ここで注意点があります。
 この借地人の賃貸人(地主)に対する建物買取請求権は、無制限に認められている訳ではありません。
 建物買取請求権は、誠実な借地人を保護するための規定です。つまり、きちんとルールを守った借地人でなければ保護するに値しません。
 ですので、賃料不払いなど借地人の債務不履行や義務違反により借地契約が解除された場合は、借地人は、建物買取請求権は行使できません。
 そのようなルールを守れない借地人は保護する必要はないのです。

微妙なケース

 賃貸人(地主)と借地人の合意により土地賃貸借契約が期間の途中で終了した場合には、借地人の建物買取請求権は認められるのでしょうか?
 多くの判例では「当事者間において、特に借地人における建物買取請求を認める合意が存在しない場合、借地人が地上建物の運命まで顧慮したうえで、土地賃貸借契約の終了について合意したものと考えられるため、建物買取請求権の放棄及び建物の収去が前提とされていたと解すべきである」と考えてられています。噛み砕いてもっと簡単に言うとこういうことです。
合意して土地賃貸借契約が終了したってことは、借地人は、借地上の建物がどうなろうとも、その運命さえも織り込み済みで合意したんだろうから、建物買取請求権を放棄したのと同じじゃね?」
 したがいまして、多くの判例では、当事者同士の合意解除により土地賃貸借契約が期間の途中で終了した場合は、借地人の建物買取請求権は認められない、ということになっているのです。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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東京都行政書士会所属
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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