【転貸借における賃貸借契約の解除】家賃滞納による解除と合意解除では何が違う? /転借人への催告と契約終了時期について

▼この記事でわかること
転貸借における賃貸借契約の解除
家賃滞納による賃貸借契約解除後の転貸借とその契約終了時期
賃貸借契約の合意解除or期間満了により終了した場合の転貸借契約
(上記クリックorタップでジャンプします)
 今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、わかりやすく学習できますよう解説して参ります。
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転貸借における賃貸借契約の解除

 転貸借契約における賃貸借契約(原賃貸借契約)の解除の問題について、解説して参りますが、まずは事例をご覧ください。

事例1
BはA所有の甲建物を賃借している。そして、BはAの承諾を得て、適法に甲建物をCに転貸した。ところが、BはAに支払うべき家賃を滞納している。


 この事例で、甲建物の賃貸借契約を結んでいるのはAとBで、BとCは転貸借契約を結んでいます。(転貸借の基本についての詳しい解説は「転貸借(サブリース)~賃貸人は転借人に直接家賃請求できる?」をご覧ください。
 関係図は以下になります。

(オーナー)  (賃借人)
 賃貸人    転貸人     転借人
  A        B       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約

 家賃は、転借人Cは転貸人Bに支払い、転貸人Bは賃貸人Aに支払うことになるのですが、転貸人Bは、賃貸人Aに支払うべき家賃を滞納してしまっています。
 さて、この場合に、賃貸人Aは、契約解除の前提として、転借人Cに対し「家賃払え」と支払いの催告をする必要があるでしょうか?
 通常の賃貸借であれば、賃借人(借主)が家賃を滞納している場合、賃貸人(オーナー)は、その賃貸借契約の解除を前提に、賃借人に対して家賃の支払いの催告ができます。解除を前提の支払い催促とは、要するに「家賃を支払わないなら出てってもらうぞ!」ということです。※
※(実際の立ち退きはそう簡単にはいきません。なぜなら、不動産賃貸借の場合「信頼関係破壊の法理」が働くからです。ここでは立退き問題の詳細については割愛しますが「信頼関係破壊の法理」についての詳しい解説は「賃借権の無断&適法な譲渡と転貸~賃貸人の解除権と信頼関係破壊の法理とは」をご覧ください)
 事例1で、家賃を滞納している賃借人Bは、甲建物の賃貸借契約における賃料支払い債務を遅滞している、つまり、履行遅滞に陥っています。
 履行遅滞に陥っている者に対して、相手方は、相当の期間を定めた上で催告し、期間内に履行がされない場合は、契約の解除ができます。
 根拠となる民法の条文はこちらです。

(催告による解除)
541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。


 上記、民法541条の規定により、賃貸人Aは、家賃を滞納している賃借人Bに対し「◯月◯日までに家賃を支払わなければ、甲建物から出てってもらう!」という催告ができます。
指さし
 さて、ここまでは、何も問題ないと思います。しかし、事例1の問題点は、転借人Cの存在です。
 というのは、もし、AとBとの間の賃貸借契約(原賃貸借契約)が解除されれば、転借人Cが困ってしまうからです。
 なぜなら、BとCの転貸借契約は、AとBの賃貸借契約の存在を前提に成り立っているからです。互いの契約は別個のものですが、賃貸のない転貸などありえません。ですので、AB間の賃貸借契約が解除されれば、BC間の転貸借契約も消滅し、転借人Cは甲建物から出て行かざるを得なくなります。
 要するに何が言いたいかというと、本来、賃貸人Aと転借人Cは契約関係にはないので、両者に権利義務関係はありません。しかし、AB間の賃貸借契約の解除の問題については、転借人Cも立派な利害関係人なのです。
 また、それに加えて、民法613条の規定により、賃貸人Aは転借人Cに対し直接、家賃を請求することもできます。
 以上のことから考えると、賃貸人Aは、賃借人Bの滞納家賃の問題とはいえ、転借人Cに対しても、支払いの催告をする必要があるのではないでしょうか?
 結論。賃貸人Aは、賃借人Bの滞納家賃について、転借人Cに対し、支払いの催告をする必要はありません。
 したがいまして、賃貸人Aは、賃借人Bに催告をして、それでもBが家賃を滞納し続けるならば、転借人Cの存在を無視して、AB間の賃貸借契約を解除することができます。
 転借人Cがかわいそう!
 はい。確かにかわいそうです。しかし、これは転貸借のリスクです。転借人Cは、あらかじめこのリスクも承知した上で、Bとの転貸借契約に臨まなければならないのです。
 でも賃貸人Aは転借人Cに直接家賃を請求できることとのバランスがおかしくね?
 そんなこともないのです。なぜなら、民法613条の規定による賃貸人から転借人への直接の賃料請求権は、権利であって義務ではありません。ですので、賃借人Bの家賃滞納に伴うAB間の賃貸借契約の解除について、賃貸人Aは、あらかじめ転借人Cに対しても、催告をする義務はないのです。
 したがいまして、もし転借人として転貸借契約をする際は、転貸人(賃借人)の信用性をしっかりと確かめた上で、契約するのが良いでしょう。

賃貸借契約解除後の転貸借契約

 さて、ここからは、賃貸借契約が解除された後の転貸借について解説して参ります。
 まずは事例をご覧ください。

事例2
BはA所有の甲建物を賃借している。BはAの譲渡を得て、適法に甲建物をCに転貸している。その後、Bの家賃滞納により、AB間の賃貸借契約が解除された。


[関係図]

(オーナー)  (賃借人)
 賃貸人    転貸人     転借人
  A        B       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約
     ↑
     解除

 この事例2で、AB間の賃貸借契約解除されたことにより、BC間の転貸借契約は終了します。
 BC間の転貸借契約は、AB間の賃貸借契約の存在の上に成り立っているので、元を断たれたBC間の転貸借契約も必然的に終了します。
 さて、ここでまで良いとして、考えるべき本題はここからです。それは、BC間の転貸借契約が終了するタイミングについてです。
 BC間の転貸借契約は、AB間の賃貸借契約が解除されたことにより終了しますが、決して、AB間の賃貸借契約が解除されると、それに伴い自動的に終了するわけではありません。
 じゃあいつ終了するの?
 AB間の賃貸借契約が終了すると「元を断たれたBC間の転貸借契約」で甲建物を使用している転借人Cは「不法占拠者」となります。
 そして、賃貸人(オーナー)のAは所有権に基づき、転借人Cに対し、甲建物の明渡し請求をすることになります。この請求をした時に、AC間の転貸借契約が終了します。
 つまり、賃貸人Aが転借人Cに対して、甲建物の返還請求をした時に、AC間の転貸借契約が終了するのです。
 なんだか細かいなぁ
 細かい話ですが、これは資格試験等の民法の問題で問われやすい部分です。もし「賃貸借契約が解除されると同時に転貸借契約も終了する」というような肢が出題されたら、それは誤りの肢になります。くれぐれもお気をつけください。

なぜ転貸借契約の終了時期がそのタイミングなのか
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 これにはちゃんとした理屈があります。別に試験問題で問うために、そのようになっている訳ではありません。
 その理屈はこうです。

 賃貸借契約において、賃貸人は賃借人に対し「目的物を使用収益させる義務」を負う(オーナーは賃貸した不動産を賃借人(借主)に使わせてあげる義務を負うということ)。
 しかし「目的物を使用収益させる義務」が履行不能に陥れば、賃貸借契約は終了する。
 例えば、賃貸借している不動産が滅失したら、その賃貸借契約は終了する。
 なぜなら、不動産が滅失してしまったら「目的物を使用収益させる義務」を果たすことが不可能になる、すなわち、履行不能に陥るからである。
 賃貸借契約が解除された際の転貸借契約については、賃貸借契約の存在の上に成り立っている転貸借契約は、賃貸借契約が解除されると、いわば宙ぶらりん状態になると考えられる。
 そして、賃貸人が転借人に明渡しを請求した時に初めて「履行不能」に陥ると考えるので、賃貸借契約が解除された際の転貸借契約の終了時期は「賃貸人が転借人に明渡し請求をした時」になるのである。

 このような理屈になります。なんだか、わかるようなわからないような、そんな理屈ですよね(笑)。
 ただ、これは判例で示されていることなので、納得の如何に関わらず「こうなっているんだ」と、強引に納得してください。

賃貸借契約の合意解除と期間満了により終了した場合の転貸借

 事例1事例2では、転貸借における家賃滞納による賃貸借契約(原賃貸借契約)の解除の問題について見て参りました。
 この「家賃滞納による解除」というのは、債務不履行(履行遅滞)による解除です。このような解除は「法定解除」になります。
 これは法律の定めによって、一定の要件を満たした場合に、債権者から一方的になされる解除です。
 さて、では次のような場合はどうなるのでしょうか?

事例3
BはA所有の甲建物を賃借している。BはAの譲渡を得て、適法に甲建物をCに転貸している。その後、AとBの合意により、AB間の賃貸借契約が解除された。


 この事例3に登場するAB間の解除は「法定解除」にはなりません。AB間の解除は、互いの合意のもとに行われています。このような解除は「合意解除」と言います。
 さて、問題はここからです。
 家賃滞納による賃貸借契約の「法定解除」の場合は、賃貸人は転借人への催告は必要ありません。転借人をシカトして、賃貸借契約を解除できます。転借人は、賃貸人から「その転借している不動産から出てけ!」と言われれば、もはやどうすることもできません。
 ところが、この事例3では、AB間の賃貸借契約は合意解除されています。
 この場合、転借人Cは一体どうなるのでしょうか?

[関係図]

(オーナー)  (賃借人)
 賃貸人    転貸人     転借人
  A        B       C
所有・貸す→借りる・貸す →借りる・使用
     ↑       ↑
   賃貸借契約   転貸借契約
     ↑
    合意解除

 結論。AB間の賃貸借契約の合意解除は、転借人Cに対抗できません。
 したがいまして、転借人Cは「甲建物はワタシが転借しているのだ!」と主張して、堂々と甲建物を使用し続けることができます。

なぜ合意解除を転借人に対抗できないのか

 AB間の賃貸借契約の合意解除は、転借人Cが持つ「甲建物の使用収益権」踏みにじることになってしまいます。
 というのは、転貸人Bは、BC間の転貸借契約により、転借人Cに対し「甲建物を使用収益させる義務」を負ってます。それはつまり、BC間の転貸借契約により、転借人Cには「甲建物の使用収益権」という権利があるということです。
 ましてや、甲建物のオーナーである賃貸人Aも、BC間の転貸借契約には承諾を与えています。それにも関わらず、AB間で勝手に合意して賃貸借契約を解除し、転借人Cに「AB間の賃貸借契約は解除したから、甲建物から出てってくれ」と迫るのは、信義則に反し許されません。(判例)※
※信義則についての解説は「不動産売買契約~背信的悪意者と信義則について」もご参照ください。
 したがいまして、AB間の賃貸借契約が合意解除されても、賃貸人Aは、転借人Cに対し、甲建物の明渡し請求はできないのです。

賃貸借契約が期間満了により終了した場合

 AB間の賃貸借契約が、期間満了により終了した場合、転借人Cはどうなるのでしょう?
 この場合は、賃貸人Aは、AB間の賃貸借契約の期間満了による終了を、転借人Cに対抗できます。
 なぜなら、転借人Cは、BC間の転貸借契約を結ぶ際に、AB間の賃貸借契約の終了時期も分かっていたはずだからです。
 したがいまして、AB間の賃貸借契約が期間満了により終了すれば、転借人Cは素直に、甲建物を退去しなければなりません。


 というわけで、今回は以上になります。
 宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
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東京都行政書士会所属
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行政書士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、個人情報保護士、情報セキュリティマネジメント、マイナンバー実務検定1級

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