2018/02/17
賃貸人(貸主・オーナー)の解除権 家賃滞納と信頼関係破壊の法理(理論)
事例AはB所有の甲建物を賃借している。AはBに無断で、Cと甲建物の転貸借契約を結んだ。尚、Aはまだ甲建物をCに引き渡していない。
これは、借り手である賃借人Aが貸し手である賃貸人Bの承諾なしに甲建物をまた貸しする契約をCと結んだ、つまり借り手の勝手なまた貸しという無断転貸のケースです。そして、この事例のポイントは「まだ甲建物をCに引き渡していない」ところです。
さて、この事例で、賃貸人Bは、無断転貸をしたがまだその引渡しはしていない賃借人Aとの、甲建物の賃貸借契約を解除できるでしょうか?
結論。賃貸人Bは、賃借人Aとの甲建物の賃貸借契約を解除することはできません。
これはちょっと意外な結果ではないでしょうか?本来であれば、賃借人の無断転貸に対して、賃貸人は原則その賃貸借契約を解除できます(無断転貸について詳しくはこちらの記事もご参照下さい)。しかし、今回の事例の場合、賃借人Bは、無断転貸をしたとはいえ、まだ甲建物をCへ引き渡していません。そこで判例では、このような場合、無断で賃借人が転貸借契約をしたとはいえ、まだその引渡しを行なっていない以上、賃貸人と賃借人の「信頼関係は破壊されていない」ので解除できない、としています。
信頼関係破壊の法理
先ほど「信頼関係は破壊されていない」ので、その賃貸借契約は解除はできない、という旨のお話をいたしましたが、これを信頼関係破壊の法理(理論)といいます。
ところで、不動産賃貸借契約は、実はそう簡単に解除することはできません。よく不動産の「立ち退き問題」という言葉を耳にすることがあると思いますが、この「不動産の立ち退き問題」を難しくしている原因に、実は「信頼関係破壊の法理」が影響しています。どういうことかといいますと、例えば、AがB所有の甲アパートを借りて住んでいるとします。そしてAが1ヶ月分の家賃を滞納します。すると、賃借人Aは債務不履行に陥ります。債務不履行に陥るとは、簡単に言うと約束を守らなかったということです。そして債務不履行にはペナルティがあります。そのひとつが契約解除です。債務不履行は契約の解除の原因になります。債権者は債務不履行に陥った債務者に、相当の期間を定めて催告した上で、その契約を解除することができます。しかし!不動産賃貸借の場合は、そう簡単にはいきません。賃貸人B(大家・オーナー)は、賃借人A(借主)が1ヶ月分の家賃を滞納した、というだけでは、甲アパートの賃貸借契約を解除することはできません。なぜなら、それだけでは「信頼関係が破壊されていない」と判断されるからです。
このようにして、信頼関係破壊の法理が働くのです。
じゃあ賃借人Aはいつまでも家賃を滞納できちゃうの?
そういう訳ではありません。通常は、賃借人の家賃滞納については、3ヶ月分は滞納しないと、賃貸人は賃貸借契約の解除はできないとされています。つまり、賃借人Aの家賃滞納が3ヶ月分までいけば、そこで「信頼関係が破壊された」と判断され、賃貸人Bは、賃借人Aとの甲アパートの賃貸借契約を解除できます。もちろん、家賃滞納以外に信頼関係を破壊するような事由があれば、家賃滞納があろうがなかろうが、賃貸借契約を解除できます。
ざっくりと噛み砕いて簡単にまとめますと、信頼関係破壊の法理が働くことにより、賃貸人は、家賃滞納のみでは、少なくとも3ヶ月分の家賃滞納がなければ、その賃貸借契約を解除できない。つまり、賃借人の滞納家賃が3ヶ月分までいって初めて、賃貸人は賃借人に対し「出てけ!」と言える、ということです。
補足
「背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるとき」とは、言葉を変えれば「信頼関係が破壊されたとは認められないとき」ということです。
不動産賃貸借について考えるとき、「信頼関係破壊の法理」は非常に重要になりますので、是非頭に入れておいて頂ければと存じます。
尚、不動産の家賃滞納、立ち退きの問題は、まだまだ深い問題がございます。ですので、その問題につきましては、また別途改めて取り上げたいと思います。
→続いての記事はこちら
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