
【不動産賃貸借の基本】賃貸人たる地位の移転(オーナーチェンジ)と新賃貸人&賃借人の対抗要件(登記と引渡し)を初学者にもわかりやすく解説!
▼この記事でわかること
・不動産賃貸借の超基本
・特別法と一般法とは
・賃貸人たる地位の移転(オーナーチェンジ)と家賃二重払いの危険性
・新オーナーであることを賃借人(借主)に法律的に正当に主張するには登記が必要
・賃借人(借主)の対抗要件
(上記クリックorタップでジャンプします)
今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者にもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。

不動産賃貸借の基本
賃貸借とは、簡単に言うと利用料金が発生する物(動産・不動産)の貸し借りです。
レンタルショップでCDを借りるのも賃貸借ですし、レンタカーを借りるのも賃貸借です。
そして、不動産の貸し借りも賃貸借です。
不動産の場合は特に不動産賃貸借といいます。
ここでまず、気をつけていただきたいことがあります。
利用料金が発生しない物の貸し借りは、賃貸借ではありません。
タダで貸し借りをしていれば、それは賃貸借にはならず使用貸借になります。
この点はまずご注意ください。
不動産賃貸借について考えるときは民法だけでは不十分
実は、民法における賃貸借についての規定は、それだけでは、不動産賃貸借の問題について考えるときにはあまり役に立ちません。
なぜなら、不動産賃貸借については、借地借家法という特別法が存在するからです。
民法は、私法(民間人・民間企業同士についてのルールを定めた法律の総称)における一般法(ベーシックな法律)です。
つまり、民法は私人間(民間人・民間企業同士)のことを定めた法律の中のもっともベーシックな法律(すなわち一般法)ということです。
しかし、特別法は一般法に優先します。
ですので、同じ事柄について定めた規定で借地借家法と民法が競合(バッティング)する場合は、借地借家法が優先して適用されます。
なので、不動産賃貸借について考えるときに、民法だけでは不十分なのです。
したがいまして、不動産賃貸借の問題につきましては、借地借家法を織り交ぜた実践的な解説をして参ります。
ちょこっとコラム
~特別法と一般法~

「特別法>一般法」という関係性は、何も不動産賃貸借における借地借家法に限ったことではありません。
不動産売買において、売主が宅建業者の場合は宅地建物取引業法(自ら売主制限など)が優先して適用されますし、建物の建築においては建築基準法が優先して適用されます。
他にも、商行為(商売行為)に関しては商法が優先して適用されたり、より消費者保護に厚い消費者保護法があったり等々、色々存在します。
この辺りの法律関係は、また別の機会に改めて解説するとして......
特別法と一般法の関係を噛み砕きまくって分かり易く言うなら、家庭における嫁さんと旦那の関係ですかね。
嫁さん(特別法)は旦那(一般法)に優先する(嫁さん>旦那)...なんて一概には言えないですね(笑)。
失礼しました。
なお、特別法と一般法の規定が重なる場合は特別法が優先して適用されることはすでに説明済みですが、一般法の規定が特別法と重ならない場合は、一般法の規定が直接適用されます。(民法の規定が借地借家法と重ならない場合は、民法の規定が直接適用されるという意味)
念のため申し上げておきます。
賃貸人たる地位の移転(オーナーチェンジ)
事例
Aは自己所有の甲建物をBに賃貸し、引き渡した。その後、Aは甲建物をCに売却し、AからCへ登記を移転した。
これは賃借人(借主)が居住中に賃貸人(家主・オーナー)が代わったというケースです。
この事例では、Bが賃貸中(居住中)の甲建物のオーナーがAからCへチェンジしています。
このようなオーナーチェンジのケースは、住宅用でも事業用でも、賃借人(借主)として経験された方は少なくないと思います。
ケースにもよりますが、ある日、いきなり管理会社からオーナーチェンジの知らせを受け、面食らってしまった方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。
さて、このときに、甲建物を賃借しているBにとって、ある問題が生じます。
それは「本当にAからCへオーナーチェンジしたのか?」という問題です。
なぜそれが問題になるのかといいますと、それは「家賃を払うべき相手は本当にCでいいのか?」ということに繋がるからです。
家賃二重払いの危険性
もしオーナーチェンジの知らせがウソで、新オーナーと名乗る人物がニセモノで、その自称新オーナーに家賃を払ってしまったらどうなるでしょう?
家賃を払った賃借人(借主)は、ある日、こんな連絡を受けてビックリするはずです。
「〇〇さん!家賃が振り込まれていませんよ!?」
そして、次のようなやり取りが展開されるでしょう。
「え?確かに振り込みましたよ?」
「入金の確認ができていません。振込先を間違えたのではないですか?」
「え?確かに〇〇口座に振り込みましたが......」
「〇〇さん!それ、振込口座間違っていますよ!とにかく、指定の〇〇口座にいち早く振り込んでください!」
そして賃借人(借主)は、家賃の二重払いという事態に陥ってしまうのです。

新オーナーであることを賃借人に法律的に正当に主張するには登記が必要
さて、ここから再び、事例に戻って解説して参ります。
賃借人(借主)Bは、家賃の二重払いの危険性があるので、本当に賃貸人(家主・オーナー)がAからCに代わったのか?ということをきちんと確かめたいところです。
そこで、判例では、この賃借人Bのような者を保護するために、Cが新賃貸人(新オーナー)として、賃借人Bに対し正当に家賃などを請求するには、登記が必要としています。
つまり、新賃貸人(新オーナー)Cが賃借人Bに家賃などを請求するには、Cが甲建物の所有権を取得した旨の登記(AからCへの所有権移転登記)が必要、ということです。
したがいまして、事例のCは登記を備えていますので、Bに対し正当に家賃を請求できます。
逆に、もしCが登記をしていなかった場合は、Bは家賃の請求を正当に拒めます。
もし、今現在、事例のBのような状況にいらっしゃる方は、管理会社(貸主側=オーナー側の不動産会社)や新オーナーに「登記簿(登記事項証明書)を見せてください」と要求するか、自分自身で登記所(法務局)に行って登記簿の交付申請をするか、もしくはオンライン手続きで取り寄せることも可能です。
そして登記簿(登記事項証明書)を確認して問題なければ、安心して新オーナーに家賃を振り込めますし、もし登記簿上の所有者が旧オーナーのままなのであれば、旧オーナーの方に家賃を振り込めば、法律上問題なく弁済したことになります(法律的に問題なく家賃を払う責任を果たしたことになる)。
【補足】
なお、動産の物権変動(所有権の得喪)につきましては引渡しが基準になり、これを公信の原則といいます。
一方、不動産については、全国一律に登記というルールが敷かれ、これを公示の原則といいます。
この「不動産登記」というものについて解説は「【不動産登記の基本】二重譲渡~登記は早い者勝ち/3つの登記請求権と登記引取請求権とは?わかりやすく解説!」をご覧ください。
賃借人(借主)の対抗要件
不動産における物権の対抗要件は登記です。
対抗要件とは「法律的な保護のもとに主張するための要件」です。
不動産の物権の対抗要件とは、他人に対して「この不動産の所有権はワタシのモノだ!」と、法律の保護のもとに主張するための要件です。
つまり、不動産は登記して初めて、その所有権が法律的に保護されます。
となると、その不動産を借りている者(賃借人)の権利は、どうなっているのでしょうか?
例えば、A所有の甲アパートを借りて住んでいるBがいて、Bの居住中に甲アパートがAからCへと売却され、その旨の登記もされてから、いきなりCから賃借人Bが「オマエは甲アパートから出てけ!」と迫られたらどうなるのか?
つまり、賃貸中の物件がオーナーチェンジしたとき、その物件の賃借人は、新オーナーに対抗できるのか?というハナシです。
最初に申し上げたとおり、不動産の対抗要件は登記です。
新オーナーCにはその登記があります。
そして、民法には次のような規定があります。
(不動産賃貸借の対抗力)
民法605条
不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。
この民法605条の条文を読むと、どうやら賃借人は、賃貸借の登記(賃借権の登記)をすれば、後から物権を取得した者、すなわち新オーナーに対抗できるようです。
しかし!
この条文はハッキリ言ってあまり意味がありません。
なぜなら、借地借家法でほとんど骨抜きにされてしまっているからです。
賃借人の対抗要件は引渡し

先に結論を申し上げておきますと、先ほど挙げた例の賃借人Bは、新オーナーCに対し、甲アパートの賃貸借を対抗できます。
つまり、新オーナーCから「甲アパートから出てけ!」と言われても、Bは「甲アパートは私が借りて住んでいるのだ!」と主張できます。
その根拠となる条文はこちらです。
(建物賃貸借の対抗力等)
借地借家法31条
建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。
この借地借家法31条によって、前述の民法605条の規定が骨抜きにされているのです。
借地借家法は不動産賃貸借における特別法です。
一方で、民法は一般法です。
そして、特別法は一般法に優先して適用されます。
したがいまして、借地借家法31条の規定により、賃借人Bはその旨の登記をしていなくても、すでに甲アパートの引渡しを受けて住んでいるので、新オーナーCに対して甲アパートの賃貸借を対抗できるのです。
なぜわざわざ借地借家法(特別法)でそのような規定を置いたのか
もちろん、民法605条の規定に従って賃貸借の登記をして、新オーナーCに対抗することも可能です。
しかし、それを行うためには、Cに協力してもらわなければ、することができません。
しかも、Bの賃貸借の登記について、Cに協力義務はありません。
そしておそらく、賃借人(借主)の賃貸借の登記に協力する賃貸人(オーナー)はほぼいないでしょう。
なぜなら、そんなことをしても、賃貸人にとっては何のメリットもないからです。
ましてや法的な協力義務すらないのですから。
私がオーナーでも、賃借人の賃貸借の登記に協力することはないでしょう(笑)。
つまり、民法605条の規定はハッキリ言ってザルなんです。
そこで、賃借人Bのような者を保護するために、特別法として借地借家法31条の規定を設けたという訳です。
もし、今現在、賃貸物件に住んでいて、その物件の家主がオーナーチェンジにより代わった、という状況にある方も、賃借人としての地位は借地借家法により保護されておりますのでご安心ください。
まあ、実際はオーナーによって色々と対応が変わったりするので、法律以外での問題もあるんですけどね。
いずれにしても、オーナーと賃借人、そして管理会社も含め、良好な関係でいたいものです。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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・不動産賃貸借の超基本
・特別法と一般法とは
・賃貸人たる地位の移転(オーナーチェンジ)と家賃二重払いの危険性
・新オーナーであることを賃借人(借主)に法律的に正当に主張するには登記が必要
・賃借人(借主)の対抗要件
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今回はこれらの事について、その内容、意味、結論、理由など、初学者にもわかりやすく学習できますよう解説して参ります。

不動産賃貸借の基本
賃貸借とは、簡単に言うと利用料金が発生する物(動産・不動産)の貸し借りです。
レンタルショップでCDを借りるのも賃貸借ですし、レンタカーを借りるのも賃貸借です。
そして、不動産の貸し借りも賃貸借です。
不動産の場合は特に不動産賃貸借といいます。
ここでまず、気をつけていただきたいことがあります。
利用料金が発生しない物の貸し借りは、賃貸借ではありません。
タダで貸し借りをしていれば、それは賃貸借にはならず使用貸借になります。
この点はまずご注意ください。
不動産賃貸借について考えるときは民法だけでは不十分
実は、民法における賃貸借についての規定は、それだけでは、不動産賃貸借の問題について考えるときにはあまり役に立ちません。
なぜなら、不動産賃貸借については、借地借家法という特別法が存在するからです。
民法は、私法(民間人・民間企業同士についてのルールを定めた法律の総称)における一般法(ベーシックな法律)です。
つまり、民法は私人間(民間人・民間企業同士)のことを定めた法律の中のもっともベーシックな法律(すなわち一般法)ということです。
しかし、特別法は一般法に優先します。
ですので、同じ事柄について定めた規定で借地借家法と民法が競合(バッティング)する場合は、借地借家法が優先して適用されます。
なので、不動産賃貸借について考えるときに、民法だけでは不十分なのです。
したがいまして、不動産賃貸借の問題につきましては、借地借家法を織り交ぜた実践的な解説をして参ります。
ちょこっとコラム
~特別法と一般法~

「特別法>一般法」という関係性は、何も不動産賃貸借における借地借家法に限ったことではありません。
不動産売買において、売主が宅建業者の場合は宅地建物取引業法(自ら売主制限など)が優先して適用されますし、建物の建築においては建築基準法が優先して適用されます。
他にも、商行為(商売行為)に関しては商法が優先して適用されたり、より消費者保護に厚い消費者保護法があったり等々、色々存在します。
この辺りの法律関係は、また別の機会に改めて解説するとして......
特別法と一般法の関係を噛み砕きまくって分かり易く言うなら、家庭における嫁さんと旦那の関係ですかね。
嫁さん(特別法)は旦那(一般法)に優先する(嫁さん>旦那)...なんて一概には言えないですね(笑)。
失礼しました。
なお、特別法と一般法の規定が重なる場合は特別法が優先して適用されることはすでに説明済みですが、一般法の規定が特別法と重ならない場合は、一般法の規定が直接適用されます。(民法の規定が借地借家法と重ならない場合は、民法の規定が直接適用されるという意味)
念のため申し上げておきます。
賃貸人たる地位の移転(オーナーチェンジ)
事例
Aは自己所有の甲建物をBに賃貸し、引き渡した。その後、Aは甲建物をCに売却し、AからCへ登記を移転した。
これは賃借人(借主)が居住中に賃貸人(家主・オーナー)が代わったというケースです。
この事例では、Bが賃貸中(居住中)の甲建物のオーナーがAからCへチェンジしています。
このようなオーナーチェンジのケースは、住宅用でも事業用でも、賃借人(借主)として経験された方は少なくないと思います。
ケースにもよりますが、ある日、いきなり管理会社からオーナーチェンジの知らせを受け、面食らってしまった方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。
さて、このときに、甲建物を賃借しているBにとって、ある問題が生じます。
それは「本当にAからCへオーナーチェンジしたのか?」という問題です。
なぜそれが問題になるのかといいますと、それは「家賃を払うべき相手は本当にCでいいのか?」ということに繋がるからです。
家賃二重払いの危険性
もしオーナーチェンジの知らせがウソで、新オーナーと名乗る人物がニセモノで、その自称新オーナーに家賃を払ってしまったらどうなるでしょう?
家賃を払った賃借人(借主)は、ある日、こんな連絡を受けてビックリするはずです。
「〇〇さん!家賃が振り込まれていませんよ!?」
そして、次のようなやり取りが展開されるでしょう。
「え?確かに振り込みましたよ?」
「入金の確認ができていません。振込先を間違えたのではないですか?」
「え?確かに〇〇口座に振り込みましたが......」
「〇〇さん!それ、振込口座間違っていますよ!とにかく、指定の〇〇口座にいち早く振り込んでください!」
そして賃借人(借主)は、家賃の二重払いという事態に陥ってしまうのです。

新オーナーであることを賃借人に法律的に正当に主張するには登記が必要
さて、ここから再び、事例に戻って解説して参ります。
賃借人(借主)Bは、家賃の二重払いの危険性があるので、本当に賃貸人(家主・オーナー)がAからCに代わったのか?ということをきちんと確かめたいところです。
そこで、判例では、この賃借人Bのような者を保護するために、Cが新賃貸人(新オーナー)として、賃借人Bに対し正当に家賃などを請求するには、登記が必要としています。
つまり、新賃貸人(新オーナー)Cが賃借人Bに家賃などを請求するには、Cが甲建物の所有権を取得した旨の登記(AからCへの所有権移転登記)が必要、ということです。
したがいまして、事例のCは登記を備えていますので、Bに対し正当に家賃を請求できます。
逆に、もしCが登記をしていなかった場合は、Bは家賃の請求を正当に拒めます。
もし、今現在、事例のBのような状況にいらっしゃる方は、管理会社(貸主側=オーナー側の不動産会社)や新オーナーに「登記簿(登記事項証明書)を見せてください」と要求するか、自分自身で登記所(法務局)に行って登記簿の交付申請をするか、もしくはオンライン手続きで取り寄せることも可能です。
そして登記簿(登記事項証明書)を確認して問題なければ、安心して新オーナーに家賃を振り込めますし、もし登記簿上の所有者が旧オーナーのままなのであれば、旧オーナーの方に家賃を振り込めば、法律上問題なく弁済したことになります(法律的に問題なく家賃を払う責任を果たしたことになる)。
【補足】
なお、動産の物権変動(所有権の得喪)につきましては引渡しが基準になり、これを公信の原則といいます。
一方、不動産については、全国一律に登記というルールが敷かれ、これを公示の原則といいます。
この「不動産登記」というものについて解説は「【不動産登記の基本】二重譲渡~登記は早い者勝ち/3つの登記請求権と登記引取請求権とは?わかりやすく解説!」をご覧ください。
賃借人(借主)の対抗要件
不動産における物権の対抗要件は登記です。
対抗要件とは「法律的な保護のもとに主張するための要件」です。
不動産の物権の対抗要件とは、他人に対して「この不動産の所有権はワタシのモノだ!」と、法律の保護のもとに主張するための要件です。
つまり、不動産は登記して初めて、その所有権が法律的に保護されます。
となると、その不動産を借りている者(賃借人)の権利は、どうなっているのでしょうか?
例えば、A所有の甲アパートを借りて住んでいるBがいて、Bの居住中に甲アパートがAからCへと売却され、その旨の登記もされてから、いきなりCから賃借人Bが「オマエは甲アパートから出てけ!」と迫られたらどうなるのか?
つまり、賃貸中の物件がオーナーチェンジしたとき、その物件の賃借人は、新オーナーに対抗できるのか?というハナシです。
最初に申し上げたとおり、不動産の対抗要件は登記です。
新オーナーCにはその登記があります。
そして、民法には次のような規定があります。
(不動産賃貸借の対抗力)
民法605条
不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。
この民法605条の条文を読むと、どうやら賃借人は、賃貸借の登記(賃借権の登記)をすれば、後から物権を取得した者、すなわち新オーナーに対抗できるようです。
しかし!
この条文はハッキリ言ってあまり意味がありません。
なぜなら、借地借家法でほとんど骨抜きにされてしまっているからです。
賃借人の対抗要件は引渡し

先に結論を申し上げておきますと、先ほど挙げた例の賃借人Bは、新オーナーCに対し、甲アパートの賃貸借を対抗できます。
つまり、新オーナーCから「甲アパートから出てけ!」と言われても、Bは「甲アパートは私が借りて住んでいるのだ!」と主張できます。
その根拠となる条文はこちらです。
(建物賃貸借の対抗力等)
借地借家法31条
建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。
この借地借家法31条によって、前述の民法605条の規定が骨抜きにされているのです。
借地借家法は不動産賃貸借における特別法です。
一方で、民法は一般法です。
そして、特別法は一般法に優先して適用されます。
したがいまして、借地借家法31条の規定により、賃借人Bはその旨の登記をしていなくても、すでに甲アパートの引渡しを受けて住んでいるので、新オーナーCに対して甲アパートの賃貸借を対抗できるのです。
なぜわざわざ借地借家法(特別法)でそのような規定を置いたのか
もちろん、民法605条の規定に従って賃貸借の登記をして、新オーナーCに対抗することも可能です。
しかし、それを行うためには、Cに協力してもらわなければ、することができません。
しかも、Bの賃貸借の登記について、Cに協力義務はありません。
そしておそらく、賃借人(借主)の賃貸借の登記に協力する賃貸人(オーナー)はほぼいないでしょう。
なぜなら、そんなことをしても、賃貸人にとっては何のメリットもないからです。
ましてや法的な協力義務すらないのですから。
私がオーナーでも、賃借人の賃貸借の登記に協力することはないでしょう(笑)。
つまり、民法605条の規定はハッキリ言ってザルなんです。
そこで、賃借人Bのような者を保護するために、特別法として借地借家法31条の規定を設けたという訳です。
もし、今現在、賃貸物件に住んでいて、その物件の家主がオーナーチェンジにより代わった、という状況にある方も、賃借人としての地位は借地借家法により保護されておりますのでご安心ください。
まあ、実際はオーナーによって色々と対応が変わったりするので、法律以外での問題もあるんですけどね。
いずれにしても、オーナーと賃借人、そして管理会社も含め、良好な関係でいたいものです。
というわけで、今回は以上になります。
宅建試験や行政書士試験や公務員試験などの民法の学習、独学、勉強、理解の助力としていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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